36話 剣聖と竜騎士の落ちて行く日々8
レインの正体については近いうちにきちんと明かす予定です。
ちなみにホ〇です。
ビルナスに戻った俺達を待っていたのは嘲笑だった。
「だはははははっ、まことに大変だったな! 結婚式の最中に四天王に襲撃されるとは! 待て、そのまま顔を伏せていろ。余を見るでない」
「っつ!」
宮殿にはすんなり通してもらえたが、どいつもこいつも俺達を見て笑いやがる。
今すぐぶっ殺してやろうか。
てめぇらなんか秒だぞ。
ちなみにレインとかいう野郎にやられたのは報告していない。
あんな惨めな敗北を言えるわけがない。
次、会った時は本気で殺す。
あれは不意打ちをくらっただけだ。
「気を悪くしないでもらいたい。悪気があってのことではないのだ。身体を張って我が国を守っている英雄を馬鹿にするなどあってはならないこと。みなのものいい加減に気を引き締めよ」
謁見の間に緊張が戻る。
「しかし四天王に再び破れるとは由々しき事態。なんの為にS級遺物を貸し与えたのか分からぬではないか」
「申し訳ありませんでしたビッチ。以後このようなことがないよう尽力しますビッチ」
「ふむ、ならば機会を与えるとしよう」
はぁ?
機会だ?
「隣国にて近く、大規模な武道大会が行われる。すでに邪神の復活は確定してしまった。そこで各国の強者を集め、さらなる戦力を募ることとしたのだ。この大会に貴殿らも参加してもらう」
「つまり我が国の力を示せと、ビッチ?」
「その通りだ。くれぐれも無様な戦いだけはするな」
聞けば優勝者には、最強の称号といかなる傷も病気も治癒する、エリクサーが手に入るそうだ。
準優勝でも多額の賞金。
これはいい。
美味そうなイベントじゃねぇか。
「仮面を付けてもいいゲス?」
「……そうだな、その方が良さそうだ。宰相、彼らに外見を隠せそうなアイテムを渡したまえ」
「御意」
部屋に運び込まれたのは、仮面、フード付きのマント、大量の湿布薬。
これで顔と頭部は隠せそうだ。
さっくり優勝してやるよ。
それとエリクサーで呪いを解くことができるか試してやる。
◇
武道大会が開かれるのは、キュベスタのさらに向こうのドルリジア国だ。
あの蛇腹剣を持っている野郎の国。
そう言えばあのパーティーには美味そうな女がいたな。
男がいるのかは知らないが、寝返らせてこちらに入れるってのも悪くない。
たまたま一人分、席が空いているしな。
まぁ、使える良い女なら何人いてもいいが。
「はぁぁ、ほんと不運だビッチ」
「元気だすウホッ」
「ところで、なんだか前より馬車が狭くないビッチ?」
「おまけにボロいウホッ」
移動中の馬車の中で二人が文句を垂れる。
んなこと言うまでもないだろ。
成果をあげないから扱いが雑になってんだよ。
立て続けに四天王に敗北、呪いやら受けて表に出しづらい存在になった。
こんなはずじゃなかったんだが。
ジュリエッタをこました時は、最高の人生が約束されたと思ったんだ。
偽善者面貼り付けて、心の中ではアキトを馬鹿にしていた剣聖を堕とした時は。
それはそうと、今後はアキトの野郎に手を出すのはヤバいかもしれない。
あのレインって男。
やけにアキトのことを気に入っているようだった。
違うな。気に入っているってレベルじゃねぇ、あれは心酔だ。
もしかして俺は、荷物持ちと勘違いして、実はとんでもなくヤベぇ奴を相手にしていたのか?
とにかくアキトへちょっかいを出すのはやめだ。
あの男が出てくるかもしれない。
「その武道大会で優勝したら、美味しい物を沢山食べられるわよねアイラ。うんうん、そうそうウホッ」
「またかよ」
いい加減死んだ奴と話をするのはやめてくれ。
ずんっ。
馬車が激しく揺れ、横転する。
「なんだ、盗賊でも襲ってきたゲスか」
「貴方達は――ビッチ」
馬車から這い出れば、フードを深くかぶった二人組がいた。
二人共、顔を包帯でぐるぐる巻きにしていて容姿は窺えない。
今のはこいつらの仕業か。
「これは挨拶だ……と、こちらの方が申しています」
「…………」
言葉を発しない方がこくこくと頷く。
挨拶だぁ?
「我々は武道大会へと参加します。そこで貴方とその仲間をぶちのめし、重ねてきた罪を告白する……と申しています」
「ふんすっ」
腕を組んで再び頷く。
「なんだ、同じ参加者ゲスか。だったら今すぐぶち殺してやるゲス」
「ふむふむ……哀れな男だ。公の舞台で正々堂々勝つこともできないのか、と申しています」
こそこそ話しやがって。
ムカつくぜ。
いいじゃねぇか、その喧嘩買ってやるよ。
実力者ならどこかで当たるだろうよ。
そん時にその包帯を剥がして、一生外に出られない醜態さらさせてやるよ。
「俺が勝てば何してくれるゲス。タダでってわけにはいかねぇぞ」
「えーっとですね、貴方がたの罪を一生秘匿すると誓う、と申しています」
「罪? なんのことかわかんねぇが、それでいいゲス」
「こちらが勝てば洗いざらい世間に公表する、と申しています」
「好きにすればいいゲス」
「私はプリン、こっちはカスタードです。では」
二人は足早にこの場を後にした。
なんなんだあいつら。
人の馬車ぶっ倒しておいて詫びもなしかよ。
「たすけて~ウホッ」
馬車の中を見れば、樽に顔を突っ込んだエマがいた。






