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王太子さまの愛する人は  作者: 家紋 武範
小さな恋の物語
18/34

第18話 大地震

大騒ぎになった王子と王女の捜索ではあったが、モロスの計らいで国王と王妃に知られずに済んだ。

あの騒ぎは宮殿内に珍しい鳥が入って来たので生け捕ろうとしたが逃してしまったということになったのだ。



さてクローディア王女がタックア王国へ語学留学してから早四ヶ月が経った頃。

フレデリック王子の母親であるクローディア王妃も少しばかり体調が良くなって来た。

国王も王子も喜び、国王は温泉地のあるフローニア地方の別荘にしばらく王妃の保養旅行に出かけようと持ちかけた。

王妃は喜んでその計画に賛成したが、王子は別だった。



「お断りになったんですか?」


それをモロスが聞いて驚いて尋ねる。


「ああ。父上も母上もたまには二人っきりになった方がいいと思ってな」

「はぁ……。殿下も王妃さまに甘えたいでしょうに」


「まぁ、そうなるとクローディアがひとりぼっちになってしまうし。それにモロスも寂しがるだろうからな」

「ま。私はしばらく宮殿が静かになるだろうと楽しみにしておりましたのに」


そう言いながらモロスは王子のようにイタズラっぽく微笑む。

王子もモロスが元気になったので嬉しくなって笑った。

王子とて父や母とともにいたい。まだ6歳だ。だがそうしてしまうと、もっと小さいクローディア王女はもっと悲しいだろうというのが強かった。


数日後、国王と王妃は身の回りの世話をする供を連れてフローニア別邸へと旅行へ出立した。

政治は国王の叔父である宰相が執る。王子にとっては気楽だ。身の回りの世話をするものはいるし、王女と気兼ねなく遊べる。

国王と王妃が宮殿から出て数日。その日も王女とともに、ままごとをしながら遊んでいた。


最初は──気付かなかった。


テーブルに置いてあったお茶の器がカタカタと音を立て始めた。その後で激しい地鳴り。

二人は何ごとだと思い、顔を見合わせるとモロスと警護騎士のラディとエセルが部屋に入って来て叫んだ。


「地震です! 大きいです! テーブルの下にお入りになって!」


その言葉を受けて二人は顔を青くしてテーブルの下に入り込むと、モロスは二人を抱えるようにしゃがみ込む。それを更に守るように警護騎士の二人が覆い被さった。


それは激しい地震だった。宮殿のある場所は被害はなかった。王子、王女はもちろん、モロスやラディ、エセル、その他のものも無事だった。

しかし見張り塔に立って見てみると、遠くハニアンナ地方からフローニア地方へかけて白い煙が上がっている。おそらく建物が倒壊して土埃が舞い上がっているのだ。


さすがの王子もフローニア別邸へ向かった父と母のことが心配で言葉を失ってモロスに抱きすがった。モロスもそんな王子を抱き返すことしか出来なかった。


やがて宮殿には続々と被害状況が報告されてきた。倒壊した建物は数えきれず。道も寸断されて連絡の取りようがなく、ハニアンナの奥にあるフローニアの方までは全く分からない状況であると伝えられた。

ハニアンナの状況はヒドい。フローニアだってただでは済むまいというのが学者たちの見解であった。


王子は焦燥して言葉数が少なくなり、部屋にこもってしまった。

しかし、そうしてはいられないというのがタックアの内部事情であった。


王子は国王の一粒種である。王位継承順位は第一位であるが、まだ王太子の指名は受けていない。それはまだ若年であるから。

功績も何もないのだ。もしもこの先、フレデリック王子が不適合であれば、第一位であっても他の王族から国王の指名が出来るという法律さえあるのだ。

そして今、国に災害が起こって、国王、王妃は行方知れず。

王子は政治が執れるほどまだ見識はない。

そうなると、一番王位に近いのは国王の叔父である宰相ワルドラスとなるのだ。


宰相はそれほど野心家ではない。老人だし国のためにという忠義な男だ。だがその息子のタイライノ公爵が問題だ。

国王の従兄であるこの男は相当の野心家であったのは周知の事実であったのだが、父である宰相を城下の宰相邸に住まわせ、自分は早々に公爵を継いでしまった。そんな宰相は息子に甘く、悪事を握り潰したり、知らない振りをしていた。


それをいいことにタイライノ公爵は領地に違法なほど私兵を多く抱え、国の専売である塩を密造し裏で捌いたりして私財をため込んでいた。


国王の不在。王子の幼年。

タイライノはとうとう自分の時代が到来したとほくそ笑んだ。

父である宰相が王位を継承し、すぐに自分へと王位を委譲して貰う。これでタックアは自分のものだ。


そうなるとタイライノの動きは速かった。宮廷の大臣たちに働きかけ、父である宰相ワルドラスの味方につくよう抱き込んだのだ。ワルドラスも最初は反対したものの、最終的には可愛い息子のいうことに賛同した。

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― 新着の感想 ―
[一言] 奸臣は何時の世にも何時の時代にもいるもんですなぁー。
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