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49話 僕は武道大会に出場する6

今回は短めです。


 アマネの二回戦が始まるまで僕らは試合を眺めることに。


 僕についてだが、二回戦は余裕で突破している。


 相手は名のある騎士だったようだが、瞬歩で背後に回り込んで気絶させた。


 それはそうと選手は無料で試合が観られるからありがたい。

 外ではチケットの争奪戦が行われているそうだし、参加者として入ったのは案外正解だったのかもしれない。


「ポップコーンを買ってきたよ」

「ありがとうございます」


 アマネがポップコーンの入った器を受け取る。


 そこでエミリの姿がないことに気が付く。

 いつもなら真っ先に駆け寄って来るはずなのだが。


「あの子はトイレです。ナナミさんが付き添っていますから大丈夫ですよ」

「そうなんだ。この試合が終わったらアマネの試合だね」

「はい、頑張ってきます」


 アマネが手に指を絡ませてきたので握り返す。

 夫婦揃っての武道会参加、良い思い出になりそうだ。


 お、舞台に選手が――あれ?


 舞台で顔を合わすのは二人の魔法使い。


 一人はローブを身につけた典型的な魔法使いスタイルの中年男性。


 もう一人は非常に背が低く、白い布を身に纏い、頭部には紙袋をかぶっていた。

 布から出ているふわふわの尻尾には見覚えが。


 うん、これはお説教しないとかな。

 あれほど危険だから出るなと言ったのに。


 もちろん相手の選手が。


 試合が開始された。


「アクアスネーク」

「フレイムスネークなの」


 水と炎の大蛇が舞台で絡み合う。

 熱風が会場内で荒れ狂った。


「ガキにしてはなかなかやるようだが、こちらは賢師のクラスを有している。私に勝てるとすれば、賢王か賢者くらいだ。ふはははっ」

「ふーん、でも魔法使いのクラスに押されてるなの」

「なっ!?」


 炎の大蛇が水の大蛇を締め消した。


「こんな、ガキに私の魔法が……」

「やりすぎると怒られるから、手加減してあげるなの」


 ぼふん、エミリの腕が巨大なドラゴンのものに変わる。


 ど、すん。


「はわ、はわわわ……」


 指と指の隙間に対戦相手がいた。

 すっかり腰を抜かして座り込んでいる。


「まだやる、なの?」

「負けました」


 はぁぁ、やっちゃったか。

 だからエミリの出場を止めたのに。

 

「あの子のことですから、優勝して私達を驚かせたかったのでは?」

「怒りづらいなぁ」

「参加してしまったものはしかたありません。きちんと本戦にも勝ち上がっていますし。ここは強く怒らず、どこまで力を振るっていいかを伝えておくべきでは」

「手加減を覚えさせるには確かに良い機会だけど。ちょっと待って、エミリにはナナミが付き添ってるよね?」


 なるほどなるほど。

 ナナミも仲間なのか。


 彼女はエミリに弱いからなぁ、お願いされると断れないはずだ。


「そろそろ時間です」


 アマネは二回戦へと向かう。





 舞台にアマネと対戦相手が上がった。


 どうやら相手は棍棒使いのようだ。

 鈍く光を反射する鉄の棍棒は使い込まれていて威圧感があった。


「拙僧はクラリス様のパーティーメンバーである。よろしくお頼み申す」

「こちらこそ。良い勝負をしましょう」


 坊主頭の精悍な男性は、背筋を伸ばして深く頭を下げる。


 クラリスと言えばエダン国の筆頭英雄のはず。

 だとすると彼も英雄と言う事になる。


 アマネが負けるとは思えないけど、その可能性は十分にある。


 試合が開始される。


「まずは小手調べ」

「速い、ですね」


 連続する突きは、最小限の動きで恐ろしく鋭い。

 アマネは難なく避けて見せた。


「並のビースト族ではないようだ。拙僧のクラスは雷棍士、そちらはどのようなクラスを?」

「言えないんです。ごめんなさい」

「それは残念。だが、その様子レアクラスとお見受けする」


 雷棍士は棍棒系のレアクラスだ。


 棍棒系は属性のあるクラスが多い。

 打撃攻撃に属性攻撃を追加できるのは棍棒系の長所だ。


「はいや!」

「っつ」


 棍を槍で防いだアマネは、口元を僅かに歪ませた。


 電撃が身体を走ったのだ。

 慣れない戦いにアマネは戸惑っているようだ。


「守ってばかりでは拙僧に勝てぬ」

「それもそうですね。長引くだけこちらが不利、ですので本気でいかせてもらいます」

「潔し。その心意気気に入った」

 

 先ほどよりも速い突きが繰り出される。


 だが、アマネの矛先が棍棒の先を止めた。


「む」

「どうぞ続きを」


 短い間に放たれた百近くの突きを、彼女は矛先で全て止めてみせる。


 これには観客もどよめき、相手も驚愕の表情を浮かべる。


「恐るべき技量、このような人物がまだ隠れていたとは。いやはや驚嘆に値する。ぜひ我が主、クラリス様のパーティーに入っていただけぬか」

「気持ちは嬉しいですがお断りします」

「惜しい。貴殿が加入してくだされば、クラリス様もさぞお喜びなられたというのに――がはっ!!」


 アマネは石突きで鳩尾を突く。

 相手は片膝を突き、床へと吐血した。


「拙僧の負けだ。正直勝てる気がしない」

「潔いですね」

「良すぎてクラリス様によく怒られるのだ」


 審判はアマネの勝利とした。



 ◇



 つつがなく本日の試合は終わり、結果はこうなった。


 アキト・三回戦進出。

 アマネ・三回戦進出。

 エミリ・三回戦進出。

 団長・三回戦進出。

 リッティ・二回戦辞退。

 ニッキー・一回戦敗退。


 リッティに関しては運が悪かったと言うしかない。

 相手はあのライだ。


 ビルナスの英雄まで出場していたのには驚いた。

 今の今まで存在に気が付いていなかったので、名前を聞いた時は慌ててトーナメント表を再確認したくらいだ。

 

 それよりも気になったのは、あのライの異様な様子。


 以前とはまるで違う別人のような雰囲気を漂わせていた。

 何があったのかは知らないがまともじゃない。


 おまけにライは大会側からの罰金支払いを無視して会場から逃げたそうだ。


 大会運営側からはリッティに謝罪があり、後日ビルナスへ厳正な処罰を求めるらしい。


 ――で、現在、床に座るエミリとナナミを笑顔で見下ろしている。


「エミリはなにもしてないなの!」

「そうっす、エミリちゃんはナナミと一緒にいたっす」

「まだ何も言ってないけど?」

「「シマッタ!」」


 二人とも嘘が下手だよね。


 しょんぼり肩を落とす二人。

 なんだかいたたまれなくなってくる。


「今のエミリは強すぎるんだ。だからどこまで力を使っていいか三人で決めよう」

「このまま出てもいいの、なの?」

「エミリはどうして参加したのかな」

「パパとママがエリクサーが欲しいって言ってたから……」

「ありがとう。エミリは優しい子だ。じゃあ、相手を殺さないって約束してくれるなら、許可してもいいよ」

「うん、なの!」


 小指と小指を絡ませて約束する。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 何気に更に自分の墓穴を掘るライトと剣聖。 罰金無視してトンズラ、国へも通知(笑)。 ドンドン地獄が近づいてる様で。
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