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王太子さまの愛する人は  作者: 家紋 武範
小さな恋の物語
23/34

第23話 宰相が来る

一方、タイライノは王子の動きを察した。非力といえども王位継承順位1位の王子が被災地に向かったという報告に、たとえ力が無くとも勝手に動かれては困る。

王子を担ぎ上げる者が少数でもいるのは危ないと感じたのだ。

兵士を指揮する父で宰相のワルドラスに近づいた。


「父上。王子殿下が我々とは別の被災地に向かったそうです」

「そうか。殿下も思うところがあるのであろう」


タイライノは呆れたというゼスチャーをして声を荒げた。


「父上ェ。なにを甘いことを言ってらしてるんです? 王子に勝手に動かれては困るとは思いませんか? この地で指揮するものが二人いるのですよ。父上と王子が。龍に二首あれば互いに噛み合うでしょう。空に太陽が二つあれば地上は燃えてしまうでしょう」

「そ、それはそうだが」


「この地の兵は私に任せて、父上は千兵をつれて王子を捕らえてきてはくださいませんか?」

「と、捕らえる?」


「いえいえ。これは語弊がありました。ここへ連れて来て頂き、大人しくして頂くのです。まだ子どもが被災地に向かうなど狂気の沙汰でしょう」

「な、なるほど。それもそうだな……」


「では兵権を」


タイライノはタックア王国の兵を動かす、国王だけが持つ指揮棒を渡すように片手を出した。宰相ワルドラスはなんの疑いもせず、それを渡す。そして将校を二人呼んで騎馬兵千人をついてくるよう指示した。


やがて兵士が集まると、ワルドラスは自ら兵士を連れて王子のいる地方へと向かっていった。騎馬兵の動きは早い。半日もしないで王子たちのいる場所へと到着した。



一方、王子と王女は被災度の高い地域にいた。山が崩れ、沢が破れ、そこに集落があったなどとは分からないほどだ。


「これはひどい……」

「なんてことなの……」


二人には国民の絶望が分かるほどの悲惨さが目の前に広がっていた。肩を落とした集団がいる。誰を恨めばいいのか分からない者たちが。

そして親を失った子どもたちもいる。何が起こったのか分からない。食糧もない。流す涙もなくなってしまった者たちだった。

長老はそんな者たちを指差して励ましてくれるよう懇願した。

王子は余りの悲惨さに頭を垂らして涙を流したが、頭を上げて少しだけ小高い場所に駆け上った。


「皆のもの!」


眼下には王女と警護騎士と長老。

王子を心服する前の地方の者たち。そして、この地方のくたびれた国民。それが一斉に王子の言動がなんであるかを聞こうとした。

なぐさめか? はげましか? それで腹が膨れるものではない。心服する国民とは別に、くたびれた国民たちは王子の演説に反論する準備をしていたが、まったく別のものだった。


「あそこの山に見えるのは、我が王家の別荘だ。この地の湖で遊ぶための城である。見る限りあの城は無事なようだ。あれをこの地のものに与えよう! ねぐらとして活用していい。部屋も多いし、兵士が駐屯できる空き家もたくさんある。そこで寝食せよ。そして昼間はここに来て自ら復興するのだ。自分たちの手で家を作り直せ。田畑を作り直すのだ。物資の心配はするな。王都に帰り次第、宰相と相談しすぐに送ることにしよう」


その城は山の中腹にあり、かなりの大きさである。

この小さな王子がいう言葉に、被災者たちは歓喜の声を上げた。

クローディア王女も王子の元へ行きたがったので、王子は上から手を差し伸べて引いてやった。

王女も王子へ続く。


「ご両親を亡くされた子どもたちもいるでしょう。実は王子殿下のご両親である国王陛下もこの災害で行方知れずなのです。でも王子はこの通り、国民のためを思って立ち上がったのです。皆さんも立ち上がって! 親を亡くした子どもたちは王子や私を頼って下さい。王子を父と思って。私を母と思って」

「うむ。クローディアの言う通りである」


それは子どもながらの同情からの言葉だったのであろう。

しかし親を失った子どもたちはその言葉に勇気づけられて二人の足下に集まって来た。


「殿下……」


王子と王女は声の方向を向く。そこには馬に乗ったままの宰相がいた。見事な演説に自分自身の心も動かされそうだ。だが息子のタイライノが言ったように指揮が二つに分かれてはいけない。王子と王女の言うことは感動はするがめちゃくちゃだ。心を鬼にして政治はまかせてくれと言わなくてはいけない。


言わなくてはいけない──。


宰相ワルドラスが言葉を腹の底から押し出そうとした時だった。


「……王子さま万歳」


それは小さな小さな子どもの声。

ボロボロの服を着て、父も母もなんの財産も持たない子どもからの声だ。


「ボクのなくなったおうち。でも王子さまがおうちをくれる。王子さま万歳!」


それはあっという間に伝播する。宰相が率いて来た騎馬隊からも。


「フレデリック王子に大いなる栄光あれ! 王子殿下万歳!」


わぁあ! わぁあ! という熱狂。

ついに宰相ワルドラスは馬から下りて跪いた。


「殿下万歳。万歳。万万歳!」


王子は小高い場所から駆け下りて、平伏する宰相へと駆け寄った。


「ワルドラス。よく来てくれた。私の浅い政治力ではここまでだ。どうか君の手腕に期待したい。よく兵士を連れて来てくれたな。土木工事が大変そうだ。すぐに兵士に命じて始めて欲しいのだ」

「もったいのうございます。殿下。実は私は……。私は──」


「いやワルドラス。私も責任がありながらこもりっぱなしで任せきりだった。すまなかったな」


王子の言葉が全員に熱狂を呼ぶ。

涙を流す宰相。王子への万歳。それにつられて集まる人々。

そのとき、王子の腹が鳴る。忙しさで腹が減るのも忘れていたようだ。

王子に集まる子どもたちから笑い声がもれた。

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― 新着の感想 ―
[一言] さて…後はバカ息子か… 余計な事をしてなきゃいいが… まぁしてるよね(笑)
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