第7話 ローズの元へ
「しかし国王はしぶといな。イチコロリの根から絞り出した毒液がなかなか効かないなんて」
「それもこれもあの王太子妃が毎日看病してやがるせいでしょ。もっと王太子をけしかけてあの魔女を国から追い出してよ」
「やってるさ。分かるだろう? それより子どもは順調か?」
「ええ。スクスクと」
「本当に王太子の子じゃないんだろうな?」
「あったりまえでしょ? あの人未だに抱き締めてキスするだけで子どもが出来ると思ってるんだから。正真正銘あなたの子」
「ふっふっふ。思えば憐れなものだ王太子。自分の子と思っているのはオレの子。そしてオレたちを未だに兄妹と信じて疑わない」
「ふふ。国王の次は王太子。それが亡くなれば跡継ぎはこのお腹にいる子。誰にも文句を言われずに私達の国になる」
「ふふふ。さぁ寝所でいつもの遊びをしよう」
「ええ。王太子が来ないうちに終わらせちゃいましょ」
二人の足音が奥に進んでいくのが聞こえた。
王太子は気絶してしまいそう。思いがけずに国家転覆の計略を聞いてしまったのだから。それも信じきっていた二人から。自分が騙されたことを知り嫌な汗が流れ出し動きが完全に停止していた。
「王太子殿下。王太子殿下。これ! しっかりなさいませ!」
レダの声にようやく正気を取り戻したが未だに目の焦点があわない。とても気分が悪い。だが侍女二人は声をかけ続ける。
「王太子! 今謀反人がこの宮殿であなたの目を盗んで逢い引きしているのですよ。その証拠を抑えて捕縛せずにどうするのです!」
王太子もハッとして立ち上がった。しかしそれをソフィアが止める。
「王太子殿下。歩いて行っては見張りに気付かれるやもしれません。魔法で行きましょう」
「魔法?」
ローズは手を広げて侍女二人を改めて紹介する。
「殿下。私は魔法はからきしですが、こちらに嫁ぐ際に両親が国一番の大賢者を二人侍女として付けてくださったのです。それがこのソフィアとレダなのです」
「ええ?」
レダは扉を少し開けて回廊を警護している兵士を二人呼び、部屋の中に入れた。ソフィアは全員に手を繋がせる。すると手を繋いだ王太子とローズの顔が赤くなるが、今はそれどころじゃないとソフィアが咎め、魔法の言葉を唱える。
「さぁ行きますよ。ソフィアの瞬間移動魔法! 第二夫人のお部屋へぱぴゅーん!」
その言葉が終わると、王太子、ローズ、ソフィア、レダ、兵士二人はシンディの部屋にいた。奥の寝所から聞きたくない声が聞こえてくる。王太子が怒りにまかせてそこへ駆けて行くと、果たしてエリックとシンディは睦み合ってる最中だった。
「ぬ、ぬ、ぬ、ぬ、この謀反人どもめ!」
と言う王太子の声を驚いた二人。完全に固まってしまう。王太子は兵士を呼びよせた。
「二人をこのまま拘束せよ!」
二人はそのまま縄をかけられる。必死で言い訳しようとするが、現行犯。言い訳のしようがない。
「お腹には殿下の子がいるのですよ!」
とシンディが泣きながらいつもの演技で訴えたが、レダは冷たく言い放った。
「童貞でどうやって子を作れるの? あなたたちの悪事もここまでよ」
「く……っ!」
二人は直ちに連行されていった。
それを見ながら王太子はローズに質問する。
「なぁローズ。一つ聞いていいか?」
「なんです。英邁なる王太子殿下」
「ドーテーってなに?」
「……存じ上げません」
それから、謀反人の二人は国家転覆罪のために処刑……が妥当だったが、王太子の温情なのか、粗末な馬車とわずかな路銀を与えられて国外追放となった。お腹に子どもがいるし、一度は愛したものという理由であったがそれにはもちろん賛否あったし王太子の評判も下がった。
やがて満月の夜がやって来た。
王太子は正装し、胸にはたくさんの勲章をぶら下げてバラ園の王太子側の入り口に立っていた。
すると、王太子妃の部屋からまばゆい光とともにレダに手を引かれた女神のような女性が、赤いドレスを纏ってゆっくりと現れる。
王太子は心を奪われたようにゆっくりとそこに進んで行く。
バラ園の垣根は迷路のよう。
しかしローズのいる場所は美しさのあまり光輝いているのでどこにいるのか分かる。
「おお……」
王太子はローズの本来の姿に声をもらした。
その声に気付いてローズはドレスの裾を持ち、両手で広げて深々とお辞儀をした。
「英邁なるフレデリック王太子殿下」
しかし王太子はまだその女性がローズだとは分かっていない。
「キミはなぜここにいるの? そしてなぜ私の妻の部屋から出て来たのだろう。キミはローズの侍女なのかい? それとも天から来たのかな?」
ローズはその言葉の意味が分からずキョトンとしている。
「キミはとても美しい。だから妻がいるにも拘わらずこうして会いに来てしまった。……しかしもう美しいのはこりごりだ。妻にするにはローズのように魂まで許せるものでないと……」
そう言うと、ローズは泣き出してそこに膝をついてしまった。
「ああ。どうか泣かないでおくれ。キミを泣かせたのは私の不明だ。許しておくれ」
「いえ、嬉しゅうございます」
そう言って顔を上げるローズの瞳を見て驚いた。
「まさか……っ! キミはローズなのかい?」
「ええ……。王太子殿下」
この後二人は結ばれ、ローズの美しさは永遠のものとなった。
それから王太子は自身の信頼を回復するために美しき王太子妃ローズと仲睦まじく各地を慰問し多少の時間がかかったが元の威信を取り戻すことが出来た。
またローズと王太子の献身的な看病もあって国王の病状は快復に向かい、もうすぐ床上げとなるようである。
やがて月日は流れ仲睦まじき二人の間に男児が3人。女児が3人産まれた。王太子は終生側室を取らずローズだけを愛した。
二人はたくさんの子に囲まれ、良く国を治め、幸せに暮らしたのであった。
【おしまい】




