67話 フィーファの正体
フィーファが目を覚ますとそこは一面が花で覆われた草原だった、気候は穏やかで寒くも無ければ熱くもない、とても居心地のいい場所だ、
先程までは少し肌寒さを感じていたので身で感じる違和感から周囲を見回すがただ見回す限りの花々が何処までも続いていて呆気に取られる
先程までは大きな風車がある町外れの渓谷にいたはずが何故自分はこんな所で寝ていたのか、疑問は尽きない
そこでフィーファは大事な事に気づく
「シェイン!、シェインは!?」
やはり周りを見回しても結果は変わらない、花びらが風に乗ってユラユラと大空に幾つも舞い上がっている光景が広がっているだけだ
そしてそんな舞い上がっていく花弁の一つを目で追っていると余りに非現実的な光景を目の当たりにしてしまい、驚愕の余り口からへ?と声が漏れてしまっていた
空に幾つものモノが浮いている
人工的に作られた建築物、建物、馬車や日用品、見た事もないモノもいくつか含まれている、種類が豊富過ぎて判別がきかないが大空の向こう側、
ずっと先まで見回してもそれらは続いている、重力、質量の法則に真っ向から喧嘩を売るような事象が目の前には自然と広がっていたのだ
「何なんですかここ……、それよりもシェインは何処に……、」
「目が覚めた様だな、レスティーナの新たな姫君」
「っ!?」
振り返るとそこには真っ黒な、全身を黒で塗りつぶしたかの様な仮面の騎士がいた
「貴方は……」
フィーファにそっくりな少女、モルタに殺されそうになり、そこを彼に助けられたというのは覚えている、しかし途中からの記憶は無くあの後自分が意識を失っていた事になる、
つまり彼は何らかの方法であの化け物、モルタを退け、フィーファをこの訳の分からない場所に連れてきた張本人となる、
なんの目的で何を考えてその様な行動に出たのか、その疑問は尽きない、
「そう警戒するな、君に危害を加えるつもりはない、」
「なら何が目的なのですか、私の身柄をダシに祖父となんらかの交渉でもしたいのですか?」
「あの老人に興味はない、私は君に用があるのだ、………もっとも……」
言葉を途中できった仮面の騎士はズカズカとフィーファに歩み寄って距離を詰め、彼女の胸の前で人差し指をさして止め、おもむろに言い放った
「真に私が会いたいのは君ではなく君の中にいるもう一人の君だがな」
「はぁ?」
「理解しているハズだ、君自身の中に君以外の存在があるのを、君は…いや、君自身の事だからこそ、誰よりも……ね?」
「馬鹿な事を言わないで!私は私です!それとも貴方は私が多重人格者だとでもいいたいのですか?」
「多重人格か…面白い見解だ、だが残念ながらそうではない、もう一人の君とは言ったがどちらも君自身だと私は認識している、君は見ている筈だ、記憶にない筈の夢の思い出を、それを自分の記憶だと根拠なく受け入れている筈だ、」
「それは…、」
図星だった。
フィーファは幾度か夢で見ている。
記憶にない筈の記憶、思い出を。
楽しそうに男性と談笑する記憶。
何かに対して必死に刃物を振り下ろす記憶。
その他にも様々な記憶を見ている筈だが記憶に靄がかかった様に思い出せない。
しかしいずれの記憶も遠い遠い過去に体験した大事な思い出……の様な気がする。
「貴方は一体何なんですか…何故そんな事を私に言うんですか?そもそも何故顔を隠してるんですか?名を名乗りなさい!」
「名か…名など個人を特定するだけの定義に他ならない、意味のない物だ、だがどうしてもというなら……カイン、そう呼べばいい、」
「カイン…それは貴方の真の名、ではないのでしょうね……」
「言った筈だ、名は他者と己を隔てる定義であればいいと、」
「ならそれでいいです、…ではカインさん、貴方が私をここに呼び込んだのは何故です?何故私にあんな話をしたんです?貴方は私の何を知ってるんですか?」
「フィーファ・レスティーナ、君は君自身の事を知らなさ過ぎる、少しは君自身の事を知る切っ掛けがあっても良いとは思わないか?」
「貴方が教えてくれるとでも?大変有難い事なのでしょうが結構です、自分の事は自分で知っていくモノだと考えてますので」
「悪いが君に拒否権は無い、君には君自身の事を嫌でも理解してもらう、この私の悲願の為にも」
「貴方の…悲願…?」
カインはフィーファへと歩みだす、このまま距離を詰められれば何をされるか分からない、そんな恐怖がフィーファの心を支配し、
「近寄らないで!」
と叫んでカインを牽制すしても当のカインが聞き入れる訳も無くフィーファとカインの距離はどんどんと近づいていく。
「それ以上近づいて来ないでください、攻撃しますよ!?」
「……、」
「脅しじゃありませんホントに本当に攻撃しますよ!」
「…、」
「こっ…この!!忠告…しましたからね!!」
フィーファはカインに向けて魔力砲を放つ、加減などしていない、本気の魔力砲をだ。
眼の前の相手が手加減などしていい相手でない事など最初からわかりきっている
この男に手を出されたなら何をされるか、自分がどうなるか分からない…そんな恐怖心がフィーファにこの男を近寄らせないための最善手を取らせる。
しかしそれが最善手でない事などわかりきってもいた。
男は蚊でも払うようにフィーファの魔力砲を手で払い落とす。
払い落とされた魔力は消えて消滅した。
最初からそこに何も無かった様に。
「これって……シェインのあの力……?ひっ!?」
シェインが黒髪の美女の前で見せたあの不可解な力。
美女の力を消滅させたあの力にこの仮面の騎士が使った力は極めて酷似していた。
だからこそフィーファは理解する。
この男はその気にならばいつでもフィーファを消せる、消滅させれる。
それを理解したからこそフィーファは恐怖する。
眼の前の死神に恐怖する。
「氷の刃よ、凍てつく衝撃となり……あぐっ!!?」
「……、」
フィーファの得意とする氷の呪文を唱え始めた矢先、カインはフィーファの頭を鷲掴みにして持ち上げる、
口を開く事も出来ず呪文の続きを唱える事も悲鳴を叫ぶ事も慈悲を懇願する事も出来ないまま高く持ち上げられる。
「フィーファ・レスティーナ…君のその肉の体は脆い、器として欠陥品だ。しかしネメジスは君を、君達レスティーナの血を引く女達の体を依代として選んだ。私が愛した女と同じ様に、君もいつかはネメジスによって滅ぼされるだろう、」
(私が…ネメ…ジスの依代……?滅ぼさ…れる……?)
「君が……君達レスティーナの姫君達が生まれついて高いオド、体内魔力を保有していたのには理由がある。君が内向する、君の内に眠るネメジスは神が創造した高次元体、覚醒せずして人の規格から外れた魔力量を一介の人間にもたらすのは当然の事だ。しかしそれ故レスティーナの歴代姫達は短命だった、当然だ、只人たる人間の体では神の兵器、ネメジスを内向し続ける事など不可能だからな。」
(死ぬ…?私が…?)
「きゃ!?」
カインはおもむろにフィーファを投げ飛ばしてしまう、突然投げ飛ばされ地面に倒れこんだフィーファの口から悲鳴が漏れ出る。
花々の絨毯が無ければ怪我をしていた事だろう…
しかしそんなフィーファの苦痛はフィーファの目の前にある物体を視認した事で頭からかき消えて無くなってしまう。
「こ…これって……」
目の前には大きな、人一人分くらいの大きさの結晶の塊がある。
そしてその結晶のなかには実際に人の影が見える、結晶は天から伸びる無数の鎖によって天に吊るし上げられていて中にいる人を正確に見る事は難しい。
しかしフィーファは見間違える事はない。
それは自分に取ってよく知った顔だからだ。
実際に王城の絵画として壁面に飾られていたから見たことはあった。
ただそれ以上にあの顔をフィーファは見ていた。
夢のなかで、
美しい金色の髪
整った端正な顔の美女。
夢の中でそんな端正な顔を憎悪に染めて一心不乱に両手で何かを握りしめて何かに向けて振り下ろす金髪の美女
両手で何か…ああ…もどかしい。
あれはナイフだ!
そう、ナイフを握りしめ、怒りに任せて○○○○○を、これももどかしい…。
私…フィーファ…そう
フィーファに向けて振り下ろす
フィーファの中にある記憶、これは誰の記憶だ?
そんなのわかりきってる。
でもそんなのあんまりだ、信じたくない
でも、でも………
「エルミナ・レスティーナ…」
「え…」
「あの結晶の中にいる人物の名はエルミナ・レスティーナ……私が生涯愛した女、そしてフィーファ・レスティーナ、君を産んだ女だよ」
もしこの小説を読んで少しでも面白いと思はれたなら、ブックマークや、↓の★★★★★を押して応援してもらえると幸いです、作者の執筆モチベーションややる気の向上につながります、お願いします




