26話 勇者対荷物運び
誤字報告ありがとうございます
シェインがアリエス達と剣を交える事になる30分程前
勇者アノスはマグラーナ城内へと逃げ込んでいた。
「ここならあのガキも追ってこれねーだろ、」
城の中はアノスにとって文字通り城としての機能が確約されている。
マグラーナ王もその側近も皆、勇者アノスのいいなりだ、
この国を立て直し、今の状態に持ち直した功労者は間違いなくアノスの手柄だ、故に裏では詐欺師だの悪魔だのと貶めようと表向きは王国を救った英雄、勇者として彼を褒めそやすしかこの国の王族には道はなかった。
そして、王族達はそれを良しとし、彼の蛮行を黙認した、彼の取ってきた行動は結果的には王族の利に叶ったが洗脳、催眠が良き事に使われる事などあるはずもなく私利私欲のために使い人々の尊厳やら人格を否定するような使われ方しかされていない、
アリエスやプリシラは彼の犠牲者の代表だが彼女等はアノスの犠牲者のごく一部でしかなくその数は百は下らない、結果的に国を救いはしたがそれは結果論でアノスはこのマグラーナと言う国の未来やら明日になんの価値も感じてはいない、便利な隠れ家が無くなる程度にしか考えていないのだ、
そのことを理解しているからこそこの国の王族はアノスを不快に思いながらも決して反抗したり口答えしたりせず笑顔を顔に貼り付けてご機嫌取りに徹している。
もっともアノスはこの国を近々捨てるつもりでいる。
そろそろ維持するのも面倒だし、肩入れする程の執着もない、
それに次の寄生先はすでに二年前から目星をつけ準備も続けてきた。
そしてその準備がようやく実る。
「たく、何なんだ、あのガキ!アリエス達が敵わないなんて冗談じゃないぞ!アレクのヤロウ、どっからあんなの連れて来やがったんだ!、ちっ、まぁいいや、」
シェインやアレクへの苛立ちを口にして自身の苛立ちを落ち着かせた彼は口元をニタァと歪ませ卑しい笑みを浮かべる
何故ならば目の前にはそんな事が些事2思える程に目を引く存在が自分を待ってくれていたからだ。
辛気臭い王城の中であってもなおその美貌を損なう事のない光をはっする美しい金髪を持つ絶世の美少女、王族に名をつなねる彼女を配下に置けば自分の立場はより盤石なモノとなる。
流行る気持ちを抑え彼は彼女の名を呼ぶ
「やぁ、フィーファちゃん、こんな所で会えるなんて奇遇だね、とっても嬉しいよ」
「はい!私もこの日を待ち焦がれていました、勇者様!」
「ヒヒッ、そうなんだ、俺もずっと待ち焦がれていたよ、」
昨日かけた呪いはしっかりと機能しているようでなによりだ、あの火照った紅色に染まった頬を見れば彼女が配下にあるのは一目瞭然でもはや自分の意思など遠に手放していると確信出来る、
改めて神はなんて便利な力を俺にくれたんだろうかと無神論者なのにも関わらず感謝したくなる。
目の前の美しいお姫様、そして聖女となった美少女、二人の美少女を侍らせてこの先ももっと多くの美少女、美女を支配していく、
無敵の未来が直ぐそこにある。
この世界にはかつて200年に渡り大陸全土を支配した
魔王がいたと言われている、その魔王は現在の列国五大国家を統べる5人の統治者の祖先等五英雄によって討ち取られたとされている。
ならばこの俺が新たな新生魔王としてこの世界を支配する、そうだそれがいい、元々勇者なんて肩書は好きではなかった、魔王、魔王こそ俺に相応しい、
この世界の新たな魔王として俺が君臨するのだ、
瞬間的にここまで妄想を捗らせた勇者アノスは歪ませた笑顔をさらに歪ませ意気揚々とフィーファに命令を飛ばす
「じゃーフィーファちゃん、手始めに君の連れの生意気なガキがいたろ?アイツを殺してきてよ!もしちゃんと出来たらとっておきのご褒美を上げるよ!」
そうフィーファに命令するアノスだったが、
「お断りさせてもらいます!」
「は?」
即答されてしまった。
「ちよっと何言ってるのかわからないなぁ?お断りしますって聞こえたんだけど?」
そう問い返すアノスだったが彼女が何かを言う前にアノスに対して大声で呼びかける人物の介入により中断されてしまう。
「アノォスゥぅぅぅ!!!」
それはここまで追いかけて来たアノスの兄、アレクだった。
「ちっクソ兄貴かよ、しつけーんだよ!とっととくたばれよ、死にぞこないがー!」
「アノぉぉすぅっ!!」
「なっ!?」
助走をつけて勢いを止める事なくアノスの顔を殴り飛ばすアレク、殴られた反動でふっ飛ばされ盛大に倒れ込むがアノスの頭のなかはそれどころではない、
いてぇぇぇぇぇええええ!!!???
痛みでまともに頭が働かない、
始めて感じる痛みにもんどり打ってフィーファの前で醜態を晒すが今は取り繕う余裕すらない、
しかしアレクはそんな弟に馬乗りになって顔を重点的に狙い、殴打をつづけさまに打ち込んでいく。
「ホゲぇ?ブゴォ!げはっ!?ぐぼぉっ!?ボバぇ!」
殴るのをいったん止めたアレクゆらりと立ち上がるとアノスの胸ぐらを掴んで無理矢理立たせるとそのままアノスの腹に全力のフックを叩き込む、唾液混じりのうめき声を発したアノスだが今度はそんなアノスの顔面目掛けてアレクは右手ストレートを叩き込む、
勢いよく吹き飛ばされたアノスはまたもや地面に打ち付けられ苦悶の声を出す。
そんなアノスの様を見てフィーファから痛そーと声が漏れる、
実際痛いなんてもんじゃない、アノスの整った顔は数回の殴打により青黒く腫れ上がっており見るからに痛々しい、片目などは腫れのそいでしっかり開き切らず開いてるのか閉じてるのかわからないほどだ、
「いだぃぃ、ギダぃ〜〜…………ぼぉい!ぶィーぶァー!
」
「………、あっ?私ですか?」
「お前以外誰がいるーーおばえ!だにじでるー!俺をダズゲロー!アイツをーアレクをごロゼー!!」
「お断りします!」
「ばあぁぁぁ!?」
またもやアレクの命令に反抗するフィーファ、呪いの影響下にある人間がアノスに逆らう事など普通不可能だ、ならコレはいったいなんなのか、しかし今のアノスにそんな事を思案しているゆとりも余裕もありはしない、あるのはアレクをなんとかしないと殺されるという焦りだけだ。
そんな状態に追い込まれたアノスの取る行動は一つ。
「アレクをごロゼごろぜごろぜ殺せーー!!!」
自身の目を見開きありったけの念を込めてフィーファに命令するアノス、しかし、
「お断りします。」
帰ってきたのは拒絶の言葉だった。
「何故だぁ~、何故俺の命令を聞かないぃ!俺の命令をきけよぉぉぉー!!」
「何度でも言いますよ、お断りしますと。」
「ぶざげるなぁぁー!!俺は新世界の新生魔王になる男なんだぞーー!駄目じゃないがぁーわがままいっちゃあさぁー!!」
「は?魔王?」
「俺の指示に従え!俺の命令に従え!媚びてへつらって、忠誠を誓えよーー!!」
「嫌です!」
「なんでぇぇ!?どぼじでええぇぇ!?」
これまで当たり前だと思っていた事が当たり前ではなくなる、それはアノスにとっての最大の恐怖だった。
当たり前に自身に従ってきた女達、力に目覚める前は皆自分を見下して来た、そんな奴らを従え、隷属させる事によって得られる仄暗い喜び、それが出来ない相手、ありえない、ありえてはいけない、そんな存在、だが
「無駄だよ、アノス。」
「無駄ぁ?」
「彼女には、お前の呪いは効かない、」
「効かない…?」
「そうだ。」
「そ、そんなわけ…そんなわけあるかーー!そんな事が…そんな事があって言い訳ない!あったら、そんな事があったら、俺…俺…俺は…」
「終わりなんだよ…アノス、お前は今日ここで終わるんだよ!」
「ふざけるな、死ねしね、みんな死ねよ…」
そういってアノスは腰にあった剣を抜刀する、もしかしたら始めて剣を抜いたかもしれない、自分はいつも安全な場所からアリエスやプリシラの戦いにヤジを飛ばすだけで戦いに参加したことなどない、いつも安全な場所から文句を言うだけだ、荷物持ちのアレクは荷物持ちとして戦う二人のケアにてっしていたし、フィオナもヒーラーとしての責務は熟していた、戦場で真に役立たずなのは間違い無くアノスだった。
そんなアノスが今日始めて剣を両手で握って実の兄に向ける、へっぴり腰で構えも何も有りはしない、ただ刃物を兄に向けるだけで精一杯、しかし丸腰のアレクには十分な脅威となる、実の所、アレクは立っているだけでいっぱいいっぱいだった。
ここに来るまでにアリエスとプリシラに痛めつけられアレクは大きく体力を消耗している、
無論精神的にも…
「アレクさん、ここは私が…」
だからフィーファは剣を装備したアノスの前に出ようとするがそんなフィーファの前に手をかざし、
「大丈夫です、ここは俺に任せてください、いえ、俺にやらして欲しいんです、それにシェインに仮があるんです、ここで貴方の力を借りたらアイツに向ける顔がない。」
「……、わかりました。任せます」
「へへへ、馬鹿な奴だよ兄貴はよぉ、そうやっていつも俺の事を見下しやがって、殺してやるよ、クソ兄貴がよぉぉおおおおおあ!!」
そう言うやアノスは剣をガムシャラに振り回してアノスに斬りかかる、素人とはいえ丸腰の相手に負けるわけがない、そんなアノスの自信はあっさりとアレクに剣を捕まれ動きを威勢ごと止められたことで粉々に砕け散る、
「なっ?!クソー!離せ離せ離せー!」
刃の部分を掴んでいるため手のひらから血がドクドクと流れ落ちる、アノスが剣を引っばろうと力を入れてるためその勢いは余計に増すばかり、しかしアレクは決して剣から手を離す事はない、
「俺はお前の辛さや苦しみを全く理解していなかった、一方的にお前の事を理解してるつもりになってお前を追い詰めてたんだろうな、すまないとは思うが今更お前に謝るつもりはない、お前はお前で俺から大切なモノを沢山奪ったからな、どのみち俺達兄弟はもう終わりだ。」
「はっ、何を今更、俺達はもうとっくに終わってんだよ、クソが!」
「そうだな、今更仲直りなんて偽善的なことで有耶無耶になんて出来ない!だからもう終わりだアノス!!」
「うなっ!?」
掴んでいた剣を自分側に引っ張るアレク、剣の持ち手を握っていたアノスも自動的にアレクの側に引っ張られる、次の瞬間、アノスの視界いっぱいに広がるのは兄だったアレクの左拳だった。
顔面をぶん殴られたアノスはまたもやふっ飛ばされ地面を数回バウンドしてボールのように転がり回る、やがて壁にその身を打ち付けられダラダラと鼻血が流れ落ちる、
追い打ちをかけようとするアレクだったがとうとう体に限界が来たのか自分の意思とは裏腹に膝を付き立ち上がることが出来ないでいた。
「アレクさん!?」
フィーファがかけよりアレクの様態を確認するが無理もない状態だった、
アリエス達との戦いで血を流しすぎたのもそうだし、先程の剣を素手で受け止めたせいで左手から大量の血を流している、貧血と体力低下で体が動かないようだった、
「クソ!クソクソ、あと少しなのに、あと少しでアイツを!」
「安静にしていて下さい、相当危険な状態です!」
「俺の事なんかどうでもいいんだ!アイツをアイツを止めないと、」
そういってアノスを睨みつけるアレク
「へへ、どうやら俺はホントに神様に祝福されてるらしい!」
そういってアノスはその場をすごすごと逃げ出していった。
「まて!アノス!!クソ、」
「安静にしていて下さい、傷口は治癒魔法で塞げますけど失った血は元には戻りません、無理をすると本当に死にますよ?」
「アノスをこのままにしてはおけない、それに俺は別に死んだって…………」
「馬鹿な事を言わないで下さい、命を大事にしない人はキライです、それに彼をこの城から逃さなければどうとでもなります、彼に逃げ場はありません」
そう断言するフィーファ、
アノスはしらない、自分が逃げ込んだ場所、この城が自分にとってのどん詰まり、最悪の場所であることを、
「ハァ、ハァ、ハァ、クソが!」
アノスは走っていた、これまでの人生でここまで必死に走った事はなかったろう、それ程に本気で走っていた、あの場でアレクを殺しておいたら良かった、女1人くらいどうとでもなったんじゃないかと言う後悔があった、しかし結果的にはこの選択は正解だった、
もしあの場で逃げを選んでなかった場合その場で彼は詰んでいた。
手負いのアレクなら何とかなるだろう、しかしフィーファに彼が勝つ可能性は限りなく薄い、
たしかにフィーファは戦闘にかんしては素人だ、
アノスでも勝てるだろう、
しかし彼はフィーファが魔法使いとしては異常な資質の持ち主であることを知らない
自身の心象、心の中の異なる自分を魔力という檻に宿し現界させる心象獣召喚術という彼女独自の魔法体系を編み出す天才だと言う事を、
その技を彼女はかのダークエルフの女王の前で一度披露しており、ダークエルフの女王ラミュアは高く評価していた。
戦う術を持たない彼女はアノスに対してコレを使う事を決して躊躇はしない、
だからこそあの時の選択は間違いではない、しかし
「どうなっでんだ?だんで誰もいないんだ?」
広い王城のなかでこれまでフィーファとアレク以外の人間を彼は見ていない、
この城内でこんなことはこれまで無かった、王族付きの騎士や給仕人などのメイドがいたはずなのに誰もいない、アノスは戦力として女戦士やメイドなどを支配下におこうと企んでいたがその宛が外れて彼の中の焦りは加速する、
「ぐそ!アリエズもプリジラもあんだガキにいずまでががってるんだ!使べない!!」
今尚必死にシェインと戦う二人に悪態を付きアノスはある場所へと向かう、
本当は行きたくなどないが最早そんな我儘を言っていられる余裕はアノスには残されていない、一刻も早くこの訳の分からない事態を収束させてゆっくりしたい、それがアノスの今一番の望みだった、
アノスの向かう場所、マグラーナ王の部屋
すなわち王の間だとか謁見の間だとか言われている場所
、そこで王に直接命令するのだ、俺を助けろと、
元来、王にそんな事を言えば良くて追放、悪ければ死刑も冗談ではなくなるのだが……
ともかくアレクは王の間の扉を乱暴に開け放つと勢い任せに
「王!おぉーうぅっ!!俺をだずげろーー!」
と威勢よく良く叫んだ、
しかし王の間のなかは静まりかえっていた。
灯りが点っていないからか内装は薄暗くよく見えない、
しかし目を凝らすと王の玉座にこしかけるマグラーナ王を発見しアノスは王のもとに駆け寄る。
醜い外見のオッサンにたいして安堵感を抱いている自分に吐き気を感じながらも同事に違和感を感じていた
コイツこんなに静かだったかなと
「おい!返事をしろよ!」
そういって肩を掴んだ際ゴロンと何かが転がる音がした
「へっ?」
なにが転がったのか分からず音のした方に視線を向けるとあってはいけないものが転がっていた。
同事に王の体にも本来あって然るべきものが無かった、
首から上が無かった
「うっ!?うわぁ~あぃぁぁ!!??」
そのばで尻餅を付き逃げ出そうとするが地面がぬかるんでいて盛大にコケる、手にはべとっとした感触、
鉄錆のような臭いがして噎せ返る、
「死んでる…死んでる……なんで?なんで?」
そこである可能性が頭を過る
「まさか?あの女か?あの女…フィーファ…あの女がやったのか……?」
そう結論付けるアノスだが…
「残念…彼女にそんなマネは出来ないさ、彼女にそこまで覚悟はまだない。」
そうアノスに話かけてくる声がした
「誰だ!!?」
アノスが振り向いた先にいたのは線の細い中性的な顔立ちの少年だった、左頬には縦に傷跡がある
腰に剣を下げてる事から騎士か剣士で間違いなさそうだ。
ただこんな男はアノスの記憶にない、もっともアノスは男の顔に全く興味などない、彼が同性でしっかり認知してるのは兄のアレクくらいでシェインすら怪しいのが正直なところだったりする。
「誰なんだよお前、なんでこんな所に……、」
と、問いかけて見たものの答えなどわかりきっている、
死体の前に刃物を持った少年、それらが導き出す答えなど一つしかない、
「俺はラティクスの自由騎士さ、」




