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episode42 ふたりのイケメン    匂兵部卿

匂兵部卿におうひょうぶのきょうざっくりあらすじ

 源氏亡きあとの近況が語られます。薫と匂宮におうのみや、新しい主人公が登場して『源氏物語』第三部の始まりです。

【超訳】匂兵部卿におうひょうぶのきょう 匂宮三帖

薫 14~20歳 匂宮 15~21歳

夕霧 40~46歳 女三宮 35~41歳

明石中宮 32~38歳 明石御方 52~58歳



―― 源氏亡きあとの近況 ――

 源氏が亡くなってしまったあと、源氏のような超絶イケメンは見当たらないの。冷泉院さまが源氏にそっくりと言われることもあったけれど、元帝のことをそんな風にウワサするのも失礼よね。

 今は明石中宮と今上帝きんじょうていの皇子の匂宮におうのみやと源氏と女三宮の子の薫がカッコいいってウワサになっているみたい。ふたりとも源氏と繋がりがあるから整った顔立ちではあるんだけれど「源氏には適わないかなぁ」なんて言われているの。それでも源氏がすでにこの世にいないので、今の宮中でのイケメンはこのふたりということになるみたいね。


 紫の上に可愛がられた匂宮は今もあの二条院で暮らしているの。元服して兵部卿ひょうぶのきょうの宮と呼ばれているのね。お姉さんの女一宮も今でも紫の上を慕って、彼女が暮らしていた六条院の春の御殿に住んでいて、兄の二宮もときどきは遊びに行っているみたい。二宮は夕霧の二女と結婚しているの。次の東宮候補で臣下からの信頼もあって人柄も素晴らしいのよね。


 夕霧は今は右大臣になっていて宮中の要職に就いているの。長女は東宮に入内(お嫁入り)していて、他の娘たちも誰と結婚させようかいろいろ考えているみたい。特に六女の六の君は貴族男子の間で評判の姫で夕霧は匂宮と結婚させたいと思っているようね。


 花散里は二条院の東の院に引っ越して、女三宮はお父さんの朱雀院に譲られた三条の宮に住んでいるの。明石中宮は主に御所にいてなかなか六条院に帰省もできないのね。源氏が丹精込めて造った六条院が廃れるのは寂しいので、夕霧は女二宮(落ち葉の宮)を六条院に住まわせているの。雲居の雁の住んでいる三条の本宅と六条院を律儀に1日おきに通っているんですって。明石の御方は中宮の子供達の後見としてとりしきっているの。夕霧は源氏亡きあとも源氏ゆかりの女性を母のようにお世話しているの。同じように、もし紫の上が生きていてくれたら心をこめてお仕えするのになぁって思っているみたいよ。

 今でも源氏のことを慕っている人は多く、寂しがっているの。それから紫の上のこともみんな懐かしんでいるのね。春の花の時期は短くてもその印象は深く人の心に残っているのと同じことのようね。


―― 悩める薫 ――

 薫は元服後トントン拍子で出世しているの。冷泉院(源氏と藤壺の宮の子)は薫のことをとっても可愛がっているの。自宅に薫専用の部屋を造り薫専用の女房たちまで雇っているの。でも薫のお母さんの女三宮が薫に頼り切りだったから、薫は冷泉院の御所と母の三条の宮を行ったり来たりの生活で忙しそうなのよね。他に帝と明石中宮の子である東宮さまや兄弟の宮さま達も親友のようによく薫を呼び出すので、身体をいくつかに分けられたらいいのになんて思っているみたいね。

 

 ぱっと見順風満帆に見える薫なんだけれど、小さい頃に自分の出生のウワサをチラッと聞いたことがあってずっと気にしているの。けれども誰にも聞くこともできなくて悩んでいるの。


~ おぼつかな たれに問はまし 如何いかにして 始めも果ても 知らぬ我が身ぞ ~

(誰に聞いたらいいんだろう。僕はどうやって生まれてきてどう生きて行ったらいいんだろう)


 どうしてお母さんはあんなに若くして出家しなきゃいけなかったのか、自分が生まれてくることに何か不幸なことがあったんじゃないか、本当に自分は源氏の子なんだろうか、源氏にも自分の存在が不快にさせていたんじゃないか、もし源氏の子じゃないのなら冷泉院さまに目をかけてもらって出世する資格なんてないんじゃないか……。

 そんなことを考えていたから出仕(勤め)始めて周りの華やかさに触れても薫自身は浮かれることもなく冷静な性格になっていったの。それどころかいっそ出家したいな、なんて考えるようになっちゃうの。

 でも薫の思惑とは裏腹に帝(女三宮の異母兄)も中宮(源氏の娘)も薫のことを自分の子どもと同じように可愛がっているし、それは夕霧も同じなのね。


 かつての光源氏は帝の皇子の中でも最も愛されたけれど、それを嫉妬する反対派があったり、お母さん(桐壺の更衣)を早くに亡くして実家の支えがなかったりしたけれど、薫は最初からすべてを手に入れていたのよね。そして見た目も優美で気品高く思慮深く誰とも似ていなく優秀な男子に成長していたの。


 薫の身体からはいい香りがしたの。そのなんともいえない香りは人を惹きつけて、離れたところでも薫がそこにいるってわかるくらいだったの。庭の木も薫の袖が触れれば春の雨の日にも枝の雫が香りを放つし、秋の野の藤袴も薫が通ればなつかしい香りがしたんですって。


―― 負けず嫌いの匂宮 ――

 匂宮は負けず嫌いだったから薫に負けないように服に香りを焚きしめてるの。庭の木も香りの強いものを揃えて香りへのこだわりがスゴイんですって。おじいちゃんの光源氏は何事にもこだわりすぎず、異様に執着することもなかったんだけれどもね。


 薫はよく匂宮の二条院に遊びに行っていて、お互い親友でライバル同士でもあるみたいなの。世間でも「匂う兵部卿」「薫る中将」ってウワサをしているのよ。だから娘がいる貴族たちはみんな彼らを、婿にしたいなぁって思っていていろいろとモーションをかけてくる人もいるみたい。


 匂宮はまだ結婚していなくて、けれども特別本命のコがいるわけでもなくて、いろいろな女の子と恋を楽しんでいるの。ただ冷泉院と弘徽殿女御の姫宮と結婚出来たらいいなぁとは思っていて女房経由でいろいろ調べているんですって。


―― 薫の恋愛観 ――

 薫は色恋なんて出家の邪魔になるだけだ、なんて言っているの。テキトーに遊ぶ女の子はいなくもないけれど、結婚したいような本気の恋をするつもりはないみたい。


 夕霧は自分の娘をひとりは匂宮と、ひとりは薫と結婚させたいみたい。親戚同士だからあんまり大々的に婚活できないらしいんだけど、側室の藤典侍とうのないしのすけが産んだ六の君を女二宮(落ち葉の宮)に養育してもらって花嫁修業をさせようとするの。藤典侍より女二宮の方が身分が高いので養母になってもらうみたいね。

 でもそんな夕霧の思惑とは裏腹に匂宮は堅苦しい結婚をする気はまったくないみたいね。だから夕霧も弓の競技のイベントや宴会を開いて匂宮や薫の興味をひこうとしているの。



◇第二部で幼かった匂宮と薫が成人していますね。源氏が亡くなってからの人々の様子が語られています。源氏の孫の匂宮と表向き源氏の息子の薫、現在の宮中を賑わせているイケメンふたりの恋物語がここから始まります。



~ おぼつかな たれに問はまし 如何いかにして 始めも果ても 知らぬ我が身ぞ ~

薫がひとりごとのように詠んだ歌



第四十二帖 匂兵部卿


☆☆☆

【別冊】源氏物語のご案内

関連するトピックスがあります。よかったらご覧になってくださいね。


topics37 想定外、常識外と千年続くテッパン

https://book1.adouzi.eu.org/n8742fe/53/


☆【超訳】次回予告

episode43 匂宮は梅がお好き   紅梅

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