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続きそうで続かない短編倉庫  作者: あかね


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騎士団のオカン

 ある平和な昼下がり。

 騎士団寮の中の繕い部屋にテレサは出稼ぎに来ていた。元担当者が不在になり、手が回らないところが出てきた結果、騎士団長直々にお願いされたのだ。

 女子禁制どころか使用人禁止な騎士団寮では?と思ったのだが、この数十年の平和さでやや緩和してもよいという話になったらしい。

 それならば、と、テレサは忙しくないときに週に一回、訪れることになっていた。


「こんにちは」


 最初は悲鳴をあげられたが、今は普通に挨拶を返された。未だぎこちないのは仕方ないだろう。テレサもなんだか友好的に来られると身構えるところはある。異性慣れしていない同士が、じりじりと間合いを図っているようなところだ。


 テレサが向かうのは繕い物部屋だ。


 繕い物部屋は小さいが、代々の主が居心地よく過ごせるようにと腐心した形跡がある。テレサがいつも使うような道具入れはより、皆大きい。引き出しの取っ手一つでも、ゆったりと指を入れられるくらいの隙間があるものを使っていた。

 道具もやや重めのものばかりで、どうしてかと思えば軽いと壊しそうという理由だった。それが図らずもいいものをそろえているという結果にもつながっていた。


「こんにちは」


 そう声をかければ、中で作業していた二人の男性が手を止めて挨拶を返してくれた。一人はテレサと同じくらいで、もう一人は今年入団したばかりの新人だった。

 最近はこの組み合わせが多い。

 指南役と新人といったところだそうだ。

 テレサは指南役のオリバーとはここに来る前に知り合っていた。それを知られているのか、テレサ担当の雰囲気がちょっとしている。人見知りのテレサには少しだけありがたたく、ちょっとだけしんどい。


 テレサを目にしてすぐにオリバーは立ち上がった。


「テレサさん、今日は用事があって少し抜けたいんです。半刻もかからないので」


「どうぞ。

 いってらっしゃい」


 テレサはどうぞだけでは冷たい気がしたから、追加しただけである。了解しましたでも、なんだか、違う。そういう気遣いの産物だった。

 しかし、言われた側は固まってしまった。


「オリバーさん?」


 変なことを言っただろうかとテレサが声をかけて、はっと気がついたように彼は頭を振った。


「……い、いってきま」


 す、まで聞こえない声だった。そして、ごんと扉の柱に頭をぶつけていた。大丈夫かと声をかけている前に逃げていった。


「…………テレサさん」


「え。今の私悪い!?」


「悪くはありませんね。

 僕には結構ですよ。了解とか、はい、とかで。先輩、ほら、テレサさんにお熱だから」


 なんか好かれてる、かも? というテレサの疑念が、後輩により確定した瞬間であった。


「聞かなかったことにするので、仕事しましょ」


 えーという軽薄新米にテレサは呆れた。


「ばれたら締められるのあなたよ? イスカ君?」


「はっ。そう言えばっ! それではなにもなかったことに」


 しばし、二人は作業に没頭することにした。

 そういえば、この場に二人きりにされることはほほなかった。先輩がついているのは、余計なことを言わせないためであったのかもしれない。

 あの失言一回で察して余りある。


 それならば、アレの件を聞けるかもしれない。テレサは何気ない様子で雑談を振った。テレサが来るより前から作業していたイスカはすぐに手を止めて応じた。まだ話しながらでは手を刺したりするからだろう。テレサは慣れたもので、そのまま話をする。

 そして、場も温まったところで、切り出した。


 あるうわさがある。


 諸事情により、実家より実家な騎士団寮。

 通称オカンと呼ばれる人がいる。世に恐ろしい裏の権力者である。


「という噂を聞いたのだけど」


「どこで噂です?」


「おやつもらってお皿帰しに行ったときに、なんか話してたの漏れ聞いたんですよ。

 オカンの怒りがとか」


「あ……。それ、大したことじゃないですよ。

 ほら、部屋が荒れるが部屋に入るなというめんどくさい状態のときってあるじゃないですか。

 ほっといたら虫が湧くんですよ。それに、恰好も乱れもますし」


「ああ、だから、オカンの怒り……」


 実家ならば、母親が怒りの鉄槌をくらわすところだ、というところだ。しかし、ここは騎士団寮。副団長の指令の元、部屋のものをすべて白日の下にさらすらしい。

 ほんとうに、すべて。


 下着もならべられるらしいですよぉとげんなりした顔で言われて、はっとした顔ですみませんと謝られた。女性に下品なことを言ってしまってとしきりに恐縮している。

 大丈夫ですよ、それでは部屋は綺麗に使わなくてはいけませんねとテレサは軽く流すことにした。


 テレサは実家住まいであるので家族分の洗濯もしているので男の下着くらい見慣れている、という話は理解の外だろうし。


 騎士団に所属するような男というのは、貴族の子息のみで基本的に自力で家事をしたこともないような人ばかり、だった。

 階級の違いを感じずにはいられない。


 だから、まあ、好意を向けられてもなぁというところはある。

 別に嫌いでもないが。やめておけと理性が総ストップをかける。


 テレサはちょっとため息をついた。


「……あ、それ、いつききました?」


「先週くらい?」


「それはそれは」


 イスカは立ち上がって、扉をしめた。いつもはあけてある。女性がいますからね、悪評を立てるような野郎はいませんが、念のためと。


「たぶん、今日です。執行日。副団長から先鋒を指名された騎士にしか知らされない極秘任務なんですよ」


 テレサは遠くから野太い悲鳴が聞こえた気がした。


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