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78話 僕らの最後の戦い2

ボーナスエリアはこれが今年最後の更新です。

メリークリスマス!


 魔族の街は聖王都を囲う聖壁の内側にあり、古代の建造物を利用しながら生活しているようだった。

 この地には遺物が豊富に残されていることもあって、彼らの生活レベルはこちらの想定よりも高い印象である。


 しかしながら街の全容は混沌としたものだ。

 至る所に瓦礫が転がり、金属製の船のような塊が建物と建物の間から顔を出していたりと、今もなおここには終わりの臭いが横たわっている。


 僕は双剣で飛んで来た矢を斬る。


「ぬぐぅ。本拠地に入れたはいいが、これではハリネズミになってしまうぞ」

「あの石像の陰に!」


 どこか見覚えのある男性の像を壁にし、僕らは雨のような矢を防ぐ。


 住人が抵抗として屋根や建物の陰から攻撃を行っているのだ。

 その中には敵兵もまじっており、住人へ指示を出しているようだった。


 レインのいる城はもう見えている。なのに彼らが分厚い壁となって立ちはだかっていた。


「ちっ、全員ぶっ倒せば解決するだろ」

「待つのだ。オズヌ」


 飛び出そうとするオズヌさんをウォーレンさんが引き留める。


「彼らは兵士ではない。家と家族を守ろうとしているだけだ。ここで罪なき者を殺せば儂らは何を持って正義と呼べるのか分からなくなる」

「だからって邪神のもとまで行けなければ本末転倒マンだろ。俺っちだって家族と祖国を守るためにここまで来てんだぜ。邪魔する奴らはまとめてぶっ飛ばすマンだ」


 再び飛び出そうとする彼に、クラリスさんは銃で頭をぶったたいた。


 かなり痛かったのか、オズヌさんは声にならない声で唸る。


「待ちなさいと言っているでしょに。まずはきちんと策を練らないと。ウォーレン、貴方は盾を使ってあのバリケードを破壊しなさい。攻撃支援は小生の仲間と連合の兵でなんとかしてもらいましょう。小生とオズヌは蜜月組はできた道を一気に進みます」


 部隊の魔法使いが次々に石の壁を魔法で創る。

 それと同時に攻撃がやんだ。そっと壁から顔を出すと、直後に壁の近くで爆発が起きた。


 攻撃手段を弓から魔法に切り替えたらしい。これじゃあいくら作戦を練っても出られない。


「がぉおおおお!」

「エミリ!」


 エルダードラゴン状態のエミリが、上空から急降下からの着地をきめる。彼女の巨体は壁となって攻撃を防いだ。さらに硬い鱗は爆発をものともしない。


 エミリは大口を開けてヨダレをダラダラ垂らす。


「美味しそうだから、みーんなたべちゃうなの!」


 半数の住人が恐怖に負けて逃げ出す。


 えらいぞエミリ。

 これでバリケードを突破できそうだ。


 ……ところで、今のは冗談だよね?


 ウォーレンさんが壁から飛び出し、攻撃を盾で防ぎながら駆ける。


 ドォオン。


 大きな爆発が彼を飲み込む。


 だが、彼は黒煙の中から飛び出し、通りを塞いでいたバリケードを体当たりで突破した。さらにその豪腕で魔族を殺さない程度に蹴散らす。


「僕らも」

「はい」


 アマネと一緒に僕も走る。付いてくるのはクラリスさんとオズヌさん。

 二人は僕らを守るように攻撃を防いでいた。


「お二人は我々の切り札。できる限り消耗は避けていただきます」

「聖剣も聖竜槍も威力がありすぎるマンだ。本気を出すには不向きな場所だろ」


 確かに。僕らのS級遺物は強力な代わりに手加減ができない。

 だからこそ邪神討伐の任が与えられたわけだが。


 四人で無事バリケードを抜ける。


 そのまま城に向かって猛ダッシュ。


 後方からはウォーレンさんが追いかけつつ追撃を防ぐ。


 バサッ。


 真上を大きな塊が通り過ぎた。エミリだ。

 彼女は一足早く城門前に降下し、ブレス攻撃の体勢へと移る。


「ごぉおおおおおおおおお!!」


 エミリのドラゴンブレスが放たれた。

 城ごと邪神とその幹部を消すことができれば……この戦いは終わる。


 ――ブレスは透明な壁により、あっけなく防がれた。


 六角形の蜂の巣のような模様がうっすら浮かび上がり、それはドーム状に城を覆い隠していた。


 古代技術で形成された魔法防壁のようだ。簡単には倒されてくれないらしい。

 遅れて城壁から遠距離攻撃が開始された。


「パパ~、ブレスが効かないなの~」

「もういい、無理はしないで」

「はーいなの」


 元に戻ったエミリを、僕らが壁となって守る。

 クラリスさんがすかさず聖星銃の力を発動させ極大弾丸を撃つ。


「バーストスター!」


 閃光が走り、固く閉じられていた正門をぶち抜く。


 僕らは門を抜けて突入する。


 だがしかし、百を超える兵が新たな壁となった。


 指揮官はアスファルツ。

 オニのような姿ではなく、平静を取り戻した姿だ。


 しかもなぜだか恥ずかしそうにしている。


「あの姿を見せて殺し損ねるなんて。アタイは本当にダメな女だよ。恥ずかしくて恥ずかしくて今すぐ死にたい」


 周囲の兵が「ここで殺せば問題ありません」「信頼を回復いたしましょう」などとフォローしている。


 数分ほどうじうじした状態だったが、部下の励ましにより徐々に自信を取り戻し、ようやく元の強気の顔へと戻った。


 なんだろ、この時間は。先を急いでいるのだけれど。

 アスファルツが鞭で地面を叩く。


「一人置いていきな。五人は進むことを許してやるよ」


 なんだと? 

 道を譲るというのか?


 あまりにもこちらに都合の良い提案。狙いはなんだ。


「レイン様に命令されてんだよ。蜜月組を連れてこいってね。勝手に会いに行ってくれるなら、邪魔する理由はないだろ」

「なぜ僕らだけじゃなく五人なんだ」

「四天王の方針は各個撃破なのさ。アタイはそこのジジイにちょっと思うところがあってね。他の奴らを通してやる代わりに、そのジジイを置いていきな」


 ウォーレンさんは「儂?」とやや驚いた表情となる。


 ……どうするべきか。


 兵と彼女を相手にするのは時間がかかりすぎる。そうなればレインに多くの時間を与えてしまうことになる。逃げられでもしたら最悪だ。ここまで来た意味が。


「お前達は先に行け。ここは儂が引き受ける」

「でも」

「目的をはき違えるな。やるべきことを思い出せ」


 分厚く引き締まった肉体を誇示するように、彼は僕らの前へ進み出た。


 とても大きな背中。

 筋肉の発生させる熱により、彼の身体から白い蒸気が漂う。


 魔族の兵は恐れ戦き一歩下がった。


「勝負だ。ビッチのお嬢ちゃん」

「残り短い寿命を削りまくって終わらせてやるよ」


 一部の兵が退き、城までの道ができた。

 僕らは振り返ることなく走り出す。


 どうか死なないで、ウォーレンさん。



 ◇



 城内へと踏み入った僕らは、次々にやってくる騎士を倒した。

 そして、とある部屋へとたどり着く。


「遅い。何分待たせるんだ。アスファルツはすんなり通したはずだぞ」


 そこにいたのは四天王のラーケット。

 まるで待ち合わせに遅れた友人に怒るように、やや眉間に皺を寄せて眼鏡を指で押し上げる。


「君も誰かを指名するのか」

「そうなるな。僕は、そこの女。クラリスだったか」


 クラリスが指し示され、本人はきょとんと目をぱちくりさせた。


「貴様とは中途半端に終わっていた。ここで決着をつけてやろう」

「望むところ。小生も不完全燃焼でした」


 二人がにらみ合う。

 僕らは彼女を置いて、城の上層へと向かう。



 ◇



 新たな部屋ではミッチャンが待っていた。

 エミリが警戒心を露わにして杖を構えるが、ミッチャンは別の人物を観察する。


「そこの男を指名するわ」

「俺っち? ここは普通エミリの嬢ちゃんじゃないのか?」


 ミッチャンはオズヌさんを指し示した。

 除外されたエミリが尻尾を膨らませて憤慨する。


 ライバルと思っていた相手に無視されたのだ。そうなるのは普通か。


「お子様なんて興味ないわよ。ミッチャンは大人の女性なの。相手するのは当然、背が高くてイケメンでスマートな男よ。てことでさっさと行きなさいよ」

「クソ雑魚ナメクジがふざけたこと言ってるなの! 髪の毛毟ってやるなの!」

「止めろって。ここは俺っちに任せておけマンだぞ」


 オズヌさんはエミリを猫のように握って持ち上げ、僕の方へと軽く投げた。


 うわっと。エミリ、暴れないで。


「どうせ近接マンの俺っちとやる方が楽とか思ったんだろ」

「それもあるわね。でも、好みなのは確かよ」

「光栄マンだぜ。殺し合う関係なのは残念マンだな」

「はぁぁぁぁああ! イケメン特有の余裕、たまんないわ! ストーキングしたい!」


 ミッチャンは息を荒くする。

 僕らはオズヌさんを置いてさらに上を目指した。




「――待っていたぞ。この時を」


 上層にはあの男が待っていた。

 灼熱のゴラリオス。


 彼は口角を鋭く上げて僕らを迎える。





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― 新着の感想 ―
おう……終わらせなかったんですね。尺が足りないなあ、とは思っていたのですが……
[良い点] 更新お疲れ様です。 四天王VS勇者陣営、一人ずつ相手するなんてジ〇ンプ王道的展開に!ゴラリオスはやはり嫁娘か?
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