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王太子さまの愛する人は  作者: 家紋 武範
小さな恋の物語
19/34

第19話 王子、起つ

そんなことは知らないフレデリック王子。部屋にはカギをかけて丸一日ふさぎ込んだ。

警護騎士の二人もモロスも扉の前で立ち往生。呼んでも答えが返ってこない。

しかし刻一刻と宮廷内はワルドラス国王論が飛び交い、王子の味方をするものは侍従長のモロスと僅かなものしかいなくなっていた。


モロスは現在の状況を紙にしたため、ドアの隙間から入れこんだが引き抜かれた形跡はあるものの返事はなかった。


王子は部屋を暗くして、両親のことを考えていた。

国のために尽くす仕事熱心な父である国王。

自分のことを考えて病気を治そうとしている母である王妃──。


もう会えないかもしれない。


──会えないかもしれないのだ。



「……誰もボクの気持ちなんて分かるわけない。こんなときに王座を狙おうとするワルドラスも、モロスだって」


小さな小さな子どもだ。

両親を思う気持ちに胸が潰されそうだ。

そんな大人たちの振る舞いに、もうどうでもよくなってしまったのだ。

大きな部屋にたった一人でベッドに顔を埋めていた。


その時、激しく扉が叩かれる音。

何事かとベッドから首を起こすと外ではモロスが無礼であると叫んでいる声が聞こえる。

しかし、扉を叩くものは遠慮なく声を張り上げた。


「王子。フレデリック王子。私はタイライノ公爵です。実は災害救助のために人手が足りず、兵士を動かす権利を与えて欲しいのです」


兵権。それは国王の権利である。

宰相であろうともそれを許可無く動かすことはできない。

タイライノは、現時点で国王代理である王子に対してそれを譲れと言っているのだ。


これは少し考えればわかる。

権利を奪い、国王とはさせないのだ。緊急の際に兵を動かせない。

つまり謀反が起きても何も出きない。


王子は災害救助と言われれば、何も出来ない自分よりも宰相に権利を与えた方がよいと思った。

そしてなによりも煩わしかったのだ。


「……よきにはからえ」


ドアの前に立ち、小さな声でつぶやいたのをタイライノは聞き逃さず、そこに立つモロスにニヤリと笑いかけた。


「御意にございます。殿下」


タイライノの靴音が去って行く。

フレデリック王子はどうでもよく、ベッドに戻るとバタリと倒れ込んだ。


それから夜が来て王子はそのまま寝てしまっていた。時刻は朝の7時ほど。

王子の部屋にカチカチという音が聞こえた。

それはバルコニーのある窓からだった。

王子は起き上がって、その窓まで進むと、窓の下ではクローディア王女が庭園で拾った棒切れで窓を優しく叩いて存在を知らせていたのだ。


王子は少しだけ笑って王女へ微笑みかける。

王女の棒を持たないもう一つの手には小さな花束。王子は窓を開けた。


「クローディア──」

「殿下、ご病気なのですか? これはお見舞いです」


と手に持った花を突き出す。

王女とすれば急に部屋にこもった王子を病気だと思ったのであろう。

心配してモロスへそうしたようにお見舞いに来たのだ。


それを知って王子はうれしくなった。


──そしてハッとした。


自分は両親と会えないとふさぎ込んでしまったが、クローディアはどうだろう。

自分よりも小さいのに、一人異国へ来て両親と会えていない。

この国に嫁いで来てしまえば、ずっとずっと会えなくなってしまう。


たった数日両親と会えないからなんだというのだ。

まだ会える望みはあるではないか。

それには、被災した土地を救助し、先の地方がどうなっているのか確かめる必要がある。

王子は心の中にふつふつと燃えるものを感じた。


彼はそのままクローディア王女を部屋の中に入れ、二人で入り口の扉へ向かって錠を開けた。


「誰かある!」


そう叫ぶと夜中もそこで寝たのかもしれない。モロスと警護騎士の二人。それから数人の近衛兵だけだ。

あとはガランとしているが、王子の声に全員が跪いた。


「殿下の臣は全てここに揃っております」

「おお。まだ残ってくれているものがいたか。よいか。ワルドラスへ兵権は渡さぬ。私が災害救助の指揮を執るぞ」


そう言って、みんなを引き連れて1階にある宮廷に来てみるがそこにはすでに主なものは誰もいない。

文官が数名残っているだけだ。


「ワルドラスはどこだ」


と文官に尋ねると、これもすでにタイライノの息がかかっているもので、王子を邪見に扱い、どうでもいいといった感じで答えた。


「さぁ? 今頃は兵士たちをつれて災害救助に向かっているのでは?」


そう。すでに国権は発動された。

兵士を抱きかかえたワルドラスはタイライノと兵士らを連れて災害救助へ向かったのだ。

これで救助に成功すれば、名声は思いのままである。

父が国王の座についたとて、誰も文句はいわないだろうというタイライノの計算があった。



「殿下、どういたしましょう?」

「まて。そうだ!」


王子は駆け出す。みんなもその後を追う。

王子が向かったその先は、クローディア王女の部屋であった。

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― 新着の感想 ―
[一言] ほう。どうやってひっくり返すのかな?
[一言] 物語が本格的に動き出した感があります。 それも硬派に。
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