63話 シェイン対モルタ
「ねぇねぇ、お兄ちゃんはモルタと何して遊んでくれるの?モルタ、楽しい事がしたいな!」
モルタは無邪気に邪気なくシェインにそう話しかけてくる、まるで遊んでほしいとせがんで来る子供の様に
そんな様子が酷く違和感を感じさせる
こんな邪気のない娘がフィーファをあそこまで追い詰めたのか?
それが、その事実が違和感となってシェインに迷いを生じさせる
「なぁ、何でお前はフィーファを襲ったりしたんだ?」
「フィーファ?なにそれ?楽しいの?」
「フィーファはフィーファだ、お前が…」
「モルタはモルタだよ!お前じゃない!」
「はぁ?……うーん、モルタが襲ったあの娘がフィーファだ、何でモルタはフィーファを襲ったりしたんだ?」
「オネエちゃんの事?オネエちゃんはフィーファなんて変な名前じゃないよ?オネエちゃんはモルタのオネエちゃんだよ?ネメジスオネエちゃん!」
「お姉ちやん…?ネメジス?」
「ネメジスオネエちゃんはずるいんだよ!モルタが持って無いもの全部持ってる!全部全部全部!パパはいつもオネエちゃんのことばっかり!モルタの事は全然愛してくれない!モルタはいつも一人ぼっち……」
「一人ぼっちが寂しいなら遊んでくれる友達を探せばいいだろ?そんな事で人を襲っちゃいけないんだよ、」
「トモダチってなに?」
「え?」
「トモダチはモルタと遊んでくれるの?モルタといつまでも遊んでくれるの?だったらお兄ちゃんがモルタのトモダチになってよ?」
「なってやる…、だから…フィーファを襲うのは止めろ、な?」
「分かった!モルタ、フィーファ襲わないよ」
「良かった…コレで……」
シェインが安堵の息を漏らした次の瞬間、モルタはフィーファに対して高威力の魔力球を投げかけた、
瞬時にソレを斬り捨てる事には成功するも腕には魔力球の威力からくる反動か、無理な体制からの動作による支障か、腕に過剰な負荷がかかり次に同じようなのが来たら防げるか怪しい状態になってしまった、
腕の痛みに耐えながらシェインはモルタに問いかける
「なんで……約束しただろ?襲わないって…?」
「襲ってないよ?モルタは?……フィーファって変な名前の人は襲ってないよ?
モルタはネメジスオネエちゃんを殺したいんだよ?フィーファなんて知らないもん!」
「は?」
「邪魔しないでよ?お兄ちゃん、モルタの邪魔しないでよ?お兄ちゃんはモルタのトモダチなんでしょ?だったら邪魔しないでよ?」
「この…、分らず屋が!」
「ワカラズヤはお兄ちゃんの方だよ」
モルタがシェインに向かって突っ込んで来る
凄いスピードで避けれない、剣でとっさに防御するが勢いは止まらずモルタに押し飛ばされ、フィーファから引き離される、
人が生み出すスピードを軽く超えるモルタの脚力は人知を軽く超えてをり、そのまま岩に叩き込まれれば挽肉になるのは想像に難しくない、
なんとかモルタを突き飛ばし彼女の突進から逃れるが勢いを殺せないモルタは岩に衝突する、普通ならモルタの様な華奢な少女があのスピードで岩に衝突すれば彼女の体はその負荷に耐えられないだろうが、砕けたのは岩の方で粉々に吹き飛んでいく、
粉塵や土煙、紫煙が吹き荒れるがその中からは高圧縮された魔力の棒が突き出しシェインに襲いかかる
シェインはソレを剣でいなしながら避けるが先程のダメージから右腕に負荷がかかる、
「ぐっ!?」
紫煙から飛び出して来たモルタは魔力の棒、彼女の五指から生成された5本の魔力爪でシェインを切り裂こうと接近する
剣で応戦するがその一撃一撃は馬鹿みたいに重く華奢な少女から繰り出される威力とは到底思えない威力だ、
五指の魔力爪と歓喜の剣が交差し鍔迫り合いの形となるが完全に力負けしている、
(最近馬鹿みたいに強い奴とエンカし過ぎだろ?何なんだよ、コイツ……)
例の黒髪の美女程では無いが明らかに以前のシェインなら相手にもならない程の強さだ、
頭の中で白い力を求める欲が心を支配するがアレは駄目だ、
理性が、心が蝕まれる、自分が自分では無くなる、
あの感覚はもう二度と味わいたくない、
あの力に縋るのは逃げだ、
そもそも自分が自分で無くなる力になんて…頼るべきじゃない。
「楽しいね!楽しい楽しい楽しい!お兄ちゃんもっと!もっと!もっと!遊ぼうよ!」
モルタから強力な魔力が滲み出る、可視化されるほどの強力な魔力、
鍔迫り合いは勝負になってすらいない
完全に力負けしている、
しかし、
シェインは
ワザと鍔迫り合いから歓喜の剣を引き体制を崩したモルタの脇腹に剣を当て、そのまま斬りさいた
「あぎゃぁああぁぁぁああ!??イダイ痛い痛いよぉー!??」
腹を斬られたモルタは端正な顔を涙と鼻水とヨダレで汚し子供のように泣き叫ぶ
超然とした印象があったからか、そのある意味では普通な態度には逆に違和感を持たされてしまう、
予想以上の痛がり様に若干の戸惑いがシェインを苛む
悪い事をしたのではないかと…
しかしドロドロと血を流していたモルタの腹は不気味にうごめき溶接するように皮が張り付き傷口はひとりでに塞がっていく
それは、そんな事が元来人間に許されている事象ではなく彼女の異常性を如実に体現していた
「許さない!トモダチだと思ってたのにモルタに痛い事するなんて!絶対に許さない!!殺してやる!!」
「ぐっ!?」
再び指から五指の魔力爪を発生させモルタはシェインへと襲いかかる
先程よりも鋭利な殺気を乗せた切り裂きはシェインに避ける事に成功するがその後ろにあった岩をまるでバターの様に簡単に切り裂きもし一撃でも貰えば即死は免れない事を物語っていた
流派のない、我流にすらなっていないめちゃくちゃな攻撃、馬鹿げた力と膨大なオドこそ脅威だが言ってしまえばそれだけの存在、
相手の動きを見る事に長けたアンティウス流だからこそ彼女の攻撃をいなしながら避けに徹する事はそれほど難しい訳では無い
しかしシェインは彼女との戦いに明確な焦りを感じていた、ハッキリ言って相性は最悪と言えた
彼女に攻撃を当てることはそれほど難しい訳では無いがダメージは負わせた後からシュウシュウと煙の様な物が患部から立ち上り皮膚が溶接するように塞がる、
攻撃を当てても直ぐ様回復し休む間もなくコチラに膨大な殺意敵意に変えて突っ込んでくる
次第にシェインは体力を消耗させられる
このまま戦っていてもいてもじり貧でいずれコチラが不良になるのが明確だった
しかしコレ等はシェインにとっては大した問題ではなく大きくシェインの精神をすり減らす要因は別にあった、
それは敵対するシェイン、モルタの幼児性にあった
傷はたしかに直ぐ様回復する
しかし傷を追うたんびに彼女はその顔にいっぱいの苦痛を貼り付けて目元に涙を溜める
痛い痛いよと泣き叫びながら癇癪をおこしわけも分からず強靭な力を振るう、
まるで物心もついて間もない子供を虐待している様な後ろめたさがシェインに襲いかかる
こんな事の為に剣を学んだんじゃない
誰かを守りたくて剣を学んだのに、これでは…
たしかにこの娘はフィーファに襲かかり殺そうとまでしている、ほっとく事なんて出来ない、
しかし、
そんな躊躇がシェインの心を満たし支配していく、
そんな時だった、
「あああぁぁあぁあああぁぁぁぁ!!!!」
モルタが今までのとは比べ物にならない大声を上げて突然苦しみだす、
体中の皮膚が内側からウゴウゴと蠢き見るからに只事ではないのが見て取れる
「なっ、何だ…?」
「いだいいだいいだいぃぃぃグガァァぁぁぁぁ!!」
モルタの左腕の皮が弾け飛び筋肉が異常な速度で膨張し、変容していく
肉の繊維、神経、血管などが浮き出で膨張し、何倍にも膨れ肥大化していく、
「アァァああーー!!」
肥大化したモルタの左腕が伸縮して伸び、シェインに襲かかる、かわしたと思ったが伸びた左腕は軌道を変えて尚シェインに襲いかかる
「なっ!?」
咄嗟に剣で受け止めるが受け止めた瞬間にそれが間違った判断だったという事に気づく
力が先程の比では無かった、
まるで巨大な鉄球を生身で受け止めたような衝撃がシェインを襲い、なすすべなくシェインは吹き飛ばされる
放り投げられたボールの様にシェインは空に投げ出され視界に入ったのは激しい激流を生み出す滝の姿だった
「やばっ!?」
シェインの体はドボォンと水面に叩きつけられ激流に吸い飲まれ、為す術もなく流されていく、
這い上がって来るなど不可能だ、
既に流され影すら見えない
「痛いいだいいだぁっ!ハァハァハァ、あれ?おねぇちゃん?アレ?オネエちゃん?オネエちゃっうぐぅあぁぁああああああああああぁぁぁぁぁぁあ!!!」
モルタはフィーファを探すがそこには既にフィーファの姿はない、
一人取り残される片腕が異様な姿となった異形の少女は痛みに嘆いているのか自らの感情からくる怒りに慟哭しているのかただ一人そこで叫び続けた




