29話 幼馴染達のそれぞれとこれから
重いまぶたを開けると一瞬眩い光が目に飛び込んで来て思わずまた目を閉じてしまう、眠気もないので目を開けていると次第に目が光に慣れてきて、周囲を確認する余裕が生まれてくる
アレクは周囲を見回し自分が何処かに寝かされている事を自覚したがそんな自分がいる部屋に見覚えがない、
長年荷物持ちをやって来た身分ではこんな見てくれの良い部屋に通された事がないからだ
おそらくシェインやフィーファ姫が誂えてくれた部屋かとあたりをつける
そうこうしてると部屋のドアが開きアレクにとって会いたくない人物が入室してきた
「アレク!!良かった!目が覚めたのね!」
部屋に入って来たのはアレクの幼馴染で元恋人のアリエスだった、アリエスはアレクの様態を確認するために彼の頬に手をやろうとするが
「ひっ!?」
とアリエスの手をはたき身を縮めて自身を守ろうとした、そんなアレクの態度にアリエスは怒るのではなく悲しそうに顔を伏せただごめんなさいと小さく呟くしかなかった
そんなアリエスの態度に疑問を持つも先日フィオナが言っていた言葉を思いだす
「洗脳が……解けているのか……?」
「!!……ごめんなさい…アレク……ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんな、さい…、ウゥゥうぅ…」
壊れたオルゴールの様に同じ事をうわ言のようにただ繰り返すアリエスをみてもアレクにはどうする事も出来なかった、ただ確認しなければならない事がある、
アレクはその確認のためアリエスへと質問を投げかけた
「アノスはどうなったんだ?」
「うぅ…アノス…?アノス!アイツを殺してほしいのね!わかったわ、絶対に絶対絶対に!殺すから!そうしたら許してくれる?私絶対に殺すから!だから…」
「落ち着いてくれ!!誰もそんな事頼んじゃいない、ただアノスはどうなったか聞いてるんだ……」
「あぅ…ごめんなさい……えっと…わからないの…」
「わからない?」
「ひっ!?ちっ違うの!庇おうとかそんなんじゃないの!ホントに本当に知らないの…ごめんなさい…」
「そうか……」
「聞いた話じゃ、あの後捕まったらしいわ、目と喉が潰されていたらしくて、誰がやったのかもわからないらしいの、」
(だから彼女は正気にもどったのか?しかし、)
コレが本当にあのアリエスなのか、弱々しく常に挙動不審、目はせわしなく動きこちらの機嫌を伺おうと必死だ、彼の知るアリエスは常に自信に溢れていて常に堂々としていた、
それは洗脳される前も恐らくは後も変わらなかった…はずだ…なのに、今の彼女には違和感しかなかった
ただそれも仕方ないのかも知れない、長い事弟のおもちゃにされ利用され、その事を自分の意志で肯定していたと思い込まされて来たのだ、
ただ今のアレクにはそんな彼女を励まそうとも支えようとも思わない、そんな気概も気力も沸いては来ない
彼女を好きだった気持ちなど遠に錆びつき、こぼれ落ちた、
「他の皆も洗脳から開放されたのか?」
「え?あ…うん、プリシラも多分フィオナも町の皆も、アイツが手を出してた人は皆正気に戻ったと思う、」
「そっか、」
シェインやフィーファ姫の言葉が正しいならフィオナは最初から洗脳になどかかってはいない、彼女は最初から正気だったのだ、
アレクは弟の事もフィオナの事も何もわかってなどいなかった…
わかっているつもりでいただけだ、
「なんて間抜けなんだろうな……」
「アレクは間抜けなんかじゃないよ…」
「出て行ってくれ、今は話したくない…」
「……わかった…」
そう言って部屋を後にしょうとするアリエスだかドアの前で佇み1人話し始める
「私、自殺しょうと思ってたの、そうすれば貴方に許して貰えるって思って…でも止められたわ、あの子供に、
あの子…生意気にも私達に説教してきたの、
もし私が死ねばアレクは私達を一生許さない、私達をずっと恨んで、憎んで生きていくって、」
「……………、」
「貴方に許して貰えるなんて思ってない、そりゃ許して欲しいのが本音だけど私は…私達はそれだけの事を貴方にしてきた…おこがましいのは十分わかってる、それでも私は貴方に許して貰える様に努力する。」
「勝手だな……」
「うん……ゴメンね、勝手な女で…でも私は貴方から逃げたくなかった……………ごめんなさい、もう行くわ、」
そういってアリエスは今度こそ部屋から出ていった
「本当にみんな勝手なヤツばかりだ……」
そんな憎まれ口を呟くアレクの口元は穏やかに笑っていた。
そんな2人のやり取りがあった数時間前、別の場所で2人の女が睨み合っていた、
いや、片方は睨み付ける女を嘲笑うかのように嘲笑を浮かべている
「なんだか久しぶりですねプリシラお姉様」
「貴方にお姉様なんて呼ばれる筋合いは無いわ、魔女め、」
「魔女だなんて、酷い、これでも聖女で通ってるんですよ?私。」
「なにが聖女だ、詐欺師が!」
プリシラとフィオナ、かつては幼馴染として同じ村で生まれ育った者同士だがもうこの2人が互いに手を取り合う事はないだろう、
「でもコレではっきりした、貴方はずっと私達をコケにしてきたんだ、絶対に絶対に許さない!」
「悲しいですね~、私はお姉様達の事、大好きなのに〜」
「虫唾が走るわ、」
「ふふ、でもアリエスお姉様は気づかなかったのによく私が正気だったって気づきましたね、そこは純粋に驚きましたよ?プリシラお姉様」
「単純な話よ、私は昔からアンタが大嫌いだった、いつもヘラヘラ笑って本心を見せない不気味なやつ、直ぐにわかったわ、アンタがアレクお兄様やアリエスお姉様達を見下してるって、」
「へぇ~意外と私の事、よく見てくれてるんですね、嬉しいなぁ〜」
「こいつっ……!」
「名残惜しいし、残念ですがそろそろお時間なのでお暇させてもらいますね、私も多忙なので、」
「もう二度と私達の前に出てこないで!」
「悲しいですね、私達、曲がりなりにも幼馴染なのに、」
「早く消えて…」
「ふふ、」
気分よくフィオナはプリシラに背を向け歩き去る、
プリシラはあの詐欺師の脳天にブラストマインをぶち込んてやろうかと一瞬だが本気で過ぎったが直ぐに考え直した、
ここは街中で人通りもそこそこある、
こんな所であんなモノを撃てば被害は計り知れない、
何よりあの女にはブラストマインなど効かない事をプリシラはよく知っていた、
(嫌になるわ、この世に私の魔法が効かないヤツが二人もいるなんて…)
「それにしてもアイツは何処にいるの………絶対に許さない、絶対に絶対に…………………殺すぅ……うぅウゥゥ…」
プリシラにとってアレクは全てだった、兄妹、血が繋がった家族、それでも彼女にとって関係なかった、憧れで初恋、彼女がもっとも尊敬しこがれる存在がアレクだった。
逆に2番目の兄、アノスは嫌いだった、いや、大嫌いだった、
陰鬱な雰囲気を周囲にまき散らしボソボソと話す姿に何度怖気のような不快感を感じた事か、
そんなヤツに良いように操られ利用され性欲のはけ口にされ……
「うぇっ!…うぉえっ!げふげふ…はぁはぁ…クソ…クソ…ちくしょう…、」
彼女が自殺を思い止まったのはシェインの言葉が胸に響いたのが理由ではない、いや、無論シェインの言葉は彼女にとっても大きな影響を及ぼしている、
しかし何より大きいのは増悪する対象への復讐心だった、彼女から何もかも奪ったゴミとあの詐欺師に復讐しなければ彼女は決して前を向く事が出来なくなっていた。
薄暗く湿った空気が充満している空間、
陽の光が入り込む余地はなく、昼なのか夜なのかすら判別出来ない、物音もなく、無音、人の話す声どころか鳥のさえずりすら聞こえない
もっとも目を潰された彼が陽の光を見る事は今後決っして無いのだが
かつては勇者などと呼ばれていた男、アノスは両手を鎖で吊るされ上半身は何も身に着けておらず身ぐるみは最低限の物を除けば全て剥ぎ取られていた、
今回の騒動、国は勇者アノスが洗脳術で女を洗脳し、利用していた事がロンド大臣の口から説明された。
勇者の洗脳を解き国民の正気を取り戻した功労者としてフィーファ、及びフィオナが壇上に登壇し、騒動のあらましを国民にうちあけた、
当初はある程度の脚色を交えるつもりだったがフィーファは自分が関与した部分に関しては正直に述べた
また、洗脳によって精神を著しく消耗していた者達への献身的な姿勢は国民達にも好評だったらしくフィーファ、そしてフィオナはその類稀な美貌もあって瞬く間に国民達の人心を得る事となった。
そしてそんな最中に両手を拘束され、体中に青あざを作ったアノスが登壇させられ国民達の矢面に立たされることとなった
勇者、英雄と祭り上げられたかつての過去は無く人心を洗脳と言う手段で誑かし多くの人々の幸せを搾取し嘲笑った下郎として彼はマグラーナ国民のヘイトのはけ口となった。
目も見えず、言葉もはっする事が出来ないアノスはただその日の出来事を怯えて耐えることしかできなかった
ただ耳だけは健在、投げつけられる石やゴミ、それと同時に国民達から怨嗟の声、罵詈雑言も飛んでくる
その時の事を思い出しアノスは震え上がっていた、
勇者などと呼ばれ称賛され持ち上げられたからといって彼の性根が変わる事はなかった
そんなアノスの耳に階段を降りて来る足音が聞こえる、よく音が反響していて耳を澄まさなくても誰かがココにやって来たのがわかった。
きしくもその声には聞き覚えがあった
忘れはしない、何故ならそいつは自分から大切な目と声を奪った張本人だからだ
「よぉ、存外元気そうで安心したよ勇者様♪」
「ぁ"あ"…」
アノスは義眼をはめられた目でそこにいるだろう相手を睨みつける
たとえ見えなくともそこにヤツがいる事だけはわかるから…ラティクスの自由騎士…
「そんな目で見るなよ、思わず殺してやりたくなる」
「ぎい"ぃ"?!」
殺したい程憎い相手だが同時に死にたくなる程恐ろしい相手でもあった、
あの日見た王の生首、この男は自分の命になんの価値も見出していない、殺すといえば簡単に殺してしまう
その程度でしかない
「いい子だ、今日はお前に聞きたい事があって来たんだ、何、気にするな、話せなくてもお前の口の動きや顔色で判断させてもらう、」
「、?」
「バァル一族を知ってるか?」
「?」
「知らないか、ならお前の目は完全な突然変異か、何、お前みたいなバグ保有者は珍しいからな、もしかしたら一族の生き残りか何かと思ったんだが違うらしい」
「……、」
「お前がバァルなら殺さなければイケなかった、良かったな?」
「っっ!!?」
「安心しろよ、もうお前に興味はない、じゃあな、」
そう言って少年は湿気臭い空間から出ていった
アノスの目からは大量の涙が止めどなく流れていて股間からは液体が漏れてシミが出来ている
しかしアノスはそんな事が気にならなくなるくらい今自分が生きている事に安堵していた。
彼が来るまでは彼に復讐する事を考えていた、
しかしそんな気概はもう何処にもなかった、
彼の言ったバァルが何かはわからないが今はわからない事がとにかく嬉しかった
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