表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/66

幕間 蛍とコンビニ

おいでませ、山口。

地図右上のタツノオトシゴみたいな形をしているのが、青海島です。

車でも渡れます、お気軽にお越しください。

挿絵(By みてみん)

 

「蛍ー、コンビニ(*)行くけど一緒に来るかん?」


「待ってお母さん! 行く行く!」


 母の言葉に、蛍はバタバタと玄関に飛び出してくる。


 コンビニ。なんと都会的な響き。

 年頃の女の子である蛍だが、コンビニを利用するのは月に数回ぽっちに限られていた。

 なぜなら、店が家から車で20分はかかる場所にあるから。しかもバス停や通学路からは離れている。

 あっち方面に帰る友達を、以前はずいぶんとうらやましく思ったものだ。いや、それは今もなのだが。


 別にコンビニを必要以上に持ち上げるわけではないけれど、この田舎町の中ではひっじょーに有用な情報源だということを、蛍は知っている。


 お菓子も小物も、オリジナルのパン類も、野暮ったさはなく洗練されている。どこでも売っているはずの雑誌だって、近所のスーパーで扱っているようなおばさんくさいやつではない。ぱりっとした光沢はそのままに、天井のLEDを反射している。

 もちろん中身が変わるわけではない。しかし、何を置いているのかという品揃え自体が、都市から降りてくる重要な情報の一端なのだ。そのラインナップを眺め、必死でそのセンスを吸収しなければならない。


 蛍にとってコンビニとは、山口県でありながら山口県ではないのだ。


「む-、最近はこういうのが流行ってんのかー」


 田舎を言い訳には出来ない。はやり物には敏感にならなければ。

 そうやって蛍はずっと、背伸びして生きてきた。


 蛍は、自分で髪を赤く染めている。美容院はたまに(他県に)行くものの、お小遣いだってい少ないのだ。そうそう自由は利かない。

 ということでベースは美容院にお任せし、あとは自分で研究した結果が、この赤いドリル髪である。


「あ、こんなの売ってる。アイツに買って行こうかな」


 見つけたのは、ちいさなアニメキャラのフィギュア。たしか青海が好きだったキャラだ。


「でもあいつ、最近趣味が変わっちゃったしなあ」


 蛍は幼馴染の男の子の顔を思い浮かべる。

 家が近く、唯一の幼馴染というやつで。

 昔から女の子っぽいと言われていた。そして、蛍はそのはにかんだ顔が可愛いくて大好きだった。


 趣味の方は気付かなかったが、いつの間にか男らしくがっしりしてきたことには気付いていた。

 同じ距離で接しているのに、今まで触れなかった肩が触れ合い、どきりとしたこともある。そのたびにバレないかひやひやして、鼓動を必死で収めようとしたものだ。


 そんな彼の様子が、最近目に見えておかしくなっている。


「最近変なんだよねー、あいつ。いつからだろ? いつの間にか手品まで覚えてから」


 まあ手品程度ならいいのだが、ついでに浮かんでくる少女の顔が蛍の心をきりきりと締め付ける。


 ――二見ときわ。


 最近青海が仲良くしている女の子だ。彼女とはどうも波長が合うらしく、どうやら二人きりでも遊んでいるらしい。




 うー、イライラするわ。 あいつは私のものなのに。




 黒い衝動が襲ってくる。落ち着かなくては。

 蛍はあの時のことを思い出して昇華しようとする。


 ――好きにしていい存在じゃない。

 ――お前の体は私のもの


 ……あ、やばい。


 思い出しすぎて、顔の温度が明らかに上がっている。


 蛍はごまかすように冷たいコーラを頬にあて、お目当ての雑誌と、それとアニメキャラのフィギュアを手に取った。



※コンビニ……あなたが観光で山口県を訪れているなら、国道沿いだからといって安心しないこと。トイレ休憩なんていつでもできると思わない方がいい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 古い本の術式なんてむやみに使うものではないですね(汗 あれでしょうか。穴埋めした新鮮な術式が古い術式の出力を上回って古い術式をショートさせたとか(ォィ そしてそして。 三角関係とか羨ましい…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ