episode32 すれ違うふたり 梅枝
◇梅枝ざっくりあらすじ
源氏の一人娘の明石の姫君が裳着(成人式)をして東宮(皇太子)に入内する(お妃になる)ことになります。華やかなお嫁入りの支度がすすみますが、一方息子の夕霧の恋はいまだにうまくいっていないようです。
【超訳】梅枝
源氏 39歳 紫の上 31歳
明石の御方 30歳 明石の姫君 11歳
夕霧 18歳 雲居の雁 20歳
―― 雅な香合わせ ――
東宮(皇太子)さまの元服(男子の成人式)が近づいてきたの。明石の御方の娘で紫の上が育てている明石の姫君も裳着(女子の成人式)ももうすぐなの。裳着をしたら春宮さまにお嫁入りする予定なので源氏もいろいろと準備に忙しいの。中でも姫君に持たせるお香の調合は誰にも見せないようにこっそりとしているんですって。
すると紫の上も隠れてお香の調合をしているので、どっちのお香のかおりがいいのか勝負しようなんて源氏が言い始めたりして、あいかわらず夫婦仲のいいおふたりなのね。
裳着までもうすぐという頃に源氏の弟の蛍兵部卿宮が六条院に遊びに来るの。そこに朝顔の君からの梅の枝が添えられた手紙が届くの。蛍兵部卿宮は「まだつきあってんの?」ってふたりの仲を疑うんだけど、源氏は明石の姫君にお香を贈ってくれただけだよって答えて手紙は隠しちゃったんですって。
趣味のよい香壺には梅の花や五葉の枝が添えてあってとっても優美なの。源氏も紅梅色の紙に返事を書いて庭の梅の枝に結ぶの。
「なんか意味深な手紙なんじゃないの?」
そんなに隠しちゃってさと蛍兵部卿宮がひやかすの。
「そっちが勝手に妄想してるだけだろ?」
源氏はそう言いながら朝顔の姫君あての手紙と歌を見せてあげるの。
朝顔の君のほかにもお香の調合をお願いしていたので、そのお香を全部集めて蛍兵部卿宮に判定してもらう遊びをすることにするの。
源氏の作った「侍従」、朝顔の君の「黒方」、紫の上の「梅花」、花散里の「荷葉」、明石の御方の「薫衣」……、どれもが素晴らしいので、これもいい、あれもいいと気の多い判定をする蛍兵部卿宮に「八方美人だね」と源氏も苦笑したの。
月が昇ってきて、飲み会になって楽器も演奏されるの。内大臣の次男の弁少将の謡う声が見事なんですって。内大臣の長男の柏木が和琴を、夕霧は横笛を受け持っての演奏は春の夜空に響き渡るの。和歌を詠み交わしたりして宴会は明け方まで続いたの。
―― 華やかな仮名草紙 ――
六条院に秋好中宮が里下がり(帰省)されてきたの。明石の姫君の裳着の腰結という後見人の大役を源氏が頼んだのね。
セレブが大勢集まって姫君の裳着をお祝いしているんだけれど、人目を気にして実の母親の明石の御方を参加させてあげられないことが源氏にとっては心苦しかったの。
春宮さまが元服を迎えられたの。貴族たちはみんな自分の娘をお妃にしたいって思うんだけど、源氏の娘の明石の姫君が入内するのでみんな怖気づいちゃうのね。
源氏は優れた女官がいない後宮は寂しいので、みんなもどんどん入内するようにって声掛けをして明石の姫君の入内の時期を後のばしにしたの。その間に左大臣の娘が入内して麗景殿女御となられたの。
源氏は明石の姫君のために後宮の桐壺の模様替えをして4月に入内することに決めたの。インテリアも厳選して、書籍なんかも選ぶの。仮名書きの上手な人といえば朧月夜と朝顔の君と紫の上だと言って彼女たちを褒めて、ほかにも優れた人にも書き物をお願いするの。でも一番見事だったのは源氏の書いたものらしかったんだけどね。
夕霧もお祝いにって葦手書き(文字を絵画風に描いたもの)を書いたんだけど、蛍兵部卿宮も感心するほどの素晴らしい出来だったみたいね。
―― 雲居の雁の近況、夕霧の心境 ――
そのころ内大臣は雲居の雁のことで悩んでいたの。雲居の雁はすっかり大人になり、美しく成長しているの。でも、結婚適齢期を過ぎているんだけど、誰とも結婚していないの。夕霧が泣きついてくるかと内大臣は思っていたんだけど、そんな風でもなくて、こちら側から娘をもらってくれと頼みに行くのもムカつくし、世間体も悪いと気にするの。こんなことなら付き合ってるって知ったあのときに結婚を許しておけばよかったのかも、なんて今さら後悔してるのよね。
そんな内大臣の様子を夕霧も知っているんだけど、夕霧にしてみればあのとき無理矢理引き離されたことは今でも悔しいから自分からは内大臣にお願いに行こうとはしないの。かといって他に恋人を作ろうともしていないんだけれどね。
雲居の雁とのことは彼女の乳母に低い身分だとバカにされたので、きちんと出世してから彼女を迎えに行くと自分に誓っていたのね。
―― 源氏の恋愛講座? ――
いつまでたっても進展しない夕霧と雲居の雁だから源氏も心配しはじめて、他の人との結婚を勧めたりもするんだけど、夕霧はそれにも応じないのね。
わけもなく独身でいるのもよくないし、運命の恋かどうかは知らないけれどあまり固執しすぎるとつまらない結婚をすることになるかもよ、と源氏は夕霧にお説教を始めるの。
長く独身でいるのも誤解を生みやすいし、高望みしすぎても思い通りにはいかないし、かといって浮気心でマチガイを起こさないようにね。俺なんて不自由な宮中で育ったから少しの過ちでも周りに非難されてプレイボーイ扱いされちゃったからね、なんて話すのよね。
身分が低いからといって奔放なことはするなよ、女性関係をたしなめてくれる妻がいなくて、オンナで失敗する賢い人は歴史上にも大勢いるからね。恋してはいけない人を好きになったりすると、相手も自分も一生の心の負担になるからね。
不運な結婚をしたとしても、耐えて人道的に人を愛するように努めるとか、相手の両親を大切にすれば、将来大きな幸福を得ることになるよ。
そんな風に夕霧に対して恋愛について諭したみたいね。
―― 夕霧と雲居の雁 ――
源氏のそんなアドバイスを聞いてもなお夕霧は初恋の人を忘れて他の女の子とつきあおうなんて思わないの。
雲居の雁も父親の内大臣の悩みの種であることが申し訳なく思うんだけど、表面上は平静を装っているの。
夕霧は時々情熱的な手紙を雲居の雁に出しているの。そんなアツい内容もウソかもしれないけれど、やっぱりあなた以外には誰もいないし……と雲居の雁の想いも切ないのよね。
そこへどこそこのだれそれが源氏の許しをもらって夕霧との結婚話を進めているなんてウワサまで出回るから、内大臣も焦って雲居の雁に愚痴っちゃうの。
「彼(夕霧)が(ほかの人)と結婚するなんてヒドイ。こっちが頑固だから源氏もそっちの話を勧めたんだろう。なんともこっちは世間体がよくないな」
雲居の雁もショックで涙を流すの。そんな娘の様子に内大臣は「やっぱりこっちから折れてやるしかないのか?」と悩み始めるの。そんなところに夕霧からの手紙が届くの。
~ つれなさは 憂き世の常に なり行くを 忘れぬ人や 人にことなる ~
(時が経てばみんな忘れちゃうって言うけれど、キミを忘れられない僕が変わってるのかな)
夕霧から届く文にも結婚のことはなにも書いてないから雲居の雁は雲居の雁でとっても不安になっちゃったみたいね。
~ 限りとて 忘れがたきを 忘るるも こや世になびく 心なるらむ ~
(アナタを忘れられないでいる私のことなんか忘れて、他の人と結婚しようとしているアナタが一般的なんでしょうね)
こんな返事が来たんだけど、雲居の雁がまさか自分の縁談のウワサに気を悪くしているなんて知るワケもないので、夕霧はわけがわからなくなっちゃったみたいね。
◇引き離されてからもう何年も経つ夕霧と雲居の雁ですが、うまくいっていないようですね。お互い想い合っているのに逢えないもどかしさや周囲から入ってくるウワサですれ違ってしまいそうです。
そんな息子の夕霧に源氏は恋愛について語ります。なにやら自分のことを棚に上げているような、もしくは自分のようにしろとでも言いたいようなご講義ですね。
真面目で一途な夕霧はそのままでいいと思うのですけれどね。
~ つれなさは 憂き世の常に なり行くを 忘れぬ人や 人にことなる ~
夕霧が雲居の雁に贈った歌
~ 限りとて 忘れがたきを 忘るるも こや世になびく 心なるらむ ~
雲居の雁が夕霧に贈った歌
第三二帖 梅枝
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