魔力の糸
店内の商品を眺めはじめて、一番最初に目についたのが箒だった。
何故か、棚に立てかけるように置いてあるけれど、見た目はどこにでも売っていそうな木製の両手で持つ大きさの箒だ。
「普通の箒よね……?」
「お気になるのですか?」
「まあね。魔法道具に詳しいわけじゃないから。あなたは詳しいの?」
約束通りついてくるルスマンに聞いてみる。
「多少の心得は宣伝するものとしてありますが。いかんせん魔法道具は見た目だけだと、一般的に普及しているものにも似ていることは多いですからね。これはその典型かと」
結局、どういう箒なのかはわからないってわけだ。
「マリッジさん、これはどういう道具なの?」
「それは風魔法が組み込まれていて空が飛べる箒よ」
「空が飛べるの」
「ただ、かなりバランス感覚とか魔力は使用者の物を使うから、魔力の高い種族とか人じゃないと使えなくてね。我ながら使いにくいもの作っちゃったわ」
そう言いながらマリッジさんは笑ってる。
空飛ぶ複雑な風魔法を同時に発動すると仮定したら、たしかに人が飛べるレベルだと魔力の消耗は激しそうね。
勝手に発動しても嫌なので、触ろうとした手は引っ込める。
その近くの棚には、謎の手袋が存在した。小さくて何かから手を守るには薄そうだ。
「それは、そこそこ有名なものですね」
「そうなの?」
「はい。糸がどこにもないにも関わらず動いている人形劇などを見たことはありませんか?」
「あんまりそっちの芸術は詳しくないけど。普通に魔法のゴーレムとか操霊の類じゃないの?」
「そういう方法もありますが。この手袋で細い魔力の糸を作り操るなどのことができるのですよ。まあ、人や動物を操るには細すぎて役に立ちませんがね」
「なんとなくわかったわ。悪用するには弱いから人形劇の人たちが愛用しているってことね」
ルスマンの解説を聞いているとマリッジさんがやってきた。
「宣伝さん。間違ってないけど、間違っているわ」
「おや、そうでしたか。わたくしなんかの知識だけで説明してしまって申し訳ない」
「お客さん。さっきのこの人の説明でほとんどあっているけど、少しだけアタシのは特別なの」
マリッジさんは手袋を自分の手につける。そして、そこからでてきた魔力の糸は編み物で使う毛糸ほどの太さで、目にしっかりと捉えることができた。
「アタシの作ったこれは、最大でこの太さまで作れる。流石にこれでも人は操れないけど、人形に武器を持たせて多少戦わせるくらいの耐久性はあるわよ。それともうひとつ」
そう言うと、更に手袋の横においてあったハサミを手にとって糸を切る。すると、魔力でできているはずの糸は白い糸に変化した。
「条件が整って、専用の道具で切ると糸になるの。まあ、これも魔力の消耗が激しいんだけどね」
「ちなみに条件っていうのはなんなのよ?」
「目に見える太さであることと、大体子供の腕を伸ばしたときの肩から指先くらいの長さ。それと、大気中にそこそこ濃度の高い魔力が存在していること。この店は、魔法道具置いてるから魔力濃度そこそこ高いからこうやってね」
「ちなみに、糸になったあとに外に出したら消えたりしちゃわないの?」
「生物の体内の魔力は、体外にでた時点で死んだ魔力になると表現されるわ。死んだ魔力は魔法を発生させた後に大気に溶けたりと色々するの。だけど糸としてカッチカチに固めた魔力は数秒だけど大気中で形を保つの。こっちの道具にはその魔力の死骸に大気中の魔力を吸い付かせるようにする技術があるの。ゴーレムとかもこれに似た技術で素材が作られているわ」
ゴーレムは確かに特殊な加工素材を作らないと、まともなものにはならない。
「まあそれで、大気中の魔力と混ざり合うとこの糸になる。ちなみに魔力石とかの多くは、魔力の死骸が環境によって固形化して、そこに更に魔力が集まったものと言われているわ。解明はされてないけれどね」
マリッジさんの知識量にあたしは驚いていた。
この人はただの魔法道具職人でなくて、凄い魔法使いだったりするのかもしれない。
「どう? 興味でてきた?」
「まあ、かなり深い世界ということは理解したわ」
「ふふっ。また気になることがあったら聞いてちょうだいね。それとあなたは不確かな知識で話さない!」
「申し訳ありませんね。これからは気をつけさせていただきます」
その後も店内を回ってみたけど、予想もつかなかったりあたしには縁のなさそうなものばかりだった。
ただ、あの手袋には少しだけ興味が湧いている。人形が操れるようになるというのは楽しそう。




