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恋物語の片隅で  作者: 那智
番外編
42/64

黒田君IF ギャルゲー編

注意 この話にはTS要素が含まれております。そういうのが苦手な人は回れ右してください。


他者視点の練習、およびTSっていうのを書いてみたかったから書いた。

僕の一日はしっかり者の幼馴染みに起こされるところから始まる。


僕は寝ることが好きだ。特に半覚醒の状態で微睡むのはたまらない。

いつものように布団の中で微睡んでいるとこれまたいつものように階段を上がる軽い足音が聞こえてきた。

そして足音の主は僕の部屋の前に来ると躊躇い無くドアを開けた。


「シオン、起きてるか?」


そう言いながら無遠慮に部屋の中を突き進んでくる。幼馴染の声だ。もう起きなければいけない時間なのだろう。

しかしまだこの微睡みの中にいたい。なのでその声には応えず現状維持を敢行する。


「もう起きる時間だぞ」


僕が起きないでいるとそんな言葉と共にゆさゆさと体を揺すられた。

しかし眠気を感じている体にとって優しく身体を揺さぶられるのはむしろ心地よさすら感じる。いつまでもこうしているわけにはいかないとはわかっているのだが体と本能がなかなかいうことを聞いてくれないのだ。もう起きないとそろそろ―――


「いい加減に起きろシオン」


僅かながら怒りをはらんだ声が聞こえると同時に頭の下から枕が抜き取られ僕の顔の上に叩きつけられた。

叩きつけられたといっても柔らかい枕による打撃なので痛くはない。だが眠気を吹き飛ばすには充分な衝撃だった。

僕はしぶしぶ目を開ける。目を開けて真っ先に視界に入ったのは僕を起こしに来た幼馴染―――純香の顔だった。

朝一番で純香の顔を見るのは慣れていても少しドキドキする。毎朝見ているというのにだ。美人は三日で飽きると言うのは嘘なのだろう。

彼女の容姿は友人曰く、一級品。少々ジト目気味で気だるげな印象こそはあるがそんじょそこらのアイドルにもひけをとらないとも言っていた。僕もその評価に異論はないと思う。

そして彼女のチャームポイントとも言える長くキレイな黒髪を前に流し肩の辺りで赤いリボンで緩く束ねている。

ついでに言えば今でこそ学校の制服をきっちり来ているが私服はどちらかと言うと可愛らしいものを着ていることも多い。

その事からこの幼馴染みを見た人が最初に抱く印象は『小柄で可愛らしい女の子』というものらしい。確かにそれは的を射た評価だと思う。

幼馴染みである僕から見ても彼女は控えめに言って十人中十人が可愛いと言うであろう容姿をしている。だが―――


「ようやく起きたか。 早く下に降りて準備を済ませろ。 あまり時間は無いぞ」


このように言動が少々、いやかなりぶっきらぼうだ。

よくよく聞けばこのぶっきらぼうな言葉の中に優しさや思いやりが含まれていることに気づくのだが初対面の人になどは冷たい印象を与えてしまうらしい。

それには本人も多少悩んでいるようだったので一度意識して喋り方を変えてみたらどうかと言ったことがあるんだけど「こればかりは無理」だと言っていた。……正直かなりもったいないと思うんだよね。

でも中にはそのギャップが良いとするすごい人もいるし、話している内に誤解も解けるので本人は気付いていないが学校ではかなり人気がある。

可愛くて気がきくし、おまけに男子の考え方にも理解を示してくれるし、馬鹿さ故の行動にも比較的寛大だ。さすがにセクハラもどきをされそうになった時は怒っていたが。

うん、これはモテルよねぇ。


「おい、寝惚けてるのか? とっとと顔洗って歯磨いてこい。 おばさんもご飯作って待ってるんだからな」


「ああ、うん。 急ぐよ」


純香に促されて洗面所に急ぐ。身嗜みを整え着替えを済ませてキッチンに行き母さんが作った朝ご飯を食べる。

純香は僕が朝ご飯を食べてる横で砂糖と蜂蜜を入れたホットミルクを飲みながら本を読んでいるのがいつもの光景だ。

ちなみに純香が飲んでいるホットミルクは毎朝僕を起こすことに対する報酬として幼い頃の純香が要求したものだ。それを今でも欠かさず飲んでいて最早僕を起こすことを含めて日課となっているのだ。


朝食を食べ終わる頃にはもう出かける時間になるので自分の家から鞄を取ってきた純香と一緒に家を出る。

学校までは歩いて20分ぐらい。歩くと少し時間がかかるが自転車を使うまででもない。それぐらいの距離だ。

そんな道程を純香と喋りながら歩く。この辺も小学校の頃から変わらないなあ。心休まる一時だ。

その時だった。


「わわっ、と!」


純香のすぐそばをかなりのスピードを出した自転車が通りすぎた。急いでいるのだろうかかなり危ない。

純香は咄嗟に飛び退いたので怪我は無いみたいだけど体勢を崩したのか僕にしがみついてきた。


―――むにゅ。


そんな音が聞こえた気がした。いやもちろん気のせいだろうけど。

瞬間的に頭の中が真っ白になる。原因は明白。余談であるが純香は小柄な割には大きい。しかもそのくせ普段あんまり色気がないから油断しちゃうんだけどたまにこういう不意打ち気味の事故に遭遇すると衝撃が大きいんだよね……。ほんと心臓に悪い。


「ったく、危ないな。 別に自転車で歩道を通るなと言う気はないがもう少し歩行者に配慮してもらいたいものだな」


「あ、うん。 そうだね」


そう言いながら純香が僕から離れる。同時に背中に当たっていたものの感触も離れた。

純香は何事もなかったかのように歩き出したが僕の方はそうはいかない。

あーまだドキドキする。不意打ちは卑怯だよなぁ。いや何が卑怯なんだよって話なんだけどさ……。

そうこうしているうちに学校が見えてきた。

よし!気持ちを切り替えて今日も一日頑張ろう!






私の一日は寝坊助の幼馴染みを起こすことから始まる。


私の名前は黒田純香。目の間で未だに惰眠を貪っている男、高倉シオンの幼馴染である。

一見何処にでもいるような少女であるがその正体は転生経験がある女子高生なのだ。

ついでにこの世界が前世(少なくとも私はそう思っている)であったギャルゲーに酷似した世界だということも知っている。

そして目の前にいるのはそのギャルゲーの主人公。私はそんな男の攻略対象である……らしい。

らしい、というのはそこら辺の記憶が曖昧であるからなのだが……ギャルゲーの世界に似ていることと自分の立場が攻略対象の一人であったことはしっかり覚えているのにどんなストーリーなのかが思い出せないとはどういうことなのだろうか。

その原因には少なからず心当たりがある。その理由を説明するためにも私が少々特殊な転生をしていることも述べておくべきだろう。


TS。トランスセクシャル。

簡単に説明するならば転生をする際に前世とは性別が変わってしまうような、とにかく何らかの原因によって性別が変わってしまう現象というべきだろうか。まあ、世の中にはそういう言葉がある程度の認識でよろしい。

まあつまり何が言いたいかっていうと私は今こそ女だが前世では男であったのだ。

おそらくそんな風変わりな転生をしたため記憶を完全に引き継ぐことができなかったのではないかと思われる。実際のところは知らん。

しかしそう説明するとある疑問が浮かんでくると思う。そう、私が可愛らしい物を身に付ける理由だ。元男なら男物を好みボーイッシュな感じになるはずだと大抵の人は思うだろう。

しかし私が前世と同じ感覚で男として過ごそうとしても結局のところ私が女であるという事実は揺るがないのだ。

どれだけ精神面で男と思い込もうとも身体は女として成長していく。自分の身体が年を追うごとに女らしくなっていくのを実感する中で「自分は男だ」などと言えるはずがない。少なくとも私は言えなかった。

それに昨今は性同一性障害なんかに対して理解が出来てきてはいるがそれでも男として生きようとすれば偏見の目で見られるのは避けられないだろう。そのような事態は私の精神の平穏のため遠慮したい。


そこで私は逆に自分が女であると意識して生きることにしたのだ。理由はそっちの方が後々楽になるのだ。

幼い頃はともかく大きくなったら男気分で生きるのは難しくなるだろう。その時に女として生きようとしても絶対に苦労するのは目に見えている。それは嫌なのでとっとと女の子っぽくなってしまおうというわけだ。

髪を伸ばしたりなるべく可愛らしい服装を着るようにしているのはその一貫だ。ぶっちゃけると自己暗示である。

ちなみに口調に関してはどうしても駄目だった。幼い頃に女の子らしい口調で話していたことはあるのだが後々凄まじい自己嫌悪に襲われ結局長続きしなかった。唯一の戦果は一人称を俺から私に変えることに成功したぐらいだろう。

しかし何故女物の服を着たりするのは平気なのに口調を変えるのは駄目なのだろうか。我が事ながら意味わからん。


さて、なかなか起きないシオンの顔に枕を叩きつけて起こした後はシオンの家のキッチンでホットミルクをいただく。蜂蜜と砂糖が入っている豪華仕様だ。

この体はどうも胃が小さいようであまり量を食べれない。そのくせ燃費が悪くすぐ空腹になるのでカロリーが高めの砂糖と蜂蜜入りの牛乳で補っているのだ。これなら朝食を食べたあとでも飲み物ならなんとか入るしな。

これをシオンが朝食を食べている間本を読みながらゆっくり飲むのが日課だ。我ながら幼馴染とはいえ他人の家でくつろぎ過ぎだと思うが落ち着くのだからしかたない。うん、しかたないのだ。


シオンが朝食を食べ終わったら私も鞄を持って来て一緒に学校に行く。

小学校の頃から登下校はずっと一緒なのでこの辺は最早疑問すら抱かない。中学時代という思春期真っ盛りな時でさえ登下校一緒だったのだから多分当分はこのままだろう。

そんなことを考えながら歩いていると自転車が猛スピードで突っ込んできた。


「わわっ、と!」


咄嗟に自転車を避けることには成功したがバランスを崩し倒れそうになったのでちょうどいい所にいたシオンにしがみつき事なきことを得た。シオンいなかったら転んでたな。危ねえ。思わず愚痴る。


「ったく、危ないな。 別に自転車で歩道を通るなと言う気はないがもう少し歩行者に配慮してもらいたいものだな」


「あ、うん。 そうだね」


ん?なんだかシオンが心ここにあらずだったような。どうしたんだろ?……って、あ。背中に胸押し付けてたわ。意図してないけど『あててんのよ』状態だ。そりゃ固まるわな。シオン典型的なギャルゲー主人公気質でうぶだし。

うーん、普段は気をつけてるんだけどどうもシオン相手だとその辺緩くなるな。昔っからの仲だからしょうがないとも言えるんだが……。

っと、そろそろ学校に到着だな。この学校が『物語』の舞台……。

ギャルゲーの世界って所にちょっと不安を抱くけど……まあ、なるようにしかならないだろう。

さて、頑張りますかね。


今回の話は前に感想で言われた「これギャルゲーじゃね?(意訳)」というのを見たとき思いつきました。

それだけじゃつまらんのでいろいろ設定を練った結果『本編とはいろいろ反転している世界』みたいなイメージで書いてます。

そのためわかりやすくゲーム風に例える、かつぶっちゃけると本編は基本ハッピーエンドですけどこの世界観では基本バッドエンド多めです。

余裕ができたらこれも続き書きたいなあ。

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