027 たのしいオバケの数え歌
「こんなにマナの薄い場所で、ゴーストが発生するとも思えんけどなー」
「それならそれでいいわよ。まあ、たまにはいいんじゃない? ときわも楽しそうだし」
外は暑いくらいのいいお天気。水田には青々とした苗が植えられていた。
整然と並ぶ苗を見ていると、まるで人形の軍隊だ。いや、ツリーフォーク・アーミーか。
途中の食料品店でお菓子とジュースを買い込んで、外郎の家を訪れる。
「うおお、すごーい! アパートだ―!」
「そんなはしゃがないでよ、こっちまで恥ずかしくなるから」
たしなめる蛍だって、階段を登る足取りがいつもより軽い。並んだ郵便ポストを首をふりふりしながら眺めている。
そういえばこのあたりは一軒家ばかりで、集合住宅暮らしの生徒なんて珍しいな。
なんだかんだ言いながら興味津々なのだろう。
外郎はアパートの前で鍵を取り出す。
「カギだー! 私開ける! 開けたい!」(*)
おい、そこまでか。
まったく、進歩のちぐはぐさに混乱させられる。これだけ高度な機械文明を作り上げておいて、たかが家の鍵も普及していないのだから。
がちゃがちゃとときわがドアを開け、真っ先に入っていく。
おじゃましまーす。
私たちはぞろぞろと、六畳の居間へと入っていく。
最近引っ越してきたんだ。外郎は言った。確かに家具も少なく、ずいぶん素っ気ない部屋だ。
とはいえ、五人も入れば部屋はさすがにぎゅうぎゅうづめだ。
「いろいろ買わせて悪かったな。狭いとこだが、くつろいでくれ」
「いいわよ、こっちからお邪魔したんだし。はい、どーぞ」
「ああ、すまない。紙コップもう一つ頼む」
「あれ、足りなかった? ほい」
どこから持ってきたのかわからん虫メガネを片手に、まるで探偵のように部屋を漁るときわ。
彼女には気が済むまで調査をさせておき、こっちはこっちでおやつタイムだ。
ぼりぼり、ぱりぽり。お、うまいな、これ。
「なあ外郎。ときわとは仲が良いのか?」
「ん? 別に悪かねえぜ。俺は中学の途中で転校してきたんだよ。あいつはなんかいじめられてたみたいだけど、俺は別にいじめる理由もなかったしな」
「あー、それで」
私と蛍は納得する。
ときわが他の生徒と話しているところなんてあまり見ないのに、外郎とは妙に親しそうだった。まさか騙されているわけではないだろうが、心配していたのだ。
「昔から変なやつだったけど、最近はなんか明るくなった気がするし。お前らのおかげだろ? ありがとうな」
外郎は見た目のわりに優しく、いいやつだった。
「あ、うん。こちらこそ。――あ、青海。そこのコップ、使わないならまとめとくわよ」
「ああ、ちょっと待ってくれ。なあ、お前は、何も飲まないのか?」
私は、さっきから部屋の隅でじっとこちらを見ている女性に声をかける。
直後、蛍がぴきりと凍り付いたように動きを止めた。
外郎も、変な笑いを浮かべたまま固まっている。
「ん、どうした?」
「あ、あの、青海。……もしかして、そこらへんに誰か、いる?」
「ああ、人の霊体だな。そうか、受肉していないから、お前たちには見えないのか」
「……青海、あんた、私たちが何を探しに来たかわかってる?」
「ゴーストだろ? 浮遊するマナが自我を持ったやつだ」
私はぐびりとジュースを飲み干した。甘くてうまい。このしゅわしゅわ感はクセになりそうだが、たまにはアルコールも欲しい。
「師匠ー、お風呂やトイレまで探したけど、結局何もいませんでしたー。ってあれ、二人とも変な顔してどしたん?」
ときわが向こうの部屋から、ぴょこりと顔をのぞかせる。
私はわかったと返事を返す。
「な? ゴーストなんていなかっただろ?」
私は次のお菓子袋に手を伸ばした。
※家のカギ……田舎の家では使用しない。鍵穴にはアシナガバチが巣を作っていることもしばしば。




