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すべてを手にいれる3

 友幸さんの家で話をしてから一週間が過ぎた。

オリエンテーションなども一通り終え、今日はクラブの説明会の日だ。


「チャコ、一緒に写真部入ろうよ。」

「写真部? ……んー、楽しそうかも。いいよ。入る!」


 放課後、入りたいクラブがある人はそれぞれの説明会の会場へ行く。

前の席に座るチャコに声をかけると、嬉しそうに頷いてくれた。


 こうしてまた、一緒に部活ができる事を嬉しく思う。

これからあるたくさんの楽しい事を考えると、胸がワクワクと高鳴った。


 でも、これだけじゃない。

私にはもっとやりたい事があるから。


 チャコに、じゃあ一緒に部室まで行こう、と声をかけてから、カバンを机の上へと置く。

そして、よいしょ、とイスから立ち上がると、目的の場所に向かって歩き出した。

チャコはまだ帰り支度をしているようで、ついてきてはいない。


「そんなわけで、一緒に部活しませんか。」


 廊下から二列目の一番後ろの席。

そこに座っていた目的の人物――鋼介君は、突然の誘いに目を丸くした。


「あ?」


 辛うじて、少しだけ声を漏らす。

そんな姿がおかしくて、ふふっと笑いながら話を続けた。


 鋼介君。なんだかすごく久しぶりだね。


「写真部に入ろうと思うんだけど、一緒に入ろう?」

「……いや、なんでだよ。」


 やんちゃそうな顔をぎゅっと顰めて、低い声で呟く。

その琥珀色の目に困惑がありありと浮かんでいるけれど、気にせず、言葉を続けた。


「あのね、写真部は私だけじゃなくて、この子も入るんだよ?」


 そして、自分の席に座ったまま不思議そうにこちらを見ているチャコに、おいでおいで、と手招きをする。


「……そいつが入るからなんなんだ?」

「まあまあ。」


 不審げにこちらを見る鋼介君に不敵な笑みで返してやる。

チャコは不思議そうに目を丸くしたまま、私達の方へと歩いてきた。


「どしたの? 唯ちゃん。」

「あのね、写真部にね、誘おうと思って。」

「あー、そうなんだ。……なるほど、なるほど。」


 チャコは傍まで来て私の話を聞くと、訳知り顔で頷く。

……なんで、にやにやしながら私を見てるんだろ。


「ねね、入りたい部活とかあるの?」

「……ない。」

「そっか、じゃあさー、今日、説明会に行ってみるだけでもどうかな?」


 チャコが鋼介君の机の横にしゃがみ込んだ。

鋼介君を下から見上げるような体勢になって、おねがい! と手を合わせている。

鋼介君は初めこそ眉を顰めていたが、すぐにその眉間の皺は緩む。

そして、ただじっとチャコの深いブルーの目を覗きこんだ。


 もし。

鋼介君にも時を繰り返す影響があるのなら。


 チャコのその目をずっと探していたんじゃないかと思う。

……鋼介君はチャコにメロメロだったから。


 私は見つめ合う形になっている二人を見て、一歩後ろへ下がった。

そこには私達の様子を見て、近くに来てくれていた勇晴君がいて……。


「名波、お前、また何かやろうとしてんのか?」

「……うん。みんなで楽しい事をいっぱいしようね計画を。」

「ネーミングセンス。」


 チャコと鋼介君に聞こえないようにボソボソと話す。

鋼介君はしばらくチャコを見つめていたが、チャコの上目遣いのおねがい攻撃に、目を泳がせ始めた。

もう観念して、写真部に入っちゃえばいいのに。

それでも、写真部には入りたくないようで、低い声で小さく呟く。


「……写真部はダメだ。」

「なんでー?」

「……兄貴がいるから。」

「えー……仲が悪いの?」


 バツが悪そうに、目線を逸らす鋼介君。

それを逃がさない、というようにをチャコがじっと見ている。

そんな二人を見ていた勇晴君が私にだけ聞こえるように、ボソリと話した。


「おい、名波、いいもんが見れるかもしれないぞ。」

「いいもの?」

「ああ。あれで友永がニコッと笑えば完璧なんだけどな。」


 勇晴君がフッと鼻で笑いながら、なんだかおどおどし始めた鋼介君を見やる。

鋼介君は歯切れ悪く、ボソボソと呟いていた。


「仲が悪いというか……その。」


 鋼介君の挙動不審っぷりが見てて笑えるぐらいになった頃、ふとチャコが小さく息を吐いた。


「……ん。まあ、そうだよね。色々あるよね。」


 チャコは合わせていた手をほどくと、机の上にぺたんと置いた。

少ししゅんとしていて、同情心を煽る。


「ごめんね、立ち入った事聞いちゃって。」

「いや、べつに……。」

「またさ、入ってもいいかなって思ったら、声かけてよ。」

「……。」


 チャコは仕方ない、と話を締めくくる。

どうやら今日の所はこれで諦めたようだ。

鋼介君はそれで良かったはずなのに、なぜかすがるような目でチャコを見ている。

チャコは無言で見てくる鋼介君に、ん? と首を傾けた後、ふわっと顔を綻ばせた。

黒い髪がサラリと揺れ、ブルーの目が柔らかく細まる。


「一緒に部活したかったなー。」


 チャコが鋼介君を見つめたまま、えへへっと笑った。


 ……。

至近距離のチャコの笑顔。


 鋼介君はその笑顔を見て、ガタッとイスを鳴らして後ろへ仰け反った。

右手の甲を口に当て、眉をぎゅっと顰める姿はまるで……。


「おお、きたぞ、名波。あれがニコポだ。」

「にこぽ?」

「そうだ。特に何もしてないのにな、ニコッて笑われただけで惚れてしまう現象だな。」

「……なるほど。」


 鋼介君の耳は少し離れたここからでもわかるくらい赤い。

きっと、チャコに恋をしたんだろうな。


 チャコはそんな鋼介君を不思議そうに見ていたが、うんしょ、と立ち上がりこちらへと顔を向ける。

眉は八の字になり、ごめーんと口を開いた。


「なんとかしたかったけど、ダメだったー。」

「……チャコ、そうでもないかもよ?」

「え? 」


 写真部に勧誘するのを失敗した、と歩いてくるチャコにふふっと笑って答える。

そして、今度はチャコの代わりに私が鋼介君の傍へと歩いた。


「……あのね、いきなり私に言われても、意味わかんないと思うけど。」


 鋼介君の横へと立つと、少し体を曲げる。

そして、未だ赤いままの耳に顔を寄せ、そっと言葉をかけた。


「その気持ちはね、ずっとずっと前からの物なんだよ。」


 それだけ言うと、鋼介君の耳からサッと顔を離し、ふふっと笑う。

鋼介君は右手の甲を口に当てたままに私を見た。

 

「お兄さんの事とかあって、写真部は嫌かもしれないけど。でも、楽しい事がいっぱいあるよ。だから一緒に部活しようよ。」


 鋼介君は二回目まではチャコと仲良しだった。

でも、私が何回も時を遡るうちに、少しずつ遠くなってしまったんだ。


 ごめんね、鋼介君。

もう放っておかないから。

一緒に楽しい事をしよう。


「……一緒に、チャコのそばにいようよ。」


 琥珀色の目をじっと見つめる。

鋼介君は右手を口から外して、私を見返した。

そして、少しだけ目線を私の後ろへと送る。

きっと、チャコを見たのだろう。


「……名波。俺とお前はこの学校で出会ったばかりだよな?」


 鋼介君がもう一度、私を見て、言葉を告げる。

揺れる琥珀色の目を見つめ返して、私はふふっと笑った。


「そうだよ。一週間前に同じクラスになったばっかり。」

「そっか、そうだよな……。ああ。」


 鋼介君は考えるように目を瞑り、ゆっくりと頷いた。

そして、その目を開く。

 

「……名波が言っている事は不思議だ。」


 オレンジ色の髪が光を浴びて、きらっと輝いた。

琥珀色の目はもう揺れていない。


「でも……なんかわかった。」


 そう言って優しく笑った。 


「写真部に入る。……兄貴が顧問なのはすごい嫌だけどな。」

「うん。……ありがとう。」

「いや。……まあ、名波たちと一緒なら悪くないかもしれないなって思う。」

「うん。楽しい事がいっぱいだって保証するよ。」


 ふふって笑うと鋼介君もははって笑ってくれた。

くしゃっと笑うその笑顔が本当に懐かしい。


 記憶がない鋼介君にとって、私はすごく変な人だろうけど。

それでも、鋼介君と過ごす事ができるなら。


「……あのね。」

「どうした?」

「兄弟って好みが似るのかな?」

「……あ?」


 ついでに伝えておこうと、唐突に出た私の言葉に、意味が分からんと鋼介君は眉を顰める。

私はそれがおかしくて、あははと笑ってしまった。

そして、笑いながらチャコと勇晴君の方を見る。

すると、二人はにやにやと嫌な笑いを浮かべながら、こちらを見ていた。


「チャコ。何笑ってるの?」

「えー。いやー。べつにー。ねぇ?」

「ああ。」


 意味深、と言った風にチャコと勇晴君が顔を見合わせ、笑う。

なにかよからぬ事を話していたに違いない二人。

そんな二人をじとりと睨んで、鋼介君を手で示した。


「……あのね、一緒に写真部入ってくれるって。」

「そっかー、良かったねー。あー、私が誘ってもダメだったのにねー。なるほどー。」

「……チャコが誘ったから、入ろうって思ってくれたんだよ?」

「なるほどー、なるほどー。」


 まったく私の言葉など聞いていない。

イヒヒと笑って、したり顔で頷いている。


「もう、チャコ聞いてないでしょ! ……勇晴君は早くオカルト研究部行っておいでよ! 部員が来るかもしれないよ。」

「来ないだろ。あそこは家に置いておけない資料とかを置くために作った場所だからな。」

「でも、部活は部活でしょ。」


 早く行って! と、とにかく勇晴君を追い出しにかかる。

勇晴君は楽しそうに笑って、教室から出て行った。

ようやくチャコの嫌な笑いも収まって、ふぅと小さく息を吐く。

そして、チャコと鋼介君に向き直って、そうそう、と言葉を告げた。


「あのさ、同じ部活になるしさ、鋼介君って呼んでもいいかな?」

「ああ、そうだな。……写真部にはもう一人、九尾がいるしな。」

「あー、先生なんだっけ? じゃあ、私も名前で呼んだ方がいいよねー。……うん、じゃあ、鋼ちゃんで!」


 懐かしいその呼び名を口にしてえへへってチャコが笑う。

鋼介君は一瞬目を瞠った後、困ったように笑った。


「なんか……懐かしいな。」

「グッとくるでしょ? 」

「なんだそれ。」


 私がふふって笑うと、鋼介君は呆れたように笑う。


「あ、私の事も名前で呼んでよー。」

「名前?」

「うん。あー、勇ちゃんにも言えばよかったな。友永って嫌いだからさ、チャコって呼んで欲しいなー。」


 チャコがブルーの目を悪戯っぽく輝かせた。

鋼介君は少し狼狽していたが、小さく息を吐いた後、呟くように名前を呼ぶ。


「チャコ。」

「うん。」

「チャコ。」

「ん?」

「……チャコ。」

「いや、そんなに呼ばれても何も出ないからねー。」


 何度も噛みしめるようにその名を呼ぶ鋼介君に、チャコが眉を顰める。

私はそんな二人が面白くてあははって笑って、自分の机にカバンを取りに行った。


 そうして、写真部に鋼介君を勧誘することに成功し、三人で説明会に参加した。

先生は鋼介君が来て、びっくりしていたが、その目は嬉しそうだったと思う。

説明会が終わった後は、前と同じように少し強引に先生の元へと行き、カメラの相談をした。

先生は鋼介君と違って大人だから、チャコがえへへって笑っても耳が赤くなったりはしない。

けれど、ニコポはあったんじゃないかな、と私は思う。


「じゃあ、チャコ、私は生徒会に顔を出すから。」

「えぇっ。」


 先生にカメラの相談をして、ついてくるように言われたチャコに笑顔で抜ける事を告げる。

チャコは私だけ行くの!? と焦っていたが、私はそれにふふっと笑って答えた。


「あ、鋼介君もチャコについていくよね?」

「……ああ。」

「いや、それ意味無い。むしろ悪い。やだー針のむしろやだー。」


 チャコが女子の目線を気にして、戦々恐々としていたが、それに笑って手を振る。


「大丈夫。チャコは乗り切れる。」

「ええー。乗り切るとかじゃなくて、そもそも波風を立てたくないんだよー。」

「鋼介君も先生にカメラの事聞くんだし、大丈夫、大丈夫。」

「やだー、唯ちゃんがいい!」


 チャコは行かないでーと言っていたけれど、あははと笑って、生徒会室へと足を向けた。

鋼介君と先生。

ぎくしゃくしてる二人だけど、チャコがいればなんとかなるだろう。

……なんせ好みが似ているんだから。


 生徒会には元から声をかけていたので、すんなりと書記になれた。

久しぶりの友孝先輩は相変わらず、王子様のようで……。

これから私がやらなくてはいけない事を思い、拳を握りなおした。

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活動報告にupした小話をまとめました。
本編と連動して読んで頂けると楽しいかもしれません。
和風乙女ゲー小話

お礼小話→最終話の後にみんなでカレーを作る話。
少しネタバレあるので、最終話未読の方は気を付けてください

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