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彼氏の回想 4

 約1週間だぞ、1週間!

 こっちから話しかけようとしても完全無視だし。

 見かねた木森や篠原が執り成そうとしても、

「今、イゼルローン艦隊がピンチだから後で」

 って、小説に負けるのかよ!?

 そうこうしてる間に、この間の件で信用が地に落ちたらしい空条先輩と篠原を巡って攻防戦始めるし…。

 俺?当然スルーされたけど?何か文句でも?


 大寺林先生や椿先輩、観月先輩も心配してくれてたけど、この状態で仲直りって言われてもな。

 木森は気にして色々声かけてくれてるけど、成功しているとは言い難いし。

 某愉快犯に関しては期待するだけ無駄だ。

 大体、なんだってそう頑なに拒否するのか分らない。

 あんなの、気分でとっさに出た暴言だって事くらい気付くだろ?普通。

 ……それともやっぱり、嫌われたのかな。


 ……あれ、何で俺、こんなにショックなんだ?


 夜の公園でそんな調子でぼーっとぴーすけを散歩させてたら、あいついきなりダッシュしやがった。

「ちょ、待てよ!?」

 力の抜けた手からするりと滑るリードをつかみ損ね、俺は走る愛犬を追いかけ、公園の入口まで駆ける事になった。

 そこにいたのは、


「ぴーすけ庇おうとした白樹君が、転生トラックにぱーんされて陽炎に嗤われちゃうよ」


 こんな変な事言うのはあいつしかいない。


 そう、央川だった。



 図書館帰りだったという彼女について行く。

 ぴーすけがやたら素直だ。

 普段なら、行きたくないと思ったら引きずられても動こうとしないのに。

 央川には怪訝な顔をされたが、それでもぎこちなく心配してると伝えれば、微笑が返って来たみたいだった。

 今のこの状態で素直に意見が言えたら苦労しない。

 少しだけの沈黙の後、どうにか修復、とまでは行かなくても改善できれば、と口を開く。

 ……誤魔化すのは得意、ってあんまり胸張って言える事じゃないけど、なあなあな関係なら今までだって散々構築して来た。

 でもこいつとは、そうじゃない、から。

 どうしても言葉に険が混じる。

 上手く言えなくて、上手く話を運べなくて、イライラしてつい大きな声が出そうになった時だった。

「あのさ、白樹君だけじゃないんだよ」

「え?」


「仲良くしたくないのは君だけじゃないんだよ?」


 それって―――

 

 結構、いや、かなりキた。

 俺の言った“あの言葉”は、ほとんどがその場の勢いで、嘘じゃ無かったかもしれないけど本心でも無かった。

 でも、彼女は?

 こんなに冷静にそう言い放つ、彼女は本気で―――?


「なんだよ、それ」

 痛い。

 そうじゃないかな、とは思ってたけど、

「……俺は、あんたに嫌われてんのか?」

 俺、こんなに人に嫌われるのが痛い事だと思わなかった。

 『俺に関わるな』って最初につっぱねたのは確かに俺だけど、そう突き返されるとは思って無かった。

 央川も、痛かったのかな…?

 …いや、あの時…?

 中途半端な思考は、央川の「まさか!」という返事に掻き消され、そこからまた言い合いになりそうになった。

 ……ってそうじゃなくて、嫌ってる訳じゃないんだな!?だったら、だったら何が原因だ!?って、そんなの1つしかねーだろ!

「俺のせいで閉じ込められたから!?あんな事件あったら警戒するよな!二度とないように注意するから!ホントごめん!」

 真っ直ぐに頭を下げた。

 彼女はしばらくわたわたと戸惑っていたけど、突然硬直して、それから頭を勢いよく下げた。え?


「あ、あのね、馬鹿なこと考えてるって思ってくれて構わないんだけど、私ずっと、君が私の事好きだと思ってて」

 …………………はあ!?

「好きなんじゃなくて、ただのお友達だったと思ってくれてたんだよね?」

 え?お、おう?

「ごめん!ほんっとーにごめん!ほんと、ただの誤解だったの!あの、明日から普段通りにする!ちゃんと挨拶するし、ちゃんと会話もする!だから、その、ごめんね?」

 ごめんねのいみがわからない。

「…………つまり、俺があんたを好きになったら問題で、友達なら問題無いって事?」

「そうそう!!白樹君とおんなじで!」

 同じな、訳、ねーだろ!!

 あんた俺の事馬鹿にしてんの!?してんだろ!!

 こっちはあんたの事ばっか考えててずっと悶々としてたっつーの!!

 なのに何能天気に「友達ならオッケーだよね」なんて言ってくれちゃう訳!?

 その境界は何だよ!?

 そんな理由で俺遠ざけられてた訳!?

「……ふざけんな」

 もう、アッタマ来た…!!

 

 お望み通りにガン無視してやってもいい、逆に付き纏って嫌がらせもアリだ。

 どう振舞うのが一番アイツにとって効果があるのか考えてて、まだどっちにするか決めかねてはいるけれど、これだけは言える。

 とりあえず、絶対報復はする!!ってな!



 元々、違和感はあったんだよ。

 最初は他の女子の連中と一緒で、俺に気があるのかなって思った事もあった。

 思わせぶりな態度、妙に近い距離、楽しそうな笑い声。

 でも、彼女はずっとこっちを見ていた。

 あの観察する様な、感情の見えない瞳で。

 まるで、何かを待っているみたいに――――――


 今考えると俺、嵌められた?

 先輩と立てた予測というか想像の通り、未来を知っているというのなら、もしかして『関わるな』って俺が言うの待たれてた?

 だったら最初から関わんなきゃいいじゃん。

 ……だったら何で関わったかっていうと、多分、いや、あの様子だと絶対篠原絡みだ。

 思えば俺だけじゃなくて、お茶会に関わってる人物は大体観察範囲内だった気がする。

 ……俺が知る限りは、だけど。

 木森と仲が良かったのだって、そう考えればつじつま合うし……。

 ……それって、本気で友達だって、思って無いって事じゃないか?

 あ、やべ、凹む。


 家に帰ってぴーすけ抱えながら悶々と考えていたけど、碌な結論にならなそうだったので、当初の予定通りに動く事にした。

 央川が“篠原の為に”動いているんなら、そっから何か出て来るかもしれない。

 脅す材料でも何でもいい。

 俺が央川に報復できる様な、あるいはあいつが俺から離れられなくなる様な材料が……。


 結論から言うと、そんなものは無かった。

 というか、そんなものを『天然』に聞く方が間違ってた。

 ……全部好意的に受け止めやがって……。少しは疑問に思えよ!!

 むしろ…、

「がんばってね!わたしっ、だんっぜん、応援しちゃうから!!」

 何で励ますんだよ!?いらねえよ応援とか!!

「櫻ちゃんの事、何でもいいから知りたいだなんて、それって白樹くんが櫻ちゃんの事好きって事だよね!?」

 ちょっ!?ちょっと待て!?

「櫻ちゃんはね、何でも出来るけど、それでもいっつも努力してて、それにとってもとーっても純粋で、でも壊れやすい心の持ち主なの。だから、大切にしてあげないと、絶対、ぜーったい、許さないんだからねっ!!」

 ナニコレ。何なのこの持ち上げっぷり。誰の話してんの?純粋?壊れやすい?誰が!?

「櫻ちゃんがね、前に言ってたの。『気になる人がいたら行動すべし』って。大事なのは『勉強でも容姿でも、とにかく自分磨きをする事』『相手の情報を手に入れる事』『同好会の日で無くても、まめに会いに行く事』『休日にはデートに誘え』!ね、参考になった?」

 くっ、悔しいが正論!?

 でもそうか、……デート、か。

 前に誘った時はうやむやにされた…というか絶対イヤオーラが出てたけど、そこで諦めなきゃいいんだな。

「わたしっ、櫻ちゃんの事なら何でも知ってるから、気になる事があったら何でも聞いてねっ?うふふっ、ぜーんぶ教えてあげちゃうからっ!」

「お、おう…」

 いつになく張りきった様子の篠原に、思わず圧倒される。

 けど良いのか?央川、たった今お前の個人情報ダダ漏れになったっぽいぞ。他でも無い親友の手によってな。

「そういえば櫻ちゃん、たまに恋愛ゲームやってて、見せてくれる事があるんだけど」

 ……天然ちゃんに何見せてんだよ、オイ。

「そのゲームであったんだけどね、登下校が一緒っていうのも良いよね?」

 それだ!

「そうだ!ね、白樹くんが櫻ちゃんの事誘ってくれるなら、わたしと明日葉先輩も一緒に学校に行けるよね!?きゃっ、そうしようよ!4人で仲良く登校だなんて、嬉しいけどちょっと恥ずかしいかも!」

 そこは別々にする所だろ!?フツー!

「待て待て篠原、そこはこう考えた方が良いんじゃないか?例えば篠原と空条先輩が一緒に登校するって事にすれば、必然的にあいつは1人で登校する事になるだろ?」

「えー?でもそしたら櫻ちゃんが可哀そう…」

「だから、そしたらそこで俺が待ってて一緒に登校できる訳だ。な?篠原は先輩と落ち着いて2人の時間が持てるし、俺だって央川と話し合う時間が持てるだろ?ほら、2人きりじゃないと中々話せない事とかあるじゃんか」

「うーん、あんまり変な話とかはダメだよ?櫻ちゃん男の子と付き合った事無いんだから~」

「篠原、俺の事どういう目で見てんの?」

 俺何かしたか?


 その後、篠原が提案した『一緒に登下校』の案を煮詰め、当初の予定通りに空条先輩も巻き込む事になった。

 連絡は篠原の方からするという事で任せる事にして、翌日、俺は彼女の家の近所の交差点で待ち伏せする事にした。

 ガードレールに軽く寄りかかる事10分。

 どことなく元気の無い様子の央川は、目の前に“いる筈の無い”俺がいる事にビックリしたらしく、ぽかんとした表情で足を止めた。

 どっきりは成功したみたいだな。

 じわじわと上がる口の端を押さえる事無く、俺は彼女の手を取った。

「それじゃ一緒に行こうか」

 あんたの大好きな“ゲーム”スタートだぜ。



『攻略』は順調だった。

 年上のイケメンが好きとか予想外の情報までもたらされた事もあったけど、知らないよりは知ってた方が対策とれるからな。

 収穫もあった。

 ホストみたいな風貌の男―――天上とかいうヤツと再会したからだ。

 狙ったのか偶然なのかは判断つきかねるところだったけど、その人が、正確にはその相方だとかいう人が俺の―――俺達の疑問を代弁してくれたから。

 ……というか、やっぱり彼女には分かってるらしいけど、俺はこの人達の事何にも知らないんだけど?

 先輩からは特殊部隊に所属してる人、みたいな説明があっただけで詳しい話はされなかったからな。

 訊く空気でも無かったから黙ってけど、この人達って一体何なの?

 央川は結局、「知ってただけだ」みたいな事しか言わなかった。

 言う気が無いんだろうなってのは割ともう皆気付いてて、多分それでも黙っているっていうのは、下手に無理して聞き出す事によって今までの関係が壊れるのを、その事で欲しい情報が手に入らなくなることを恐れているんだと思う。

 病院で親父さん達が彼女を守った事、央川は知っているのか?

 最後にちょっとだけヒント……「個人的には『セー○ー戦士』より『未来○記』とか『○の手帳』の方が近いですかね」ってコレ、煙に巻いただけだろ!?

 気になってググってみたけど、え?なにこれ、どういう事?

 ……つまり?転生戦士より未来が分かる予知能力みたいなもんって事?でも最後のってRPGでしかもファンタジーだよな?

 厨二が好きって事?趣味の話……?いや、何で色々知ってるかって話だった筈だ。

 ……ますます分からん。

 

 で、だ。

 ついでに、ゲームセンターの目つきの鋭いアルバイトは要注意人物、っと。

 でもそのおかげでデートに上手く誘う事が出来たから、まるっきり悪いって訳でも無かったかな。

 私服は夏の旅行でも見た事あったけど、冬の私服は初めてか。

 可愛いと清楚の中間くらい?柄も派手じゃないし、結構俺の好みとも一致する。

 事前に篠原から「期待しててね!」というメールが入ったから、きっとあれこれ意見を出してくれたんだと思う。篠原GJ(グッジョブ)

 最初のデートはプラネタリウム。

 ロマンティックでムードあるかと思いきや、入場時に周りのカップルに気を取られ、上映中は眠くなるしであんまり雰囲気で無かった。……失敗だったかな?

 でも気が抜けた分、それまで緊張してたっぽい彼女の空気が柔らかくなって、以前みたいに話が出来たのは良かったかもしれない。

 けど、それじゃ物足りない。

 だからちょっと意識して貰う様に俺の方から近づいてみたり。

 暗くても分かるくらい顔が真っ赤になった央川を見て、手応えを感じる。

 ……そういうのが楽しくて、浮かれた。


 2度目のデートもそう。距離を置こうとする彼女に、無理言ってひっついてみたり。

 ただ度が過ぎて自爆するハメになったけどな。

 篠原のマジギレ、初めて見たかも。……あいつら相思相愛じゃないか。

 って、帰りに空条先輩に言ったら「今さらだ」って言われたけどな。

 ……先輩も苦労してんだなあ。


 最初は、意趣返しのつもりだった。

 仲良くしたくないなら仲良くしてやろうじゃん、みたいな。

 でもそんな事続けている内に、普段あまり変わらない彼女の表情が、俺の行動に一々反応するのを見て楽しくなってた。

 そりゃ、俺も男ですし?可愛いなって思ったら口説きに熱も入りますし?

 ぴーすけ口実に家に誘ってみたりとかしたら、やっぱこっちもドキドキしますし?

 ―――だから、このままでも良いかと思ったんだ。

 意趣返しなんかじゃなくて、このまま普通に彼氏と彼女になっても良いんじゃないかって。

 …………もう元の彼女の事なんて、どうって事無かった。

 だって、全然違うんだもんな。

 こっちから声かけなきゃ、向こうはこれ幸いと逃げて行くんだ。

 それは何か、ヤだったからさ。

 軽いノリだったのは確かだ。

 このままが良いなんて、その時の気分だけで口からぽろっと出てしまった言葉。

 でも、彼女は、泣いた、らしい。

 らしい、ってのは俺が見てないから。

 その日の内に電話かかってきて、篠原にすげえ怒られた。それもショックだったけど。


 央川は、「違う」って。

「そんな告白、いらない!!」って、まるで俺が酷い事(・・・・・)したみたい(・・・・・)に叫んだんだ。

「つきあって」って言った俺の目の前で。



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