80話 前哨戦
レイラとミリアン·マグリミスの決闘が決まってしまった。
ミリアンはこのアングリッタ国ではそれなりの立場にある公爵家令嬢だそうだ。
では何故そんな奴が剣なんて振り回しているのかと言えばその理由は至極単純だ。
ライル·グラニエール、彼を心酔している彼女が彼を最も近くで見る事が出来る特等席、それが王立騎士団所属の首席騎士見習いと言う立場だそうだ。
この国には国営軍隊がある、まぁこれはどこの国にも当たり前にある組織で国としては当然の備えだ。
国営軍隊の主な戦力としてこれまた当然だが軍人、人がいる。
その人を軍人に育てる為の機関として騎士養成学校が存在し、それも俺が今通っている技術学院の1つの専攻科目として存在しているのだ。
そこの首席として彼女は厄介にも多くの生徒から分厚い信頼を得ており、お姉様だとかミリアン様だとか言われ、慕われている。
学院に通う多くの令嬢を従え、ある種の姫騎士集団を結成し、この学院の一つの権力として君臨している。
なんなら親衛隊みたいなのもいるらしく厄介なのに絡まれたと言わざるおえない。
正直あのグラニュー糖の決闘を適当に受けておいた方が得策だったと今は後悔している。
そして俺達にこれ等の情報を与えてくれたのが彼女、ナナリア·シュタイナー嬢だ。
「いやはや、面倒くさい事になっちゃいましたね、アルフィダさん」
「はは…ナナリア嬢が楽しそうで何よりだよ」
「ふふ、それでレイラさんは彼女に勝機はお有りなのですか?彼女、見習いとはいえ首席の実力ですよ?」
「戦ってみなければ何とも言えませんね、私は彼女の実力を知りませんし…ただアルフィダの名誉の為にも負けるつもりはありません」
「そんなもん、気にする必要はないんだがな…」
「申し訳ありません、しかしこれは私個人の意地の問題です、アルフィダには悪いですが付き合ってもらいますよ?」
「まぁ精々頑張れ…程々にな」
正直な所を言うと首席だか何だか知らないがたかだか学生に多くの戦場で実戦を経験して来たレイラが遅れをとるとは思えないがこの学院のレベルを見定めておくためにも今回の決闘はまだ意味がある方だろう。
と…無理やりにでも意味を持たせておきたいのが正直な所だ。
それに人生てのは何がおこるか解らないのもまた事実。
あのお嬢様が秀でた才能を持っていて独学で実戦を潜り抜けて来た傭兵に匹敵する実力を持っていた。
なんて結果も絶対にないなんて事はないのだ。
実際に戦場を渡り歩く者にとって油断は一番の強敵になるのだから…。
「じゃ、私はコレで失礼しますね、お二人共」
「ああ、色々教えてくれてありがとう」
「ありがとうございました、ナナリア様」
「ふふ、じゃーね!」
ナナリア嬢は他に用事があるらしく慌ただしく席を立ち何処かに小走りで立ち去って行った。
俺とレイラも聞きたい話は聞けたのでここにもう用はない、フューフェ嬢に貸し与えられている部屋に戻ろうとすると今度はある一団が道を防ぐ様に俺達の前にやって来た。
「何か?」
「私達はミリアン·マグリミス様親衛隊です、貴方がレイラさんですね?
貴方がミリアン様と剣を交えるに足る人物か、試めさせてもらいましょうか?」
「もし、その域に達してないならミリアン様の高貴なる剣を受ける資格など無いと知りなさい。」
「全く、何故貴方のような方が…!」
また随分とネジ曲がった感性というか、趣向の持ち主達だ。
ミリアンへの忠誠心…いや、憧憬が過ぎればこんな風に向う見ずな行動に出れてしまえるのだろうな。
「私は貴方方と剣を交える理由がないのですが?」
「お逃げになさる気かしら?」
「聞けば貴方?傭兵の身分であの変わり者のフューフェ嬢に拾われたのだとか?」
「ふふ、辺境の傭兵等を匿ってあの方は何をしたいのやら」
「それは貴方方には関係の無い話だと思いますが?」
「口には気を付けなさいな?辺境傭兵如きが偉そうに!」
「私はもう傭兵ではありません!主を守る騎士です。」
「クスクス…騎士ですって?」
「薄汚い傭兵如きが偉そうに?」
「そちらの殿方も貴方も同様に騎士を名乗る薄汚い蛮族でしょう?けがらわしい、ミリアン様やグラニエー様も貴方方みたいな騎士未満に愚弄されてはたまりませんね!」
「言いたい事はそれだけですか…」
「おい…レイラ…」
マズイ…どうやらこの女達はレイラの逆鱗に触れてしまったらしい。
「そこまで私達の力を拝見したいというのなら見せて上げましょう…ミリアンを倒す前の前哨戦とします。」
「なっ!?」
「生意気なァ〜!」
「ミリアン様を呼び捨てに…!!?」
「もう許せませんわ!その生意気な態度を矯正して差し上げます!」
「ついてきなさい!!」
「……。」
「はぁ…」
彼女達に同行してやって来たのは中庭の広場の様な所だった。
周囲には野次馬がポツポツといる。
完全に見せ物だなこりゃ…。
ただ流石は貴族様なだけあって賭けや競りの対象にはされていないらしい。
これが下町やそこらの村なら直ぐに賭けの対象にされていた事だろう。
まぁ面白い見せ物にされているのは間違いないのだが…
どうやらこういう事はたまにあるのか生徒達の反応に驚いたところは見られない。
真面目に授業を受ける優等生など富や権力が約束された貴族達には無縁らしい。
「レイラ…程々にな、」
「了解です。」
多分了解してくれてはいないのだろうな…
完全に目が据わっているし。
「ふふ、皆さんの前で恥をさらしなさいな!」
ミリアンの取り巻きと思われる女の一人がレイラに斬りかかる。
ちなみに技術学院に在籍する生徒には模擬刀、つまりナマクラが支給されている。
生徒間で本物の実剣を持った決闘等されて死者が出ては問題なので当たり前の処置だがそれでもケガ程度は普通にあり得る。
しかし将来国の矛として実戦を経験しなければならない騎士見習いにとってそんな理屈は通らないのだ。
「でやぁーー!!」
ミリアンの取り巻き女その一はレイラに斬りかかる。
相手の動きや仕草、構えなど何も警戒しない我武者羅な突撃だ。
そんなモノは当然。
「……、」
「はえ?」
レイラは最小限の動きで取り巻き女その一の攻撃を捌く。
女が突きを放てば剣の刃先でこれをいなし、大上段から斬りかかればひらりとこれを避ける。
まるで相手の動きが見えているかの様な華麗な体捌きで取り巻き女その一の攻撃を交わしきっている。
「この!てや!どうっ!して!?当たりなさいよ!!」
「………、………はあ…」
「ため息!!ためっ!息っ!!この!この!」
取り巻き女その一は間髪入れずに攻撃の手を緩めず攻撃をレイラに加えるがその攻撃の全てをレイラは涼しい顔で防ぎきった。
「ハァハァハァハァ!くっ!ハァハァ」
「……もう終わりですか?」
「ハァハァこの!ハァハァこの!!」
女その一は諦めずレイラに挑みかかるがあっさりと歓心の一撃は避けられ、カウンターの一撃をレイラから貰ってしまう。
「かはっ!!?」
始めてレイラの攻撃をもろにウケてしまい、その痛みから満足に立ち上がれなくなってしまう。
「貴方では相手になりません、もう降参してはいかがですか?」
「この…!この!貴方達も見てないで手伝いなさい!!」
他の取り巻き女達も決闘の場に乱入…いや決闘者の一人が希望しているのなら正確には乱入にはならず参加が正しい事となる。
しかしそれはレイラにとっては乱入に相違ない。
「……独り相手に多勢で相手とは、騎士道精神と言う物が貴方達にはあるとおもっていたのですがね?」
「貴方の様な野蛮人には騎士道精神など重んじる必要はなくてよ?」
「私達の連携の前にひれ伏しなさいな!」
「その生意気な態度!改めなさい!」
「はぁ…」
実際の戦場には、多勢の敵を相手取り事など珍しくもなんとも無い。
レイラもそんな経験幾度とこなしてきた。
彼女達の浅はかさは多数で囲めばレイラを倒せると、そう判断した事に他ならない。
4人対1人の一方的にも思えた決闘もどきは蓋をあければ一方的で、誰もが予想した結果とは異なる展開に終った。
「どうして…」
「いだいぃ…」
「あぐぅ…」
「こんだのへんん…」
「はぁ…」
ため息をこぼしたレイラは模擬刀を鞘に戻し、アルフィダの下に戻る。
その顔は何処か晴れやかだった。
「お疲れさん」
「いえ、無駄な時間を取らせてしまいました」
「いや、参考になったよ、色々とな」
「なら良かったです」
この学院の生徒の基礎戦闘力はなんとなく理解できた。
やはり学徒ではこんな物だろう。
アルフィダはレイラを伴い広場を後にした。
「あぅ〜いだいぃ〜」
取り巻き女達はレイラに打たれた部位が痛くてまともに身動きも取れない有り様だ。
そんな中で戦列に加わらなかった取り巻き女の1人がただじっとレイラとアルフィダをみていた。
その目に好奇の色を宿しながら。




