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嘘彼と、私  作者: ひめきち
嘘彼と、お花見
12/19

中3・4月(後)

 始業式の朝。

 校門脇の桜はもう見頃を過ぎて葉が出ていた。

 校舎の登校口に貼られたクラス分け表に、生徒が集まっている。私も見たいけど、もう少し人がけてくれないと見えないなあ。身長やっぱりあとちょっとは欲しい。

 その黒山の人だかりの中から背の高い女子が一人抜け出てきて、私に気付いて手を振った。


「千奈津、おはようー!」

「おはよう、美和ちゃん」


 我が心の友、美和ちゃんだった。

 クラス表、見た? と私が目で訊くと、美和ちゃんは沈痛な表情でガッシと手を握ってきた。


「クラス、別だった! 残念‼︎」

「ええ〜!」


 うっ、そうなんだ、ショック……。


「でもあたし達の仲は変わらないよね!」

「……うん!」


 美和ちゃんの言葉にジーンときて、私も力いっぱい手を握り返す。

 美和ちゃん大好き。クラスが違ったって、絶対にそれは変わらない。


 私達のそんな熱い女の友情に、どこから現れたのか波瀬くんが横槍を入れた。


「赤城と甘糟、面白え。伊織とよりよっぽど仲良いじゃん。ほら伊織、ウカウカしてっと彼女取られるぞ。いいのかよ?」

「うるさいよお前」


 呼ばれて伊織くんがやってきたかと思うと、早速波瀬くんを小突く。波瀬くんも笑って伊織くんの首に腕をまわし返した。波瀬くん、そっちだって充分仲良しだよ?

 伊織くんもクラス表を確認していたみたい。今日は朝練早く終わったのかな。そうだよね、始業式の日までギリギリだとヤバイよね。自分のクラスが分からないと教室に行けないもの。

 伊織くんは私と目が合うと、いつものように一重の目を細めて笑ってくれた。


「クラスは別れちゃったけど。ちー、これからもよろしくな?」


 隣で波瀬くんが冷やかし気味に口笛を吹いたけど、伊織くんは我関せずだ。

 こういう事を普通に言えちゃうのが伊織くんの凄いところ。うう、見習いたい。私の顔はどうしても赤くなってしまうから、恥ずかしい。


 そうか。伊織くんともクラス離れたのか。

 残念は残念だけど……うん。そもそも二年間も同じクラスだったことの方が僥倖なんだし。

 それに私達はもう、嘘の彼氏カレ彼女カノじゃないんだから、大丈夫だよね。


「もちろん……!」


 私は笑って肯いた。

 伊織くんが好きだと言ってくれた笑顔に近いといいと、願いながら。


「わあ、なんかあたし達お邪魔って感じ?」

「同感だ赤城。リア充、ぜろ」

「言ってろ」


 美和ちゃんと波瀬くんのからかいを、伊織くんは軽く流す。さすがだ。私は内心少し照れてしまったけど、努めて平静を装った。

 私は伊織くんの彼女なんだもん。私だって、伊織くんのように揺るがない人になりたい。


 クリーニングから返ってきたばかりの私の制服の胸ポケットには、お手製の栞が入っている。伊織くんと見た桜の花びらで昨夜作ったんだ。

 だから、きっと大丈夫。

 その薄紅色の思い出は、私の恋をそっと見守っていってくれるような気がした。

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