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東方転犬録  作者: レティウス
幻想郷生活篇
63/115

術を極めしもの

「ふむ、ここが幻想郷か」


 幻想郷のとある場所にて一人の人間が感慨深げにあたりを見回す。


「なるほど、なるほど。確かに隔離された世界というのも理解できる」


 辺りの景色を見回し、満足そうに頷く。


「はてさて、どうなることかな?」


 そう呟き止めていた足を動かす。


「まずは人がいる所に行くか……ふむ、こちらかの」


 歩みだし、辺りを窺った後、目的地を決めて確りとした足で歩いていった。




†――――†




「まずい、まずいわ……」


「どうしました?」


 紫邸でここ最近では妖怪の賢者と呼ばれるようになってきた紫は事の深刻さに焦っており、その様子を窺った式でもある藍は素直に尋ねた。


「陰陽師がこの幻想郷に入ってきたわ」


「陰陽師ですか……しかし、そこまで驚かれるものなのですか?」


 藍の感覚としては、まだ外の世界に陰陽師などが存在していたのかという認識である。


 紫の仕事を手伝うという名目の使いっ走りで結構な頻度で外の世界に行く機会が多い藍からすれば、現在の外の世界では既に陰陽師は廃れた存在だと思っていたのである。


 陰陽師がたとえ存在していたとしても既に血は薄れ、能力も大したものではないと思っている。


 また、迷い込んできたとしてもこの幻想郷の妖怪が遅れを取るとも思っていない。


 もし、勘違いした陰陽師が妖怪の山になど向かったのならば藍はそっと一輪の花でも添えてやろうとすら思っている。


 ぶっちゃけ、妖怪の山は紫ですら手を出せずに放置するしかない場所なのだ。


 正確には手は出せるし、何をやってもある程度までなら大丈夫なのだが、あそこに居座っている3人の妖怪を怒らせたとなればどうなるかなんて想像に容易い。


 ただ、その3人の沸点が極端に高いために怒ることなどはめったにないのだが……


「いや、もし万が一にでも椛でも手を出せば……」


 その3人の中でもことさら不気味な強さをもつ妖怪を思い出し、また可能性が思いつき身震いする。


 ぶっちゃけ、ただの親バカなのだがそれでもなお起こって欲しくはない事実であった。


「紫様、その陰陽師というのは……」


「そいつはね――――よ!」


「なっ!?」


 紫が告げた名前に思わず藍も絶句してしまった。直接的な関わりはないが、しかし無関係ではない名前だったためである。






†――――†






「ちょっとよろしいかな?」


「どなたかな?」


 慧音は寺小屋の授業が終わり、村を歩いているところに突如声をかけられそちらを振り向けば、見たことの無い人物がたっていた。


 本来ならばこれといって尋ねなくても普通に対応しただろうが、その者のいでたちが特殊だったためにやや警戒してそう答えてしまった。


「これは失礼。私は……葛葉と申します」


「私はここの人里で寺小屋をやっている上白沢慧音というものです」


 尋ねられた人物は直ぐに口を開こうとして一瞬とまりややあってから名乗った。


 慧音はそれに警戒しながらも、それをおくびも出さずに自分もなのった。


「ほうほう。寺小屋はこちらでもあるのですな」


「こちら、ということは貴方は外から?」


「ええ。外の世界では私のような存在は必要なくなりだしましたのでね、それなら話に聞いていたここに来て見ようと」


 葛葉と名乗った人物の言葉を注意深く聴いていた慧音は、その言葉から気になることを尋ねた。


「それで、どういったことを?」


「色々と知らないことが多いので聞きたいのですがね、一番聞きたかったことを」


 ごくりと喉をならす慧音に葛葉は気にする様子もない。


「人に友好的な妖怪をご存知ですかな?」


「へ?」


 葛葉から尋ねられたことに慧音は間抜けな声を上げてしまった。


「可笑しなことを聞いているとは思っていますがね、ですが私としても命題と考えている一つでしてね」


 苦笑いしながら言って来る葛葉。慧音としてもこの人物からそんなことを聞かれると思っていなかったために再起動にやや時間を要した。


「し、失礼しました。人間に友好的といわれても……そうですな」


 改めて考える。外から隔離されたこの幻想郷は妖怪と人間がある意味で共存している世界である。


 奇跡的なバランスを取っているが、別に人間と妖怪が手を取り合って共存しているわけではない。


 度々、妖怪が人間を襲うという事件も起こるために、この人物の質問に答えられそうな人物などと考えてふと一人の人物が浮かんだ。


「そうですね……ああ、一人だけ心当たりが」


「ほう、何処に住んでいるか教えていただけませんか?」


 葛葉の質問に頷きある方向をみる慧音につられてそちらに視線を向ける葛葉。


「人里から出て少しすると山が見えてくると思いますがその麓に住んでいる妖怪は友好的ですよ」


 ふと思い出した友人の知り合いにして自分にとっても親しい人物だ……癖が少々どころではないほど強いが。


「なるほど。助かりました、では私はこれで」


「ええ」


 葛葉と分かれながらその背を見る。正直に言えば彼の人物を彼に紹介してよかったかは分からない。


 その身に宿す膨大といわざる得ない霊力。


 妹紅や自分では逆立ちしても敵わないほどの霊力を宿す陰陽師に真理を紹介してしまったことにぐるぐると思考が回る。


「あ、名前を伝えるのを忘れた」


 そして、その霊力に驚いていたためにうっかりと真理の名前を伝えるのを忘れてしまった。


「まぁ、彼ならば大丈夫だろ」


 変なところで強い真理を思って、慧音はそう結論付けて妹紅の元へと向かっていった。






†――――†






「へっきし」


「風邪?」


「いや、そんなことは無いはずだ」


 生まれてこの方、病気らしい病気なんてして事はない。


「ん?誰か来たのか?」


 こちらに近づいてくる気配が大きくなってくる。力の質から人間とは分かるが。


「人間がこんな場所に何のようだ?」


「人間?山の幸でも取りに来た?」


 俺がいった人間という言葉にあとりは首をかしげながら可能性を口にするが無いだろ。


 山の幸は確かに豊潤で腐ることなく沢山あるが、この山には天狗やらなにやらでただの人間には幸を取る前に自分が餌になって終わりだぞ。


「もし!誰かいるか!」


 っと、色々と考えていたら玄関から声が聞こえてくる。てか、霊力でっけえ。ここまでデカイ霊力なんて博麗の巫女も持ってないんじゃないか?


 あとりは人の悪意なんかにも敏感なほうだからわりとスルーしているな。


「出てくる」


「きーつけてな」


 あとりが立ち上がり玄関に人を迎えに行くのと同時に俺は居間に移動する。


「戻った」


「誰だった?」


「陰陽師」


 あとりが居間へと戻ってきたので尋ねてみたらそう帰ってきた。てか、陰陽師か。


 外の年号がどうなっているかは大体は把握しているつもりだがまだいたのかというのが俺の感想だ。


 あとりにこっちに招待してくれと伝えてまつこと1分程度すると白い陰陽師の服をきた人物が入ってきた。


「え?」


「お?」


 襖が開き顔を見ようと思いそちら見て固まる。どうやら相手も同じだった様だ。


「し、真理ぃっ!?」


「清明じゃん。まだ生きていたのか」


 てか、分かれてから全く変わってねえなこいつ。


「な、なんでお前がここに!?」


「なんでって……なんでだっけ?」


「子育て」


 なんでいるかなんて尋ねられ即答できずにいたら横からあとりがお茶を置きながら教えてくれた。


「ああ、そういやそうだったな」


「こ、子育て!?し、真理、け、けけけけけ結婚したのか!?」


「落ち着けバカ」


 詰め寄ってきた清明に手刀を落とすと、落とした箇所を押さえながらうずくまりようやく静かになった。


「孤児をな、ちょっとした理由で引き取ったんだよ」


 いやぁ、もう結構前だったから忘れていたよ。


「そ、そうか……」


「てか、何でお前がここにいるかってほうを聞きたいんだが?」


「ん?外の世界だと陰陽師なんて廃れてしまってね、だからこっちに来たんだ」


 ああ、そういや外じゃもうそんな時代だな。


「「ひゃっふーーー!真理ちゃーーーんっ!」」


「失せろ変態どもが!」



 アッー!



「てか、この変態どもをまだ使っていたのか」


「変態だが能力は高いからな」


 ゴミを見ながら清明に尋ねるとしれっと答えながら茶を啜る清明。昔以上に図々しくなったなこいつ。


「まあ、なんだ?久々だな清明」


「挨拶が後回しになるのなんて私達からしたら当たり前だな。久しぶりだな真理」


 違いない。俺達は普通なんて言葉が逃げていく存在だからな。


「大変よ真理!あの安部清明……が」


 清明と久々に会い、話が弾んでいたらなんか、スキマから紫が慌ただしく出てきた。


「どうした紫?」


「私がどうかしたのか?」


「え?……なんか、なごやか?」


 ポカーンとした表情でそんなのことを言ってのける紫に俺をはじめ、あとりも清明も首を傾げた。

清明についてダイブぼかしたけどわりと分かりやすかったかな?

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