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彼女と一緒にコンサート!



あるあるネタ……?



 放課後、いつもの様に教室に彼女を迎えに行くと、彼女は友人数名に囲まれて少し興奮した様子で何やら話し込んでいた。

 声をかけようとしたその時、


「でねっ、その後当然コンサートですよ!」


 やけに意気込んだ声が聞こえて来て、思わず固まった。

 は?コンサート?行くの?聞いて無いんだけど。



「いや、だからね?別に私は布教するつもりは……。ほら、趣味は人それぞれっていうかさ」

「俺が行きたいって言ってるんだから良いんだよ、気にしなくて」

 帰り道、事情を聞きだした俺は戸惑い気味にこっちを窺う彼女…櫻に、にっこりと笑顔をお見舞いしてやった。

 放課後言ってた“コンサート”っていうのは、彼女の好きなバンドが新譜出すんで、それと合わせて関連したコンサートもやるって話らしい。

 まだ具体的な開催日時は決まって無いが、発売と合わせるのなら年末か年明けぐらいになりそうだって言ってたな。

 年末か……。親父の関係にも顔出さなきゃいけない事考えると、あの辺りは結構予定立て込むんだよな、毎年。……今年は上手く行けばいいけど。


 

 普段家で会う事が多い俺達にとって、こういう外に出るちゃんとしたデートっていうのは意外に少ない。

 遊園地は夏に1度しか行ってないし、ライブやコンサートなんて、冬の“アレ”以来話も出ていない。

 植物園は何回か行ったな……。花見に行きたいって。

 後はぴーすけ連れてドッグランとか、博物館とか。

 ゲーセンは“あの人”がいるから、俺があんまり行きたくないし……。

 ……こう考えると俺達って結構枯れてる……?

 映画はそこそこ行ったけど、櫻の方から見に行こうって話はあまり無かった。

 えーと……2回くらい、だったっけか?

 それだって、今回みたいに俺の方から言わなきゃ多分その話しなかっただろうし。

 そもそも櫻から“そういう”デートに誘われる事自体、めったにないんだよな。

 行くとしたらさっきも言った植物園だの博物館だの硬いとこばっかで。

 『趣味が違いすぎるから』ってそういう遠慮の仕方するのは、……まあ気持ちは分からなくもないけど。アイツの趣味を考えると、な。

 けどこう、ちょっとさあ……。



「……2人より1人の方がチケット取りやすいかなあって」

「それこそ関係無いだろ」

「遠征の可能性だってあるんだよ?」

「元から日帰りで行って帰れる場所しか行く気無いじゃん。なんだったら向こうで少し遊ぶ?それはそれでアリだと思うけど?」

「うー……」

 唸るな。

 そんなに俺と行きたくないのかよ。

「コアでマニアックな世界観に君を引きずり込むのは本意では無いと言うか……」

「今さら」

 本当に今さらだよ!

 アンタさんざん勉強中、そのテの曲流しまくってただろ!?


 悩む櫻を何とか説得して、チケットも何とか手に入れた。

 後はCDの到着とコンサートの日取りを待つばかり……かと思いきや、予想外の“お勉強”が待っていた。


「ハイこれ」

「結構出てんのな」

 彼女が目の前に積んだのは、今度行くコンサートのバンドのCD。

 シングルは少ないけど、アルバムは結構あるな。

「まあね。で、これとこれとこれ、見といて」

「動画?」

 携帯から動画サイトに飛んだらしい。

 目まぐるしく変わる画面に戸惑う。

 え、ちょっ……、いくつ見ればいいの!?

「インディーズの頃の曲とかライブでやったりするんだよ。この曲なんかアンコールで流れる可能性高いから覚えておいた方が良いと思う」

「はあ……」

 途中から参入すると、こういうの大変だよな。

「気に入ったらそれはそれで良いと思う。とりあえず今回はコンサートの為の勉強だと思って」

「お、おう」

 何だかんだ言って楽しそうなので、俺も前向きに付き合う事にした。

「一通りチェック終わったら次はコンサートの話ね」

 まだあるのかよ!?


 どうやら今回行くコンサートは、相当独特な物らしい。

 音楽性がどうとか言うつもりは無いけど、ただ単純に歌聞いて盛り上がるだけじゃないんだな。

 最近はアイドルのコンサートとかでも客に求められるフリとか多いみたいだし、そう考えるとおかしな事でも無いのかもしれないけど。


「基本的に合唱パートは脇で旗が振られるからそれに合わせてね。他のとこで好き勝手歌うのはマナー違反とみなされるから注意して貰って」

 旗……?

「それ、後ろの方見えるのか?」

「んー、見えない事も多いかな。出来るだけその場所が近くなったら注意して見るって事と、後報告があると思うから」

「報告?って、コンサート先に行った客からって事?」

「そうそうそんな感じ。掲示板とかで報告上がるから、そっちはこっちでチェックしとくね。まあ大体曲聞けばここはそうかな、とか案外分っちゃうもんだけど」

 ……そんなギリギリまで準備するのか……。

 このバンドのファンやってるってのも、結構大変なんだな。


「サイリウムとかは今回無いから。持ち込みも禁止ね」

「ふーん?振ったりしないんだ?」

「舞台演出の関係上無いみたいよ。ここは毎回そう。一度くらいはやってみたいけどね、サイリウム」

 変な憧れ。

 …………ってそうだ、思い出した。元から櫻は変だった。

「それと、終演時に国歌歌うから覚えておいて」

「国歌!?」

 …………なんかもう、もはやただのメタルバンドじゃ無い感じだ……。

 いや、前からちょくちょく曲だけは聴いてた(聴かされてた?)から、何となくそうじゃないかとは思ってたけど。

 ………どこまで行くんだろう、このバンド。


 とりあえずいくつか動画見て、その中には前にやってたとかいうコンサートやライブの映像もあり、おかげで大体の雰囲気は分かった気がする。

 合唱パートって言ってたけど皆ガチで歌うんだなって言ったら、「よく訓練されてますから」って何でかドヤ顔で胸張られた。

 というかこれ、一歩間違えば危ない宗教みたいだぞ。



 しばらく経ち、CDが来たので一緒に聞く事にした。

 ついでに考察とやらも聞かされる。

 俺は正直「フーン」って感じだったけど、櫻の方は楽しんでいるみたいだ。

 以前から何度か聴いてるとはいえ、こうして纏めて曲を聴くのは初めてで、彼女が俺に気を使って聴かせる曲を選んでくれていたんだなっていうのも分かった。

 ……例えばだけど、篠原あたりが聴いたら泣くんじゃないか?コレ。

 とりあえず、独特の世界観を持ってるってのは良く分かった。

 最近の方がまだ聞きやすいか……?その分複雑になってるみたいだけど。

 概要聞いた時に思った『わけわかんない』って形容詞も、あながち間違ってない気がする。



 時は過ぎ、12月の最終週。

 ビル風が吹きすさぶ中、俺達はついに会場に到着した。

「開場2時間前、か。なあ、ホントにグッズ買いに行かなくて良いのかよ」

「荷物になるだけだしねー。今回はどうしても欲しいって物なかったし、良いかなって。ほんとに欲しかったらこんな遅い時間じゃ無くて、バッチリ朝から来てるよ。ほら、『コンサートは聖戦よ…!』みたいな」

 笑い話になってるあたり、本当にグッズに興味は無いみたいでホッとする。

 俺に遠慮したとかそういうんじゃなくて良かった。


 他の時でもそうだけど、彼女はあんまり物欲が無い。

 付き合い始めて何度かプレゼント贈ろうとした事があったけど、そういうのもあまり興味無いみたいだったしな。

 あの時は最初遠慮してたけど最終的には嬉しそうにしてたから、悪くは無かったんじゃないかとは思ってる。

 本人は、「何も欲しがらない訳じゃ無くて、何というか、自分の欲しい物ははっきりしてるっていうか」って言ってたな。

 それに今は家の都合で篠原の家に住んでるから、そう簡単に物増やす訳にもいかないか。

 

「開場までどうする?どっか行って時間潰すか?」

「ああ、こっちこっち」

 手を引かれ歩き出す。

 何所行くんだろうと思ってついて行くと、また変な事言いだした。

「次回があるかどうか分かんないからと思って勧めなかったけど、去夜君の分のパスポート、やっぱり買っておけば良かったかな?そうすれば一緒に入国印押せたのにね」

 パスポート!?入国印!?

 え?入国管理的なアレか!?ここ実は海外!?治外法権的な!?……って、そんな訳ねー……よな?

「え、俺パスポートなんて……」

「あー、本物じゃなくて」

 バッグから取り出して見せてくれたのは、凝った模様の黒いパスケースに入れられた、小さな手帳みたいなノート。

「ああ、スタンプ?」

「うんそう。記念スタンプみたいなもんだね」

 にこにこと嬉しそうに語り出す。

 ……へえ、領土に陛下、ねえ………。

 ………ますます訳分からん。

 いや、歴史とか語られても!?そこまで深みに嵌る気はねーよ!?


「スタンプ押すのに2時間近くかかるってマジか……」

 やっぱおかしいだろ、このバンド。

「マジです。いやあ、間にあって良かったねえ」

 あの寒空の中、ハンコ押すのに2時間近くって。

 ファンって怖ぇ。

「あ、それとスタンプじゃなくて“入国印”!ここ重要だよ!他の人に聞かれたら怒られるよ!」

「あー……」

 普段とはやはり違うテンションの彼女の小言を、席につきながらハイハイと聞き流す。

 早くも精神的に疲労を(軽くだけど)覚えてしまった俺は、落ち着きたいせいもあって、改めて会場を見回してみる。

 列に並んでる時も思ったけど、…………結構黒い服の人間が多いな。

 コスプレっぽいのも何人かいるみたいだ。

 PV見てた時も思ったんだけど、ビジュアル系バンドってこういうもんか?

 メインボーカル基本白塗りだし。

 いや分かんねーけど。


 そして約3時間の(こー)い公演が始まった。

 うわ、開幕で総立ちかよ!?イスの意味は!?

 櫻が数日前、行った人のログを見ながら立ったり座ったりってチェックしてたの、これの事か!

 後、終盤隣から、いや開場全体からいきなり、「うわあああああああああ!!」って叫び声が聞こえて来た事を、俺は多分しばらく忘れないと思う。いや話には聞いてたけど!

 連中の本気度凄い。役になりきってるとでもいうか。……それも話には聞いてたけど。

 「おう!」とか答える声じゃなかった。

 だって俺はその時、爆発した、と思ったんだから。



「何か、私ばっかり楽しんじゃってゴメン」

「いや、意外に面白かったしいいよ、気にすんなって」

 会場を出て速やかに駅に向かう。

 まっすぐ帰らないと、終電逃したら帰れねーし。

「今度は去夜君の好きなトコ一緒に行こう……って、言えればいいんだけど、ねえ」

「あー……、俺ん所は日本(こっち)来る予定無いからなー」

「海外追っかけてる人は大変だ」

「最近はそこまででもない。ネットでダウン販売とかあるからな」

「良い時代になったもんだ」

 お互い苦笑する。

 まあ、マニアックと言われれば反論できない趣味なのは俺も同じか。

「アレ結構好きだし、来るなら見てみたいけどねー」

「俺はアンタがプログレ聴く方がビックリだよ」

 そんなことないよー、なんて彼女は言うけど。

「聴いてて気持ちのいい音楽が、私にとっては好きな音楽だから」

「あ、それは同感」

 顔を見合せて笑う。

 そういう一緒は“やっぱ”嬉しいな……って思って、胸がチクリと痛んだ。

 多分櫻は“そういうの”分からないと思うけど。

 前カノの話なんてしたところで、彼女ならあんまり気にしなさそうけど、それでも少しだけ罪悪感を感じてしまう。

 そんな、ちょっとだけ落ち込んだ気分を振り払う様に話題を変えた。

「最初は歌詞でビックリしたけどさ、よく聴けば結構ベタなんだよな、このバンドの曲って」

「それ言っちゃらめえ!!」

 隣から何故か慌てた悲鳴が聞こえた。


「でも今回の件で、布教したがる人の気持ち、何となく分かったかも」

 地元の駅前までやっと戻ってこれた。やっぱ地元まで来るとほっとするな。

 雑談はあれからずっと続いてる。

 手袋越しに手を繋いで信号を待った。

「つーかそもそも、すでに色んなの布教済みだろ?この前の漫画だって……」

「アレは去夜君が勝手に漁るからー!面白いって言ってた癖に、なに人のせいみたいに言うかな」

「いや、手持無沙汰だったもんでつい」

「もー……。でもまあアレは少女マンガだけど、結構男性読者もいるしアニメ化もされてるから、とっつき易くはあるのかもね。私もお勧めしてもいいよって言われたらするし」

「そういうもん?」

「そういうもん」

 きっぱりと首を縦に振る櫻。――――――と、

「あっ、友美ーーー!!」

 握って無い方の手を大きく振った。

 おいこら櫻さん、コンサート中でもそこまで大きく手ェ振らなかっただろ。

 恥ずかしいとか言ってなかったか?


 握った手をするりとほどき、彼女は少し先を歩いていた親友の元へ、たたたっと駈け出して行ってしまう。

 ちょっと待てって。まったく、さっきの今でアンタ、自分が誰の隣に居たのかもう忘れたのかよ。

「あっ、櫻ちゃん!白樹くんも。今帰りー?」

 ふわふわした服着た彼女の友人―――篠原が振り向き、駆け寄って来た櫻を見てにっこり笑う。

 深夜とはいえ駅前だから、多少はまだ灯りがあるのは確かだけど、その顔は何故か妙にキラキラして見えた気がした。

「今ー!ね、せっかくだから一緒に帰ろっか」

「おい、意図的に無視か?いい度胸だ」

「あ、先輩チッス」

 隣にいた空条先輩に手を上げて軽く挨拶……って、軽すぎだろいくらなんでもそれは。

「空条先輩」

「お前か」

 や、何かすんませんね。

「お前の女だろう、ちゃんと躾けておけ」

「あー……」

 すんませんね、俺の彼女が。


 と、男2人を放置して仲良く喋ってた女子連中から、突然奇声が上がった。

「あ!ね、ね、今の人見た!?すっごくカッコいいー!」

「「!?」」

 ちょ……っ!?

 誰!?また変にオーラのあるイケメンか!?

「もうっ、櫻ちゃんたら声大きいよ。白樹君にだって失礼でしょ?でも誰?そんな人いた?」

 止めるなら止めるでちゃんと止めろよ篠原!!

「ほらっ、あの背の高い人」

「あっ、あの人?ホントだ、カッコいいね」

 篠原の目線に合わせて指を指して教えると、篠原の声が弾んだ。

「背ぇたっかいなー。あんまり着込んでなさそうなのも高ポイント!夏場だったらなー、筋肉とか見れるのになー」

「もう、櫻ちゃんたら。でも、そう考えるとちょっとドキッとしちゃうね」

 あのー、そこのお2人さん?カレシがそばにいるって事、忘れてない?

 となり見るの、正直怖いんだけど?

「いいなあ、カッコいいなあ。やっぱ男は肉だよ肉!二の腕とかついてると好印象!」

「…………ジム通うかな、最近なまってるし」

 ぼそりと呟くも、隣の人から反応は返って来ず。

「ダメだよ櫻ちゃん、櫻ちゃんには白樹くんがいるんだから、そういう事言うの少しはガマンしなきゃ」

 いいぞ篠原、その調子でフォロー頼む!

 けど待て。我慢の対象なのか?俺。

「でも体のカッチリした人って、こう、男の人!って感じがするね!」

「ねー!」

 きゃはは、と何処までも明るい声で笑う2人。

 つーかさ、篠原も実は止める気ねーだろ。



「……おい、お前の女だろう。何とかしろ」

 ……ホントすんません、先輩。

 久々に隣の人センパイの低い声聞いて、俺は渋々深夜の往来ではしゃぐ2人を止めに入る。

 篠原と会うといつもこうだよ。コンサートの余韻台無し。

 思わず溜息を吐きたくなった。




 





なぜSHだと思った?

クラウザー様やデーモン閣下かもしれんのになあ。→白塗り


言い逃れできない事は良く存じております。



おまけ:勉強中の1コマ

櫻「あのねっ、それでねっ、陛下がねっ、ドジっ子でねっ」テンションup

白「フーン( ´_ゝ`) 」


そしてこの温度差である。

主人公はオタク気質なだけに、好きな物に対してはやたら饒舌です。


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