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VSご両親!(前編)

長文につき分割。


「君が、央川櫻か」

「あ、はい。……えと、宜しくお願いします」

 目の前の人物に対して深くお辞儀をする。

「……」

 お願いだから何か言って下さい、去夜君のお父さん。

 これじゃまるで、就職試験の面接みたいだよ!


 放課後、来賓室に来いと校内放送で突然呼び出しがあった。

 そんな場所にお呼びがかかる理由が分からず、

『厄介事じゃ無いと良いんだけど。早く帰れると良いなあ』

などと考えながら部屋に行くと、そこには白樹製薬グループ本社社長秘書だと言う、目つきの鋭い壮年の男性が待っていた。

 すなわち、去夜君のお父様がお呼びです、と。


 あれ?でも、去夜君のお父さんの専属秘書って、お義母さんじゃなかったの?



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 去夜君と付き合い始めてからそんなに経たない頃、突然去夜君の家にお義母さんが訪ねて来た事があった。

 いつもの様に2人で学校から去夜君の家に帰って来た私も、当然一緒にご対面する破目になった訳で。



 その第一印象は凄くきりっとしてる人って感じで、正直この人が愛人家業なんてしてたなんて、ちょっと想像出来ないくらい。

 何があったのか突っ込みたくもあるけど、まあ他人(よそ)様の家の事情だしね。

 ……うっかり口に出さない様にしないと。


 お互い軽く挨拶した所で、お茶を淹れるから、とぴーすけを連れてその場を離れた。

 去夜君が少し挙動不審になったけど、来客にお茶淹れるくらい普通でしょ?

 ……あー、“私が”やるのは少し図々しかったかもしれないけど。

 ……ま、いいや。(ざぶ~ん)


「……何しに来たんだよ」

「少し様子を見に来ただけよ」

 しばらくして渋々話し出したらしい去夜君とお義母さんの言葉のキャッチボールは、側から聞いていても相当ぎすぎすしている様で。

 ……ぎすぎす、というか、白樹君が一方的に毛嫌いしている様にも聞こえるんだよなあ。

 泥沼(?)の再婚劇繰り広げた人だと、私が思えないせいだろうか?


「彼女が央川商事さんのお嬢さん?」

「調べたのかよ!?」

 間髪入れずに去夜君がソファーから立ち上がる。わあ、沸点低~い。

 挑発?…にしては相手の表情や声に目立った変化が無いな、と様子を見ながらお義母さんの持って来たケーキを2人の前に置いた。

 セレクトが完全に贈答用だよこれ。むっちゃ他人行儀って事?

 うーみゅ、どう判断して良いのやら。


「はいはい、それ位するでしょ?君んとこも空条に負けず劣らずでかいんだから。…父をご存知ですか?」

「直接は無いけれど。……それで…、二人は付き合っている、という事で良いのかしら?」

「何だよ今さら、あんたには関係」

 はいはい、だから暴言は控えようねー、少年。

 完全に臨界点突破してる去夜君に被せる様にして、私の方から説明を入れた。

「はい、お付き合いさせて頂いています。白樹君には、いつも良く(・・・・・)して貰っています」


 深読みをしようと思えばいくらでも出来る表現。

 誤解を招く事を承知であえて断言してみた。にっこりスマイル(似非)も添えて。

「…そう」

 でも返って来た返事は、そんなそっけないものだったけど。

「……っ」

 むしろ隣の去夜君の方がぴりぴりしている程だ。


「じゃあ、質問を変えるけど、貴方達一体何処まで…」

 その言葉に、反射で食ってかかってったのは去夜君。

「何なんだよさっきから!!そんなのあんたに!」

「ハイハイストップ。お義母様相手に怒鳴らない」

 立ち上がった白樹の裾をぐいっとつかんで座らせる。

 嫌いなんだろうという事は知っていたけど、だからって目の前で怒鳴るのを、わざわざそのまま見ていたいとは思わない。

 せめて冷静に、とは行かなくても、ちゃんと話し合いになる位には落ち着いて欲しいって言うか。

 ついでに言わせてもらえば、怒鳴り声聞いてるこっちもストレスだよ?


「っ、何でだよ!何で止めるんだよ!」

 おー、こっち向かって来たし。

 本気じゃ無いのは分かってる。単にヒートアップしたのが収まらないだけ。

 ゲームじゃそこまでカッとなる性格だという表現は無かった様にも思うけど、現実(こっち)の去夜君にはよくある事、なのかもしれない。…そんな気がする昨今。

 素の去夜君にも段々慣れて来て、今回の“コレ”も、そんな感じのだって分かっていたから冷静に対処できた。

 それでも、幾分説教っぽくなったのは仕方が無い。


「あのね、仮にもお義母さんなんだよ?で、二人きりならともかく、私もいるんだよ?なのにその態度は無いんじゃないかな?」

 人差し指を上にあげてにっこり指摘。

 でも返ってむかっと来ちゃったみたい。


「…っ!……ていうかさ、こっちの事情知っててそういう事言う訳?」

 ぶすっとした表情で睨んで来る去夜君。

 気持ちは理解出来なくも無いけどさ。

 君が君の事情と感情で押し通そうとするなら、こっちは“私”の事情を押し通すまで。

 笑みを消し、真っ直ぐ見つめて言う。


「言うよ。君の事情は確かに知ってる。でも、お義母さんの事は今まで会った事無くてどんな方だったか知らなかった。今もちょっとお話しさせて頂いただけ。ね、“私が”嫌う理由は今の所無いんだよ」

「何だよそれ!?」

 あー、キレッキレやね。

 完全にキレた去夜君に、素敵な“プレゼント”をあげよう。


「それにね、白樹君がそうやって子供っぽく怒ったとこ見るよりもさ、私がここにいるって事忘れないでいてくれたら、やっぱすっごく嬉しいし、大人な対応取れる去夜君見れたら、きっとカッコ良くて素敵だ、って見直すと思うな。惚れ直しちゃうかも」

 にーっこり。

 ちょーっと、リップサービスしすぎかな~と思ったけど、まあ普段言わないしね。こういう時くらいは。

 あれ?むしろこういう時ばっかだから、いまだに信用無いのか?


「…………」

「……」

 そして場が静まり返ったよ?何故だ。


 で、まあ、程なくお義母さんはお帰りになった。

 去夜君はもそもそ話すだけだったけど、私は特にそれ以降、口突っ込んで無い。

 むしろ去夜君放置して先に帰ろうかと思ったくらい。

 時折ちらちらと去夜君がこっちを見て来たけど、オールスルーで。

 だって、これはそもそも白樹家の問題で、家族でも何でも無いただの(下手すりゃ一過性って事もある)彼女に過ぎない私が、感情の赴くままに突っ込んでいい問題じゃない。

 これが友美ならまあ、勇んで首突っ込むだろうけど。


 最初と最後でお義母さんの、私に対する視線の強さが違う様に感じたのは、やっぱり気のせいだったのかな?



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 で、冒頭に戻る訳だが。


「……」

 本社ビルの最上階に程近い社長室で、お父さんと対面しながら私が抱いた感想は…、

「(碇ゲ○ドウ)」

 大きな社長デスクに両肘付いて口元隠しているその姿は、とある有名な父親像を思い出させるには十分で。

「去夜と別れろ、そうでないならば帰れ」とか言われそう。

 いや、言われたところでどうしろとって話だけど。


「つきあっているのか」

「はい、お付き合いさせていただいています」

 うお!?変な想像してたらいきなり声掛けられたから、一瞬返事が遅れそうになったよ!

「別れるつもりはないのか」

「今のところその予定はありませんし、私個人としても別れたくないと思っています」

 やっぱ面接かこれ。

 唯一違うのは、普通なら「考えています」と答えるべきところを、「思っています」と意図的に変えている所か。

 それにしても、さっきから質問ばかりで何が言いたいのか分からないな。

 別れて欲しいならそう言えば良いのに。

 いや粘るけど。そうそう簡単に引き下がってなんかやらないけど。


「親父!!」

 ばん!と大きな音を立てて部屋の扉が開かれると同時に、去夜君が飛び込んで来た。

 そのままつかつかと部屋を横切って父親のデスクにばんっ、と両手をついた。

「何やってんだよこのクソ親」

 言いかけて止めたのは、思い出した様に振り返って私と視線が合ったからか。

 以前のアレはまだ有効みたいだな。

「見て分からんのか」

「分かるかよ!いきなりひとの女呼びつけて、あんた一体何がしたいんだよ!!」

 あ、戻った。つか「女」って…。そう言う言い方は好きじゃ無いなー。

 思わず顔を顰めた。

 

 一応止めた方が良いのかどうなのか。

 これも親子喧嘩の範疇だと思うと、うかつに口を挟めない。挟んで余計な事に巻き込まれても困るし。

 迷っていたら、いつの間にか隣にお義母さんが立ってた。

「まったく、しょうの無い人。いきなり彼女の方を呼びつけるとか何考えてるのかしら。ああなったらしばらくは止まらないから、貴女はこっちいらっしゃい。落ち着いたら去夜君に送らせるから、それまで私と話さない?」


 まさかのティータイムのお誘いでした。





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