28話 白銀(はくぎん)聖魔導教会
「改めまして、フィーファ様、私はフィオナ、白銀聖魔導教会の聖女です。」
「白銀聖魔導教会ですか、まさか貴方が教会の関係者だったとは…、それで何用ですか?」
「何用とは変な事を仰っしゃりますね、私はただ苦しむ人達の手助けにすこしでも貢献したい、ただそれだけですよ。」
「……、御助力感謝します、フィオナ様。」
「ふふ、それでは皆さんお願いします。」
フィオナが修道服を来た人達に指示をだすと彼らは畏まりました聖女様!と聖女であるフィオナを囲うように位置取ると彼女を中心に魔力で構成された立体陣を作り出す、
いわゆる魔法陣である。
それに手をかざしフィオナは唱える
「心病む者達に救いの子守唄を!ホーリーソング!」
フィオナの白魔法、ホーリーソングは魔法陣の補助効果を得て非範囲に拡散し、部屋全体を包み込む、歌の様な
音が反響して人々の心に安らぎを与え、うなされていた者は穏やかな眠りを、泣き叫び発狂していたものは平静を取り戻していた。
これまで鳴き声や悲鳴で溢れかえっていた室内に静寂がやってきた。
「凄い……」
魔法に関して高い技量を持つフィーファだからこそフィオナのホーリーソングの凄さが理解できてしまう、成る程、伊達や酔狂で聖女などと自称しているわけでは無い、あの勇者と違い彼女は本物のようである。
「まさか、助けて下さるとは思っていませんでした、ありがとう御座います。」
「苦しむ方々に救いをもたらすのが聖女である私の役目ですから、当然のことをしたまでですよ、フィーファ様」
(自作自演も甚だしいですね、彼女がアノスを放置していたのはシェインから聞いてますし、この結果も彼女にとっては規定事項なのでしょうか?)
フィオナの考えている事がまるで理解できずにいるフィーファだったが次の瞬間には朧気ながらも彼女の魂胆を理解してしまうこととなる
「フィオナ様!」
「あぁ~~聖女様!!」
「ありがとう!ありがとう御座います!!」
「聖女様聖女様!!」
これまで苦しんでいた者達が一斉にフィオナに対して感謝の言葉を矢継ぎ早に上げ始めた、
当然だ、勇者の呪いによりこれまでの人間関係がめちゃくちゃにされ、人間不信に陥った者達や、けっして許されない罪への罪悪感に押し潰されそうになっていた者達にとってフィオナのホーリーソングはまさしく救いをもたす福音となる。
絶対的な幸福感に包まれ万能感に似た感覚に精神が支配されるのだ
彼女達にはフィオナが聖女どころか神にすら見える程だろう、
「聞いて下さい!私は貴方達に謝らなければならない大罪を犯していました…。
貴方達の心を支配し、弄んだのはご推察の通り勇者アノスです!
彼は勇者の名をかたり、卑劣にも皆様の心を土足で踏みにじり利用した大罪人です、彼の呪われし力、"洗脳の魔眼"により貴方がたの心は弄ばれていました。
私はそれを止められる立場にいた、なのに出来なった!
私が未熟なばかりに!
私は聖女と呼ばれてはいますが貴方がたを救う事の出来なかった未熟者です、私にもっと…もっと力があれば…こんな事には…」
「そんな、頭を上げて下さい、聖女様!」
「貴方は何も悪くありません、全てあの勇者が悪いんです!アイツが!」
「そうです!貴方様が謝る事なんてないんです!」
「聖女様!!」
頭をさげ目尻に涙をためて謝罪する聖女に女達は聖女は悪くないと声を揃えて言う、悪いのは勇者だ、聖女は何も悪くないと、
(何なんですか、コレは…)
眼の前の三文芝居はフィーファにとっては喜劇にすらなっていない、いいところ茶番がやっとだろう、
皆、目の前の聖女に胡散臭さを感じないのだろうか、
感じないからこうなってるのだろうけども、
悲劇的状況から救い出してくれた聖女は正しく救世主で彼女達にとっては縋るべき象徴だった。
また彼女達のなかでは聖女も勇者に操られた犠牲者の1人でありながらそんな勇者の呪いに単身立ち向かった英雄で偽勇者なんかよりよっぽど勇者なのだろう。
縋るべき象徴としてこれ程までのカリスマはいない、
以前フィーファは民を先導するためには美貌、見た目も大事だと大々的に語ったが彼女はその点も網羅している。
美しい銀の長髪に雪の様に白い肌、現在は修道服に身を包んでいるが彼女のスタイルの良さが帰って浮き彫りになっている。
文句なしの美少女カリスマシスターである。
「皆様、どうか私に付いて来てください、私は未熟ですがそんな私に力を貸してくれる方々がいます、それが彼等、白銀聖魔導教会です。
彼等は人々に等しく救いと救済をもたらしてくれます。何人にも侵される事のない聖なる場所、貴方達はその場所で救われるのです。」
フィオナの話に感涙し彼女を絶賛する女達は口々に白銀聖魔導教会への入信を希望する。
そこに行けば全てが許されると信じて、
「もし私を信じ教会への入信を希望される方は明日この時間にこの場所に来てください、可能なかぎり多くの方々を教会にお送りする用意を整えております。
もし教会に興味のある方が知り合いにいらっしゃるなら遠慮なくお声がけ下さいね。では私はコレで、」
そう言ってフィオナは部屋から出て行こうとする、しかし何かを思い出したのか部屋のなかを見渡すとフィーファの横にシェインがいるのを確認するとシェインの近くまで寄って来て耳元で囁くように言った
「貴方もいつでもいらしてくれていいんですよ?」
「絶対にゴメンだ、」
「あら、残念です。」
そういうとにっこり笑みを浮かべて今度こそ部屋を出て行きそれに続く様に教徒達もでていった。
フィーファとシェインも何となく部屋の中には居づらく外に出る事にした、目前には10人程の教徒達を連れて立ち去っていくフィオナ達の姿が確認できた。
「なぁ?はくぎん何とか教会ってなんだ?」
「白銀聖魔導教会ですよ、シェイン」
「それ、で、なんなんだ?」
フィーファは顎に指をやりどう説明したものかを思案しながら少しずつ自分のなかで整理しながら解説をはじめた。
「シェインは列国五大国家はしってましたよね、」
「5つの国を束ねた名称だろ?」
「まぁそんな感じですかね、もっとも実質的にマグラーナはこんな状態ですし、今はその名前にも矛盾は生じてますが、」
列国五大国家の一つに数えられるマグラーナは元々崩壊の危機にあった、ギリギリの所で国としての体裁を維持していたが政治的バランサーの役目を果たしていた勇者は今は無く、仮りそめとはいえ王も不在、
もはや国としての体を成していなかった。
「列国は5つの国の力が拮抗する事で生まれるバランスの上に成り立っています、このハイゼンテール大陸で5つの国の力を総括した列国はいわば大陸全土をまとめ上げる抑止力、治安維持としても機能しています。つまりは列国に名を連ねる国一つに戦争を仕掛けるのは列国全体を相手に戦争するのと同義なんですよ、」
「簡単にまとめると列国すげーってことなんだな、」
「かなりバカッぽいですけどまぁそんな感じですね、で話を白銀聖魔導教会に戻しますがこの宗教団体は列国に属していないんです、にも関わらず一つの大国に迫る影響力を持っているんですよ。」
「それがそんなに凄いことなのか?」
「凄い事ですよ、列国に加わらずに大国に匹敵する影響力をただの宗教団体が持ってるんですよ、列国に族してる中小諸国からすれば脅威でしょうね、」
「そんなに目に余るなら列国の力でなんとか出来るんじゃねーの?大国並っていってもたかが大国程度なんだろ?列国全体で圧かければなんとかなりそーに思うけどな?」
「それが出来ないんですよ、彼等は宗教団体です、列国政府内にも信者がいますし、五大国家の一つにアングリッタという国がありますがあそこは教会とズブズブだそうです、噂くらいにしか知りませんが、つまる所列国内にもシンパがいて、そういった方々が教会に手を出させないようにしてるんでしょう、」
「面倒くさいな、話もややこしいし、でも別にほっとけばいいんじゃねーか?フィオナのせいで嫌な印象受けるけどあぁやって困ってる人達を救って回ってるんだろ?別に悪い連中じゃないんじゃねーか?」
「まぁそうですね、私も今までは彼らの事をそこまで考えた事はありませんでしたし、そういった方々もいるんだ程度にしか思っていませんでした。
でも、あのフィオナという方を通してあの教団の活動方針が見えて来た気がします。」
「活動方針って?」
「信者の獲得に手段を問わない、いかなる方法でも強行して目的を実行する、そんな狡猾さを感じました」
フィオナは洗脳から開放されその対価として現実を叩きつけられ苦悩する人々を救い彼女達を信者とする事に成功した。
彼女の持つ白魔法、ホーリーソングは決して万能ではない。
悩み多い者であればある程その効果は絶大だが良好な精神状態の者には何の効果も発揮しない。
しかし今回の様に発狂するほどに不安定な精神状態であればその効果は絶大だ。
信者となった者達からはフィオナは正しく聖女、神にすら見える程だろう。
今回の一軒、フィオナが信者を増やすために画策したのなら、アレクとそして勇者アノスも彼女の手の平で踊らされていた事になる、
「なぁ、フィオナはなんで教会に参加してるんだろうな?」
「そんなの私にはわかりませんよ、私は彼女ではありませんし、」
「フィオナ…、アイツは他人のために動くような奴じゃない、心底から他人を見下してる、見下出すために他人と交流を持ってるって言ったって過言じゃないような奴だ、そんな奴がどうして教会なんかに入ってるのかってさ、」
「ふーん、随分と彼女の事を詳しく知ってるみないですね?シェイン?」
「え?…はぁ!?」
フィーファの予想外な問いかけに素っ頓狂な声が思わず漏れ出るシェイン、思いもよらぬ事を言われ理解が一瞬追いつかなかった。
「なに勘違いしてるのか知らないけど俺アイツの事苦手だからな?出来れば今後も関わりたくないくらいだ」
「そ、そうですか。まっ、まぁ確かに彼女が教会にいる理由も気にはなりますね、」
「アレクから聞いたけど才能を買われてスカウトされたらしいぞ?勇者と聖女で箔がつくって相当持て囃されてたらしい、たんなる目立ちたがりってだけであんな面倒そうな所入らないだろうし、なんか違和感あるんだよな、」
「少なくとも彼女が信者獲得のために勇者の能力を利用して信者候補となる人達の心を追い詰めたのは間違いないと思います、」
「アレクやアリエスにプリシラ、アイツ等も元々はフィオナにとっては信者候補だったのかな、」
「それはどうかはわかりませんが今も洗脳されたままなら遠からず洗脳が解けた時、彼女達が救われるにはフィオナさんのホーリーソングしかなかったでしょうね、」
「なるほどなぁ、」
フィーファの話を聞いてシェインはあの聖女を騙る性悪女フィオナが自分を目の敵にしてくる理由がなんとなくわかった。
彼女にとって俺は目障りな邪魔者なんだろうなと、
あの時、俺がアレクに声をかけなければフィオナはアレクを、そしてアリエスやプリシラの精神を予定通り限界まで追い詰める事が出来ていたのだろう。
その後三人にホーリーソングをかければ絶対に逆らわない従順な手下の出来上り、
「まぁあの女の事だから楽しむ事がメインで他は副産物程度の感じなんだろうな」
「まあ、、敵には回したくありませんね、彼女は、」
「はぁ…、フラグに思えて嫌になる…」
関わり合いになりたくないと思った人物程、無駄に濃い縁で結ばれていそうなものだ、
根拠などなくともそういった物事は得てして思い通りにはならないのだから、
「で、これからどうすんの?」
「そうですね、とりあえず一度レスティーナに帰ってみようと思います、勇者の呪いが無効化されてるならレスティーナで何かしら変化があるかもしれませんし、マグラーナでの事をおじい様に相談したいですし、」
「王様の力を借りるんだな、」
「悔しいですが、私個人に出来る事などたかが知れてますし、駄々をこねるよりも、経験豊富な先達の意見は聞いておいて損はありませんしね、」
「ま、無難に行くのが1番賢いわな、」
「そーゆー事ですね、」
フィーファは祖父である王様の付属品扱いされる事を嫌う、自分には付属品としての価値しかないと認める事になるからだ。
だから王様から自立する事で自分にも価値があると証明したいのだろう、だが事実彼女個人の力で出来る事は少ない。
経験も実績も何もない彼女は結局は祖父の力を借りなければ己の価値を証明出来ない。
しかし彼女は今回実質的な国盗りを成功させてしまった。
国王も勇者もこの国の根幹に根ざしていた権力者達はフィーファの預かり知らぬ所で自滅した。
また大臣や他の臣下達も現状フィーファに、
というよりはそのバックの大国、レスティーナの恩恵を得る事が出来る以上彼女の指示には大人しく従うだろう、
言ってしまえばフィーファは空いている椅子にたまたま座っただけに過ぎない。
この国を支え運営していくには大きな権力という力が必要だ。
結局そんなものはフィーファにはなく祖父に頼るのが1番安定した方法なのだ。
フィーファには王様や勇者を殺すつもりは無かった。
生かした上で彼等と協力し、この国を立て直せないかと考えていた。
もちろんそれがとても困難なことなのは理解していた。
目先の利益に目が眩み自分本位な欲望を優先させる者との協力関係など出来るはずもない、
ただ挑戦する事はできたはずだ。
二人の死はその挑戦する権利すらフィーファにはないとそう言われてるように彼女には思えてしまう。
フィーファはずっと苦渋を噛み潰した様な思いだった、。
「でもこの国はどうするんだ?一応はフィーファが今はここの王様って事になるんだろ?大丈夫なのか?王様が国から出て言って?」
「それは大丈夫でしょう、この国の運営は実質的にはロンド大臣などの政治家達によって維持されてたでしょうから、むしろ皮肉な話ですがあの王がいないほうが彼等も働きやすいでしょうし…」
「ああ…、」
「しかし不安ではありますね、うん?」
「なら私が貴方の留守の間の番をしておきましょう。」
「ガウス卿!?」
フィーファとシェインの前に現れたのはこの国の騎士団長ガウスだった。
「あの節はどうもありがとう御座います。」
「礼には及びません、そういった契約ですからね、」
2日前の勇者アノス討伐の日
勇者が逃げ込んだ王城のなかには他の騎士やメイドや執事など誰もいなかった、当時アノスはその事を酷く不気味に思っていたが何のことは無い、
ガウスがロンド大臣に願いでて彼の権限を使い、城から人払いをしていたというだけの事だったのだ。
フィーファがその日にアノスを城の中におびき寄せそこで彼を捕らえるという作戦を立案、ロンドはそれに協力したわけだ。
「それで話を戻しますが、貴方が留守の間は私が番をしましょう、何、問題はありません、今までと何も変わりませんからね。」
「……、そうですか、ではお言葉に甘えささてもらいます。」
「ええ、御意に。」
「ところでガウス卿、少しよろしいですか?」
「何か?」
「ガウス卿は先の勇者と王、殺害の犯人に付いて何か心当たりがありますか?」
「いえ、恥ずかしながら皆目検討も、」
「そうですか…」
「では、私はこれにて、」
形式的に頭を下げてガウス騎士団長はフィーファとシェインの元から離れていった。
シェインはフィーファに
「あのオッサンの事を疑ってるのか?」
と、問いかけるがフィーファは
「疑いたくはありませんよ、どれだけ見下げ果てた人であっても護るべき相手と決めた相手を手に掛けたら終わりですからね、」
と返した。
「絶対なんか無いって事なんだろうけど、俺はあのオッサンじゃないと思うけどな…」
「?…シェインはあのガウス卿を信じてるんですか?」
「あのオッサンを信じてるってより、あのオッサンには無理だと思っただけだ。」
「無理…?、ですか…、」
実の所、シェインは最初から王様と勇者の両名に手を下した存在には心当たりがあった、生きた人間を殺さずに剣で眼球をくり抜き、あまつさえ声帯だけを潰し喉を斬るなどという曲芸じみた芸当が誰にも出来るわけがないのだ
ただその存在についてフィーファに話そうとは思わない、いや、話せないが正解だろう、
(アルフィダ、何考えてんだ、お前は…)
シェインは兄貴分であり親友であり、親代わりをしてくれたら恩師の仇である少年の顔を思い浮かべ彼の今だ見えない真意に問いかけるのだった。
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