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お気楽領主の楽しい領地防衛 〜生産系魔術で名もなき村を最強の城塞都市に〜  作者: 赤池宗


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【別視点】アルテの想い

2月25日、お気楽領主の2巻発売です!


お気楽領主の楽しい領地防衛 2巻

お気楽領主コミカライズ版  1巻

同時発売です!

宜しくお願いします!





 セアト村が間近に迫り先に冒険者の街に入った瞬間、肩の力が抜けたのを感じた。


 ホッとしたのだろうか。無我夢中で気が付かなかったが、常に緊張していたようだ。肩の力が抜けると、途端に疲労感が全身を支配する。


 馬や馬車に乗って移動していた分、斥候をしてくれた冒険者の人たちより楽をしていた筈だ。なのに、もう倒れてしまいそうに感じる。


「もう少しですよ。久しぶりにベッドでゆったり寝られますからね」


 同じ馬車に乗っているプルリエルが優しく励ましてくれた。


 冒険者としてもあるのかもしれないが、自分よりも様々な経験をしている大人の女性だ。余裕があり、格好良いと思う。


「……私は、駄目ですね」


 比較してしまい、無意識に自虐の言葉が出る。すると、プルリエルの視線がこちらに向いた。その顔を見ることが出来ず、俯いてしまう。


 あぁ、本当に私は情けない。知識もなく、誰かに頼らないと何もできない。何より、自分に自信が持てないことが悲しいし、そんな自分が嫌になってしまう。


 そんな私を、プルリエルはどう思うだろうか。情けない人間だと笑うだろうか。そう思うと恥ずかしくて更に顔を上げられなくなる。そんな私を見て、プルリエルが口を開いた。


「……どうして、駄目だなんて思うんですか?」


 少し硬い声で、聞き返されてしまった。びくりと背筋が震える。誰かが怒っているかもしれないと思うと、反射的に体が強張ってしまうのだ。震える指先を拳を握りしめることで誤魔化しながら口を開く。


「……その、ヴァン様みたいに自信を持って皆に指示を出すことも出来ないですし、誰かの意見を聞かないとどうすれば良いか決めることも出来ないんです」


 心情を吐露すると、プルリエルは肩を竦めて溜め息を吐いた。そして、口を開く。


「罰せられる覚悟で、言わせてもらいます」


「は、はい」


 怒られる。そう思うと体が硬くなった。無意識に顔を上げてしまい、プルリエルと目が合う。だが、プルリエルは微笑みを浮かべてこちらを見ていた。


「私は、率直に言ってアルテ様は十分立派だと思っています。むしろ、何故そんなに自信がないのかが分からないくらいですよ。私がアルテ様の歳の頃は、そんなにしっかりしていませんでしたから」


「……そんなことは……」


 肯定してもらったというのに、思わず否定の言葉が出る。慰めてくれたのだろうが、何故否定してしまうのか。そう思って落ち込んでいると、プルリエルは首を左右に振る。


「周りを見てください。例えばオルトやクサラにしてもそうですが、あれで三十歳を超えてますからね。まるで子供みたいでしょ?」


「そうですね……あっ」


 そう言って笑うプルリエルに、私は思わず同意してしまった。気が付いた時には、大きな口を開けて笑うプルリエルの姿があった。


「多分、アルテ様は周りに大人ばかりいたんですね。それも凄く優秀だったり、指導者として立派な人ばかりが……でも、そういった人たちも最初から何でも出来たわけじゃないんです。皆、様々な努力と挫折を経験してるんだと思います」


「そ、そうでしょうか。ヴァン様は……」


 聞き返すと、プルリエルは片手を顔の前で左右に振った。


「ヴァン様は置いておきましょう。ほら、ディー様やエスパーダ様を思い出してください。年齢もそうですが、恐らく相当の戦場を経験している筈です。パナメラ様もそうですが、かなり過酷な状況を何度もくぐり抜けてきたんだと思います」


「……そうですね。皆さん、いつでも自信があって冷静です。私も、そうなれるのでしょうか」


 改めて尋ねると、プルリエルは力強く頷く。


「もちろんです」


 そう言ってもらえて、スッと胸が軽くなったような気がした。いつか、私も大人になり、ヴァン様を助ける場面だってあるのかもしれない。それは言い過ぎかもしれないが、少しでも力になれるようになれるかもしれない。


 そう思って、顔を上げた時、外から声がした。


「アルテ様! ヴァン様が迎えに来ましたよ!」


 ヴァン様の名前が聞こえた瞬間、心臓が強く鳴るのを自覚する。そして、まるで私の身体じゃないみたいに動いた。馬車の扉を開けて外を見ると、町の奥に背の高い人影が見える。細い人影はエスパーダで、幅のある人影はディーだった。


 そして、その真ん中には目を丸くしたヴァン様の姿があった。二度三度と目を瞬かせた後、ヴァン様はこちらを見たまま優しく微笑む。


 直後、私は馬車から飛び出してヴァン様に向かって走っていた。


 あまり覚えていないが、後で聞いたところによると私はヴァン様にしがみ付いたまま声を上げて泣いてしまったらしい。


 やはり、プルリエルのような大人の女性になるのは遠い目標なのかもしれない。


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