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ユーディキウムサーガ 父親に捨てられた少年は好きになった少女のために最強の剣士を目指す  作者: ムラタカ


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66話  存在価値

白と黒、対極にある2色は元来相反する物だ、

しかし無を表すのにこれ程ふさわしい色もまたないだろう、


白い色に染まった少年は無気力に、無感動にそこに立っていた、まるで感情が抜け落ちたように、

モルタはその少年と出会して強い違和感を感じたのもつかの間、直ぐ様先程の黒い仮面と同種の恐怖に支配された


あの少年はあんな感情の抜け落ちた顔をしてなかった…と思う、

別人に見える、そんな事を考えていた筈なのに次の瞬間には頭の中は、心は、恐怖に支配されていた


モルタの本能が、モルス・ケルタという存在としての本能が彼女に訴えかける


逃げろと、殺されると、


しかしモルタは限界だった、体力がではない

無論体力も限界に近かったがそれ以上に心が、精神が、既に限界だった、

目の前に死が、死という概念が具現化している。


この存在から逃げるなんて無理に決まっている、


だからモルタは今この瞬間に死ぬ事を受け入れた、

つまり戦意を手放したのだ、

それが彼女に生きる道を運命が与える切っ掛けになったなどと、彼女にとっては皮肉でしかないだろう、



戦意を失った“敵対者“への殲滅衝動がなくなり、力は四散する、シェインは剣を取り落とし、髪は白から元の黒髪に戻り、倒れ伏してそのまま意識を失った、


モルタも安堵からか疲れが体に行き渡り、抗い難い眠気に襲われ意識を失った









白い


真っ白な、


白い世界…、

昔から見てきた夢の中の世界

俺の見ている俺だけの世界

母親もロイおじさんも、村長も村の誰に話しても

子供の話とばっさり切り捨てて真面目に聞いてくれる人はいなかった


ただ昔はその世界には俺だけしかいないと思ってたはずなのに…そこには、その世界には先客がいたんだ、


顔も名前もどこの誰なのかも

わからない、

お前……

誰なんだよ……

名前…教えろよ…、



「わたしの名前…?…デューンテレス……かな?」



デューンテレス…?

それがお前の名前かよ…?



「名前なんていうのは個人を定義付ける記号でしかないよ…」



名前がないと不便だろ…

あって困る物でもない…



「そうなの…?」



普通そうだろ…



「やっぱり君……おもしろいね………」



別に面白い事いってないと思うけどな、



「そんなことはないよ…君は……君たちはおもしろい、わたしにはないモノをたくさんもってる、うらやましいよ」



うらやましい?



「うん、わたしは君たちを観測するのがたのしいんだ、君たちはわたしのしらないことをたくさんしってる、尊く、儚い、存在だよ…」



今日はよく喋るな、なんか意外だよ、



「それは君がわたしと近い所に来てるからだよ…君はわたしをより近くに感じてるからだよ…」



アンタを近くに…?



「そう、だから君はいつもよりわたしを感じる事が出来るんだろうね…」




デューンテ……レス……


って………言った……か、



お前………いった……い……な、



……ん……な……、

 


 …んだ……


   ・

    ・


   ・

      ・


  

  ・

    ・







「はっ!!?」


目を開けると青空が広がっていた、

さっきまで真っ白な、無色の世界ではない

良く知ってる青空が視界いっぱいに広がっている

体中のあちこちが痛い、

服はずぶ濡れで体に力も入らない、

実感がないが相当消耗してるようだ


周囲を見回すと大きな滝が見える


あの滝に落ちた筈なのにどうやってこんな所にいるのか、

俺はたしかにあの滝に落ちて溺れて死ぬかも知れない瀬戸際だったはずだ、

だが頭の片隅にある白い世界の記憶

なら…俺は……



「また、あの力を使った……って事か…」



あの力を使うと記憶が曖昧になる

自分が明確に自分では無くなる怖さ、

また、人の枠から外れた人外の力


自分が自分でなくなる恐怖、

自分ではないなにかが自分の体を勝手につかって

馬鹿みたいな力を使う、


そんなの……



「!!、そういえばフィーファは?フィーファは何処いった、」



気づけばフィーファの姿もない、

完全にはぐれた様だ、早く探し出さないとあのフィーファそっくりな化け物に……


「へ?」


フィーファを探しに行こうとフラフラと立ち上がり、辺を見回すと、フィーファではなくそのフィーファにそっくりな外見の…化け物じみた力を持った少女が倒れていた


この少女がここにいるならひとまずフィーファへの危険は棚上げしていいだろう、

問題はこの少女自体だ、



「このまま見過していいヤツじゃない……」



シェインは近くに落ちていた自分の愛剣…歓喜の剣を拾い、少女に向ける、この場で、この時に、殺しておかないと取り返しがつかなくなる、

この少女は…このフィーファそっくりな少女はフィーファの命を意味のわからない理由で執拗に狙う狩人だ、

今、ここで始末しておかないといけない、

だが……



こんな無力な存在を殺してホントにいいのか、

それで俺は誰かを守れるのか?

護ったと胸をはれるのか?


そもそもこの少女は今気を失っている、

完全に無力な状態だ、

見た目なんてフィーファそのものだ、

眠っている姿などフィーファにしか見えない、


来てる服や髪の色がフィーファと異なるからそこで唯一違いを見極め事が出来る、

それ以外の違いなど見当たらない、



「結局コイツ……何なんだろう…、あっ、」



型腕がない、膨張して膨れて巨大化していたあの左腕がなくなっている、

それ以外にも体中のアチコチがボロボロで放置していれば死んでしまいそうに見えた、



「何してんだ…俺は…」



自分にキレながら疑問符を向けるがシェインの体はスムーズな程に目的に向けて動いてくれる、

口元には無意識ながら笑みを浮かべているほどだ、



結局シェインはモルタなる少女を殺すのではなく生かす選択を選んでしまった、

自分でもそれが誤った行動だとは思っている、

だが意識を手放し、無力に横たわる傷付いた少女を殺すなどシェインには出来なかった

またその少女がフィーファ…好きな少女と瓜二つなら尚更手に掛けるなど出来よう筈が無かった。



木の枝を集めて火をつけ簡易的な焚き火をつくる、ずぶ濡れのままでは風邪をひいてしまうし、消耗した体に温もりはかせない、

少女の腕には止血をして木の枝や葉っぱで傷口を覆い

素人の出来る範囲の応急処置をする、

こういう場合の対処もグラインから教わっていたため、応急処置は滞りなく終わった、



「ほとんど意味なかったな…」



失った腕以外は周囲のマナが集まってみるみる内に治癒していく、この娘の特殊体質、あるいは能力によるものか、絶句する程の回復力だ、



「うぅ~、」



そうこうしてると彼女は目覚めが近いのか身じろぎした後くぐもった声を出し、薄く目を開け、上体をおこし、ボーと何処を見るでもなく目の前を見ていた、


しかし近くに人の気配を感じたのか、未だに覚めきらぬ頭でその気配の元、シェインの方へと頭を向け、そこでようやくシェインの存在に気が付く、



「よぉ……、」


「へ?…………、うわぁぁぁぁあぁぁ!!!???」



シェインと目が合いシェインを認識したモルタはまるで化け物と邂逅したかの様にまたもや顔の至る所から液体をまき散らし、涙目で逃げ惑う

その姿は先程までの無邪気な悪意はなく、彼女の精神年齢の幼さを露見させるだけだった



「殺さないで殺さないで殺さないで…、」


「おっ…おい…ちょっとまてよ…」


「殺さないで殺さないで…」


「べつに殺したりしない…だから落ち着けよ…な?」


「殺さないで殺さない……え?……ホントゥ?」


「え?……あっ…あぁ……本当だ……殺さない」


「でも、さっきはモルタの事、殺そうとしてた…」


「それはおま…モルタが俺たちを殺そうとしてきたからだ、大きな力を持ったヤツが殺そうとしてきたら、逃げるか戦うかしかないだろ?」


「でも!でも!モルタは…」


「それにお前はフィーファを殺そうとして来たんだ、俺はあの子を守ると誓った、絶対に殺させやしない」


「……フィー…ファ……フィーファ……ネメ…ジス…ネメジス……モルタはネメジスの…偽物…モルタは偽物じゃない!モルタは…似せ物じゃない!!!」



ゴワっ!とモルタから魔力が吹き出す、先程シェインが彼女と対峙した時よりは魔力が落ちているが脅威であることは何も変わらない、しかしシェインは臆せず彼女に思った事をそのまま伝えた



「何当たり前な事言ってる!モルタはモルタ、フィーファはフィーファだ、偽物とか意味わかんねー事言ってんなよ、」



「モルタは偽物なんだ!モルタは偽物なんだ!!」



叫びながらモルタはシェインに襲いかかる

爪を魔力で強化し、鋭利なナイフの様にして斬りかかる

シェインも黙って斬り殺されたりはしない、

剣でそれを受け止め二人の鍔迫り合いがはじまる



「だから意味わかんねー事言うなって言ってんだよ!モルタはモルタだろ?偽物とか本物とかそんなの関係ないんだよ!!」


「でもでもぉ…モルタは…」


「だいたい偽物とか本物とかだからどうしたって話だろ?お前はモルタでただ一人の人間だろ?自信もてよ、こんなけ強いのにそんなんじゃ勿体ないぞ?」


「勿体ない……?モルタは…モルタでいいの?」


「だからそう言ってる、モルタはモルタでいいんだよ、」



よろよろと後退しブツブツと独り言を呟くモルタ

彼女にとって始めてだったのだろう、

自分を肯定してくれる言葉を投げ掛けてくれる存在が



「モルタはモルタでいい、……、でもパパは偽物じゃ駄目だって……」


「そんなクソオヤジなんか無視しろ、だいたいお前がモルタじゃ駄目な理由とか俺は知らんし興味もない、そんなんはお前のオヤジがお前に勝手に押し付けてるエゴじゃねーか!モルタにはモルタとして生きる権利がある、生きていいんだよ!」


「モルタはモルタでいい、生きていい…。」



シェインは目の前のこの少女に自分を少なからず重ねていた、父親に捨てられた自分

父親に良いように利用され自身の存在理由がわからなくなってる少女

許せなかった

父親に言われた、たったそれだけの理由でここまで悩み、悔い、苦悩する彼女が、

そんなくだらない理由で自分を貶める彼女が、



「いいか?自分の価値なんか自分にしかわからない、他人に何言われた所で結局決めるのは自分なんだ、最後まで、それこそ死ぬまで自分の面倒を見てくれるヤツなんて、そんな都合いいヤツなんかいないんだよ!

だからオヤジなんか関係ない!偽物も本物も関係ない!自分で自分を押し通せばそれでいい、」



シェインは腹の中のモヤモヤを言葉に乗せ思った事を何一つ包み隠さず言った、

彼女の事を思って言った訳でも彼女を哀れんだ訳でもない、ただ腹立たしいから言った、

極めて自分本位、独善的な言動だった。


しかし当のモルタにとってはシェインの言葉はまさに青天の霹靂とでも言う内容だった

自分の存在価値、

それを証明するためには自分自身がオリジナル、

ネメジスになり変わらなくてはならない、

そうでなければ自分が生まれて来た意味、存在の理由を証明出来ない、彼女はずっとそう考えて生きて来た

だからこそシェインの言葉は彼女にとっての救いとなっり、また呪いにもなった



「うわっ!?」


「モルタ生きる!生きて行くの!」



突然モルタはシェインに抱きついて自分の顔をシェインの胸元にグリグリと押し付ける

右腕だけとなった腕をシェインの背中に回してハグをする、



「お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん!」


「は?お兄ちゃん?ちょっとまっはぐあぁっ!!?」



シェインの体からメキメキグギボキと骨がきしむ音がなる、片腕になって尚人外の握力は健在、

足も絡めてシェインの体を完全にホールドし、逃すまいと言わんばかりに卍固めのような体勢になる

シェインの体ではそのバカ力に耐えきれなく絞め落とされそうになる



「ストップストップストップズドッブぅ〜、死ぬ死ぬ離れろ〜!」


「やだーお兄ちゃんお兄ちゃん!」


「いいから離れろ、このクソ馬鹿力女!!」


「やだーやだー!!お兄ちゃんお兄ちゃん!!」


「誰がお兄ちゃんだ!変な呼び方で呼ぶな!俺にはシェインって名前があるんだ!お兄ちゃんじゃなくてシェインって呼べ」


「シェイン…?」


「そうだよ!シェイン、俺の名前」


「シェイン!わかった!シェインシェインシェインお兄ちゃん!」


「止めろ、最後にお兄ちゃんとかつけるな!俺がそっちの趣味がある残念な人みたいになるじゃねーか!!」


「そっちの趣味?」


「いいからこれからは俺の事はシェインって呼べいいな?」


「うん!わかった!シェイン」


「よし、あとは無闇矢鱈と力を使うな、あと人を殺そうとしたり襲ったりするな、それは駄目な事なんだからな!」


「うん、わかった…もう殺さないし、襲わない」


「でも例外はある、自分が襲われてたり誰かが襲われててたら助けてやれ、そうやって誰かの為に行動してればモルタの事を好きになってくれるヤツも増えてくるぞ」


「誰かを助けたらシェインも褒めてくれる?」


「え?俺?……あぁ、当然だ」


「わかった、モルタ頑張る…」



シェインはモルタとの即席の妙なチームを組むことになった、モルタ、彼女の事に関してシェインは何もしらない、何故彼女がフィーファそっくりな容姿をしているのか、何故フィーファを殺そうとしたのか、

ただ見た目に反して幼い精神の彼女をこのまま放置する事など出来やしないし、自分が見ておかないといけないと言う考えもある、

フィーファと彼女が再び対面した時にモルタがどういった言動に出るかはわからない

ただシェインには彼女を放ってはおけない、その意思だけは確かだった


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