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30話 僕は師匠に会いに行く5

第一章終了です。


 白いタキシードを着た僕は待ち続ける。

 この場には僕と神官しかいない。


 扉が開かれ、純白のドレスに身を包んだアマネが入る。


 彼女はブーケを握り、静かに僕の元へとやってきた。


 顔はベールがあって見えない。

 けれど、うさ耳を見れば彼女だとひと目で分かる。


「アキト、アマネ、汝らは今日より夫婦になります」

「「はい」」

「死が分かつまで互いを最愛のものとし、他者の幸せを喜び、欺瞞を捨て、慎ましく生きることを神に誓えますか」

「「はい」」

「ならば誓いのキスを」


 僕とアマネは向き合う。


 誓いのキス――立てた誓いを忘れない為に、キスで封じ込める儀式。


 緊張で喉が渇く。

 震える手で、アマネのベールをあげた。


 美しく化粧が施された奥さんは、潤んだ目で僕を見ていた。


 いつもの眼帯は外している。


 恥ずかしいのか顔は真っ赤だ。


「アキト、早く、ください」

「うん、いくよ」

「あ、待って。どうしましょう、とてつもなく恥ずかしいのですが」

「いつもしてるじゃないか」

「あれは、二人だけで」


 アマネは神官である老人の目が気になるらしく、人前でキスをするべきか悩んでいた。


「キスをしないと式が進まないから」

「ふにゅう、どうしてもここでしないといけないのですか」

「じゃあ止めておく?」

「ふえぇ!? それはダメです!」

「!?」


 アマネが抱きついてきて唇を重ねた。


 勢いの余りゴツンと額を打ったけど、僕は彼女を抱き留め、互いの愛を確かめ合う。


「おほん、そろそろ指輪交換を」

「あ、すいません!」

「はずかしい……」


 クッションを抱えたエミリが入場、僕らの前に二つの指輪を差し出した。


「早くはめるなの」

「急かさないでくれるかな」

「ノルンせんせーが遅い、って外で苛立ってるなの」

「さ、指輪をはめるよ」


 彼女の細い指に、指輪をはめる。


 不思議とそれはずっと前からそこにあった気がした。

 まったく違和感がない。


 ナナミは良い仕事をしてくれたようだ。


 アマネはしばらく自分の指を眺め、それから僕の指輪を手にとる。


「私が、アキトを幸せにします」

「それって僕の台詞じゃないかな」

「えへへ」


 彼女は指に指輪をはめた。


「おめでとうなの!」

「ありがとう、エミリ」


 エミリを抱き上げる。

 僕らはそのまま扉へと向かい、開いた。




 街では鐘が鳴り響いていた。


 外にはノルン先生、門下生、本部の指導員達の姿が。

 僕らは拍手で迎えられる。


「アマネ、ブーケを投げて」

「はい」


 宙で回転したブーケを求めて、女性門下生と女性指導員がもみ合いになる。

 団子状態になった中から伸びた手が、ブーケをキャッチした。


 掴んだのはノルン先生だ。


「あらあら、わたくしがとってもよろしかったのでしょうか。みなさんごめんなさいね、うふふふ」


 ばたばた、女性達は気絶しているのか倒れてしまう。


 偶然を装っているけど、明らかに先生がなにかしたのは明白だった。


 全ての男性は目をそらして見ないフリをする。

 普段は優しい先生だけど、今はすさまじい圧が放出されていた。


 式が終わり、僕らはしばらく雑談をする。


「アキトは、わたくしの自慢の生徒です!」

「いえいえ、そんな」

「ご結婚おめでとう。アマネさんも素敵です」

「ありがとうございます」


 史上最短での師範代到達、それが僕の成したことだ。


 七段への試験は一年に一度だけ。

 落ちれば次は来年だった。


 本部ではすっかり『天才』などと呼ばれていて、恥ずかしさこの上ない。


「そろそろ二次会場へ行きましょうか」

「そうですね」


「ア、キト……?」


 名を呼ばれ、振り返る。


 そこにはジュリエッタとライ、それにエマがいた。


「ああ、ジュリエッタ! 久しぶりですね!」

「はい……先生、これは?」

「ちょうどアキトの結婚式を行っていたのです。彼は今や史上最短で七段となった天才剣士ですからね。この度の式には、名誉師範や最高師範もご参列くださっています」

「七段? 名誉師範、最高師範??」


 ジュリエッタは状況は飲み込めないようで、冷や汗を流しながら固まっていた。


「先生、師範達を待たせるわけにはいきません。会場へ向かいましょう」

「そうでした。それではジュリエッタ、また後で」


 先生はひらひら手を振って、僕らと会場へ向かう。



 ◇



 結婚式から数日が経過。

 僕らは本部だけでなく街でもすっかり有名人になっていた。


 ブハダはクルナグルの本部を中心に発展していると言ってもいいくらい、あらゆる点において関連している。そのせいか情報の足も速く、『現剣聖を超える天才が現れた』なんて噂が駆け巡っていた。


 まぁ、先生や門下生が外で言いふらしているのも、大きな原因だと思う。


「にいちゃん、もしかして噂の遅咲きの天才剣士か」

「あはは……」

「奥さんも美人で羨ましいね。もう一つおまけしてやるよ」


 店主から果物の入った紙袋を受け取る。


 買い物を終えた僕らは、のんびり歩きながら剣人の館へと戻る。


「ふふ、すっかり有名人ですね」

「目立つのは慣れてないからまだ変な気分だよ」

「そう言えばエミリはどこでしょうか」

「あそこ」


 建物の屋根に羽の生えた茶色い獣がいた。

 見た目こそ余り変わらないが、あれで一応ドラゴンに変身している。


 実は僕が試験対策を受けていた間、エミリもイメージを固める練習をしていたのだ。


「パパ、ママ!」


 こちらに気が付いたエミリは、小さな羽をぱたぱたさせて僕らの元へと飛ぶ。


 エミリは僕の頭に乗っかった。


「もうどこへでも行けそうだね」

「エミリはどこにも行かないなの。パパとママと死ぬまで一緒なの」

「ふふ、それは困りましたね。いずれ私達みたいに誰かと結婚してもらわないと」

「婿養子をとるなの。姑にペコペコするのはいやなの」

「な、なるほど」


 でもそれ、僕の現状なんだけどね。

 アマネを嫁にとった形だけど、ほぼ婿養子みたいなものだし。


 ナジュ村に戻ったら、まずは家を建てないと。


 あの家だと碌にいちゃいちゃできないからなぁ。

 気を遣ってはくれているけど、肩身が狭いんだよ。


「予定よりも長居してしまいましたね」

「居心地が良いからなんとなく出発をずらしてきたけど、そろそろ次に行かないと住み着いてしまいそうだ」

「向かうのはアキトの生まれ故郷なのですよね」

「山奥にあるなにもない小さな村だよ。強いて言えば川魚が美味しいかな」


 村の近くには渓流があり、釣りをするには非常に良いスポットだ。


 豊かな森なので狩りをするにも最適、キノコや山菜なんて飽きるほど食べることができる。


 アマネとエミリもきっと喜ぶと思う。



 ◇



「お世話になりました。先生」

「また顔を見せに来てくださいね」


 僕らはノルン先生に別れを告げる。


 これからブハダを出て、故郷の村へと向かうのだ。


 先生の後ろには全ての門下生が勢揃いしている。

 彼らともっと話をしたかった。


 いつかまたどこかで会えるといいな。


「アキト七段に剣の道を!」


 先生が指示を出し、正装した門下生は剣を抜いて道を作る。

 僕らは交差した剣の下をくぐり抜け門を出た。




「よぉ、荷物持ち」


 街を出たところで木陰からライが出てくる。

 後ろにはジュリエッタがいて、エマの顔もあった。


「……何の用かな」

「分かってるだろ。殺したはずの奴が、周りでちょろちょろされると目障りなんだよゲス」

「アキト、お願い、今度こそ死んでビッチ!」


 ジュリエッタが眩しいほど光を放つ剣を抜いた。





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― 新着の感想 ―
[良い点] >「よぉ、荷物持ち」 ……? あ、語尾にゲスが付いてない。 呪いに抗っているだと――――!?
[一言] 下種な敵役だけど、いじられキャラとしては優秀な気がしてきた!バカすぎて可愛いというか!こういうのが退場すると面白みが下がりそうで怖い!これからも永遠にいじられ続けてほしい気がする!
[一言] 三人には四天王の残り二人の呪いをさっさと掛けてあげよう 全身が水虫になる呪いとか良いところでこむら返り起こす呪いとか 剣と槍はここで持ち主代わりそう
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