25話 聖女=悪魔の様な女
勇者アノスを追ってその兄で勇者パーティーの荷物持ちであるアレクが去った後も戦いは続く。
勇者アノスに強い恋慕の感情を持つ女剣士アリエスと魔法使いのプリシラは眼前の少年を前に攻めあぐねていた。
10も歳の離れた子供相手になめられ、アノスの頼みすら叶えられずみすみすあのゴミを通してしまった事への憤慨や情けなさが彼女達の怒りを増加させていく。
「生意気な子供には躾が必要みたいね」
「そうだよ、私達をここまでコケにして絶対に許さない!」
そんな二人に対して涼しい顔で対峙するシェイン。
「ゴチャゴチャいってないでかかってこいよ、ここを通りたいんだろ?」
「このっ、ガキ!」
徴発され怒りのままにシェインに向かって駆け出すアリエスは右手にマナを集約させる。
腕を介して剣に集められたマナは膨大な光を放ち剣撃の威力を強化する。
また筋力の強化も同時に行い瞬間的に超人じみた瞬発力を得る
勇者を守護する剣士として彼女が独自に編み出した最高の技、それが、
「三蓮華!」
限界まで高められた筋力によって一方向に同事に3つの斬撃を放った彼女の最強技。
この技をくらった相手が蓮華の花の如く血飛沫を上げる事から彼女自身が命名したお気に入りの技だ。
それは淀みなくシェインへと襲いかかる、しかし
「幻夢斬!」
シェインが発した幻夢斬なる技によって全て無力化され、それでも止まる事のない幻夢斬の威力はアリエスを簡単に飲み込む。
幾重もの斬撃はその名のとおり幻のようで、目の前で繰り出される攻撃になすすべもなくアリエスに襲いかかり彼女の足や腕に深傷をつけていく。
体中から鮮血をまき散らせ倒れ込む彼女は残った力でシェインの足にしがみつき
「今だーっ!!」
と叫んだ
直後シェインの頭上に巨大な火炎の塊が飛来する
プリシラの最大魔法ブラストマインだ
しかしシェインは一瞬こそ驚いた表情を見せるもすぐに構えを取り技を放った
「渾身斬!!」
着弾とほぼ同時に放たれた技によって魔力塊は爆発し周囲に爆風を巻き上げる、
「あははは!ざまーみろー!!」
勝ちを確信したプリシラは声たかだかに嘲笑を上げるが…。
直ぐにそんな気も失せる、何故なら
「仲間を犠牲にしてまで勝ちたいのか?」
そこに無傷のシェインが立っていたからだ。
「何で、そんな、そんな、私の最高の魔法だったのに、嘘よ嘘よ……」
「私達の最高の技を…こんな…、」
「驚いたよ、もっと弱いと思ってたんだけど思ってたより強いじゃん、あんたら、」
「なぁ?」
「はぁ!?」
シェインのこの発言に戦意を失いかけていた二人はまたも怒りに感情が支配されどんな手を使ってでもこの生意気な少年を倒さなければ腹の虫が収まらないと言わんばかりにの猛攻をかける。
「マッドボム!ファイヤボール!クソクソ!なんでよ!なんでよ!!当たれ当たれ!!」
シェインは繰り出される数々の魔力弾を躱し、あるいは斬り裂いてプリシラへの距離を詰めていく
プリシラが放った魔法は矢の如きスピードでシェインへと飛来していく、それをあの少年は視認だけで斬っているのだから化け物じみている。
そもそもにおいて魔力弾を斬るなどとプリシラは聞いた事が無かった。
魔力とは空気のように形なく目に見えないモノ、触れる事も視認することも本来出来ない、それを行使出来る魔法使いこそが至高の存在であると彼女はずっと思って生きて来た。
なのに目の前の少年はそんな魔法を当たり前の様に斬っている、度し難くもあり得ない光景だった。
「マッドボムっ!マッドボム!!クソ!クソ!来るな!来るなーー!!!」
ついにはプリシラのふところまで距離を詰めたシェインは彼女の腹、みぞおちに左拳を叩き込む。
胃の中の空気を唾液ごと吐き出したプリシラは
「かは!?」っと呻きそのまま白目をむいてうずくまり倒れ伏す。
魔法使いを無力化する事に成功した事でシェインの中に一瞬ではあるがゆとりが出来、その油断をつくかの如くシェインの背後からアリエスが襲いかかって来た
奇しくもプリシラの魔力塊の連射により周囲の土煙が舞い上がり視界が遮られていた事がシェインがアリエスに背後を取られる切っ掛けとなった。
(この2人、何気に連携がしっかり出来てる!)
「くらえー!三蓮華ー!!!」
アリエスが最も得意とし、また最も威力のある技を彼女は放った。
近距離、そして背後、先程の奇妙な技を出す隙さえない、アリエスは勝利を確信していた。
しかし振り向きざまにシェインは剣をアリエスの3重に重なる剣に交差させそのまま何事もなかったかのように払い上げ彼女の技を完全に相殺してみせた。
払い飛ばされた剣はアリエスから離れた場所にカランカランと音を上げながら落下し、パキンと折れていた。
仮に剣を回収出来ても折れた剣でこの化け物と戦い勝利するのは不可能だ。
そもそも彼女の体力は限界だった。
今なお手足からは血が流れ続けていて、意識も朦朧としてく来ている。
コチラの技は全く通用せず意味のわからない力でゴリ押される。
それでも彼女は戦うことを辞めようとは思はなかった
のは何故か?
勇者に、アノスの期待に答えたいから。
彼に必要とされたい、彼に肯定してもらいたい。
その一心で彼女は立っていた。
例えそれがまやかしの意思だと知らずとも…。
「哀れだな、本当に……」
「何?」
「哀れだっていったんだ、」
「私を、馬鹿にしているのか?」
「そんなつまりはねーよ、でもそんなけの才能があるのにそれを無駄にしてるのが哀れだと思ったんだよ」
「無駄?何を言っている、私は私の才能を存分に生かせる場にいる、これ以上に幸福な事が他にあるというのか?」
「本当に言ってんのか?」
「お前こそなんだ…、お前が言っているのはアノスに対する侮辱だ!彼を愚弄するような事断じて許さない!」
「本当はわかってるんじゃないのか?自分がただアイツに利用されてるだけだってのが…」
「利用?…結構な事じゃないか…、私は私が必要とされている実感を得られる、得難い喜びなんだ…」
「救いようがないな…」
「お前のような余所者に同情される言われなどない!
私は充実してるんだ!知ったような事を言って貴様何様のつもっ…!?はっ……?」
「……うん?」
それまでシェインの言葉に耳を貸すことなく己の主張を続けていたアリエスが突然言葉に詰まったかと思うと頭を抑えうずくまりだした
「え?何…どうした?」
一気に血の気が引き顔色が悪くなり目は純血して見るからに苦しみ出すアリエス、
執拗に頭を抑え苦しみに抗っていたようだが等々限界が来たのか
「あぐがぁぁぁあぁぁあアァああいやゃあぁぁ!!」
大声を上げて悶え苦しみ出した
「は?なん?……どうした!おい!」
シェインの声も聞こえていないのかその苦しみ様は尋常ではなく、アリエスの状態にどう対処していいか分からず狼狽えるしかなかった。
しかし更に最悪は重なりアリエスだけでなく気絶していたはずのプリシラまでもが同様に苦しみだした。
「ぁぁぃあぁあぁぃああいい痛い痛い痛い痛いーーー」
「ヒギっ!?ぎぎぎぃあガガガがごがぁぁぁあ!??」
「なんだよこれ?何なんだ!?」
「あらあら、随分と慌てていらっしゃいますね」
「っ!?」
二人の女性が突然意味もなく苦しみだす異常事態にただ慌てふためくしかなく戸惑うシェインに突如として声をかけてきたのは彼女達にとっては身内に当たる存在でシェインが現状最も苦手とする少女
「フィオナ?」
くす、っと笑顔をシェインに向けたフィオナは苦しむ二人の姉を見てほくそ笑んだ
「可哀想なお姉様方、綺麗な顔が台無しですね」
「何落ち着きはらってんだよ!助けてやらないと!」
「大丈夫ですよ…」
「大丈夫ってそんな訳ないだろ!っまさか、これ、お前がやったのか?」
「濡衣ですよ、私じゃありません、むしろこの事態に関与してるクセによくそんな事がいえますね?シェイン」
「は?」
あくまで微笑を絶やさないフィオナにシェインは改めて薄気味悪さを感じる、この三人は同郷の幼馴染のはず、内1人は実の姉のはずだ。
それがここまで苦しんでるのにこの態度、明らかに以上だった。
「おそらく洗脳が解けかかってるんですよ、姉達の異常はその発露といったところでしょうね」
「洗脳が?まかさ!」
「えぇ、お兄様方の間で何かがあったという事で間違いないでしょうね…コレでお姉様方は正気に戻りアレクお兄様は元の2人に再開出来る、めでたしめでたし、全て貴方の思い通りですね、シェイン」
「お前……やっぱり…洗脳にかかってなかったんだな」
「今更貴方に対してお芝居しても仕方ないからですしね、どうせあのお姫様から聞いてるんでしょ?」
「何故2人を正気に戻してやらなかった?何故アレクに本当の事を教えてやらなかった?お前ならそれができたはずだろ!」
「えぇ、たしかに出来たかも知れませんね、でもそんな事をして何になるんですか?」
「はぁ?何になるってお前……」
「つまらないじゃないですかそれじゃ、」
「つまらないだと!?」
いっそう笑顔を深くした表情で笑うフィオナは聖女などではなく、その皮を被った悪魔だと改めて実感させられる。
「私はね、二人の事が好きよ、大好き、それはアレクも変わらないよ、皆みんな私の大好きな幼馴染だもの、とっても大切でとっても大事、私の宝物」
「わけわからねぇ、だったら何で助けてやらねぇ…何考えてんだ、お前」
「助けるも何も、私は皆と遊んでるだけだよ?それの何がいけないのかな?」
「お前…、」
「でももうおしまいみたいだね、少し残念だけど、楽しい事には必ず終わりが来るんです、それじゃシェイン、またね」
ニッコリと微笑み天使か、あるいは女神の如き微笑をうかべた聖女はその場から立ち去っていく。
横たわる二人の姉達に目もくれずに、
気づけば倒れ伏した2人は先程の様な苦しみもがいていた様子は微塵もなく穏やかに寝息を立てていた。




