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恋物語の片隅で  作者: 那智
6月
31/64

お料理レッスンします

あー時間掛かった。同時進行なんてやるもんじゃないね。

さて、俺はテスト対策に誘うべく小鳥遊先輩に会いに来たのだか現在俺は家庭科室にいた。


「どうしてこうなったし」


疑問を口に出しても状況は変わらない。まさか今忙しいからと家庭科室で待っててと言われるとは思わなかった。つい頷いてしまった。

というかこれ状況的にお菓子作りの練習だとおもわれてね?いやまあ今月の頭に約束したけどさ、事前連絡なしでもできるだけの準備してあんのかよ。予想外だよ。おもいっきり放置しちゃってたよちくしょう。

ここまで用意されておいて実は違いますとか言えんよなぁ。放置してた負い目もあるし。

まあその辺はある意味赤海先輩のせいだからそっちに責任押し付けるとして今回の件は小鳥遊先輩の勢いに流されてしまった俺が悪いんだ。諦めよう。

というわけで急遽お菓子作りのレッスンをする覚悟を決めた。とりあえず待つだけというのも暇なのでテーブルの上に置いてあったレシピ本を手に取り読むことにする。

ふむ、お菓子のレシピか。あ、さくらんぼのタルトのところに付箋貼ってある。一応レシピは覚えてるけど暇潰しがてら予習しとくか。

とりあえず何かしら文章が書いてあればいくらでも暇は潰せる。普段は暇潰しにライトノベルを好んで読んでるがそれはあくまで手軽に読めてそれなりに種類があり、何よりもその手のものを読んでいても変な目で見られることが少ないからである。

昔公園のベンチで心理学の本を読んでいたら変な目で見られたのでそれからはなるべく自重するようにしているのだ。活字中毒者は伊達じゃない。

ちなみにの本を読んでいたといっても理解していたわけではない。むしろ一切理解できていなかった。

あくまで本を読むのが好きなのであってちゃんとした文章なら内容は結構どうでもよかったりする。もちろん面白いに越したことはないが。

そういう意味ではただ暇を潰すのが目的ならば小説より何らかのや学術書とかのほうが都合が良い。

まあ頭には入らないんですがね。難しい本とか読んでも理解できないし。


そんな感じで読み続けておよそ半分といったところでようやく小鳥遊先輩が家庭科室に来た。


「お待たせしましたわ」


「いえそんなに待ってないです」


嘘である。ぶっちゃけここに来てからすでに三十分近く経っている。

でもかなり待ったとしても「待った?」と聞かれたら「待ってない」と答えるのはついやっちゃうことだと思うんだ。


「それで今日は何を作りますの?」


うん、どうしようか。もちろん突発的なことなので用意なんてしていない。え?さっきの時間に購買買えば良かったんじゃないかって?さすがに材料は売ってねえよ。

だけどここで用意してませんでしたってのもアレだしどうするかね。

うーむ、しかたない。最終手段だ。


「今日はさくらんぼのタルトを作ろうと思います。 材料は小鳥遊先輩が自主練で使ってるのがありますよね?」


「ええ、最近は自主的な練習は控えてますけど材料は常に用意してありますわ」


ほんとすげえな行動力。なんでこの人『物語』じゃ不憫キャラだったんだろ?いやまあ予想はついてるけどね。

この人ほかの人から後押しされないと自信もって動けないんだよね。たぶん。だから『物語』ではいろいろ後手に回ってしまったんだろう。

まあそんな人物評価なんてどうでもいい。


「じゃあ早速……って、あ」


しまった。大事なものを忘れていた。

そう、エプロンである。あれがあるかないかで調理時の防御力が段違いなのだ。

いや待て、諦めるのはまだ早い。たしか家庭科室にはエプロンが常備されているはずだ。


「どうされましたの?」


「あーエプロン忘れちゃいまして……」


「あら、黒田さんが忘れ物なんて珍しいですわね」


「はい、うっかりしてました」


ええ、ほんとに。

まったく、うっかりするのは紫苑だけでいいってのに。


「だったらこのエプロンを使ってくださいな」


おお、ありが……あの、このエプロンめっちゃフリル付いてるんですけど。

これ家庭科室に置いてある物じゃないですよね?こんなエプロンが常備されている家庭科室は嫌だ。


「わたくしの予備ですわ」


あっ、そっすか。わー手触りいいなー良い素材使ってるなー。


「あの、わざわざ小鳥遊先輩のを使わなくてもここにはエプロンありますよね?」


「ええ、一応エプロンはありましたのですけれどどれもくたびれてましたの。 なのでわたくしの方で用意させていただきましたわ。 そちらの方が可愛らしいでしょう?」


可愛いデザインって御無体な!いや純粋な好意なんだろうけどね。でも男にとってはそれ罰ゲームみたいなもんですから。


結局小鳥遊先輩の好意を断ることが出来ずにフリフリエプロンを着用することとなった。

うん……ほら、小鳥遊先輩地味に押しが強いから。にこにこ笑顔で差し出してくるんだぜ?断りきれんよ。


そんなこんなで多少のアクシデントはあったがさくらんぼのタルトを作り始めた。

話を聞くとどうもクリームを作るところでつまずいているみたいなので実演することにする。


「俺がカスタードクリームを作りますんで小鳥遊先輩はタルトの生地を作ってください。 わからないところがあったら聞いてくださいね」


「わかりましたわ」


ふむふむ、材料はバッチリだし型もある。準備は万端だな。これなら余程のことがない限り普通に作れるだろう。

ぶっちゃけタルト自体を作るのはホットケーキミックスを使えば簡単だ。マーガリンに卵を少しずつ入れてかき混ぜたものをホットケーキミックスに加えればいい。

小鳥遊先輩がそれを作っている間にカスタードクリーム作りに取りかかる。

まず卵、牛乳、コーンスターチ、砂糖、マーガリンを全部混ぜてフライパンで加熱する。すると端から固まり始めるので火を弱めひたすら混ぜる。とろみが出たら火を消し氷水で冷やしながらひたすら混ぜる。ある程度冷えたらタルトができるまで放置だ。

小鳥遊先輩の方を見ればちょうどタルトが焼き上がったらしい。グッドタイミングである。

最後に冷ましたタルトにカスタードクリームをたっぷり敷いてさくらんぼをのせれば完成だ。なおさくらんぼの種はすでに排除されているのでこのままのっけるだけである。楽だ。

何はともあれこれで完成である。けっこううまくできたのではないか。

思ったよりも簡単だったが小鳥遊先輩は前回生地とクリームを二つ同時に作っていたらしいのでそれが失敗の原因だろう。確実に。

なんで同時にやったんだろうな?気が急いていたとか?

まあそんなことを気にしてもしょうがない。際立ったミスはなかったから試食が楽しみ……って、そもそも俺小鳥遊先輩をテスト勉強に誘いに来たんだった。当初の目的を忘れるとはなんたる不覚。おのれタルト。


「そういえば小鳥遊先輩ってテスト前空いてます?」


「え? ええ、テスト勉強以外特にやることはありませんけど」


「なら今度勉強会するんですけどその時ちょっとばかし勉強教えてくれませんか? 少し不安なところがあるんですよ」


「ええ、かまいませんわ。 黒田さんにはお世話になってますし」


よし。これで

その時突然家庭科室の扉が開かれた。何事?


「なんかいい匂いするけど誰かいんの? 」


「す、優様!?」


扉を開けて家庭科室に入って来たのは緑川先輩だった。何故ここに……あ、緑川先輩。ちょっと待ってこっち見ないで。


「あ、黒田……」


「あ」


キャアアアアア!フリフリエプロン着てるとこ見られたぁぁぁぁぁ!羞恥で死にそう!


「な、なんだその格好?」


「些細なミスが招いた結果です」


出来れば気にしないで頂けるとありがたい。そして可能ならば忘れてください。


「そ、そうなのか」


ああ、ここで緑川先輩登場とか予想外過ぎる。匂いに誘われて来たとか食いしん坊かよちくしょう。

確かに「緑川先輩は紫苑とそんなに仲良い訳じゃないから小鳥遊先輩とくっつけても問題ないよね」とか思ってたけどだからって俺が羞恥プレイしてるときに来るなんて……。

くそ、このままでは帰さんぞ。いっそのこと今見たことを盾に緑川先輩も勉強会に誘ってしまえ。そうすれば小鳥遊先輩との接点ができる。断られたら断られたでなにも問題はないしな。


「緑川先輩」


「な、なんだ?」


そんな反応しないでください、傷つく。


「先輩は見てはいけないものを見てしまったのでその代償として勉強教えてください」


うん、自分でもなに言ってんだこいつって感じだな。


「あ、ああ。 いいぜ。 というかお前そんなキャラだったか?」


やべ、地が出てた。でもまあいいや。これで更に未来が明るくなったぞ。テスト的な意味で。黒歴史と引き替えに。

そんな俺がいたたまれなくなったのか緑川先輩は俺から視線を外してできたてのタルトを見た。


「ところでいい匂いしてるけどそれなに?」


「小鳥遊先輩が作ったさくらんぼのタルトです。 できたてですからおひとつどうぞ」


「黒田さん!?」


「お、いいのか? じゃあ貰うぜー」


緑川先輩がさくらんぼのタルトを口に運ぶ。まさしく緊張の一瞬である。


「……おお、旨いじゃん」


うし!なかなか好評価っぽい。やったね小鳥遊先輩。

緑川先輩はこういうとこで余計なお世辞言うようなキャラじゃないからこの評価は本心だろう。

小鳥遊先輩はあからさまにほっとしている。


「でもなんか一味足りないような気もすんだよなー」


「まあ練習中ですからね」


「そっか。 じゃあ小鳥遊だったっけ? もっとうまくなったらまた食わせてくれよ」


「は、はい!」


そう言って緑川先輩は去っていった。いやー致命傷を受けたけどそれで済んでよかった。

小鳥遊先輩のこと覚えたみたいだしなにも問題ないよ。(自己暗示)


ん?なんか緑川先輩が出てってから小鳥遊先輩動いてなくね?バグった?


「や……」


おや?小鳥遊先輩のようすが……。


「やりましたわ!」


のわっ、耳元で叫ばないでください。いや近づいたの俺ですけど。


「ああ、こんなに嬉しいことがあるなんて! 今日は吉日ですわ!」


おおう、テンションやばいですね。


「黒田さんのおかげですわ!」


喜びのあまりブンブンと腕をシェイクしてくる。ははは、はしゃぎすぎでしょう。

って思ったより力強っ。やめて肩外れる。


「これからもより一層頑張りますわ! 黒田さん、ご指導お願い致しますわ!」


「あの、わかりましたから腕を……」


まあ喜んでもらえたようでよかった。

あ、腕から変な音が……。


さて次はどんな話にすんべか。いっそのことイベント進めるか?

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