43話 祖父との望まぬ対談その2
私がレスティーナに帰ってから早いもので既に一週間の日数が経過した、毎日特にコレといった事件が起きることなく日々はいたって平和だった、
旅に出る前はあれ程何かしら毎日起きていたのにそれがこの一週間の間は何も起きていない
例の密室での火事の他にもシャンデリアが突然落ちてきたり、寝てる間に自室に族が入り込んで殺されそうになったり色々あったのだが今は何もない、実に平和な日々が続いている
、まぁ私がそんなデンジャラスな日々をおくっていたのをあの老人は全て認識していたらしく見てみぬフリ、というより関心すら向けていなかったのだ
あの老人の言葉を借りるなら些事だ、と言ったところか、
人は王の寵愛を受けてぬくぬく育った温室育ちの世間知らずお姫様というレッテルを私に貼っている様だが私は今も昔も変わらずあの老人の玩具で道具でしかないのだ、
結局この場所を飛び出し逃げ出して得たのは他人を巻き込んでもその他人に迷惑をかけるだけという教訓にもなっていない事実だけだ、
ただ、得たものもあった、
何事も隠し過ぎると良くない、そう認識した祖父は私に様々な事を教えてくれた
まず一つ
城の中に広がる様々な噂は祖父が懇意に流したものである事、どうも私の知性を自発的に育むための仕掛けだったらしく噂のなかに真実を散りばめそれらを繫ぎ合わせると真実に辿りつける仕掛けになっていたらしい、
一見可愛げのある仕掛けだが真実の内容が消えた両親にまつわる事実というえげつないモノなところがどうしょうもない
そして二つ目
その噂をつなぎ合わせ至った事実により両親の事がわかった、祖父の口から直接聞いた内容であるため信憑性は極めて高い
早い話が私の母は祖父の最初の犠牲者だった
幼少の頃からレスティーナのお姫様としての情操教育に青春を潰され一切の自由を与えられず日々を過ごす
好きになった男性とは政略結婚を理由に一方的に引き剥がされ、好きでもない男と結婚
その男がどうやらどうしょうもないろくでなしだったらしく、他所でも妾やら何やらを作りまくっていたらしい、おまけに性欲オバケだったらしく母はそんな性欲オバケの捌け口にされ二人の間に恋愛感情など育まれる余地すら無かったのだとか、そんな二人の間に生まれたのが私らしい、笑える話だ………、いや全然笑えない
そして母はある出来事を期にこの城から姿を暗ました
ここのところがぼやけていて詳細がハッキリしないが広範囲による捜索を行うも母が見つかる事はなく死亡扱い、そして私の父、当時のアングリッタの王子は半死半生の大怪我を負い、以降二度と女に子供を孕ます事の出来ない体になったらしい、
私は父親も死んだモノかと何処かで思っていたのだがどうやら父親は健在らしく今もアングリッタにいるらしい、当時の傍若無人が嘘みたいになりを潜め、今はとても有能な人物になっているのだとか、
ここまでの話をまとめて私はある事を思い出す
それはシェインがアルフィダから聞いた
黒幕はアングリッタと言う話だ、
アングリッタがマグラーナを利用して私を亡き者としようと考えていたのなら色々合点がいく、
これまで私はアングリッタになんの接点もないと思っていたのだが有りまくりだったのだ、接点が!
と言うよりも接点しかない、
私の体に流れる血の半分はアングリッタの王族の物だ、
そしてその父は健在、
父の繁殖機能が使い物にならなくなった理由に母が関与しているならその娘である私を関節的に目の敵にしてもオカシクはないのでは無いかと私はこの暇な一週間の間考えていた、
そういえばレスティーナ城内で大きな人事移動が行われたのか内部の構成員の面子が大幅に入れ替わっていた、
今私のメイド業に勤しむレコさんもそんな新人の一人だ、レコさんに聞いても大幅な人事移動があったらしいと言う事しかわからないらしい
恐らくはガノッサの報告をうけたのか、元々知っていたのかしらないがマグラーナ、ひいてはアングリッタのスパイ構成員を祖父が排除したのだろう、
驚いたのはその中には各担当大臣や、尚書、財務官など王国に多大な影響を及ぼす立場にある者も含まれていた
それらが全員スパイならどれだけこの国は他国からの進行を内々に受けていたのか、もしかしたらマグラーナ並に未来が危ういのではないかと危惧してしまうのは仕方ない事だろう、
「お祖父様はいったい何を考えてるんでしょうか、」
祖父が有能な人物なのは今更語る程の事ではない、彼の功績があるからこそ今日までこの国は栄えてきた、
しかし、祖父の考えに未来なんてない
あの男は徹頭徹尾自分の事しか考えていない
このままここにいたらいずれ私は……
コンコン、
そんな思考に囚われているとドアをノックする音がする、
「もうそんな時間ですか、」
そうぼやいてフィーファははい、と答える
ドアを開き入室してきたのはフィーファの専属メイドのレコだった、
「フィーファ様、お食事のお時間です、どうぞ食堂へお越しくださいませ」
「わかりました、」
レコに返事だけして用意をする、祖父との食事は毎日の日課だ、祖父は前に言ったとおり、私との食事の時間を取る様になった、
それは義務報告の時間で今日どれだけ勉学を進められたかを報告するじかんだ、
ソレ以外に話の内容なんてものはない、
家族としての団欒などあるわけもない、
私はすっかりあの老人が怖くなっていた
「遅かったな、2分遅刻だ、」
「申し訳有りません」
「まぁいい、それで?報告は?」
「はい、今日は……」
そうして義務である勉学の進歩報告を祖父に行う、
別に勉学が好きな訳では無い、特にする事がないので仕方なくやっているだけに過ぎない
淑女としての立ち振舞、マナー、教養、などの基本項目、魔法学や歴史などその分野は多義に渡る
「そういえばお祖父様に聞いておきたい分野がありまして、よろしいでしょうか?」
「かまわん、言ってみよ」
「列国に並ぶ影響力をもつ宗教組織についてです、」
「白銀聖魔導教会か、」
「はい、あの組織はどういった組織なのですか?是非お祖父様の観点からお聞かせ願いたく、」
「まず最初にあの組織の成り立ちをお前は何処まで知っている?」
「え…?その申し訳有りません、ほとんど知りまん、」
「…そうか、なら教えてやる、しっかり自身の知識に加え血肉とせよ、」
そういって祖父はあの教会についての知識を語りだした
「遥か昔、この大陸にハイゼンテールと呼ばれる魔王が君臨していたのは知ってるな?」
「はい、その魔王を打倒した5人の英雄が収めた土地が現代の列国五大国家となると」
「かの宗教組織はそのハイゼンテール魔王が存命であった頃からあったとされてをり、すくなくとも500年は前から存在したと言われている」
「そっ、そんな前から?」
「カーテナという全身組織が元となっているとも言われているな、この世界を創造した主神ケーネウィンを信仰の対象としてをり、その影響力は大陸の外にも広がっていると聞く」
「大陸の外?」
「なにも不思議な事ではない、大陸の外にも何かしらの文明があると考えて然るベキだろう、我々の技術ではその外の世界に到達する手段が今の所ない以上その文明を観測する事も出来ないがな、」
「………………。」
考えた事も無かった、
祖父の言う事はもっともだ、
ハイゼンテール大陸には多くの人間が生きて当たり前に生活している、
それならば外の世界にも人がいて生活していても変な話ではない、この大陸の大きさなど世界全体から見ればさして大したものでは無いのかも知れない
ならばフィオナが所属する白銀聖魔導教会は列国などよりも更に進んだ技術を持っていると考えておいた方がいいものなのだろうか?
「連中の信仰対象となるケーネウィンとは創造の神だ、この世界そのモノを生み出した母、母神、故に連中は聖なる力を宿した女を聖女として崇拝し、祭り上げる、それが白銀聖魔導教会と言う組織だ」
「神ですか、そのような不確かなものを拠り所とする者が列国に匹敵する力を持つかも知れないなど怖い話ですね、」
「戯けが、」
「え!?」
「神はいる、コレは頑然たる事実だ、我々が用いる魔法など神々が行使する御業、奇跡、それらの猿真似に過ぎぬ、彼等は高次の存在、それらに縋り頭を下げる事は何も恥ずべき行為ではない、人は自身より位の高い者に頭を下げる、ならば母なる神に頭を垂れるのは極自然、当たり前の摂理だ」
このリアリストの老人が神等と非現実的極まりない存在を“いる”と断言した、ならそれだけの根拠があるのだ
いると断言出来た根拠が
「……、お祖父様は神に…、会った事でもあるのですか?」
「………………。」
祖父は黙った、あれ程饒舌に神について語っていたくせにゼンマイの壊れたオルゴールの様に静かだ、
いや、祖父は元来寡黙な人間だ、ここ最近は聞かれた事にバカ正直に答えてくれるので忘れていた
そう思っていたのだが…
「エルミナの結婚式の時だ、神が現れたのは…、」
「えっ?」
「一度目のエルミナの結婚式の時に神は突然現れた、大きな方舟と共に彼女は現れた、
美しい女性の姿をしていた、ワシは生涯、この世で最も美しいのは若かりし頃のジュリアだけだと思っていた、しかし年老い衰え醜く醜悪に腐っていく人間の女と神では美しさの土台が違う、ワシはあの時始めて真なる美を見たのだ、」
祖父は流暢にそれはそれは流暢に語りだした、
やはりこの老人の本質は饒舌なお喋りさんなのだろう、自分の語りたい事に関しては際限なく口が軽くなりそうだ、
「また神は強かった、いや、我々人間の形に当てはめた強さなどという基準では図れない次元の先にいる高次なる存在だろう、結婚式場には護衛として一個師団の戦力を当てていたが神の前には紙くず同然だった、神は人間の命に興味等無いのだろう、圧倒的戦力差を物ともせずそのことごとくを命を取らずに無力化した、」
「………、神の目的は何だったのですか?何を目的にそんな所に現れたのですが?」
「そんな事、わかる筈がない、神とは高次の存在、我々人間が神の意思を理解しようなど烏滸がましい事よ、」
ホントにそうだろうか、エルミナの結婚式に神は現れた、エルミナは結婚式を嫌がっていた筈だ、なら結婚式を無茶苦茶にするためにエルミナが神を読んだのではないのか?
(いえ、流石に飛躍し過ぎですね、エルミナにそれだけの力があるならお祖父様にいいように人生を狂わされる前に手を打っているはず、お祖父様の言う神がエルミナなのか、他の誰かなのか……)
ハッキリ言ってしまえば私にはそんな事はどうだっていい、過去に何が合ったとかそんな事はどうでもいいのだ、
「さて、長話はここまでだフィーファ、お前には国の為に成さねばならぬ責務がある、」
(ほら来た)
「その責務とはなんですか?」
「お前に見合いの相手を用意した、我が国の為に成す責務を全うせよフィーファ」
「お断りします」
「……何?……今何と言った?」
「年老いて耳が遠くなりましたか?お祖父様、お断りしますと言ったのです」
「お前は何を勘違いしている、お前に拒む権利など無いのだぞ?」
「お祖父様こそ何か勘違いなさっている様ですね、私は貴方の人形ではありません」
「国を背負っていると言う自覚が無いようだな?フィーファ」
「婚約相手はどうせアングリッタの王族でしょう?10年前の失態を私を生贄にする事で帳消しになさるおつもりでしょうが」
「そうだ、しかし生贄とは聞こえが悪いな、祖国の礎になろうと言う気がお前にはないのか?」
「お祖父様のやり方では何れこの国はアングリッタに飲み込まれます、貴方は10年前の失態から何も学んでいないのですか?」
「青二才が知ったような事を言う、お前はワシのいう通りにしておれば良いのだ」
「その結果が今の有様なのでは無いのですか?、」
「何が言いたい?」
「何も言う事はありませんよ、ご馳走様でした」
ガタッと音をたてて食堂から歩き去っていくフィーファ、その背中には淑女らしさなどない、老人にはそう見えた
「忌み子が、所詮は俗物同士の失敗作か、アレが男児を産んでさえおれば何の問題もなかったろうに、」
食堂を退室していく自身の孫娘を見る彼の目はとても冷たいモノだった




