各貴族も続々と
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陛下とジャルパ、ムルシアはセアト村に宿泊となり、星型要塞やバリスタ、ドワーフの炉の見学などを行った後、イェリネッタに対する防衛と侵攻計画についても会議を行った。
どうやら、スクデットや他の領地はそれぞれ防衛のために騎士団や傭兵を送り出しているらしい。そして、各騎士団の精鋭を揃えてイェリネッタを強襲するという目論見だという。
普通なら、戦争準備から兵糧などを揃えて動くまでに一ヶ月二ヶ月かかるのは当たり前だ。実際に相手の領地に辿り着いて開戦となると三ヶ月掛かってもおかしくない。
だが、恐らく陛下は一ヶ月以内にイェリネッタの領地へ踏み込もうとしている。その証拠に、暫く僕の領地に滞在するといった気配は無い。
「ベンチュリー伯爵が到着されました! また、その後方にはフェルディナット伯爵家らしき騎士団もこちらに向かって来ています!」
「はーい」
「パナメラ子爵が到着されました! 他、各貴族家の旗多数!」
「はーい」
と、陛下やジャルパと会議をしている内に次々と他の騎士団も揃っていき、気がつけばセアト村の外には三万人を超える軍勢が待機する形となった。
「久しぶりだな、少年!」
「お久しぶりです、パナメラさん」
会うや否や、パナメラが僕の頭をガシガシ撫でて挨拶をしてきた。ちょっと恥ずかしいが、悪気はないだろうから素直に挨拶を返す。
「あの大浴場には恐れ入ったぞ! 食糧も十分用意してくれていたのだな! お陰で贅沢な拠点暮らしとなりそうだ!」
ダイナマイトバディを見せつけるように胸を反らし、パナメラは豪快に笑う。なんて恐ろしい武器をお持ちなのか。
「ドワーフの炉も出来ましたからね。後で見に行ってみてください」
「な、なんだと……! いや、それだけは今からでも……」
ドワーフの名を聞いた瞬間浮き立つ面々。だが、それを僕の後ろから来た陛下が制止する。
「卿らも分かっているだろうが、まずはイェリネッタ王国に報復をするのが先である」
陛下がそう口にした瞬間、パナメラ達貴族や騎士団員達がその場で跪く。
「陛下、すでにお着きでしたとは」
「良い。偶然にもこちらに用事があってな。たまたま早く着いただけだ」
陛下がそう言うと、皆が顔だけを上げて陛下を見る。集まる視線に頷きながら、陛下は腕を組んで口を開いた。
「軍議を行う! 今回の報復戦は速度を求められる! 着いて早々悪いが、各騎士団の指揮をする者は全員セアト村へと来てもらおう!」
「はっ!」
陛下の指示に従い、素早く各騎士団の団長や副団長を伴ってパナメラ達がセアト村に入場する。パナメラは別だが、他の貴族たちは揃って興味深そうに村の中を見ながら歩いていた。
「少年、ドワーフの炉はどこにあるのだ?」
余程気になるのか、パナメラは隣に来て小さな声で聞いてくる。村の奥に上がる煙を無言で指さすと、目を輝かせてそちらを見ていた。
「後で、ドワーフの打った剣を見せてくれないか」
「分かりました」
こそこそと二人でそんな会話をしていると、前を歩く陛下やジャルパ、ベンチュリーがこちらを無言で見た。悪戯が見つかった学生の気分である。戦争が近づいているとなると皆殺気立ってきそうなものだが、一先ずこの作戦会議に呼ばれた面々は普段と変わらない様子だ。
ただ、ずっとフェルディナット伯爵だけがそわそわしながら僕を盗み見ている。何か言いたいのだろうが、声はかけてこない。これはもしや片思いか。届け、この想いとばかりに僕を見ているのか。
どうしたのかと思っている内に領主の館についてしまった。さぁ、どうぞと皆を案内し、広間を会議室として提供する。
「紅茶でよろしいでしょうか」
「うん。紅茶とパンケーキにしよう」
「承知しました」
少し猫を被ったティルがクールビューティーな雰囲気でオーダーを承る。
あ、躓きかけた。慣れないことするからだ。
広間を出ていくティルを眺めていると、ジャルパが咳払いをしてこちらを一瞥した。素早く姿勢を正す。
正面を向くと、円形の大きなテーブルがあり、その奥には陛下の姿がある。その右側にはジャルパ、フェルディナット伯爵、パナメラが座っており、左側にはベンチュリー伯爵とその派閥らしき貴族達が座っている。ちなみに僕はパナメラの隣である。
テーブルを八人で囲み、更に周りに座れない貴族達や騎士団長達が椅子に座って軍議を見守る。中々暑苦しい。サウナ大会より暑苦しい。
女性はパナメラも含めても二、三人である。悲しい限りだ。
ちなみに、僕の後ろにはディーとカムシンが待機しているので、暑苦しさに一役買っている。
「……さて、これまでで質問はあるだろうか」
最初から僕と陛下と一緒に会議していたジャルパが後に着いた面々に軽く説明をした。すると、パナメラがすぐに口を開く。
「これが電撃戦であり、恐らくイェリネッタが防備を固めているであろうスクデット正面をあえて避けるという意図には納得いたしました。確かに、次に攻めてくる時はイェリネッタも負けられません。やはり、確実に奪取したいスクデットを狙うことでしょう。しかし、それは予測であり、実際にはそうはならないかもしれない。事実、フェルディナット伯爵領はかなり危ないところだったとも聞いています。スクデットを取らずとも、フェルディナット伯爵領やフェルティオ侯爵領、もしくは、このヴァン男爵領などが狙われてしまうことも……」
パナメラがそう疑問を呈すると、陛下がこちらを見ながら口を開いた。
「それに関しては、前回の各地の防衛戦での報告を聞き、心配ないと判断した。そうだな、ヴァン男爵?」
急に話を振られて、僕は「あ、はい」なんて生返事をしながら陛下を見返し、次に他の面々を順番に見ながら口を開く。
「まず、僕の領地を攻めたイェリネッタ軍を指揮していたウニモグ王子を捕虜にしております。その際に、スクデットを奪い取り、そこを拠点としてフェルティオ侯爵領を占領するという侵略計画を聞き出しました。また、前回のスクデット奪還での戦いにおいて、フレイトライナ王子を捕虜とし、現在のイェリネッタ王国軍について情報を得ています」
「なんだと? 確か、ヴァン男爵は前線には出ないと言って撤退していた筈だが」
僕の説明の途中でベンチュリーが余計なことを思い出す。それに苦笑しながら、軽く補足する。
「遠目から戦いの状況を確認しつつ撤退しましたが、その際に別働隊を発見しました。その別働隊を指揮していたのがフレイトライナ王子です」
「むむ……あの少数でイェリネッタの別動隊を? いや、あの赤銅地竜に致命傷を与えたバリスタがあれば、確かに……」
ベンチュリーが考え込む中、僕は他の皆に視線を戻して口を開く。
「そのフレイトライナ王子の協力により、多くの情報がこちらにはあります。まず、イェリネッタの新兵器の中核は黒色玉と呼ばれる中央大陸より流れてきた爆発物です。これは魔力が不要であり、魔術が使えない人でも中級相当の火の魔術と同等の攻撃が可能になるという代物です。イェリネッタはこの黒色玉を一般兵に持たせ、少数に分かれて突破力を高めています」
「黒色玉……」
「あの爆発がそうか。あれは確かに危険だ。石を投げるような動作で簡単に火の魔術を使うことが出来るようなもの」
前回の戦いに参加したパナメラ、フェルディナットがそんな返事をすると、他の貴族達も表情を引き締める。
「そのような兵器が……」
「誰でも使えるというのは恐ろしいな」
火薬の有用性について思ったよりも理解が早い。やはり、火の魔術の恐ろしさを理解しているから、それをイメージして理解しているのだろうか。
さて、その火薬を僕が手に入れるにはどうしたら良いだろうか。火薬を使えば、あんなことやこんなことも……。




