町拡張中にハヤウマ
それから一週間。町の新たな外壁は完成した。外壁は見事な弧を描いており、我ながら良く出来たと思う。測量が終わってからはエスパーダが手伝ってくれたので、順調過ぎるくらい順調に壁を建設することが出来た。
さぁ、冒険者の町の従来の壁を撤去して新しい建物の配置を考えよう。町並みを考えるのも楽しいので、ワクワクしながら必要な建物や設備について検討する。
そんな時に、早馬が来た。
「ヴァン様! イェリネッタ王国との国境より早馬が来ました!」
「え? もう勝ったのかな? もしかして、死人が出るのを覚悟で要塞を攻略したんだろうか。それも複雑だなぁ」
「どうでしょうか。内容はまだ聞いておりませんが」
カムシンとそんなやり取りをしながら早馬の報告を受けに移動する。だが、実際にその場に行ってみると、報告を持ってきた騎士の様子がおかしいことに気が付いた。
どうやら、あまり良い報告ではないらしい。
「ヴァン男爵、陛下よりの書状をお預かりしております」
「ありがとうございます」
跪く騎士から書状を受け取り、中身を確認する。
内容を全て確認して、更にもう一度読み直す。
「……ん、んん?」
思わず、そんな声が口から出た。
「……な、何が書かれていたんですか?」
カムシンが不安そうに尋ねてくる。それに軽く頷きながら、口を開いた。
「……どうやら、勝つには勝ったみたい。ワイバーンだったり中型の竜が出たりはしたらしいけど、国をあげて一流の魔術師を揃えているからね。ちゃんと撃退出来たみたいだよ。ただし、かなりの激戦になったらしくてね。要塞は壊滅状態になってようやくイェリネッタ王国側の軍が退却したんだって」
「なるほど。では、戦勝報告ですね」
「いや、それが……」
カムシンの言葉に曖昧に返事をしつつ、もう一度書状の中身に目を落とした。
「どうやら、その要塞を再利用するつもりなのかな? もう戦場ではなくなったから、何とか僕に出てくれないかって依頼が来ているんだ」
「要塞を、修復してほしいということですか?」
少し怒ったような顔のカムシンに、首を傾げる。
「どうしたの?」
聞くと、カムシンは早馬で報告に来た騎士の顔を一瞬見て何かを躊躇ったが、すぐに真剣な顔でこちらに振り返った。
「……いくら陛下といえど、あまりにヴァン様に気軽に依頼をされ過ぎているかと思います。道も作り、休むための拠点や砦も作ったのに、また……」
カムシンが悔しそうにそう呟く。それに、騎士が目を見開いて驚愕する。確実に不敬罪だ。これは流石にまずい。僕は慌ててカムシンの肩に手を置き、宥めた。
「だ、大丈夫だから。カムシン、落ち着いて……陛下が頼ってくださるのは有難いことなんだよ。何か僕じゃなければ出来ないことがあるから呼ばれたんだろうし、要塞の規模次第だけど、たぶん一ヶ月か二ヶ月で修復も終わるさ」
そう言って笑い返して、次に騎士に目を向ける。
「ちょっと、僕の従者が変なこと言っちゃったけど、陛下に文句を言ったわけではありませんよ? 主人への愛に溢れちゃってて……ヤンデレ気味なんですよ」
乾いた笑い声を上げつつフォローしてみると、騎士は何とも言えない顔で首肯をしてくれた。なんとか黙っておいてくれると嬉しいのだが……。
そうだ、賄賂を渡そう。
「あ、騎士さんはご報告、お疲れ様でした。すぐに浴場と食事を準備しますので、どうぞ。カムシン、案内してあげて」
「分かりました」
すぐさま騎士へ恩を売りにいく。カムシンも納得をしているのかは分からないが、一先ず礼儀正しく一礼して騎士を連れていってくれた。
カムシンは僕のことを好きすぎるのが問題である。モテる男は辛いのだ。
と、間の抜けたことを考えつつ、すぐにディーとエスパーダを召集して相談をすることにした。
「……ってことなんだけど」
簡単に書状の内容を説明すると、ディーとエスパーダは難しい顔で押し黙った。
あれ? 深刻な内容ではないよね?
困惑しつつ、二人が口を開くのを待つ。そうしていると、二人はまるで合図をもらったかのように揃って顔を上げた。
そして、お互いの顔を見る。
「……素直に、要塞の修復を依頼していると思うべきですかな?」
ディーが尋ねると、エスパーダは顎を引いて唸った。
「要塞が大きく崩れたとしても、せいぜいがスクーデリア王国側の城壁が崩れているくらいでしょう。要塞を占有するにしても、イェリネッタ王国側の城壁や建物があるならば問題ありません。それらを踏まえると、考えられることは二つです」
「二つって?」
思わずエスパーダの言葉の続きを催促してしまう。話し上手さんめ。エスパーダの話術を羨んでいると、エスパーダは咳払いをして言葉を続けた。
「まず一つ目は、ヴァン様の功績作りです。傍目から見ても、陛下はヴァン様を重用しております。要塞の修復やバリスタの設置を行わせて、大きく功績として取り上げようとしている可能性があります。その場合、間違いなく子爵以上に爵位を上げていただけるでしょう」
「……二つ目は?」
微妙な気分で話を聞きつつ続きを促す。
「……要塞はセアト村から向かうのが一番早く辿り着けます。もしかしたら、そこから切り崩したイェリネッタ王国の領土をヴァン様への報奨とするつもりかもしれません」
「えぇーっ!?」
エスパーダの言葉に、僕は思わず声を上げてしまった。この話し上手さんめ。
「そりゃあ、貴族としては土地が増えることが一番かもしれないけど、僕に関しては違うからね? 僕はもう今の領地で大満足だよ? だって、今となっては温泉だけじゃなくて旅館に料理屋さんまで出来たからね。商店も毎月一軒ずつ増えているくらいだし、なにせ湖もあるんだよ? ボートにも乗れるし、後はもうケーキ、クレープ、アイスクリーム、ベルギーワッフルの店が出来たら文句ないから……いや、美味しいパン屋さんとラーメン屋さんを忘れてた」
現状に満足していると伝えたかったのだが、話している内に色んなスイーツを食べたいという想いが溢れてしまった。美味しい食べ物は人生の潤いである。
あ、あとカレーも食べたい。思い出したらどんどん食べたくなる。
そんなことを考えていると、エスパーダが難しい顔で顎に手を当てて考え込んだ。
「あ、いやいや、そんな本気で文句言っているわけじゃないからね? まぁ、陛下に土地をあげるよって言われたら一回遠慮はしてみるけど」
そう告げると、エスパーダは軽く頷いて口を開く。
「……いえ、ヴァン様の要望についてですが、もしかしたら丁度良いのかもしれません」
「へ? 何が?」
聞き返すと、エスパーダは至極真面目な顔で頷いた。
「イェリネッタ王国は、中央大陸との交易をしやすい環境にあります。そして、中央大陸は食文化が大きく進んでいると言われています。つまり、調味料や素材などもイェリネッタ王国の方が豊富に揃えることが出来るのです」
「……その話、ちょっと詳しく聞かせてくれる?」
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