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王太子さまの愛する人は  作者: 家紋 武範
小さな恋の物語
17/34

第17話 母と思う

モロスが侍従長の執務室へと運ばれて行く。

当の王子と王女は高貴な身分だ。他の係のものが二人が腹をすかせては大変と別室へと連れて来て、二人に朝食を提供した。しばらく王女の侍女のジカルマの話などを聞き談笑していたが、やがて王女の授業の時間となってもモロスが現れないので、王子は侍女へ尋ねた。


「モロスは何をやっている。そろそろクローディアの授業の時間ではないか」

「それが……」


「申せ」

「は、はい。侍従長さまは余りの緊張で動機息切れが激しく、床に着いてしまいました。本日は副侍従長さまが王女の授業は中止とおおせられましたので、お二人はこのままお遊びになりますようにと」


「ふーん。左様か」

「はい」


王子と王女はしばらく積み木を積んで遊んだ。王子の背の高さまで積んだところで、そこに人形のローズを乗せる。


「わぁ! ローズが私よりも大きくなったわ! ローズにもエシエント山が見えるかしら?」

「はっはっは。そうだなぁ」


ひとしきり笑ったところで二人だけ。

警護騎士は離れた別室の椅子に腰を下ろして休憩している。

王子はいつものモロスの甲高い声が聞こえないので寂しくなって来た。


「殿下?」

「なんだ?」


「行って来ましょうよ。侍従長の執務室に。そこにモロスは寝ているのでしょう? お見舞いをしに行きましょう」

「そうか。そうだな。クローディアのいう通りだな」


二人はバルコニーにある庭園に出て、摘みやすい花を何本か手に取ると、廊下へ出た。

そして並列して侍従長の執務室へと向かう。

王族の居住地とは違い、政治の場である一階は大騒ぎであった。そこへ王子と王女が現れたのでみな慌てて

平伏する。

そこに副侍従長であるブロウが進みでてこれも平伏した。


「殿下におきましてはいつもながらに変わらぬご尊顔を拝しまして……」

「よいよい。これ。モロスはどこにいる。フレデリックが会いたいと伝えよ」


「あのう……畏れながら殿下が行かれるような場所ではなく……」

「よいよい。相手はモロスだ。なんの問題もない」


「ははぁ。あの……さればどうか仕事上積み上げたる書籍など、目に余ることもございますが、どうかお目こぼしを下さいますよう……」

「分かった。モロスのところへ案内せよ」


こっそりと遊びで忍び込むこともある。廊下や部屋が乱雑だということは百も承知だ。

ブロウはおっかなびっくりといった感じで二人を執務室へ案内すると、大きなついたての後ろにあるベッドにモロスは横になり、ひたいには冷やした布を置いていた。

王子はひょいとそこに首を出す。


「これモロス。なにをそんなに大げさに寝転んでおる」

「で、殿下!」


モロスは慌てて飛び起きると床に平伏したが、そのまま崩れたようになってしまい、ブロウに抱えられてベッドに戻される。

モロスは驚いている王子へ息も絶え絶え訴えた。


「……おそれ多くも両殿下に無様な姿を見せてしまい、モロスはもう生きては行けませぬ。職を辞して領地に帰り余生を送りたく思います」

「バカな。何を言うか。まだまだ若い。そんな歳でもあるまい」


「いえ。モロスもすでに48。人生五十年ももう近いのでございます。殿下の破天荒ぶりは老臣にはいささか辛くなって来たのでございます」


涙を流すモロスへと王子は二人で摘んだ花を差し出した。


「これは……」

「見舞いだモロス。お前に田舎に引っ込まれたらボクはどうなる。母上はあの状態だ。ボクはお前を母の代わりと頼んでいるのだぞ。早く良くなれ。ボクとクローディアの結婚式を見たくはないのか? 子どもは見たくないのか? ボクたちに子どもが出来たらモロス。お前が子どもに名前をやってくれ」


フレデリック王子の言葉に思わず別な涙が流れるモロスは大きく鼻をすすった。


「……そうですわねぇ。職を辞すのは延期致します」

「はは。その意気だ」


モロスの床上げになったのはそれから三日かかったが、相変わらず王子を叱る元気な甲高い声が辺りへと響いたのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] やべー。俺も引退しなきゃ…(笑) もう48だww
[一言] >「いえ。モロスもすでに48。人生五十年ももう近いのでございます。殿下の破天荒ぶりは老臣にはいささか辛くなって来たのでございます」 そういう世界観なのですね。ああ、私も隠居したい。
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