逆転の構図その2
こんにちは、紫雀です。
旦那様のご両親は特別養護老人ホームに入る前、
一時、居室型老人介護施設におりました。
13平方メートルの部屋にふたりで居室料21万。
なかなかの出費でした。
5年後にようやく特老に入る事が決まり、退去したときの事です。
「Hさん。部屋が傷んだので、床と壁を張り替えます。
この金額になりますので支払いよろしくお願いします。」
一見ホテルのロビーを思わせるフロントで
話しかけてきたのは30代くらいの若いフロントマンの方だった。
その時にいつも一緒に勤務しているシニアフロントマネージャーはおらず、
違和感を感じたが金銭が絡むイヤな話を若手に押し付けたんだろうと
咄嗟に思った。
だって施設が提示してきた金額はたった7.8畳ほどの部屋を張りかえるのと
こまごましたその他の修理に100万円を請求してきたのだ。
おまけに入居時から棚が落ちていたのに身内が部屋を使ったせいで落ちたから
一緒に直すと言って5万の請求を上乗せされた。
キレた。いくらなんでも高すぎだろう。
「その棚は入居したときから落ちてましたよね」
「いいえ、お宅が入居されてから落ちたんです」
「ふーん、そうですか。うちのせいで落ちたとそう仰るわけですね」
「ええっ、きっと頻繁にさばりついて落ちたんでしょう」
支えがないと立てない人が頭の上にある棚にどうやってさばりついたと言うのだろう。
だが、どんなに話し合いを続けても平行線を辿り
弁償しろの一点張り、高圧的な口調で支払いを請求してくる。
「わかりました」
フロントマンは、その理解を示した言葉に一瞬顔が緩んだ。
私はその顔を見ながら、一呼吸おいて言葉をつないだ。
「我が家は築20年になりますが、一度として棚が落ちた事はありません。」
「えっ?」
「身内が使っていた期間は5年ですね。
たった5年で棚が落ちるような業者に直して貰いたくありません」
「えっ、ちょっと」
フロントマンの顔は蒼白になっていた。
請求書を見ながらさらに追い打ちをかける。
「グレードは?」
「はぁ?」
「壁紙のグレードですよ。ここには何も書いてありませんね」
「えっ、あの?」
すっかり挙動不審になったフロントマンの眼が泳ぐ。
「壁紙にグレードなんてあるの?」
それまで黙っていた諭吉様が口をはさんだ。
「うん、あるよ。こんな一見高級そうなでこぼこした壁紙も
実は結構安かったりするらしいよ」
椅子から立ち上がり歩いて行って壁を指でなぞる。
くるりと振り返ってフロントマンを見ると彼はわなわなと震えていた。
「知り合いにリフォーム会社に勤めてる人いるからそこに見積もりをたのもう」
諭吉様にそう言うと、プレッシャーに耐えられなくなったフロントマンは
目の前に設置された電話の受話器をとり、マネージャーに電話をかけていた。
「支払いの件、Hが金払わないって言ってます」
払わないなんて一言も言ってないのに
人を呼び捨てにした挙句、この無礼な物言い。
内心追及してやろうかと思ったがあえて我慢した。
上と話がついたのか。彼が言った。
「じゃあ、一体いくらなら払ってくれるんですか」
「そうですね。……70万くらいなら」
と諭吉様が答えた。
諭吉様、こういう場合は大抵倍がけなんだよ。
そう思ったが、黙っていた。
立場を逆転させ、減額させただけでもよしとしよう。
三日後、請求書はきっちり70万になっていた。
……どんだけどんぶり勘定なの……゛(`ヘ´#)。
以上、紫雀の体験談でした。




