ドワーフの炉
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ハベルは落ち着いた環境で鍛冶をしたいと言ったので、冒険者の町ではなくセアト村の外れに鍛冶場を作ることにした。ランゴの方は商人見習いを引き連れてクサラの宿に家具の売り込みにいったようだ。ツケを許可しておいたので、お金が足りないなんてことはないだろう。
一方、炉を作ると聞いて、ハベルは直ぐ様必要な物を書き出す。
「珪石、硝石、赤土の粘土、そして炎に強い魔獣の魔石だ。心臓内に極小量出来る結晶だな。金はかなりかかるだろうが、この材料が必ず必要だ」
「あるよー」
「あんのかよ!? うぉ! 一番難しい筈の魔石が大量に……!?」
ハベルが驚愕と共に材料を見て驚きの声を上げる。ベルランゴ商会に鍛冶屋を準備するように言っていたので、炉を作る材料も揃っていた。問題があるとしたら、炉は冒険者の街に作ると思っていたため、素材の運搬が大変そうだったくらいか。
他のドワーフ達も付いてきており、セアト村の中を物珍しそうに見ている。
「見たこともねぇ建物ばかりだ」
「手前の街もそうだったが、素材が分からねぇんだよな」
そんな会話をするドワーフ達を尻目に、ハベルは目的地であるセアト村の外れを見回し、炉のイメージを固める。
「炉はオリハルコンを溶かすならデカい炉がいる。背が高い炉だ。あそこに馬鹿みたいにデケェ塔が二つあるが、あれぐらいデカければドワーフの国の最大の炉よりデカくなる。とはいえ、それを作るには十年、二十年とかかるだろうな。今は、三メートル程度の鉄鉱石用溶鉱炉を作るか」
ハベルはそう言って、地面に簡単に図面を描き始めた。それを眺めつつ僕は口を開く。
「ハベルさん、ちょっと良いですか?」
「ん? なんだ……って、そういやぁ、あれだ。俺はここでおま……ヴァン様の作った武具を超えるものを打つって決めたんだ。いわば領民になるってもんだし、敬語はやめてくれよ」
何故か体をバリバリと搔きながらハベルがそんなことを言うので、僕は笑いながら頷いた。
「じゃあ、改めて。その大きな炉っていうのは素材が足りないから作るのに時間がかかるのかな?」
質問すると、ハベルは片手を振りながら地面に描いていた図面を変更していく。煙突みたいなものを書きながら、その上部と下部あたりを指さす。
「いや、そうじゃねぇ。単純にこの間に最上級の青い石炭と素材の鉱石を交互に入れていくんだが、炉内の温度は下部で二千五百度を超えないとオリハルコンは柔らかくもならねぇ。鉄なら二千度で良いし、ミスリルは温度よりも炉から抜き出す位置が重要になるんだが、オリハルコンはそうはいかねぇ。何より温度、次に圧力だ。だから、背の高い炉が必要になる。しかし、その分壁の厚さだったり重心でかなり微調整しながら作らないといけねぇんだ」
解説しつつ、簡単に地面に図を描き終わったハベルが腕を組んで唸る。ハベルの描いた図は意外にもかなり上手で、まさに設計図といった感じだった。
横から見た断面図と、煙突の先の部分らしき円形の穴。最下部は丸く広がっており、一番温度が上がるところに溶けた金属が溜まるようになっているようだ。さらに、横からストローのようなものが差し込まれているが、外から何か入れるようになっているのだろうか。また、最下部には炉の外へ穴が開いているようだ。
「ここから火入れ、溶けた金属の抜き出しをする。こっちの小さい棒は風穴だ。こっから砕いた炭と風を常に入れ続ける必要がある。隣にぎっちり隙間なく設計した風送り箱を置いて、それを左右で踏み続ければ風が炉に送られる仕組みだ。この風送り箱は最大で四つだが、二つでもなんとかなる」
説明しながら図に色々と書き加えていくハベル。やはりプロなだけに相当詳しい。
「……これなら、もしかしたら作れるかもね。ちょっと、一緒に見て確認して」
「あん?」
首を傾げるハベルを置いて、僕は素材の山を見る。流石にこの量を扱ったことはないし、見たことのない材料もある為予測は出来ないが、最近の僕は絶好調である。何とかなる気がする。
そう思って、素材の山に手を触れて魔力を流し込んでいく。これまでの結論として、密度がある物や魔力の伝導率が悪い物はかなり疲れる。今回の素材の中でいうと魔石が一番疲れる感じだった。
なので、まずは最下部をがっちり作ってみることにする。珪石、硝石を粉々にして赤い粘土に混ぜ込んでいき、魔石も粉末状にして細かく散らしていく。同時に、地面に柱を打ち込みながら最下部の外壁を作っていった。
「んな、ななな……」
驚愕するハベルの声が聞こえるが、今は集中力を切らせない。なにせ、素材に魔力を吸い取られているかのような錯覚をするほど疲れる。
高さはまだ二メートルほどだが、最下部の直径は十メートル以上ある。壁は城壁のように厚くしているが、どうだろうか。
「はぁ、疲れた……ハベルさん、これでどうかな?」
そう言って出来上がった炉の一部を指さすと、ハベルは目と口を大きく開けて作りかけの炉を見つめる。
「……たまげたな、これは。だが、これなら下手したら一ヶ月後には鍛冶師として働けるぞ!」
ハベルの言葉に苦笑しながら頷く。
「そうだね。一ヶ月あれば十分炉が作れると思うよ」
風を送り込む装置もあるし、それくらい時間をもらえれば助かる。そう思って答えると、ハベルは歯を見せて笑った。
「おぉ! 炉を作るのに十日! 風送り箱に二日! 火入れに三日! その後は鉄、銀、ミスリルで炉の調子を試すぞ! そして、一ヶ月後にはオリハルコンだ!」
「……え、一ヶ月ってそういう……」
ハベルの恐ろしい返事を聞き、僕は一瞬、意識が遠のきかける感覚に襲われたのだった。




