73話 白と黒
シェインの眼の前にはあの時カラッタ村で見た時そのままの姿で…しかしあの時感じた威圧感すらもそのままに仮面で素顔を隠した黒衣の男が立っていた。
まるでシェインがフィーファの元に行くのを阻む様に。
「…………。」
「そこをどけよ、仮面男」
仮面騎士はおもむろに剣に手をかけそれを抜刀。
抜き放った剣をそのままシェインの方へと向け言った。
「通りたければ私を押し退けてみよ、出来なければお前にここを通る資格はない。」
「……ちっ。」
シェインも剣を抜く。
互いに剣を手に持ち二人はにらみ合う
もっとも対峙する騎士は仮面を付けている
睨みあっていると思っているのはシェインだけで相手はシェインなど眼中に無いのかもしれない。
それでも、シェインに取れる道は一つしかない。
仮面の黒衣騎士に挑み勝利する。
(奴が力を使う前に…畳み掛ける!!)
シェインは騎士目掛けて走る。
早く早く、何よりも早く、体格を活かし相手を翻弄する為にフェイントを織り交ぜながら敵に挑みかかる。
無論目を凝らす事も疎かにしない。
敵を凝視しその動作の一つ一挙手一投足を見逃さない。
アンティウス流は相手を見る事が基本だ。
息遣い、呼吸、目の動き、その全てに意識をやる。
この相手は仮面を被っているため、大部分は隠れていて見る事が出来ない。
しかし息遣いや呼吸は被り物をしていても聞こえる
シェインは仮面騎士と剣を切り結びながらも一切の隙が生まれない様に立ち回りそれでいて相手の隙を見つける為の立ち回りを休まずに続ける。
しかし、
(こいつっ!?)
そのシェインの行動の一つ一つがまるで先読みしたかの様に、ことごとくがいなされる。
まるで子供扱い、実際に子供が大人に挑む構図なので語弊は無いのかもしれない。
しかしこれまで重ねてきた多くの敗北と勝利の経験はシェインの成長に間違いなく大きな貢献を果たしている
それでも届かない
まるで解っていると言わんばかりに見切られている
これではまるで……、
シェインは攻めるのをやめ相手から素早く後退し、距離を取る
息が上がる、気づけば肩で息をしている自分に気づく
「はぁはぁはぁ……くそ」
「どうした?それで終わりか?」
「どうしてだ?どうしてお前なんかが…?」
「………、」
「この!!」
シェインは身を深く沈め足をバネのように跳ねさせ重力を振り解く勢いで駆け出す
爆発を想起させる程の瞬発力をもって一気に仮面騎士に迫る、そのままスピードに乗って一気に剣を振り抜く
(アンティウス流…奥義!!)
「邪滅渾身斬!!」
アンティウス流奥義に数えられる技を繰り出す
しかし
「邪滅渾身斬」
「なっ!?」
仮面の騎士はシェインとまったく同じタイミングで同じ技を繰り出した
二人の剣がぶつかり合い二つの技は互いの力の接触により相殺、されることは無く反動はシェインにのみ帰ってきて、そのまま余波によって吹き飛ばされる。
「ぐはっ!?」
同じ技のぶつかり合う衝撃は威力がある程度拮抗していれば相殺される、シェインにのみその衝撃が帰ってきたその意味、それは…その理由は至って単純。
相手の技量がシェインを上回っていたというだけの話だ。
しかし、それではおかしい
「なんで…、何でこんな……」
この世界でアンティウス流を使える人間はシェインとアルフィダだけの筈。
この男がアンティウス流を使える事。
それ自体がおかしいのだ。
「なんでお前がアンティウス流を使えるんだ!?」
「わからないか?」
「はぁ!?」
「考えてそれでもわからないなら仕方ない、しかしお前は一つの可能性を無自覚に無視しているのではないか…?」
「はぁ?アルフィダ以外に兄弟子がいるとでも言うのかよ」
「お前にグライン・アンティウスが剣を教えたのは私が彼に頼んだからだ。」
「は?」
「彼はお前に技を、そして人としての常識感情を教えた。私が願った様にな。」
「何言ってんだ…お前…」
「まだとぼけるのか?気づいている筈だ、私がお前にとってどういう存在か……」
「お前……、お前が……。」
「久しぶりだな、シェイン…もっとも最後にお前の顔をみたのはまだお前が物心付く前の頃だったか。」
「お前がぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
シェインは駆け出す、今までの比ではない速度で。
感情を暴走させて、ただ純粋な怒りに任せて。
気持ちのままにありのままの殺意を乗せて。
シェインは仮面の男に
父、バーミントに向けて剣を振るう
ガキンと剣と剣がぶつかり合う音が花の世界に反響する
ギチギチと刃同士が重なり合う火花と刃こぼれ、鍔迫り合いの音が二人を包む。
「何故俺達を捨てた!何故母さんを!俺を捨てた!!
答えろ、バーミント!!!」
「その名は今は捨てている、今の私はカインだ。」
「そんな事はどうでもいい…俺の質問に答えろ!!」
「お前と話す事等無い、それと…」
「っっ!!?」
「子に名指しで呼ばれる言われはない!」
「ぐぼぉ!!?」
シェインのみぞおちに強烈な拳の一撃が入り力の拮抗が崩れ、シェインと仮面の騎士カインの力比べはカインの勝利に終わる
「何が子だ、俺はアンタを親父だなんて死んでも思いたくないね…。」
「ならば死ぬか?」
「へっ、最低の糞ヤロウだな、アンタ。」
「承知している、だが我が悲願のためその糧となれ、シェイン…、いや、アベル」
カインから黒い力が噴出る、彼の体が黒に侵食され、黒そのものへと変化していく。
見たことがある。
カラッタ村で一度対峙したあの姿。
絶望の具現。
死の可視化。
成る程、コレが相手ではモルタですら持たないだろう。
これは存在そのモノを否定するアンチの擬人化だ
「アベル、抗ってみせよ、お前の存在全てをかして。」
「くっ!?」
黒い波が押し寄せる。
コレに飲まれれば存在そのモノが消え去る。
きっと戻って来れない。
生き返るなんて都合の良い奇跡はこの力の前では意味を成さない
そんな事は自分が一番よく理解している
何故なら自分も同じだから
黒が迫る、飲み込まれる、人間は危機が迫れば条件反射で自分を守ろうと防御行動をとる
顔の前に手をかざす
自然な防御行動は本能に組み込まれた習性だ
だからこそ、その防御行動としてシェインも手を伸ばす
白い世界へと、
泳ぐ事をイメージする。
シェインは海に行ったことはない。
だから泳ぐと言った行動に理解はない。
それでも泳ぐという行為をイメージ出来たのは
人間が持つ太古のイメージからか。
白い世界を掻き分け、前へと進む
白い白い何処までも白い世界の中心へ、
その世界の中心にはかならず彼女がいる
「また会えたね、」
あぁ、
「それで?」
貸してほしい…
「何を?」
力を…
「力?」
あいつに勝つ力を貸して欲しい
「それは出来ないよ、」
何故だ?アンタは神様なんだろ?だったらあいつに勝てる力を持ってる筈だ!力を…力を…
「君に力を貸す事は出来ないよ」
どうして!?
「だって力は既に君に渡したから…」
俺に?
「うん……」
俺の…力…
「その力は既に君の物だ、私が創造したものなら何だって壊せる、消してしまえる、神が創造したもの、そして神そのモノを消し去る力だ、」
なんで俺にこんな力を…?
「僕の悲願。」
悲願?
「その力でいつか私を殺して…」
は?
「君はきっと目覚めてしまえば忘れてしまうだろう、でも私は待ってるよ、君が私の所に来てくれる日を。
その時は私を……殺してね………。」
黒い波が押し寄せる
しかし恐怖はない、シェインもまた白い光に包まれる
黒い波の中に光る白い光
それはさながら闇夜に浮かぶ白い月の用で幻想的ですらあった。
白と黒、無を体現した2つの色はぶつかり合い混ざり合うこと無く拮抗する。
「ググッ……」
「無駄だ、覚醒したとて私にお前が勝てる道理は無い、諦めて我が糧となれ、アベル。」
「あぁぁぁああぁあぁぁぁぁ」
白い光はやがて黒に飲み込まれようとしている。
それでも
シェインは生きたいと思った。
生きたいと願った。
だから精一杯抵抗する。
「アンティウス流……いや……我流奥義……六移奏紋翼」
師から教わった剣が全てではない。
人は常に成長し、進化する。
多くの人達との戦いを経て様々な人達の生き様を見て
自分に足りないものを常に模索してきた。
勝利することは大事だ、前に進めばその先があるのは理解出来る。
でもそれでは見えない物がある。
立ち止まりその場の景色に思いを馳せる事もあるだろうけど、シェインはそれが悪い事だとは思はない。
師から学んだ剣を極める、それがシェインの全てではない。立ち止まり、学び、糧とする。
そうして経た自分だけの剣技
6つの白き光は荘厳な音を奏でカインに飛来する。
「小癪な!このような目眩ましなど!!」
しかしカインはそれすらも黒い波で消し飛ばしその力を己を持って体現する。
所詮付け焼き刃。
神の力を身に着けたとてそれはカインも同じ
無を象徴する白と黒
この2つがぶつかり合った場合その拮抗は力の所有者に依存する。
体格差、戦歴、経験、何もかもがカインに比べシェインには足りない、敗北は決定している。
しかし、
それでいい。
この場合、シェインにとっての勝利条件はカインに勝つ事ではない。
「貴様…!!」
「フィーファは返してもらう…。」
カインを退け、シェインはフィーファの座るイスの前に立っていた。
シェインの勝利条件。
それはフィーファの救出。
それだけである。
元々シェインは自分とカインに彼我の実力差があることをしっかりと理解していた。
ノリや勢いでそれを乗り越えれる等と都合のよい奇跡など起こらないと理解していた。
そんなことはこれまでの敗北で痛い程理解してきた。
わからされてきた
だから自分に出来る精一杯を熟す。
それに徹底する。
「今の俺じゃアンタには勝てない、だけどいつか、アンタのそのダサい仮面を剥ぎ取って素顔のアンタの顔面をぶん殴ってやるから楽しみにしてろよ…」
「逃げられると思っているのか?」
「思ってるさ。」
シェインはおもむろに剣を掲げる、青白い光を纏った歓喜の剣は神によって創造されたモノを破壊する。
神に作られたモノを消滅させる神殺しの象徴だ。
「じゃあな…糞オヤジ」
空間を切り裂きシェインはその中にフィーファと共に駆け込む。
カインが駆けつけたときには其処には何もなく、花の世界にはカインのみが残されていた。
「あらら、逃げられちゃったか。」
そこに青いフードを被った男が音もなく現れる
彼は軽率そうな笑みを浮かべせせら笑う様にカインに話しかける、
「悲願の成熟はお預けだな、カイン?」
「時間はまだある、急ぐ必要はない、それに、」
「それに?」
「アレが成長すればそれだけ合一した時の価値が上がる、」
「成る程ね、真のユーディキゥムの開放、それは俺の願いでもある、なら今一度、あの少年に刻を与えるのも一興か、それはそうと…」
「?」
「久方ぶりの親子の対面だが、お前に迷いはないのかな?」
「当然だ、私の悲願、エルミナとの再開の為に私は全てを捧げた、そこに後悔はない。」
「そうか、ならいい、期待してるよ、バーミント」
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