彼氏と一緒にお弁当!
今日はとても良い天気だったので、お弁当はいつもの屋上で食べる事にした。
「でも、珍しいね、白樹君がカフェテリアじゃ無いって」
私の隣で購買で買ったクラブサンドを頬張る白樹君、…もとい去夜君に友美が首を傾げた。
確かに珍しいかも。
朝夜はちゃんと自炊だけど、お家からお昼代が出ているという去夜君は基本的に昼食はカフェテリア派だ。
「そう?…まあ、たまにはね」
ちらりとこっちを見てそう返す。
ん?何もないよね?
それとも、また何かやらかしたかなあ?
カレシとお付き合いなんて初めてだから、いまだにどうして良いのか分らない時がある。
向こうも慮ってくれてるのか、多分結構色々言ってはくれてると思うんだけど、何せ『自分』なので、うっかりヘマしてお付き合い解消とかおっとろしくてぴくぷるしてますよ。
そう、誰が信用出来ないって自分が一番なんだよ。なにせコミュ障(改)だからさ。
め、目指せお付き合い1ヶ月…は、し…じゃない、去夜君的に無いと言うか、それ本人に言ったら絶対怒られる。だから、せめて1年は頑張りたい。
こう見えても何も耳年増だから、色々情報だけはあるんだけど、その分不安も大きい。
猫被り過ぎてもその内立ち行かなくなって駄目、だからって本音ばっかりだとドン引き、だとか。
一応、お付き合い上のマナーとか男女の性格の違いとか、本とかサイト見て参考にする様にはしてる。
鵜呑みにはしてないけど。
んで、今の意味深なアイコンタクトは何だ?
「どうせ少しの間だけでもカノジョと離れたくない~、とか、そんな理由でしょ。気にしなくて良いよ、友美ちゃん」
そう言ったのは、私達より先に来ていた東雲君。
良い天気だから、何て、皆考える事は一緒か。
あ、当然空条先輩もお呼びしています。
むしろここまで来たらもう一緒だろ、と3先輩お呼びする事になったし。
う、でも本当にそうだったらちょっと嬉しいかも。
新学期のクラス替えで、私と去夜君、友美は見事にバラけてしまった。
逆に今度は東雲君が友美と一緒だ。
しののんには私と空条先輩からの「手を出すな、きっちり守れ」の厳命が下っている。
やっぱ奇跡って言うのは、そうそう起きないから奇跡というのであって(以下略)。
いつも教室で一緒だったのがそうじゃ無くなるって言うのも何か変な感じだけど、その分朝夕の教室までの送り迎えとか、そう言った部分で新鮮と言うか付き合ってるって実感があったりもして、これはこれで悪くないと思う。
四六時中べたべたとバカップルするよりよっぽど健全だよね?
切り替えがはっきりしてるから勉強にも集中できるし。
そう思いながらお弁当を突いていたら、隣から若干トゲのある声が聞こえてきた。
「東雲、ヒガミ?」
「やだなあ、爆発しちゃえばすっきり☆なんて考えてないよ」
表面上はにこやかに言う去夜君に、しれっと言いながらお弁当(東雲家お母様謹製)のおかずを口に運ぶ東雲君。
口調と発言内容に差がある気がするんだが。
……最近たまーにだけどこういう雰囲気の時あるんだよねー…。
そう思うなら彼女作れよ。女の子には困ってないだろ?…どうかとは思けど。
「まあまあ二人とも」
「……勝手に爆発したら困るのは、むしろ央川の方だろう?」
とりなす観月先輩に続けて言った椿先輩のその言葉に、思わず箸が止まる。
……間違っちゃいないけど、そこで返答を期待する空気になるとか。せんぱーい…。
「……否定はしません」
さすがに恥ずかしいので、お弁当を口にする振りをして顔を隠しながらそう言うと、よし、と横から微かな声が聞こえた。
「どうしたんだ?」
「え?」
「じっと見つめちゃって~。何だ~、ラブラブじゃん」
去夜君に言われて気が付いた。しまった、ガン見してた。
……しののんに言われた事はとりあえず置いとくとして。
「やー、あー、ごめん、さすがに男の子なんだなーって」
そう言って視線を移したのは、彼の抱える山盛りのパン。
クラブサンドにカツサンド、カレーパンにジャーマンポテトフランス、etc…。
「まあなー、パンだけだとあんま食った気がしないっつーか」
別に運動部に入ってる訳じゃないけど、それ以上によく動くからなあ、去夜君の場合。
「おかず分けてあげようか?」
「櫻の弁当小さいだろ、悪いよ?」
「別に良いってば、これ位」
驚いた様子の去夜君に笑い掛ける。
別に1個や2個おかずが減ったからって、大した違いは無いんだし。
こういうのも男女の差、の範疇に入るのかな?
「……随分、仲良くなったな」
椿先輩、しみじみ言わないで下さいよ。
そりゃまあ、一時色々ありましたけども。
「いいなー、彼女にお弁当分けてもらうとかさー。ねえねえ、あーんってするの?するの?」
「しねえよ」
おっと、ついうっかり素で返しちゃった(てへぺろ☆)
「櫻ちゃんは白樹君にお弁当作ってあげたりしないの?」
ぶほ。
隣でむせる音が。
「だいじょぶ?」
「あ、ああ」
何か胸のあたり抑えてるし。ホントに大丈夫か?
「そうすれば白樹君も櫻ちゃんと一緒にご飯食べられるでしょ?…って思ったんだけど…」
期せずしてむせる原因になった観月先輩は、ちょっとだけ申し訳なさそうに語尾を小さくすぼめて言った。
「あー、そっか、そうですよねえ」
しまった、全然そういう事考えて無かった。
女子力が高ければ、こういう時言われなくても手作りのお弁当持って自ら誘いに行っちゃうものなんだろうけど……。
うん想像して何この子ウザryまあ、想像の方向性が間違ってるのかもしれんが。
とにかく。
「たまにはお前が作ってやったらどうだ?」
カフェテリアのランチプレートを持ち出して、わざわざここで友美とお昼とかフリーダム過ぎる空条先輩が、面白がっている顔を隠しもせんと言って来た。……先輩の事だから許可とか…。
「それって、すっごく良いなあ。また1歩ラブラブになっちゃうかも!ね、絶対そうしなよ!」
にやつく空条先輩の隣で、友美が目をきらっきらさせた。
そう思うなら自分でやれば良いんじゃないかな?かなっ?
「…まあ、作るのには、やぶさかではありませんが」
ちらりと去夜君の顔を見やると、ほんのり赤く染まっている様な?
止めて下さいうつるから。
「あー、ええと、是非お願いします?」
何で疑問形なんだよ?
そんな訳で、その日の放課後にはリサーチついでに去夜君と一緒にお弁当箱を買いに行き、翌日には早速お弁当作ってみた。
いろいろ聞き込んだから、苦手な物は入っていないはず。
ちなみに屋上には昨日のメンバーが全員集合してた。
今回声、掛けて無いんですけど?先輩方。
まあ、昨日の今日だしね、うん。
「じゃあ、開けるぞ?」
「「おおーっ」」
そんな盛り上がる様な物じゃないでしょうに。何だこのノリは。
「おー、ぎっしり」
「肉メインか」
「男の子ですから」
「櫻ちゃん、今日一生懸命作ってたんだよ?」
「すっげー嬉しい。さんきゅな」
「いえいえ、どういたしましてー」
返事をしながら自分の分のお弁当箱を開ける。
「あれ?」
何故か周囲の空気が固まった。
「もしかして、わざわざ違うお弁当作ったの?」
観月先輩の良く分らない質問が飛ぶ。
「まあ、女子にはこれは重すぎるなと思ったが」
去夜君のお弁当は野菜なんて飾りです、みたいな肉肉しいお弁当だが、男の子ならこんなもんじゃ無いの?
女子には重すぎる、って、もしかして私も同じ内容だと思ったんじゃなかろうか?
「櫻ちゃん、“彼氏と一緒のお弁当”っていう発想はなかったの?」
東雲君には、実にしょっぱい顔をされた気がします。
「だって、私に合わせてたら去夜君、絶対足りないよ?」
そもそも弁当箱の大きさだって違うんだし。
「自分の分に付け加える形で良いんじゃないか?」
「それだとどっちみち野菜分多くなりますし…」
「俺野菜嫌いって訳じゃないし、まるっきり別の弁当作るの大変だろ?」
「うーん…」
だから、それやると白樹君的にはもたないんじゃないかなーって。
「分かってないなあ、櫻ちゃんは。“彼女に作って貰った、同じ内容のお弁当を、2人で仲良く食べる”っていうのが、男のロマンなんだよ!」
何その細かい指定。マジか。
というかこれはあれか、ダメ出しか?ダメ出しなのか?
「もう、せっかく櫻ちゃん朝早起きして頑張ってたのに、皆文句ばっかり!!」
隣で同じ様にお弁当を広げていた友美が、微妙な空気の皆にぷんすかした。
ちなみにそんな彼女のお弁当はお重だったりする。
それは当然、その先にいる人とお弁当つつきあって食べるつもりだからで…。
うーん、うちも最初からそうすれば良かったのかなあ?
ハッ、これが真の女子力というものか!?
「ゴメンゴメン、てっきり一緒のお弁当だと思ってたから」
「白樹の事を考えて作られているのは良く分かる」
「いいんじゃなーい?これはこれでさー」
外野ェ……。
「ゴメン、せっかく作ってもらったのにな。なあ、食べても良い?」
「どうぞどうぞ」
苦笑した白樹君に勧めて、私自身もお弁当に箸を付けた。
「センパイ、はい、あーん♪」
「あーん。友美も食え」
「あ、あーん。…きゃっ」
照れる友美は可愛いと思うけど、正直口から何か出そう。砂とか砂糖とかよだれとか。
余所でやってくれないか君ら。
どうせなら、と友美も巻き込んだ自分が悪いのか、そうか…。
「櫻」
呼ばれて振り返ると、何か期待した様なにっこり笑顔の彼氏さんが待機してました。
この空気はさすがに、嫌でも理解したです。
「……ど、どれが良いのかな?」
「卵焼きちょうだい」
……君んとこ煮卵入ってるだろ。自分の食えや。
まあ、思っただけで口には出さなかったけどさ。
「はいはい、ほら」
「あーん」
箸で摘んで左手を添えて差し出すと、当然のように去夜君はそれを口にした。
あ、どうしようこれ。……箸拭いたら泣くかな、去夜君。
「櫻、ほら」
って、私もかいっ!?
「え!?」
「ほ、ら、」
……圧力かかった。
「あ、あー…」
あーん、なんて、恥ずかしくて言えるかいっ!
「美味い?」
「まあ、予想通りの味?」
「ぶはっ」
何故か笑われた。
「いいなー、いいなー、僕も彼女欲しいなー。羨ましいなー」
「愉快はいつも女の子に囲まれてるじゃないか。頼んだらあれくらい、皆喜んでやってくれるんじゃない?」
「おねーさん達はちーがーうーのー!!僕だけの彼女に、僕だけのお弁当作ってもらって、僕だけに『あーん』ってして貰うのが良いのっ!!」
「贅沢。でも、分からなくもないかな。ああいうの見てると、良いなって素直に思えるよ」
「……輝夜は作らないのか?」
「んー?彼女?まあねえ、『この人!』っていう人が今はいないからね」
「僕だってそうだもん!!」
「愉快、そうやって本気にならないって分かってるのに女の子を侍らす癖、どうにかしないとその内痛い目見るよ?」
「ふーんだ。本命の彼女がいない時に、ちょっとちやほやされる位良いじゃんかー」
「だからねえ」
「……俺も、ああいう恋人がいたら良い、と思う」(ぼそり)
「「えっ!?」」
今回糖度の乱高下はありませんが、概ねこんな感じで行きますのでどうぞよろしく。




