クレーマー?
僕の作った仮設拠点。つまりウッドブロック製コンテナハウスが倒壊したという。
この場合、通常考えられる原因は何か。
一つ目は製品自体の初期不良。その場合はもう謝るしかない。二つ目は組み立て時の手違い。だが、冒険者達が野営をする拠点を作るのに手を抜くとは思えない。
最後の三つ目、作った拠点を内部から解体作業した場合だ。この場合は、二人以上でコンテナ内部から天井を持ち上げなければならない。つまり、故意に解体しようとしなければ起きえない事故だと言える。
考えられるのは一つ目か三つ目だが、どっちにしろ大変だ。一つ目ならヴァン君の信用は失墜。セアト村の特産品にも多大な影響が出るに違いない。三つ目なら、僕を陥れようとする敵対勢力がいるということになる。それも必然的に貴族が、だ。おかしい。こんなに愛くるしい僕を敵と認識するなんて……。
そう思った時、ふとある人物の顔が思い浮かんだ。
ジャルパだ。近隣の貴族が僕の活躍に嫉妬して邪魔をしている線もあるが、最も僕の失敗を喜ぶ相手として思い当るのはジャルパだろう。いや、ジャルパが直接自らの騎士団を使って下手なことをするとは思えない。それなら他の貴族も絡んでいるとみた方が良いか。
「これは面倒なことになるかもしれないな」
自身の想像が思いのほか現実味たっぷり過ぎて辟易しつつ独り言を呟く。今は陛下たちに拠点に戻ってもらい、僕は馬車の中で冒険者一同を待っている状態だ。余計な独り言を言っても聞いているのは同乗しているティルとアルテだけである。
「ヴァン様! オルト殿が来ました!」
カムシンの呼ぶ声がした。馬車から顔を出すと、騎士たちの横を縦一列になって向かってくるオルト達が目に入る。
「おーい!」
こちらから手を振って声を掛けると、オルトが笑顔になって手を上げた。
「ヴァン様!」
オルト達は駆け足でこちらに来たため、僕も馬車から降りる。オルトにプルリエル、クサラもいる。冒険者は全員で十人ほど集まっていた。
「話は聞いたよー! 僕の作った拠点が壊れちゃったって……せっかく皆が作ってくれたのに、ごめんね」
すぐに謝る。せっかく協力してくれていた冒険者たちに嫌な思いをさせたのだから、必ずそうしようと思っていた。
だが、それにオルト達が大慌てとなる。
「い、いえ! ヴァン様のせいではありません!」
「そうですよ!」
「俺たちだって、ヴァン様のコンテナが悪いなんて思ってねぇんでさぁ!」
冒険者たちが口々にフォローしてきた。有り難い限りである。
「ありがとう。そう言ってもらえると助かるよ。ところで、頑丈に作ったはずのコンテナが何故壊れちゃったんだろう?」
そう尋ねると、オルトが珍しく怒りをそのまま表現した。
「それが、誰かが出来上がったコンテナを壊したに違いないんです。誰かまでは分かりませんが……」
「ってか、聞いてくださいよ! 勝手に崩れたってコンテナも部品が折れたとかじゃないんすよ! 崩れたコンテナをもう一回組み立てたら、次は全然崩れずにまだ建ってますからね!」
「そうだぜ! 勝手に壊れたってんならどっか部品が折れてないとおかしいんだ! 自分たちで組み立ててないから、その辺が分かってねぇんだろうな!」
怒り心頭の冒険者たちがオルトの言葉に同意し、文句を言う。気持ちはとても理解できるが、今は場所が悪い。陛下の休む拠点の傍で文句を言うということは、主たる貴族達の耳に直接届くということだ。
もし、犯人扱いして間違えてしまっていた場合、最悪の結果もあり得る。
「み、皆……分かったから、ここでは静かにしておいて……」
皆に黙るようにジェスチャーを送る。しかし、遅かった。
「……どういう意味だ」
その声にふり向くと、そこにはジャルパとベンチュリーの姿があった。そして、他に二人の貴族の姿も。
これは、もう無かったことには出来まい。
「聞き間違いか? 今、冒険者風情が貴族を批判するような声が聞こえた気がしたが」
腕を組み、ベンチュリーがぎろりとこちらを睨んでくる。それに、冒険者たちは何も言えずに押し黙った。だが、反抗心からかその場で跪くことまでは出来ない。本来なら、身分が遥かに上の貴族を前にしたら跪き、畏まるものだが、皆は自尊心が邪魔をして仁王立ちしながら沈黙することしか出来なかったらしい。
その態度に、ベンチュリーは更に怒りをあらわにする。
「この下郎共が! 貴様らのせいで王国軍の歩みは止まっておるというのに、何だその態度は!?」
凄い形相で睨みながら、ベンチュリーはオルト達に怒鳴った。その言葉に、オルトから順番にその場で姿勢を低くしていく。仕方なく、貴族の言葉に従っているといった雰囲気だ。というか、よく見れば膝も地面に突けてはいない。
一方、僕はそのやり取りを見て、微妙にベンチュリーの態度が気になった。
ベンチュリーは、冒険者たちを睨みながら「貴様たちのせいで」と言った。つまり、原因は冒険者だと思っているということではないだろうか。
その言葉が出てくるのならば、少なくともベンチュリーは僕を陥れようとしている貴族ではないと思う。ジャルパと戦友でもあることから協力者筆頭の可能性もあると思っていたが、どうやら違うらしい。
ならば、第三者である上級貴族を利用しない手は無いだろう。
「ベンチュリー伯爵。僕の拠点のせいで大変ご迷惑をお掛けいたしました。イェリネッタ王国への侵攻作戦で重要な行軍を滞らせてしまい、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです」
そう口にしてから、片膝を突いて頭を下げた。まずは、冒険者たちへ向いていた意識をこちらに戻す。そう思っての行動だったが、ベンチュリーにはとても効果があったようだ。
腕を組み、深く息を吐いてベンチュリーは怒鳴ることをやめた。
「……良い。面を上げよ。正直に言えば、陛下も我もヴァン男爵の作った物を信用している。何か、別の要因で拠点が倒壊したと思っているのだ」
「おお、本当ですか!」
僕が顔を上げて喜ぶと、ベンチュリーは鼻を鳴らして後方を見た。
「そうでなくば、陛下に拠点の中でお休みいただくわけがなかろう」
「なるほど!」
ベンチュリーの言葉に思い切り頷いて納得する。そりゃそうだ。それに、王国軍の主たる貴族の中でもフェルディナット伯爵とパナメラ子爵は味方だと思っている。
案外、形勢は悪くない。
これでベンチュリーにも協力してもらえたら、すぐに実行犯まで辿り着くはずだ。なにせ、対象となる貴族が一気に絞られるのだから。
しかし、そこまで考えて思い直した。
それでは、イェリネッタ王国への侵攻が大きく遅れてしまう。貴族の数はともかく、王国軍の兵士の数はとんでもない。その中から二、三人の犯人を捜し出していたら一日、二日はかかるだろう。更に、自白を強要しようにも確たる証拠が無ければ時間ばかり掛かるに違いない。
ならばと、僕はベンチュリーとジャルパを見て口を開いた。
「ありがとうございます。この汚名は王国軍の行軍速度を倍にすることで返上させていただきたいと思います」
そう告げると、二人の目はまん丸になったのだった。
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