彼氏と一緒にVS元カノ! 後編
前回からの続きです。
ホッとして気が緩んだのか、自分でも言う気の無かった言葉が口を衝く。
「週明けにいきなり訪ねて来て、ドヤ顔で『2人でいちゃつきながら帰った』とか言われてさ。一応“そんな不義理な事する人じゃない”って言ったけど、逆に公序良俗に反する様な事まで持ち出されて“彼女なのに何もしてない”“相応しくない”ってさ。失礼しちゃうよね」
「櫻…」
あ、やばいな、と思った時にはもう遅かった。
思い出したらさらに頭がカーッと熱くなって、吐き出す言葉が止められない。
それでも、慣れない詰りは長く続かず、語尾が震えるのを抑えきれなかった。
思考の外側で、もしかして女の子の日近いのかなって思って、日付的に間違ってない事を確認して、その思考はそのまま破棄した。
今それどころじゃないし。
「私だって去夜君に色々我慢させてる自覚はある。不慣れだって事差し引いてもね。でも、だからって誰にも顔向けできなくなる様な事はしたくないし、させたくない。例えそれが私の我儘だったとしても」
静まり返った群衆の中、私の演説は続く。
「だから、そんな面倒な人間の事、興味が無くなっちゃってもおかしい事だとは思わない。私の周りにも可愛い子や奇麗な人は、たくさんいるんだから」
「櫻っ!」
慌てた去夜君が私の名前を読んだけど、次の言葉で再び黙り込んだ。
「でも、それとムカつかないのは別問題だよね」
にっこり。
「えー、と。ごめん」
慌てたと思ったら、今度は責められたみたいに情けない顔になった。
ああ、違う違う。
「去夜君に怒ってる訳じゃないんだ。その女子の先輩にムカついてんだよ。あんな化粧べったべたの、髪の毛だって碌な手入れされてなさそうな人、ババアになってから酷い目に合えば良い。だから去夜君が謝る必要無い」
女子先輩に対する所だけ早口でぼそぼそ言う。
公共の場所で言うセリフじゃないしね。
謝らなくて良いんだよ、と言う所だけははっきり言っておいた。
「でも、その、誤解させるような真似したから、ごめん」
「いいのいいの、私だってホントはこんな話するつもり無かったんだしさ、去夜君が私に黙って他の人とお付き合いする訳無いし、……二股とか隠れて本命とか女遊びする様な人だったら、むしろそれは私の見る目が無かっただけなんだから。妬く理由にはならないよ。ただ見下げ果てるだけ」
やっぱりブリザードだった、と後々言われた。
「ちなみに、誰を」
「無論去夜君と私」
「え」
誰かが言ったそのセリフに、間髪入れず返答する。
もう誰がしゃべったかなんて気にしてなかった。
「さっきも言ったけど、見る目が無かったって事だからね。私ってほら、去夜君に理想抱いてるとこあるし」
「う」
にっこり笑って去夜君を見ると、顔を顰めて「まだ生きてたのか“あの話”」と小さく呟いた。
そこでやっと、いつの間にか蚊帳の外だったモトカノさんの方を向いた。
「―――とまあこの様に、決して妬かない訳では無いのだよ。まあ、今回のは妬くってよりはムカついただけだけど。それなりに執着してる証明にはなったかな?」
にっこり笑って言ってみせる。
「―――なっ!?」
こういうのも宣戦布告、と言うのだろうか?
そうそう簡単には渡さないし、渡せないよ。
長くない期間ではあるけど、それでも付き合って来た分の感情は、そしてそれ以上に“2次元時代からの思い入れ”が、確かにあるんだから。
―――とそこへ携帯の振動が。
あー!?空条先輩忘れてた!
やべえ!と思って焦って相手を確認せずに出ると、それは空条先輩じゃなくて友美からだった。
生徒会室で有志として空条先輩を手伝っていた友美が、この騒ぎに気付いて心配して電話して来てくれた様だ。
見れば、部屋からこっちは何とか見える位置。思わず手を振る。
「―――だから大丈夫だって、こんなの大した事無いよ。あ、でも、そうだ!もし今回の事で“白樹君”がモトサヤに戻るなら、その時は友美に慰めてもらおっかなー。ね、慰めてくれるでしょ?いいな、それ!意外とアリかも!」
気を使って、大丈夫かと何度も言ってくれる優しい友美に気を良くした私は、去夜君に背を向け、ふと思い付いたアイディアに浮かれた声を出す。
それは単純にぱっと思いついただけで、全然本気なんかじゃ無かった。
――――――不意に、頭越しに携帯取られる。
「あっ、ちょっ、返してよ!」
「―――篠原、わるいけどあんたの出番ねーから」
その低い声に、思わず血の気が引く。
ヤバい、やっちまった、そんな言葉が脳内を駆け巡った。
そのまま携帯を切る去夜君。
言葉を失くした私に、彼は凄く苦しそうな、悔しそうな表情をした。
「篠原と櫻がすっげー仲良いのは知ってる。けど、そんな事目の前で言われたら、俺だって傷つくんだよ」
「あ……」
その表情とその声で、とんでもない事を言ってしまったんだと、愚かな私はその時ようやく気が付いた。
「ご、ごめん」
他にどう言って良いのか分らない。
さっきのは間違いなく冗談で、復縁なんて去夜君に限ってあり得ないと分かってた。
でも、その仮定の中でも、友美に慰められるシチュエーションが“良いな”と思った事は事実で…。
きっとその“思った”って事を、カンの良い去夜君は私の話す言葉のトーンから感じ取ったんだろう。
「ほんとに、ほんとにごめん、ぜんぜん、去夜君の事、考えて無かった」
「……」
「だからあの、……ほんと、ごめん」
何言って良いのか分らなくて、顔を伏せる。
この状況で、目なんか合わせられなくて。
さっきの今で何言ってんだろ。
いくらムカついたからって、言って良い事と悪い事があるよ。
私も去夜君も、周囲すらも黙り込んだその時、
~~~~~~~~~~~~~♪
軽快な曲が鳴った。
「……わり、俺」
言葉少なに去夜君が自分の携帯を出すと…、
「げ」
ほぼ同時に去夜君の持ったままだった私の携帯が震える。
「わ」
ぽい、と投げ渡された携帯を落とさないようキャッチして出る。
見ればメールが届いてた。
「う゛」
…………それは、痺れを切らした空条先輩からのもので。
二人して悲鳴を上げる事になる。
慌てて去夜君に、外出してでもきっちりカタつけて来い、私はこっちを何とかする!と言って二手に分かれた。
その後、生徒会室で下界(……)の修羅場見物をしていた文化祭実行委員の愉快犯が、去夜君の携帯に「Nice boat.(ナイスボート)」とメールを出した事に気付いた私は、慌てて学校を飛び出し去夜君の救援に向かう事になる。
さらに最寄りのファミレスで喧々諤々の言い合いをしていた彼等に巻き込まれた、というか混ざるハメになった結果、いつまでたっても帰ってこない私達に業を煮やした空条先輩に、元凶2人含めて全員を強制で呼び出され、みっちり説教された挙句後夜祭までこき使われたのは……いい思い出になったと言って良いのか…。
と言うか今回の一番の被害者は、行動力あるモトカノさんに巻き込まれた元友人の男の子だろう。まったくもってご愁傷様です。
今年の文化祭を空条先輩に散々イヤミを言われながらも何とか無事に乗り切り、真っ暗な中2人で家路をたどる。
さすがに時間も時間なので素直に直帰で送られてる。ぴーすけごめん。
お互い口数が少ないのは、やっぱ昼間の一件のせいだろう。
「ホントにごめん。深く反省してる」
「だからもういいって」
「うん、でも、ホントに悪かったと思っているから」
「さっきからそればっかだと、許したくても許せないだろ?」
「……ごめん」
「あー、もう!それ以上言うと口ふさぐよ!?」
私が言っても言っても謝るのを止めないので、いい加減いらっとしたらしい去夜君のその言葉に、ちょっと体が固まった。
何で塞ぐのかはあえて聞かない。後が怖いから。
それに、これ以上機嫌を損ねるのは得策では無いと判断して、大人しく口を噤んだ。
「俺も焼きもち焼くよ」
「え?」
「櫻はいつだって篠原優先するから」
「……うん」
そうかもしれない。また新たに反省材料が出てきてしまった。
「私、去夜君が何も言わないのをいい事に、ずっと甘えてた。でももう、友美をダシにしてあんな事言わない。決めた」
「え?」
そう決意表明すると、むしろ何故か驚いた顔された。
「彼氏がいるなら、そっち優先は当たり前だもんね」
微笑んで言う。
むしろ今までが特殊だったのだろう。
私と友美の関係が、私にとってどれだけ重要か去夜君が理解してくれていたから、それにずっと甘えてたんだ。
ほら、今も心配そうな顔してる。
「そこまで無理しなくても」
「しないよ。……“私が”去夜君優先したいって思ったの。もちろん、今まで通り友美を優先する事もあると思う。譲れない部分はきっとどうしたって出て来ると思うし。でも、さっきみたいに友美と去夜君比べて友美を取る様な真似は、絶対しない」
「櫻……」
「今日のは、明らかにマナー違反だったもんね。ほんと、ごめんなさい」
ぺこりと頭を下げる。
「……」
いつの間にか足は止まっていた。
お互い向き合って見つめ合う。
私は、少しだけ口角を上げて去夜君を見つめていた。
「俺も。ごめん」
あれ、何でか頭下げられた。
というか、なんだこの謝り合戦。
「例の女子の先輩の件、ちゃんと言ってくれて良かった」
「え?」
「あんな風に不快にさせちゃって、こっちこそごめんな。配慮足りな過ぎ」
苦笑された。
逆にこっちは焦る。別に謝って欲しくて言った訳じゃなくて、ある意味モトカノさんに対する当て付けみたいな物だったんだから。
それに、いつも通り私が一緒に帰ればこんな事にはなってなかった。
あの日去夜君が一人で帰る事になったのは、お互いの都合による、単なる偶然なのだから。
「あ、あれは」
謝られる事では無いと言いかけた私を遮る様に、去夜君が続ける。
「うん、櫻が俺の事信じてるからあえて言わなかった、ってのは、ちゃんと分かってる。でもさ、こういうのって黙って放置してると、かえってこじれるもんだろ?」
手が、私の頭に触れる。まるで撫でる様に。
それから、滑り降りる様に頬に触れた。
「気が付かなくて、本当にごめん。これからはもっと櫻優先にする」
「良いってば!十分良くしてもらてるよ!それに、それこそ、こっちだって」
「だからそれはもういいんだって」
さっきの事を蒸し返しかけて止められて、沈黙が落ちる。
去夜君の手はそのまま素直に下ろされた。
急な沈黙が、こう、いたたまれないって言うか。
何か、言った方が、いいの、かな?
「あの、えっと、そ、そういう訳でこ、これからも末長くのお付き合い、しても、いいかな?」
と、とりあえず仲直りだよね!?と手を差し出す。
どういう顔していいか分らなくて、少しだけ口の端に笑みを載せる。
と、溜息を付かれた。少し上を向く去夜君をそのまま待つ事しばし。
手を引かれて、とん、と体が触れた。
引き寄せられたと気付くまで、一瞬間が開く。
私が状況を把握するのを見計らった様に、去夜君が口を開いた。
「………ていうかさ」
「え?」
「“してもいいかな”、じゃなくて、“してください”、だろ?」
白のままニヤリと笑う去夜君に、思わず顔の温度が上がる。
「…………して、下さい」
幾ばくかの逡巡の後、らしくなく小声で言う。
恥ずかしくて俯いた顔は、きっと真っ赤になっていた。
それは、間違い無く本心からの物だからで――――――
その後、教室内だろうと校外だろうと時間も場所も関係無くひっつき、恥ずかしいからと言って抗議しても先日の「友美云々」を持ち出し、そう言われると強くは出れない私にさらに大手を振ってベタベタする去夜君の姿が見られたと言う。
「いい加減にしないと無期限で接触禁止にするよ!!」
「ちょ!?」
ぴーすけを抱きかかえて盾にする私と、それに抗議する去夜君の、お互い必死の攻防が始まる。
えーと、じゃあまずキャラ紹介から。
元カノ
ツンツンツンツン……デレるタイミングがいまだによく分からなくて本人も困ってる。本当はデレたいの!><
小さい頃から周囲に甘やかされまくって育って来たので、今もちやほやされてないと気が済まない。それが当たり前だから。
下手に前世の記憶とかあったら、転生ヒロイン(悪役)になってたかも?
悪意がある訳ではない分、周りの被害も甚大。
白樹君とのいざこざがあって以来、周囲の見方も変わってきた為、何とか元の状態(女王様モード)に復帰しようと躍起になっている。
ここまで追いかけて来たのも、白樹君以上の彼氏候補たる男子が存在しないから!(元カノ視点)という理由によるもの。うん、メイワク!
本人、主人公含め誰も気づかないけど、プロローグに出て来た「~ちゃんは女王様だからね」の女王様は彼女でした。
元友人(男)
むしろ友神。白樹君的にじゃ無くて人間性的な意味で。
白樹、元カノ双方の事情が色々バレた後、どういう訳か元カノさんに相談されていて(グチ?)困惑気味。
突き離せなくて面倒見ている内に、気が付いたら逃げ場が無くなった。
あれ、いつの間に俺ら付き合ってる事になってんの?みたいな。婿入りとか聞いてないんだけど?みたいな。
ダルデレとはまた違う感じの、ギリギリまで突き放す冷酷系デレというか、ダウナー系デレというかで、これ以後、元カノさんといる時は基本ローテンション。
本性は案外ほの黒い。(白樹君の)同類……?
うっかりをやらかすのは白樹君だけじゃ無くて、主人公もだという事です。
あれ、もしかして割と知られた事実だった?
現実に生きる2人だから、喧嘩もするし、やな感情を持つ事もある。
ちなみにこれ含め、亀裂入ったなと感じる位の危機は3回。
うち解消の危機2回。
暴力行為がない一方、やらかした舌戦は数知れず。
意外に喧嘩ップル……?
群衆に見守られる中、元カノとバトルとか。
やったね、さっきゅん!バカップルレベル上がったよ!
ちなみにガーデンティーパーティ・メンバーの嫉妬度(学フ○リ準拠)は、
嫉妬深い 東雲愉快
結構気にする 白樹去夜 天上岬
少ししか気にしない 観月輝夜 篠原友美
全く気にしない 椿三十朗 木森浩太 央川櫻(むしろ自責班)
好きになると気にする 空条明日葉 大寺林国良
でした!




