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episode48 宇治から都へ        早蕨

早蕨さわらびざっくりあらすじ

 大君を亡くした悲しみから立ち直れない中の君ですが、匂宮は彼女を二条院に迎え入れます。薫は大君を失ったことを悲しみ、中の君を匂宮と結婚させてしまったことを後悔します。

【超訳】早蕨さわらび 宇治十帖

薫 25歳 匂宮 26歳

中の君25歳

夕霧 51歳


―― 消沈の中の君 ――

 宇治にも春が近づいてくるの。今までは四季折々の花の色や鳥の声をお姉さんと一緒に見て一緒に聞いていたから中の君は寂しくてたまらないの。山の阿闍梨がわらびやつくしを中の君にお見舞いに届けるの。


~ 君にとて あまたの年を つみしかば 常を忘れぬ 初(わらび)なり ~

(八の宮さまに毎年春にお届けしていました。今年も最初の蕨です)


~ この春は だれにか見せん なき人の かたみに摘める 峰のさわらび ~

(今年の春は誰に見せるというのですか? 亡くなった人の形見の蕨なんて)


 中の君は今でも(大君が亡くなったことを)夢のように思っているみたい。何事も大君とふたりで分け合って語り合って過ごしてきたからお父さんを亡くしたときよりも今回の悲しみは大きいみたいね。

 大君が生きている頃はそれほど似ていると思っていなかったんだけれど、今では中の君がふと大君のように見えることもあるくらいなんですって。悲しみのあまり少し面やつれしているのもまた美しいんですって。

「薫さまは大君さまのご遺体だけでもずっとそばに置きたいっておっしゃるくらい嘆いていらっしゃるから、中の君さまが薫さまと結婚なさればよかったのにそうはならない運命のようね」

 女房達はそんな話をしているみたい。


 薫は今でも大君を失った悲しみから立ち直れずにいると聞いた中の君は薫の大君に対する想いは軽薄なものではなくて本当に愛してくれていたのね、としみじみ感じるの。

 匂宮は宇治に通うのがますます難しくなってきたから、中の君を都に迎えようと決心するの。


 都では大君を忘れられない薫が匂宮に辛い想いを打ち明けるの。匂宮も同情してもらい泣きするの。それから中の君を都に迎えることを薫にも伝えるの。薫もそれはよかったって匂宮に言うの。

 そうは言いながらも、大君は匂宮ではなくて自分と中の君に結婚してほしいと思っていたのに、それに応えず匂宮と結婚させてしまったことを薫は後悔もしているの。大君の代わりに自分が中の君と結婚すればよかったって。


 でも、もうどうにもならないので、中の君の二条院への引っ越しの手伝いをしてあげるの。

 宇治では女房達は都に引っ越せるのではしゃいでいるの。けれども中の君は一生宇治の山荘で生きていく覚悟でいたのに、お父さんやお姉さんとの想い出と離れなければならないことになり、辛い思いでいるのよね。匂宮の自分への愛も永遠に変わらないと信じることができなくて、将来のことも不安みたいなの。


 2月になり大君の服喪期間(喪中)も終わり、二条院への引っ越しを翌日に控えた日に薫は宇治の山荘を訪れるの。中の君の衣装やご祝儀の品などの用意もしてあげるの。本当は自分もこうして大君を妻として都に迎えたかったのに、結局は大君からは友人以上には想ってもらえなかったんだなって薫は残念に思うの。

 自分も二条院の近くに引っ越すから何でも相談にのるよと中の君に話すんだけれど、まだ中の君は宇治を離れたくなくて沈んでいるの。


~ 見る人も あらしにまよふ 山里に 昔覚ゆる 花の香ぞする ~

(もうこの梅の花を見る人もいなくなるのに、昔を思い出させる梅の香りがするわね)


 中の君がそんな歌を詠むの。


~ 袖ふれし 梅は変はらぬ にほひにて ねごめうつろふ 宿やことなる ~

(今も昔も変わらない梅の香りだけれど(あなたの美しさは変わらないけれど)、引っ越してしまう先は他のオトコのところだよね……)


 弁の君は年をとっているので晴れがましい都には戻らず、髪を下ろして尼になって、山荘に残ることにするの。薫は大君を失ってしまうくらいなら彼女もいっそ尼にして、そうしたらその功徳で今も生きていてくれたかもしれないのにとまた後悔をするの。


~ 身を投げん 涙の川に 沈みても 恋しき瀬々に 忘れしもせじ ~

(涙の川に身を投げて沈んだとしても、大君を恋したときのことは忘れられないんだ)

 

 弁の君と大君のことを偲びながら、いったいいつになったら心が癒えるんだろう、きっと終わりなくいつまでもこんな気持ちでいるんだろう、って話したの。


―― 中の君、二条院へ ――

 翌日、匂宮がよこしたお迎えの人たちで山荘が賑やかになるの。本当は匂宮自身が迎えに来たかったんだけれど、大げさになってしまうので都で待つことにしたみたいね。薫も使者を行かせたり、必要なものを用意してあげたの。ウキウキはしゃいでいる女房達と沈み込んでいる中の君が対照的なの。

 とても遠く険しい山道を越えて都へ向かうので、中の君はこんなに遠くまで大変な思いをして匂宮は通ってきてくれていたんだわ、たまにしか来られなかったのも無理はないわって思うの。


 中の君を迎える二条院は煌びやかなお屋敷で、調度品インテリアも立派で素晴らしいの。匂宮は中の君の到着を今か今かと待っていて、自分で中の君を車から抱きおろしてあげるの。この結婚話を聞いた人々は最初は「匂宮の愛人」としか思っていなかったんだけど、あの匂宮がここまでするのだから中の君はよほど素晴らしい女性ヒトなんだろう、「立派な奥さま」とウワサしあうの。

 薫も火事で焼けてしまった三条の宮(女三宮の屋敷)を新築中で匂宮の二条院のすぐ近くなの。中の君が無事二条院に輿入れした報告を聞いて、薫は安心しながらも大君ゆかりの姫君を完全に匂宮に渡してしまった寂しさとで複雑な気持ちだったみたいね。


 夕霧は娘の六の君をすぐに匂宮と結婚させるはずだったのに、突然宇治から出てきた姫君が二条院《匂宮の自宅》にお嫁入りしたから面白くないのね。それでも予定していた裳着もぎ(女の子の成人式)をいまさら中止にもできず行うの。

 いっそ匂宮との結婚をやめて薫に六の君を嫁がせようかとそれとなく探ってみるんだけれど、もちろん薫にそんな気はないのね。


 桜の季節に薫が二条院にいる匂宮を訪ねていたんだけど、匂宮が御所に参内することになって支度を始めるの。そのあいだに薫は中の君のご機嫌伺いに行くの。中の君はもし大君が生きていて薫と結婚して近所の三条邸にいたら、お互い行き来して花や鳥を眺めて楽しく暮らせただろうにって思うの。薫も中の君もまだ大君を亡くした悲しみから立ち直れないみたい。物越しの対面だけれど大君の話をして薫は帰って行ったの。

 そこに匂宮が出かける挨拶をするためにやってきて今まで薫がここにいたことを知るのね。

「そこまで他人行儀にしなくてもいいんじゃないの? もう少し薫と仲良くしてやったら?」

 なんて言ったそばから

「でもな、アイツが異様に親切なのは下心があるからかもな。気をつけなよね」

 ともいうのよね。薫は今も大君のことを想っているし、中の君は薫に感謝はしていてもそれ以上の感情はないのに夫の匂宮から薫との仲を疑われてうっとおしく思ったみたいね。




◇大君を失った悲しみから立ち直れない薫と中の君ですね。そんな中の君ですが、匂宮が心を尽くして自宅の二条院に迎え入れましたね。女性関係の派手な匂宮ですが、中の君を「通いどころ(愛人扱い)」ではなく自宅に迎えたことが匂宮なりの誠意なのでしょうね。



~ 袖ふれし 梅は変はらぬ にほひにて ねごめうつろふ 宿やことなる ~

薫が二条院に移る中の君に贈った歌



第四十八帖 早蕨


☆☆☆

【別冊】源氏物語のご案内

関連するトピックスがあります。よかったらご覧になってくださいね。


topics41 愛と想い出の家

https://book1.adouzi.eu.org/n8742fe/58/


☆【超訳】次回予告

episode49 薫の想いと運命の女性   宿木

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