予想外
魔獣の襲撃と討伐。衝撃のクライマックスにより、バーベキュー大会は終了となった。
まぁ、殆ど食事が終わる頃だったから良しとしよう。残りは各自翌日の食糧として持ち帰ってもらっているので、兵士たちからは喜びの声が聞こえてきたくらいだ。
だが、指揮官以上の騎士達は肉のことなど忘れてこちらに注目した。そして、同時に貴族達もこちらに詰め寄ってくる。
「ヴァン卿……かすり傷だけで大型の魔獣でも倒せるような毒を開発したのか?」
ピニン子爵が唖然とした顔でそう呟いた。その言葉に首を傾げつつ、紅茶の入ったティーカップをテーブルの上に置く。
「あれ? あの、てっきり僕の話がそれなりに噂になっているものかと思っていましたが……うわ、もしかして自意識過剰だった!?」
思わず、アルテに確認するように顔を向ける。ヴァン君超有名なんだ、みたいな勘違いをしていたのだとしたら、とてつもなく恥ずかしい。なんてことでしょう。穴があったら入りたい。
赤面しつつアルテの苦笑する様子を見つめる。
すると、ピニンが難しい表情で口を開いた。
「……もちろん、この戦いに召集される以前から噂は聞いていた。大型の竜を討伐したことも聞いている。しかし、前回領内の街を訪れた際に見たドワーフの炉……あれらが理由でのことだと思っていた」
「そうだな。恐ろしいほどの威力の矢を使うとは聞いていたが……所詮、矢は矢でしかない。そう思っていた」
ファリナもピニンの意見に同意するように頷き、答える。それらを聞き、僕はホッと胸を撫で下す。
「そうですよね。矢で大型の魔獣を討伐出来るなんて思わないですよね。僕も自分のことながらビックリしました」
笑いながらそう同意すると、ピニンもファリナも毒気を抜かれたような顔で目を丸くした。
そして、誰かが噴き出すように笑う。
「ふっ……はっはっはっ!」
その笑い声に釣られるように、他の貴族や騎士団長達までもが笑い出した。
場の空気が一気に緩まり、アルテやティル、カムシンも肩の力を抜く。
ピニン達は、先の戦いで活躍をする場が無かった。つまり、山の中で長く延びた行軍の列の後方に配置され、戦いに加われなかったのだ。
直接、セアト村騎士団の戦い方を見ずにいたことに加えて、セアト村の発展が異常なため、陛下やジャルパが援助しているかもしれないと思っていた部分も影響し、ヴァンという新興貴族に大きな疑念を持っていたようだ。
そのせいもあって、陛下も参加した大きな戦いで最大の功労者相当の扱いを受けている僕に嫉妬していたし、陛下への憤りもそっと胸の内に秘めていたに違いない。
だが、バーベキュー大会の力によるものか、それとも目の前で機械弓やバリスタを扱うセアト村騎士団の実力を知ったからか、ピニン達の態度は目に見えて軟化した。
「いや、最初からヴァン卿は何かが違うと思っておりましたぞ」
「陛下がご指名なさるのにも納得ですな」
「ところで、あの恐ろしい兵器は我輩も買い求めることは……」
昼間とは打って変わって低姿勢になる貴族達。ふははは。可愛い奴らめ。髭面の中年ばかりだが、不思議とペットのイグアナくらいには見えてくる。よしよし、好きなだけ肉を食うが良い。
冗談交じりにそんなことを思ってニコニコしていると、ピニンが真剣な目でこちらを見て口を開いた。
「ヴァン卿……正直に言って、これまで私はヴァン卿のことを子供だと侮ってしまっていた。それ故に、あれだけ発展した領内の街を見てもなお、陛下やフェルティオ侯爵殿が手を貸していたに違いないと思い込んでしまっていた……しかし、心の内では分かっていた、理解しておったのだ」
そう呟くと、出来上がったばかりの熊本城を見上げて、ピニンは目を細める。
「こんなものを目の前で一日も掛けずに建てられてしまっては、信じざるを得ないとも言えるがな」
そう言ってピニンが笑いだすと、他の貴族達も釣られるように笑いだした。
そこへ、魔獣の討伐に城壁に向かっていたディーが戻ってきて、口を開く。
「わっはっは! そうでしょうとも! ヴァン様の最も忠実な部下を自称している私ですら、城壁よりも先に寝泊まりするための建物を建てると聞いて反対をしてしまったのですからな! まさか、防衛を行うことも考慮してこのような独創的な城を建築するなど思いもしませんでしたぞ!」
ディーはそう言うと、城を見上げて大きく頷いた。
「……ヴァン様は常に民のことを想い、領地を豊かにしようと努力を続けております。その考え方や、民の安全を守る為に様々な武器や城壁を研究する勤勉さを知り、パナメラ子爵やフェルディナット伯爵も志を同じくしてくれているのです。いずれは、ヴァン様を中心に同志達が集まり、より巨大な力となることでしょう。出来ることならば、他の地方よりも早くヴァン様の志を知ることとなった皆様方にも、ヴァン様との協力関係を結んでいただきたいと愚考しております」
自身の考えを語って、ディーは力強い笑みを皆に向けた。その笑顔には自信が溢れており、未来への希望溢れる台詞と共に戦争で活躍出来ずに燻る貴族達の心に激しく突き刺さった、ような気がした。
その証拠に、ピニン達は何故か涙ぐみながら感動し、嗚咽まで聞こえてきた。
「……ん? 何の話?」
当事者の筈なのに展開に取り残された僕は、落涙する貴族達を眺めながら首を傾げたのだった。
なんと! 次にくるライトノベル大賞2022!
ノミネートされました!・:*+.\(( °ω° ))/.:+
読んで下さった皆様のお陰です!
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