53話 同盟の誘い
シェインはガノッサ邸で働く執事からここに誰かがやって来た事を聞かされる、唐突に現れたのはレスティーナ王国からの使いの者だった、
彼等は王から直々の命令でこの場にやって来たらしく何かしらの使命を帯びているのは想像に難しく無かった、
フィーファの顔が緊張で硬くなる、シェインは静かに固く握りしめた拳に力をこめた
「お久しぶりです、ガノッサ近衛騎士団長、いえ、今は市団長でしたかな?それでフィーファ様はいらっしゃいますか?」
「フィーファ様になんのようですかな?」
「貴方も元は近衛騎士団長だった方だ、フィーファ様が誰に呼ばれているかお解りでしょう?」
「国王陛下か…」
「わかっているなら早く彼女をここにお連れしてくれないか?我々も暇では無いのでね、」
「悪いが彼女は……」
ガノッサはフィーファにコレ以上辛い思いをしてほしくはなかった、血の繋がりはなくとも彼女が幼い頃からずっと見てきたのだ、父親になれるなど烏滸がましい事を言うつもりはない、しかし彼にとって我が子のように愛らしい存在で有る事には変わりない、
そんな彼女が実の血縁者から道具の様に扱われるのを黙って見逃す事など看過できる筈がなかった
しかしそんなガノッサの悩みを理解した上で彼女は自らの意志で進み出たのだ
「構いません、ガノッサ、それでそこの貴方、祖父の所に行けば良いのですね?」
「えぇ、賢明な判断、痛み入ります」
「ただし条件があります、ここにいる彼を同行する事を認めなさい、でなければ私は同行しません」
「えぇ、問題ありません、王はその少年の同行も望まれています」
「え?」
フィーファが驚いた顔をする、
進み出る事が出来た最大の理由、それは彼女自身が選んだ彼女だけの近衛騎士、シェインの存在があったればこそだ
しかし祖父は彼の同行を決して認めてはくれないだろうと考えていた
故にこの使者の発言はフィーファの予想を裏切るものだった
「意外ですね、まさか祖父がシェインの同行を認めるなんて、どういった心境の変化なのでしょうね?」
「申し訳ありませんがいち従僕の身では王の考えを理解するなどとだいそれた事出来ようハズが有りません、私の使命は貴方方を城に呼び戻す事なので」
「わかりました、城に戻ります、シェインも同道してくれますね」
「来るなって言われてもいくさ」
そんな時、
話が纏まりそうになった所に声がかかる
ラミュアの物だ
「僕も同行してもよろしいかな?レスティーナの使者君?」
「え?なっ!ダークエルフ…?!」
「ふふふ…何を言うかと思えば正し頭く烏滸がましい発言だなダークエルフ、貴様等如きが城門をこえるなど……ごばぁ!?」
突然話に乱入してきたダークエルフの少女の介入に驚く使者だが彼の横にいたもう一人の使者、仮に使者Bはいきり立つかのように調子よくラミュアに暴言とも言える言葉を放つが突然悲鳴を上げて頭を地面に強かに打ち付けた
そんな使者Bを見下すのはラミュアの部下であるダークエルフの少年、レンだった
「頭を下げろ、下郎、この方はイノセントの女王ラミュア様だ、対等に上げていい頭はお前には無いのだぞ?」
「がっ!?ごぐ…、がが…ぐっぎがぁぁぁ!!!」
「ほぉ…」
レンの得意魔法、重力操作で頭を強制的に地面に擦り付けられている使者Bだが彼も曲がりなりにもレスティーナ王家に使える使者、
魔法に関してもプロフェッショナルで自分自身に強い自信を持っている
そんな彼がプライドを傷つけられたとあってはその自尊心にも深い影がさす
怒りのままレンの魔法を解除しレンに同じく重力の魔法をかけるがレンは涼しい顔のままだ
「なっ、何故だ!?薄汚いダークエルフにレスティーナ国民の私が……負ける訳が……」
「重力操作は俺の得意分野でね、お前ら短命種が一二年そこら頑張って手にしたお遊戯魔法如きとは完成度が違うんだよ?わかる?」
「あがぁぁぁぁ!?ごめ!こべぶ!だざぁっ!!あが?」
「あ?ダサい?誰がダサいだコラぁ?」
「ひゅごぉぉぉ!!?」
地面に完全に貼り付けられ顔どころか指一本まともに動かせなくなってしまった使者Bはなんとかごめんなさいと謝罪の言葉を絞り出したがそれは何故かダサいと変換されレンの怒りに油を注ぐだけとなった
そんなレンに静止をかけたのはラミュアだった
「そのくらいにしておけレニ、コイツ潰れるよ、こんな所で汚い花火なんて僕見たくないよ」
「あぁ、そっすか、やさしいっすね、ラミュア様」
「はぁはぁはぁぐっ、は!はぁはぁはぁ」
なんとか重力の檻から開放され息もままならない使者Bを棒立ちで為す術もなく見ているしかできなかった使者Aに対してラミュアは優しく囁く
「それで…僕もついて行くけど問題ないよね?」
「はっはい!勿論です!」
「じゃ、エスコート宜しくね使者A君」
そんなイノセント勢のやり方を見ていたシェイン、フィーファ一同は絶句するしかなかったのは言うまでもない
ガノッサやレイラ、レコらに見送られシェイン達はレスティーナ城へと向かう馬車に乗り込む
使者達はご丁寧にも馬車を用意していたのだがまさか同行者が二人増えるとは思っていなかった為に中はキュウキュウに詰まっていて非常に狭くラミュアが乗り心地に文句を言い使者の二人は顔を青くしていた、
揺られる事30分程で城に付き、
一同はようやく馬車から降りる事が出来た
窮屈な思いをしたためシェインはグーと伸びをしている、
ふとフィーファを見れば複雑そうな顔をしていたがそれもそのはずでフィーファからしてみればせっかくの思いで逃げ出した場所にまた戻って来たのだから一体自分は何をしてるんだという気分にさせられるが今回においては心強い仲間がいる、何より自分にとってもっとも信頼を置く騎士を同行させている、
祖父がどのような無理難題を言って来ても何とかなる気持ちでいた、
実際はそんなに単純な事では無いので気を引き締めなければならないのは変わりないのだが
「王は玉座の間でお待ちです、どうか粗相の無いようお願いします」
「それは約束しかねますね、私達は祖父と仲良く世間話をしに行く訳ではありませんから、言い争いの一つや二つは覚悟してください」
「……、」
そう吐き捨ててフィーファは勝手知ったる王城の中にはいる、ラミュアは何処か楽しげに、レンはそんなラミュアの最後に粛々と随伴している、
シェインは物珍しそうにキョロキョロと周囲を観察している、
マグラーナの王城とは違い独特の清潔感があり、飾られている絵画や調度品にも個性がある、ような気がする、
田舎育ちのシェインにはそのモノの価値や値段などは理解できないがマグラーナよりも明らかに見栄えする内装だと言う事が理解できた
そうしてフィーファの先導のもと歩いていると一際大きく豪華な扉があり、その扉の前に陣取っていた騎士が扉を開けてくれた
「国王陛下、フィーファ様と客人方の到着です、」
「うむ、とうせ、」
広い王の間のなかに入ると玉座に何時ぞやの憎たらしい老人、国王がどっかりと腰を下ろしていた
「さっきぶりだな、フィーファよ、で、どうだったのだ?家出ごっこは?」
「えぇ、お陰様でとてもスリルに溢れた体験をさせてもらいました、」
「それは僥倖だな、で呼んだいない者がチラホラいるようだが?」
「久しぶりだね?レスティーナ王、30年ぶりくらいかな?」
「ラミュア嬢か、大きくなったものだな、」
「侵害だな小僧、君にそんな言葉をかけられるとは思はなかったぞ?」
「この歳になって小僧扱いしてくれるのは貴方位なものよ、なに、気を悪くしたのなら謝ろう、たしかにラミュア嬢は以前会った時と変わらずお美しい外見だが中身の方も年相応に成長なされたようでそれを言ったつもりでしだが嫌味に聞こえましたかな?」
「レディに歳の話はタブーだよ?国を纏める位に冴えた頭を持ってるならこのくらいは常識の範疇にとどめておいて欲しいね」
「ははは、これは失敬、以後気をつけよう、でラミュア嬢は何用でこの場に?」
「僕の話は一旦置いといてとりあえず君の要件を聞こうかな?フィーファ君も早く面倒事は片付けたいだろうしね?」
「ふふふ…嬉しいよ、ラミュア嬢、立場が大きくなると誰もワシと軽口をきいてくれなくてな、こうしてソナタと言葉を叩き会えるのは至高の喜びよ、おっと、話を本題に移さんとな、」
フィーファはぐっと拳に力を入れて身構える
「お前の見合い話についてだ、先方との政略結婚は既に動いている、どうするつもりだ?」
「どうするも何も私は端から受けるつもりなど毛頭ありません、お断りします」
「そうか、ならばいい、」
「へ?いい?どういう意味ですか?」
「言葉通りの意味だ、お前にその気が無いのならこの政略結婚は意味をなさない、だからいいと言ったのだ」
「はぁ!?」
ここに来てフィーファは祖父の言葉の意味が分からなかった、この男は自分を、孫を政略結婚、つまりは政治の道具としか見ていない、今や不和の間柄となるレスティーナとアングリッタの中を取り持つにはアングリッタの王族が立てたであろうフィーファの身柄を差し出すという要求を飲む以外に道はない様に思える、
この男を現実主義者だ、提示されたもっともコストの低い方法を取る、何通りもの選択を取捨選択し選ぶには相応のリスクがある、
そんな非合理はしない
合理的に事を進める
無駄を省く思考、それがこの男の強みなはず
「どういう事ですか?私はもう政略結婚しなくていいのですか?」
「お前がしたいというなら止めはしないさ、だがする意味がなくなった、それは合理的ではない」
「さっきから黙って聞いてりゃ何なんだ、アンタは!
アンタはフィーファの唯一の肉親だろうが!なんで、なんで実の孫に対してそこまで無機質に接するんだ!!」
今まで黙って話を聞いていたシェインはこの祖父孫の会話に怒りを覚えるのは当然の事だった、
血を分けたもの通しの会話としては余りにも歪で中身がない、
ハッキリ言ってしまえば不気味でもある、
フィーファにこんな無機質な思考を強要する老人がシェインにはどうしても許せなかった
「コレが我々の家族としての在り方なのだよ、外野は黙っていてもらおう…いや、君はもう外野ではなかったな…」
「はぁ?」
「フィーファ、この少年と結婚しなさい」
「えぇ!?」
「なっ!?」
唐突な老人の発言に二人して素っ頓狂な声を上げるがそれも仕方ない事だ、
以前までは野蛮な愚民の子供と見下していたはずのシェインと結婚しろと言うのだ、
この老人の考えなどもはや誰にも理解できないだろう
「な、なんのつもりですか、お祖父様、貴方がシェインと私の中をお認めになっただなんて都合のいい展開など端から考えていません、どういう魂胆ですか?」
「なんだ?お前はこの少年を好いているのか?それは行幸、それならなんの問題もないだろう?ワシも後顧の憂いがやっと晴らせる」
「待ってください、何故お祖父様がシェインとの中を突然お認めになられるのですか?わけがわかりません!」
「知れた事、その少年が、その少年こそが神だからだ、我がレスティーナの血族と神との子、コレ以上の組み合わせは無かろうよ!」
「はぁ?」
あの時王はシェインと黒髪の美女の戦い
その一部始終を見ていた、
王に取っての絶対的存在が一人の只人に敗れたのだ
ならば神を敗った少年こそが神と、
至ってまっとうな帰結となった
「ちっ、ちょっと待てよ!誰が神だよ!ふざけんな!」
「無論君だ、今は人の姿だが君の中には紛うことなき神がいる、あの力、あの神々しき姿、正に神の写し身、」
「ふざけるな!俺は、俺は人間だ!そんないるのかいないのかよくわからんモンにされてたまるか!」
「では君のあの力はなんだ?ワシはあの黒髪の美女こそ神とこの10年を信じて生きて来た。
只人ではなし得ない圧倒的美貌、人を引き付けてやまない魅力、何人たりとも寄せ付けない彼我の力、どれをとっても彼女は人を凌駕した高次の存在だった、彼女がその気になればこの国など跡形もなく消し去ってしまえる、直接対峙したお前が一番それを理解しているのではないか?」
「っ………、、」
フィーファは祖父の言葉に何一つとして言い返す事が出来ない
アレを神と崇めたくなるのは何もおかしな事では無いからだ、フィーファ自身、自分の力一つでアレと渡り合えるなど微塵も思ってはいない、いや、思う事自体が愚かだと直接アレと対峙したフィーファだからこそ痛感している
「それを君は単独で撤退に追い込んだ、いや、仕留め切ろうと思えばそれすら問題なく成せただろう、君は神を下した、人の身でそのような奇跡起こせようハズはない、君が神、あるいは限りなく神に近しい存在である証拠なのだ、君は君が思うよりもずっと尊い、偉大な存在だったのだ、」
国王は目を血走らせながら熱弁していた、
老人にとって神と仮定されたあの黒髪の美女は正真正銘の神だった、神は人の手なんかで膝を曲げ屈してはならない、
当然だ、神とは等しく人の上に有るべきもの
神とは、天とはそういうものだ、
しかしなんの変哲もないただの少年の手によって神は屈した、あり得ない事だ、少なくとも老人にとっては有ってはならない事だった。
だが何のことはない、
目の前のただの少年を神としてしまえば全ての合点がいく、そもそもあの時の少年の力は人の粋から完全に逸脱していた、正しく神の如き力だった、
「冗談じゃない、俺は人間だ!神なんかじゃない!ただの何処にでもいる普通の人間だ!!」
「それは無理があるぞ、少年、君はあの場で確かに超常の力を行使し、神を退けた、その事実は何も変わらん、奇しくもここにいる全ての人が君の力を目の当たりにした、君は神だよ」
「確かに俺は化け物みたいな力を使ったのかもしれない、でもあんな力はただのデタラメだ!俺の力じゃない!俺の力は!」
「矮小な人のままでは君はこの老いぼれにすら勝てないだろう、しかしあの力を行使すれば君はこの世界で最強だ、力を振るえばいい、力を行使すればいい、、力に酔いしれ驕り高ぶればいい、それこそ強者の特権だ、」
「舐めんなよ、あんな力無くても年寄りに負けたりしない、」
「はき違えるなよ、少年、君はこの老いぼれと再戦しに来たのではないだろう?」
シェインはそこでハッとなる、
フィーファがこちらを不安げにみている、
(この爺さんの言う通りだ、俺はこの爺さんと戦いに来たわけじゃない…、)
「…、つまりお祖父様は神であるシェインとレスティーナ王族の私の子が欲しいと、そう言う訳ですか?」
「子ぉ!?子供??」
「シェインは黙ってて!」
「そういう事だ、レスティーナは代々より血筋を重んじる継承権を用いて来た、お前が、優秀な子を孕めばワシは後顧の憂いなく逝く事が出来る、エルミナが男児を身籠ればなんの問題なくその子に継承させたものを、アレはお前を身籠った、全く使えんものだ、」
「アンタは自分の子供を政治の道具としか思って無いのか?親として子供の幸せとか願った事は無いのか?」
「では少年、問うがこの国を継ぎより良い未来を形作る、コレ以上の幸せとはなんだ?」
「はぁ?そんな堅苦しい事じゃなくても幸せを感じる事なんてたくさんあるだろ!」
「拙いな、まるで幼い、今のみを見る子供の特権と言えば聞こえはいいが本当の幸せとはそのような刹那的な物では断じてない、人は自分一人では何もできない不完全な生き物だ、だから群れ社会を作る、そうして人はようやく当たり前の幸せを享受する事が出来る、幸せの効率化、それは極単純な事だ、人の上に立ち統べる事こそが人に取っての最大の幸せなのだ、ワシは血肉を分け与えた子孫にこそこの幸せを享受してもらいたい、それこそがワシの考える子等の幸せだ、」
「着飾っただけの屁理屈だね、反吐が出るよ、」
「ラミュア?」
幼い故にシェインもフィーファも老人の語る幸せの形をそういうものなのかと錯覚しそうになる、
しかしダークエルフを始めとした亜人種族の長はこの幸せを屁理屈と言い捨て吐き捨てる
「レスティーナ王、君は自分の理想をこの子達に押し付けてるだけだ、彼等には彼等の人生がある、それを無視して君の理想を押し付ける権利はないよ、子はいつか親の元を立つ生き物だ、それは君達も僕達も例外はない、子を私物化し利用するのは例え血肉を分けた者同士だとしても唾棄すべき行いだ、」
「国を統べる者にならワシの理想を理解して貰えると思ったのだがな」
「君の王としての決意は感嘆に値するよ、統率力のない人間を纏め上げるのは一筋縄には行かないものだろうしね、しかし人の社会には個々の自由が設けられているんだろ?僕達の社会には元々無かった習慣だ、感銘に値するよ、だが君の言う他者を利用し、利用される事を是非とする社会にそれは本当の意味で機能しているのかな?」
「機能はしている、だからこそ人の社会は成り立っているのだから、人の社会で生きる以上その中には必ず上と下が生まれる、これは仕方のない事だ、その中で折り合いを見つけ、時に利用し、利用される、コレこそが人の社会がもっともバランスの取れた理想の形だ、」
「その形を利用するためにより良い統率者が必要と言うわけですか、」
「利用ではない、維持だ、フィーファよ、お前には王族として、ワシの孫として生まれて来た義務、責務がある、この国を維持するための絶対的統率者としての義務がな、」
「ははは…なら話は早い、」
「なに?」
突然笑い出したラミュアに対して訝しげな視線を向けるレスティーナ王
そんな王に対してラミュアはある提案を投げかけた
「レスティーナ王、僕と手を組まないか?」
小難しい話はややこしくて面倒くさいなぁ…
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