魔法道具の商人
南側の探索を始めると北側とはうって変わって岩肌がところどころ出るような状態になっていた。
崖というほどの危険な場所ではないけれど、足場が悪いと言わざるを得ない。
だが、それゆえに所々に小さい空洞とかも見つかって、洞窟とかが見つかるかもしれないと思う。
「大きい洞窟でもあればそこに隠れてるって可能性があるんだけど……見つからないわね」
「まあ、山自体が高さはそれほどでなくとも、広大みたいだからな」
地図でみたときはあまり感じなかったけれど、南北と歩いてわかる山の大きさをあたしは実感していた。
商人の人たちはここを日夜往復していると考えたら、馬車を使わないような人の足腰は下手な冒険者より強くなっていそうに思える。
「ただ……動物の気配本当にないわね。サーベルウルフどころか草食動物すらいない。環境的にいそうなものなのに」
「別にまだ冬眠や暖かい場所へと移動する時期でもないからな。違和感になるのはわかる……しかし、ワタシはこの辺には詳しくないからなんとも」
「あたしも詳しくないのよ」
「そうなのか?」
「森に引きこもってたからね。街に行き始めたのだって結構最近って言っても過言ではないのよ」
「そうだったか。ワタシ達の種族のようだな」
「否定はしないわ……うん?」
ちょうどいい大きさの岩に腰掛けて休憩しながら話している時、あたしの視界に一瞬だが謎の影が見えた。
「ねえ、今なんかいなかった?」
「ワタシは気づかなかった……が、魔力の気配が動いているのは感じるな。距離はそこそこあるからすぐにどうこうではないが」
感知とかは感覚だけでやってるから、確信持ちにくいのよね。後でそういうことも経験値で覚えられないか調べてみよう。
「こっちから打って出るか。あっちがくるのを待つか。そもそもあっちが途中で別のところに行く可能性もあるしね」
「様子を見るのがいいと思うが」
「そうね。ちなみに近づいてきてるの?」
「遠くてわかりにくいが、真っ直ぐというよりは斜めにこっちに近づいている。方向的には道沿いに動いている雰囲気だ」
「本命ご登場であれば色々と楽なんだけどね。道に戻りましょう。もしかすると、魔力を持つ商品を運んでる商人の可能性だってあるし、それなら安全のために多少護衛したほうがいいかもしれないから」
「そうだな。しかし、その場合ワタシも一緒で大丈夫か?」
シグニアさんはそう確認してくる。そういえば、単純に商人と遭遇するってなったらシグニアさんの容姿はよくないか。
頭の耳はどうにか隠せたとしても尻尾がどうしようもない。
「北の木に隠れながら追ってくることってできそう?」
「シエーラさんの気配はもう覚えてるから問題ない」
「じゃあひとまずはそれで追ってきてくれると助かるわ。もしもの時はでてきて」
「了解した」
あたしたちは元の道に戻った後、予定通りにシグニアさんが木々に隠れつつあたしは道沿いに歩いて、近づいてくる主との接触を図る。
少し歩いていると、奥から見えてきたのは馬2匹が引く荷車に乗る商人だった。
「おや? こんにちは、1人旅ですかな?」
馬を操る柔らかい雰囲気の初老の男性はあたしを見つけると、一度馬車を止めて話しかけてきた。
「いえ、少し仕事でこの辺りを調査してまして。この辺りで魔物がでた話は?」
「あぁ、一応聞いておりますよ。ですが、少し特殊な魔法道具の取引をしてましてこのルートを使わざるを得ないものでして。一応、荷車の中に護衛を1人雇ってますので」
「そうでしたか。ひとまずこの山を抜けるまではあたしも護衛させてもらいます」
「それはありがたいです」
ひとまず魔力の主はこの馬車で間違いなさそうだ。残念ながら本命の登場とはいかなかったみたいだけど、さすがにこれを見逃す訳にはいかない。
あたしはゆっくりとした馬車の進みに合わせて歩き始めた。




