75話 告白みたいなモノ
暗雲が裂けて太陽の光が差し込む。
誰が言い出したのか知らないが天使の梯子と呼ばれているらしい現象だ。
周囲は水を含んでぬかるんでいる。
雨が降っていたのだろう。
空からかかる自然の照明がシェインとフィーファを照らしてくれていた。
ネメジス。
神様が作ったとされる精神思念体。
それがフィーファの体のなかにいて、フィーファ自身を支える核となっている……らしい…。
シェインには難しい話はよくわからないがこのネメジスはフィーファ自身、そしてフィーファの母親、さらにその母親である祖母。
そしてそのまた母親と。
レスティーナの先代王女達の体を渡り、繋いで来たのだという。
フィーファが絶大な魔力総量を持っている理由。
それはひとえにネメジスの影響だとはフィーファ自身の言葉だ。
もっともその力は人の肉体で扱える様な代物では無いらしく力の行使は自身の死を意味する。
あの黒髪の女が旧結婚式場跡地に封じられていたのは驚く事にネメジスへと半覚醒したフィーファの母、エルミナによって無意識に成された物であるらしい。
「私の母、エルミナの……、いえ、ネメジスの作った障壁、結界に閉じ込められ、彼女は10年以上もの間あそこから抜け出せずにいたみたいです、あれだけの化け物を一箇所にとどめ続ける程の力、想像するだけで恐ろしいですよね…」
まるで自分もその化け物の一人だと自ら公言しているかのような論調で話すフィーファ。
不安なんだろう、不安でない訳がないのだ。
「あの黒髪女は…どうしてエルミナを…ネメジスを殺そうとしたんだ?」
フィーファの両親、エルミナとアングリッタ元王子の政略結婚の式場に突如現れ、その圧倒的力を見せた黒髪の女、
ガノッサもレスティーナ王もみな彼女の力を神と誤認する程の物だった
彼女は何故、エルミナを、ネメジスを殺そうとしたのか。
「わからないです…ただ、彼女の執念、怒りは途方も無い物だった…、誰かをアソコまで憎悪出来るほどの怒り……私は、過去の私達は…何をしたのでしょうね…」
("私達"…か……)
フィーファの中には自分以外に自分の母親の記憶、思い出がある、もしかしたらそれ以前の…祖母とその前の先代王女達の記憶も…、
それはいったいどんな気持ちなんだろうか。
自分の頭のなかに他人の記憶、思い出があるとはいったいどんなものだろうか、そんなのわかりきってる。
俺なら気持ち悪いと思うだろう。
自分の体は自分のものだ。
そんなの考えた事もない、当たり前の事だから…。
しかしフィーファにはその当たり前が適用されない。
彼女のなかには他人の記憶がある。
「フィーファ……」
「?……なんですか、」
「カイン…、あの仮面騎士の正体は俺の親父…バーミントだった。」
「シェイン……」
「俺はアイツが許せない、母さんを捨てて、俺を捨てて、今度は俺をコマとして利用してやがる…俺はアイツの道具じゃないしアイツに譲ってやるつもりなんか何も無い。」
「…………。」
「アイツはフィーファのなかにいるエルミナとの再開が目的なんだろう、それを悲願だのなんだのとほざいてやがる未練がましい情けないヤツだ。って」
「シェイン……彼は…バーミントは……」
「いいか、フィーファお前はお前だ、フィーファ・レスティーナだ!それ以外でも何でもない俺にとってフィーファはフィーファなんだ!」
「…………、」
「同情なんかしないししてやらない、エルミナもバーミントも関係ない!俺はフィーファをアイツにくれてやらない、俺は俺の女を決して手放さない……絶対に!」
「シェイン……」
フィーファの頬が赤く染まる。
ここまでシェインが気持ちをあけすけに打ち明けて来たのはおそらく始めてだ、
もはや告白といっても何も差し支えない。
こんな言葉を投げかけられて嬉しくない訳がないのだ。
「私は重い女ですよ…コレからも色々迷惑をかけます。
それでもシェインは私なんかがいいの?」
「上等だ、かかってこい!」
「まったく、貴方は…将来は絶対に結婚して祖父の後を継いでもらいますよ?」
「え?俺王様になんの?」
「当たり前です、私を放さないと言ったんです、なら将来貴方には王様になってもらわないと困ります!」
「おおう、うぐぐ、うぅーー望む所だ!やってやるよ王様ぐらい!」
「期待してますよ、将来の王様!……ふふ、」
「どうした?」
「いえ、つくづく貴方に会えて良かったなって」
「はッ…恥ずかしい事いうな…」
「テレてるんですか?」
「うっさい!」
「ふふ、」
二人は空を見上げる。
雲を裂いて地上に降り注ぐ天の階段を見上げながら
これからのことを考える。
シェインはフィーファに聞けずにいた。
何故突然ネメジスの事についてそこまで博識になれたのか。
バーミント…仮面の騎士カイン奴と何があったのか。
彼女は話そうとはしない。
フィーファの中に彼女の母、エルミナの記憶がある。
カインはフィーファを狙ってやって来る。
守らなければいけない。
もはやなりふりかまってはいられない。
あの力、ユーディキゥムに頼らなければならない。
その時が来たのだとシェインは改めて覚悟わを固める事になる。
「そういえばアイツ……何処行ったんだ…?」
「アイツ?」
「ほら、フィーファにそっくりな突進女、モルタってやつ」
「あぁ、彼女ですか…」
「近くにいるはずだけど…何処行ったかな?」
キョロキョロとモルタを探すシェイン。
しかしこの一帯に彼女はいなかった。
モルタを気に掛けるシェインにフィーファは強烈な違和感を感じた
何故あんな無警戒に彼女を探しているのか。
シェインもフィーファも一度あのモルタなる少女に殺されかけている。
もっと警戒して然るべきなのに……
「シェイン、何故あの子の心配をしているのですか?」
「え?いや、あんな力を持った奴を野放しには出来ないだろ?誰かが力の使い方を教えてやらないと……」
「そんな事シェインがする義理は無いじゃないですか!」
「そうはいかないだろ?それにアイツも悪い奴じゃない、多分誰かに利用されて……」
「シェイン!!」
「え!はい!……え…」
「しっかりして下さい、貴方は彼女に、殺されかけたんですよ?そんな事では殺されてしまっても誰にも文句言えないんですよ?」
「………、フィーファはそれでいいのか…?」
「え…」
「アイツはネメジスの偽物だと言われていた、それってフィーファの力…ネメジスの力を欲してる奴がいるって事だろ…?ほっとけ無いだろ、そんなの…」
「……、シェインは…優しすぎます……」
「そんなんじゃない、だって悲し過ぎるだろ、偽物って呼ばれるだけの人生なんて……」
結局モルタを見つける事は出来なかった
それでも時間は進んでいく。
シェインとフィーファは諸々の懸案を残しながらもアングリッタへの旅を続行するしか無かった。




