ヴァンの剣とバリスタ
お気楽領主、書籍化&コミカライズのお知らせ!
コミカライズ版がコミックガルドにて連載スタート!
8月13日より第一話公開です!
小説版はオーバーラップより9月25日出版予定!
是非手に取ってみてください!
ちょっと装飾過多な鉄の剣と木の剣を作成したのだが、思いの外リアクションが良かった。
いや、テレビ的な意味で評するならば目が点になって固まってしまうのはダメかもしれない。しかし、現実的には最大級の驚愕の結果だろう。
特に、アポロのフリーズ時間は長かった。最も早く正気に戻ったのはディアーヌである。
「しょ、少々お待ちください。今のは、今のはいったい……? まさか、生産系の魔術によるものでしょうか?」
「あ、はい。そうですよ。この街の中の多くの物は僕が作りました」
答えながら、次は槍や盾を作ってみせる。すると、三人は目が丸くなるほど見開いた。まぁ、貴族の子に魔術の適性を聞くのは勇気がいるだろうしね。
「外でバリスタも一台作ろうか。カムシン、何人か手伝ってくれる人を呼んできてくれる?」
「はい!」
と、カムシンは凄く良い返事をして走っていった。何故か妙に嬉しそうだったな。良いことでもあったのだろうか。
そんなことを考えていると、震える手で出来たばかりの剣を掴み、アポロが「ひゅっ」とかいう不可思議な声で鳴いた。
「……こ、これは、剣としての性能はまだ不確かだが、美術品として考えても十分な品だ。まさか、これほどの武具が一瞬で作られるとは……」
驚愕しつつ独り言を呟いているアポロを眺めていると、ティルが悪戯っぽい表情でなにかを手にした。
あれは、甲殻亜龍の皮かな?
「こちらをご覧ください」
「……む? それは、甲殻亜龍の皮、ですかな? それをどう……きれっ!? 切れた!? な、なな、なにを、今なにを……!? ちょ、ちょっと貸していただきたい!」
動揺をまったく隠さずに、ティルから震える手で皮を受け取り、硬さや色などの状態を確認する。
そして、アポロは無言で素材を睨みながら、手に持ったヴァン君の鉄剣で皮の表面を切りつけた。
するりと皮が真っ二つになり、アポロは目を見開きすぎて凄い顔になった。
「お、お? こ、これは、な、なん……聖剣? まさか、あの神話に伝え聞く聖剣が、目の前に……?」
半分白目になったアポロが譫言を呟く姿を尻目に、ディアーヌが僕の作った槍を見る。
「……私達メアリ商会の者でも、これほど鋭利な刃物を見たことがありませんでした。しかし、まさか商業ギルドの調査員の方があれほど取り乱すとは……間違いなくヴァン様の作る武具は最上級の代物でしょう。もし、ミスリルやオリハルコンで作成した場合、それは国宝級に……」
「へぇ、国宝級……陛下もそんなこと言ってたね」
答えつつ、愛用しているオリハルコン製の短剣を取り出した。それを見た瞬間、メアリ商会の二人は目を瞬かせた。ロザリーは絶句して固まったが、ディアーヌは頭を片手で押さえるようにして天を仰いだ。
「……ヴァン様。そちらはあまり気軽に見せない方が良いかと思われます。その品一つで戦争に発展することもあるでしょうから」
疲れたような顔でそんなことを言うディアーヌに、僕は不満顔を作る。
「でも、一番良く切れるし……」
「……ご使用されているのですね……」
肩を落として脱力するディアーヌ。
そんな会話をしていると、外へ行っていたカムシンが騎士団の団員を連れて戻ってきた。ウッドブロック製の鎧を着用した騎士達がぞろぞろと倉庫に入ってくる。
「人を呼んできました!」
「ありがとう、カムシン。それじゃあ、皆でウッドブロックを外に運んでくれるかな?」
「はっ!」
お願いすると、カムシン達は素早くウッドブロックを倉庫の外に運び始めた。
まだ戸惑っているアポロ達を呼びつつ、僕は外に移動する。
ちょうど良いタイミングでウッドブロックを渡してくるカムシンのお陰で、バリスタはものの二、三分で完成した。もう慣れたものである。
ササっとバリスタができたので後ろを振り返って三人のリアクションを確認する。
そこには、遠い目でバリスタを見る三人の姿があった。感情が抜け落ちたように無表情である。
無言でバリスタを眺めつづける三人の反応に、僕はティルとカムシンに声をかける。
「……なんか、反応が変じゃない?」
尋ねると、二人は顔を見合わせてから頷いた。
「それは、あれだけ連続で驚かせたら……」
「誰でもこうなるのではないでしょうか」
と、呆れたように言われた。いやいや、パナメラや国王達はそうでもなかった気がするが……。
「……あのー、大丈夫ですか?」
恐る恐る声を掛けてみると、アポロがハッとした顔になり、バリスタを指差しながらこちらを見た。
「さきほど運んでいた資材ですが、あれは特殊な素材ですか?」
「ただの木ですよ」
「……このバリスタ、どれほどの性能でしょうか」
「射程一キロ超。矢は僕が作ったものを使えばドラゴンの鱗も楽に貫通します。ちなみに連射式だと二発まで連続で発射できます」
質問に答えていくと、アポロの顔はどんどん険しくなっていく。どうしたのかと思っていると、ディアーヌがそっと挙手しているのが見えた。
「はい、ディアーヌさん」
指名すると、ディアーヌは咳払いをしてから難しい顔で口を開く。
「その、ヴァン様……我々は商人です。これまでは、辺境の村が見事に発展したことや、希少な素材、王都でもお目にかかれない武具に素直に驚き、感動すらしていました。しかし、我々の目から見ても、このバリスタという兵器は異常です。ドラゴンを討伐せしめる兵器が、僅かな時間で作ることが出来るとは……」
「あれ? 今から実際にバリスタの試し射ちをしようと思ったけど、射つ前から信じてもらえるのかな?」
首を傾げつつ尋ねると、ロザリーが苦笑いをして頷く。
「これまでの流れから、ヴァン様の言葉を疑う者はいないでしょう。むしろ、もっと驚くことが待っていそうで怖いくらいです」
ロザリーがそう言うと、後方でベルが何度も頷いていた。
「……ヴァン様。下手をしたら、このバリスタは戦争の在り方を変える代物です。それも……他国では真似をすることが出来ない形で……」
青ざめた顔で、アポロがそんな言葉を呟く。それに、一同は沈黙を返していた。
僕はその空気をわざと察することなく、笑顔で頷く。
「それなら、僕はこの村の領主として領民を守っていくことが出来そうですね。これからも村をどんどん良くしていきますから、是非他の村や町でも宣伝してください。常に領民は募集していますから」
そう告げると、アポロは目を丸くしてから固まり、しばらくして噴き出すように笑った。
「……そ、そうですか。ふふ、そういう話ならば、微力ながら全力でお手伝いさせていただきます。また、他国との流通ルートもお任せください。我が商業ギルドは、ヴァン様の良き友となりましょう」
アポロは途中で笑みを消すと、恭しく頭を下げ、そう言ったのだった。
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