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王太子さまの愛する人は  作者: 家紋 武範
小さな恋の物語
32/34

第32話 別れ

小さいながらも愛し合う王子と王女の二人であったが、時は残酷に二人を別れさせることになる。

王女は留学期間が満了し、自国へと帰ることになったのだ。

二人の別れ。次に会うときは結婚式である。それは11年後だ。王子が17歳、王女が14歳となってから再会するという国家間の約束なのだ。

二人は別れを惜しんだ。王女は泣き、王子は泣いては恰好が悪いと、下唇をグッと噛んで言葉を発さずに王女の泣き声を聞いていた。

王女を乗せる馬車がやってくる。中には魔道大臣の二人。

ようやく役目を終える二人は晴れ晴れとした顔をしていたが王女だけは別でいつまでも馬車に乗ろうとはしなかった。


「姫様。名残惜しくはございますが、他の方たちにはこれから仕事がございます。どうかご自分の悲しい気持ちに負けて、他人に迷惑をかけませぬよう」

「そ、そうね」


魔道大臣の二人にたしなめられ、王女はようやく馬車へと乗り込む。

王子はそこへ駆け寄って、王女へと叫んだ。


「クローディア。キミの名前はボクの母上と同じだ。毎日キミの名前を呼んでキミを思うよ。だから早く嫁いで来ておくれ。11年後なんてことを言わずに」

「ええ。殿下。ありがとうございます。わたしのこと、忘れないで……。これを、ローズを私だと思って」


王女の手から渡される、ローズの人形。王子はそれを震える手で受け取る。


「忘れない! 忘れるもんか! クローディア。キミのことを」


泣いているが顔は笑顔になって手を振るクローディア王女。

馬車のドアが閉まって走り出す。

王子はその馬車が消えるまでずっと立ち尽くして見ていた。

そして馬車が見えなくなってしまうと、見張り塔へと走って、馬車の影を追った。

その日は大変な晴天で、馬車の走る姿は、かなり遠くまで見ることが出来た。

王子はそれを完全に見えなくなるまでずっと見ていたのだ。

そして馬車が見えなくなる。ふと顔を上げると、遥か遠くに白く切り立った山が見える。


「エシエント山か……。クローディアはあの山の下へいったのだな。どうか元気でいてくれ。次に会えるときを楽しみにしているよ」


王子がポケットからハンカチを取り出し、涙を拭いて振り返るまで、警護騎士のラディとエセルは後ろ手を組んで直立不動で待っていた。王子が二人を労う。こうして、王女は宮殿を去った。

二人にとって長い長い一日だった。



それから6年。

王子はますます王太子として国民から支持を厚くした。

遊びになど目をくれずに、文武両道の勉強にひたむきになった。

政治、経済、外交、軍事の場にも王の隣りに侍り、そのノウハウを吸収した。


その6年の間に、王子の周りにも変化があった。

警護騎士として長年、王子を警護していたラディとエセルは結婚をし職を辞した。

その代わり、11人の年若き近衛兵が王子の近くに寄り添い、外出にはそれに付き添った。

これぞ後に「ハニアンナ十獅子」と言われる王子の側近である。

あのハニアンナ地方の孤児たちが王子を慕って仕官し、若くして近衛兵となったのだ。


実は近衛兵となるには身分がある。

そして容姿も端麗でなくてはいけない。

だが、王子は是非にもと父である王にすがって自分の身近に置いた。

このことでますますハニアンナの孤児たちは命をかけて王子を守ろうと誓ったのだ。

王子は自分の子弟だと、寝食をともにするよう命じたが、彼らは一歩引いてそれをしなかった。


なぜ11人いた近衛兵が後に「十獅子」と呼ばれるようになったか。

勇敢な10人の男子の中に、紅一点のレイラで11人。

一人が女性だったからではない。十人の中に入れなかったものがいる。

それはエリックという男であった。


最初はエリックとて王子に尊敬と感謝の念しかなかった。

だが生来の悪心があってであろう、後に国家転覆を謀るようになってしまうのだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 獅子身中の虫ですか… 他の仲間がショックだったろうな…
[一言] ここで6年の間の物語が語られる・・・のでしょうか?
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