表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/78

69話 僕はミッチャンと相対する


 リューカーシャの都へと到着。

 僕らはシリカ王女と合流し、ライとジュリエッタに襲撃されたことを包み隠さす報告した。


「――大監獄を抜け出していたとは、そればかりか魔族側に協力を。だから早々に処刑すべきだと私はお父様へ申し上げたのです」


 怒りを露わにする王女はぎりりと歯ぎしりする。


 だが、僕らの視線に気が付くと、顔を赤らめて恥ずかしそうな表情へと変化させる。


「お恥ずかしいところをお見せしました。私としたことが感情をむき出しにしてしまうなんて。ですが、由々しき事態であることだけはご理解ください」

「うん。各国への説明も必要になるだろうし」

「ひとまずお父様へ一報を入れ、しっかり各国へ謝罪していただきましょう。それからアキト様には、尻拭いをさせるようで心苦しいのですが、剣聖ジュリエッタの始末をお願いいたします。もちろん報酬もお支払いいたします」

「指名手配、ってことかな」

「ええ、じきに手配書も出回ることとなるでしょう」


 報告が終わり、僕は部屋の外へ出る。


 廊下ではアマネとエミリが窓の外を眺めながら待っていた。


「終わったよ」

「どのようにと?」

「始末しろって。まさか大監獄から脱走してたなんて」

「償うつもりはない、と捉えて良いのでしょうね」


 まぁ、そうなんだろうな。あれだけ盛大に逆ギレしてたわけだし。

 こうなるともう誰も恩情をかけられなくなる。

 大監獄への収監は陛下による最後の優しさだったのだけれど。


 ジュリエッタ、君は本当に自分のしていることを理解しているのかい。

 もう幼なじみとして庇うこともできない。


 あの優しかった君はどこへ。それとも最初からそんな君はいなかったのか。


「あいつらムカつくなの。次に会ったら魔法でケツ毛を燃やしてやるなの」

「エミリ、そんな下品な言葉どこで覚えたのですか」

「オズヌが教えてくれたなの」

「もうあの人とはお話ししちゃいけませんよ」

「え~、オズヌちょー面白いのに」


 オズヌさん……あんた、ウチの子になんてこと教えてくれたんだ。


 気を取り直し僕らは建物を出る。


 すでにウォーレンさんとオズヌさんは最前線へと出ているはず。

 僕らも与えられた役目を全うしなければ。


 この先にいるレインに会うためにも。

 


 ◇



 都から遙か北に位置する『ヴァレリア大橋』。

 魔族が支配する忘れられた土地へと繋がる要所である。


 この大橋は古代の技術によって造られており、最短でヤカン大河を越えるにはここを押さえる必要があった。


 それは魔族側もよく理解しており、この大橋を巡って激しい攻防が繰り広げられているそうだ。


「これがヤカン大河か。初めて見たよ」

「河とは思えないほど幅がありますね。まるで湖です」


 到着早々に僕らは揃って壮大な景色に飲まれる。


 噂に聞く海、と見紛うようなとんでもないスケールの河である。

 向こう岸もここからではほとんど見えず、流れの激しい濃緑の水が大地を分け隔てている。


 そんな大河を横切るのは、石造りの巨大な橋だ。


 古代人が建造しただけあって数百人が同時に渡っても壊れないそうだ。


「ママ、この石すべすべなの! 見てなの!」


 河原で石を漁っていたエミリが笑顔で戻ってくる。


 その手には艶のある黒い石が握られていた。

 僕も子供の頃は川で綺麗な石を探してたっけ。それで気に入った物を見つけると、宝箱に入れて飽きるまで眺めるんだ。

 そう言えばあの石、どこへ行ったのかな。


「綺麗な石ですね。特にここ、緑色の石があって素敵です」

「ママにあげる」

「いいんですか? せっかく見つけたのに」

「エミリは究極の石を探すなの。そのくらいで足踏みしてる場合じゃないなの」


 うん? 究極の石?

 子供の言うことは時々大人の理解を超えてるなぁ。


「もう行くよ」

「え~、まだ探したいなの」

「みんなが僕らを待ってるんだ」


 不機嫌顔となったエミリは「ぶぅうう」と唇を尖らせた。


 手を差し出してあげると、目を輝かせてはねっ毛をぴょこんと揺らす。

 それから僕の手を取り満面の笑みとなった。




「遅い到着だな。すでに他の英雄は前線で戦っているぞ」

「すいません。報告しないといけないことができまして寄り道を」

「まぁ良い。早速だが現在の戦況を伝えよう。参謀長」


 指示を受けた中年男性はテーブルに地図を広げる。


 どうやら大橋を中心としたこの辺りの地形を記したもののようだ。

 男性は南側にある現在地に指を落とす。


「ここが現在地です。で、この先にあるヴァレリア大橋では、我が連合軍と魔族が今も戦闘を行っております。奪還範囲はだいたい三割といったところでしょうか」

「そんなにも護りが固いのですか」

「四天王の一人『大流殺のミッチャン』が強力な足止めとなっておりまして。他の四天王が合流する前に、彼女を倒さないと状況はより厳しいものに」


 僕は腕を組んで考えを巡らせる。


 彼によるとミッチャンは水魔法を得意とするそうだ。

 配置としては最も適当、厄介な場所に厄介な相手を据えられた感じだ。


 水魔法の使い手は、水のある場所では無敵と言っていいほど無類の強さを発揮する。


 たとえエミリでも、正面から戦うのは厳しい気が。


「エミリに任せれば余裕なの」

「勝てるの?」

「エマに教えて貰った魔法があればクソ雑魚ナメクジなの」

「言葉」

「エミリの魔法にかかれば楽勝ざます、なの」

「上流階級!?」


 と、とりあえず本人がこう言ってるし、一度試してみるのもありかな。

 他に方法も思い当たらないし。

 もしかしたらウォーレンとオズヌが戦況をひっくり返している可能性だってある。



 ◇



 鼠一匹通さぬ厳戒態勢。

 整列した兵士は壁となって後方で待機していた。


 その先では、五人が熾烈な戦いを繰り広げている。


 ウォーレンとオズヌ。

 対するは大流殺のミッチャンと二名の魔族の騎士。


 四天王であるミッチャンはともかく、配下である二人も相当に腕の立つ者のようだ。


 フルアーマーを纏い、剣と盾を駆使しながら手堅く戦いをコントロールする。

 筋肉もりもりのウォーレンが、珍しく悔しそうな様子で舌打ちする。


「程よく攻め程よく退く、魔族とは思えぬほど護りに長けた者達だ。この儂が攻めきれんとは。脱帽だ」

「おごらない魔族ってのはこうも厄介マンか。俺ちゃんピンチかも」

「ふふふふふ、こいつらはミッチャンがストーカーの果てに洗脳し教育した、イケメン暗黒騎士だ。大流殺のミッチャンの実力に恐れおののき、そして、個人情報を教えるが良い」

「俺ちゃんに言ってる?」

「そうだ。貴様は顔が良いからストーカーしたい」

「儂は!?」

「ムキムキのじじいに用はない」


 なぜかウォーレンはショックを受けていた。

 ミッチャンが背中から弓に似た、金属製の武器を抜く。


「それはまさかS級遺物!?」

「そっちの専売特許だとでも思っていたか。魔族だろうと資格があれば所有者として選ばれるのだ。聖鳥弓フェレニクス、奴らを貫け」


 弦を引き絞るだけで、周囲に無数の水の矢が形成される。


 弓と言うより弓型の杖のようだ。

 詠唱を破棄している点から速度重視の遺物。

 このままではウォーレンとオズヌが危ない。


 僕は瞬歩で前に出て、瞬時に双剣を抜く。


「今頃来ても遅い!」

「はぁぁあああああ!!」


 双剣が水の矢を切断する。

 真っ二つとなった矢が形を失う前に、次の矢を斬り、さらに次を斬る。


 全てを斬り終わったところで刀身に滴る水を払い落とした。


 絶句して固まるミッチャン、それどころかウォーレンもオズヌも呆然としていた。


「今のを全部斬った……? ミッチャン夢見てる?」


 彼女は未だに信じられないのか、目をくしくし擦る。


「アキト!」

「俺ちゃん待ちくたびれてたぜ!」

「ここからは私達にお任せください」


 アマネとエミリが前へと出てきた。


 一方のミッチャンは気持ちを切り替えたのか冷静さを取り戻していた。


「や、やるじゃん。ちょっぴり驚いちゃった。けどけど、今のミッチャンは誰が来ようと無敵。イケメンなら通してやったかもしれないけど、あんた程度じゃ門前払いよ」


 河の水が橋上へと這い上がり、ミッチャンの背後で巨大な六つ首の竜となる。


 あ、これはちょっとヤバいかも……ははは。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ