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恋物語の片隅で  作者: 那智
6月
27/64

盛り上がったりなんかしません

難産でした。アホみたいに時間が掛かってしまった。

赤海先輩の前に来ると手を差し出した。

握手ではない。映画とかで倒れてる人を立たせるときにやるアレである。一度やってみたかったんだよねこれ。


「大丈夫ですか赤海先輩」


「黒田か……」


とりあえずいつまでも座り込んでないでとっとと立ってください。制服汚れますよ?

手を掴んだ赤海先輩を思いっきり引っ張って立たせる。よし、うまくいった。俺がやろうとするとたまにミスるんだよねこれ。犠牲になった中学時代の友人に敬礼。


「お邪魔でしたか?」


「いや……それよりも今先公を呼んでいなかったか?」


「ハッタリに決まっているじゃないですか。 こんな短時間で先生呼ぶとかできませんよ」


ま、あいつらは見事にひっかかったけどね。あはは、ばっかでー。


「……それよりもお前なんでここにいる?」


「気になったんで後をつけさせてもらいました」


隠すことでもないので正直に答える。あんな怪しい集団を見かけたら誰だって気になるだろうからね。

俺の場合はそこに行動力が加わっただけだ。

だから思いっきりため息吐くのやめろや。


「……今回のことは感謝しといてやる。 だけどこれ以上首を突っ込むんじゃねえ。 これは俺様の問題だ」


言うだけ言うと赤海先輩は足早に歩き去ってしまった。こっちの意見は無視っすか。


あれ?その辺に黄野いなかったっけ?スルー?

と思ったら近くの茂みから黄野が出てきた。ちょっとびっくりした。

どうやらあのままでは赤海先輩と鉢合わせになると思い移動していたらしい。そこまで顔合わせるの嫌か。


「なんだよクソ生徒会長め! 助けてもらっておいてあの態度かよ!」


「取りつく間もなかったな」


やれやれとばかりに首を振る。相変わらずの尊大さについ今度会ったときにすれ違いざまにドロップキックでもかましてやろうかと思ったが……やっぱりやめておこう。

たとえ心変わりしたからと言って人の性格や口調などが瞬く間に変化するなどありえないのだ。

ん?そういえば今のセリフって『物語』で紫苑が最初に赤海先輩の問題に首突っ込んだ時のセリフじゃね?

なんか俺が赤海先輩のルート入ってるみたいで微妙な気分だがこの問題を解決できるフラグが立っていると考えれば……うん、微妙な気分だ。

ゴホン、それはともかく今後のことを考えねば。


その時、突如として俺の脳裏に閃きが過った。


なんで俺、『物語』通りに解決しようとしてたんだろう。その必要なくね?

『物語』では紫苑と赤海先輩との絆を深めるために起こるイベントだが現状、肝心の紫苑がイベントに関わっていないのだ。

それ以前に関わっていたとしてもそもそも好感度が足りない。前提条件がめちゃくちゃなのだ。

そう考えると……もしかして空気読まずにこのイベント、強制終了でオーケー?うん、たぶん大丈夫だよね?

そういう事なら話は別だ。よーし、ちょいと空気読まずにやっちゃおうか。



そんなわけで黄野と別れたあと俺は白波先輩に相談に来ていた。

え?こういうイベントって一人で何とかしようと突っ走るものじゃないかって?

いやいやまさか。ゲームじゃなるまいしそんな無謀なことはしないよ。


「―――という感じですけどどうでしょう? 生徒会としては動けますか?」


「不良生徒の指導という名目で動けます。 なにもしていないならともかく問題行動をした彼らを放置するわけにはいきませんからね。

 それに太陽がこうなったのは私が原因です。 協力しましょう」


さすが進学校を目指す学校と言うべきか。素行が悪いだけならともかく問題行動を起こした生徒に対する対応がしっかりしている。

近頃は言い訳を並べるだけで放置する学校も多いというのにこれは嬉しい誤算だな。

なにはともあれこれで大体の準備は整った。


あとは赤海先輩……もとい不良生徒たちがどう動くかだな。

こればっかりはなかなか予想がつかない。

もし俺の今の状況を理解できる人がいるのなら「『物語』を知っているなら時期もわかるのでは?」と思うかもしれないが実際にはそう都合よくはいかない。

ゲームでは時間の流れが曖昧で詳しい日時なんて表示されていなかったしそもそもイベントの発生時期が違う。

そしてなによりたとえ詳しく描写されていたとしてもそんな細かいところまで覚えてなんかいない。

もし妹が俺の立場にいたのならかなりやりこんでいたので覚えていたかも知れないが俺にそこまでの記憶力なんてないのだ。

それでもこのゲームはまだ良心的だ。なにせ最低でも半年かけてイベントが進行していくのだ。


「それで黒田、あなたはどう動くのですか?」


「まずは不良生徒たちの動きを探ろうかと」


まあこれは赤海先輩の近くで張ってれば問題ない気がする。この学校そういう方面に厳しいから見つかっても人目のあるところでどうこうする事なんてできやしないし。

というかホイホイ付いて行ってしまう赤海先輩が問題なのだ。


「そうですか。 なんにせよ、無茶はしないでくださいね」


「もちろんです」


被害が及びそうなら全力で逃げますよ俺は。





そんなことを考えながら生徒会室から出て少し歩いたところで紫苑に遭遇した。


「あっ! 純!」


なんか駆け寄ってきた。にしても紫苑を見るのがなんか久しぶりな気がする。教室同じだからほぼ毎日顔合わせてるはずなんだが。


「どうした?」


「どうしたじゃなくってさ、最近なんか付き合い悪くない?」


あー、最近は赤海先輩のあれこれで単独行動が多かったからな。必然的に紫苑との行動時間が減ってたんだな。


「悪いな。 いろいろ忙しかったんだ」


「もう! 今度埋め合わせしてよねー」


何故に予定すっぽかしたわけでもないのに埋め合わせせにゃならんのか。

とはいえこういうときの女性に逆らうのは無謀であると前世込みの経験で知っているのだ

。おとなしく従っておくとしよう。


「はいはい……っと!?」


紫苑のわがままを聞いていると聞きなれないが聞き覚えのある声が聞こえていた。つい先日聞いたばかりの不良生徒の声だ。こちらに向かってきている。

咄嗟に紫苑を抱えて近くの部屋に飛び込んだ。


「ちょ、ちょっとなに!?」


「静かに」


そう言うと紫苑は「後で説明してよね」とだけ言いおとなしく口を閉じた。

そうしている間にすぐ近くまで声が近づいてきた。


「おい、ここって生徒会室の近くじゃねーか。 こんなとこ来て大丈夫なのかよ? あいつが生徒会に俺たちのこと話してたらヤバいせ」


「へっ、あのやっすいプライドの塊が助けなんか求めるかよ」


「ははは、違いねえな。 それで今度はいつやるんだ?」


「三日後だな。 今度は邪魔されないように体育館に、それも夜中に呼び出すんだ。 失敗なんてしねえよ」


……まさかこんなテンプレみたいなアホ会話聞くことになるとは思わなかった。あ、赤海先輩が安いプライドの塊っていうのには同意。

しかしよりによって紫苑がいるときに遭遇するとはやっぱ主人公補正とかあるのかね?

それと紫苑暴れんな。気持ちはわかるが落ち着け。

しばらくそのまま隠れて声が完全に聞こえなくなると隠れていた空き教室から出た。

紫苑から手を離した瞬間


「生徒会長を呼び出すって……やめさせないと!」


「落ち着け」


不良たちに突っかかって行こうとした紫苑の首根っこひっ掴んで止める。


「けほっ、ちょっとなにするの!」


「話を聞くような奴らじゃないだろ。 それ以前にお前が言っても煽るだけだ」


「じゃあほっとくの!? そんなの嫌だよ!」


「いいから話聞け。 ほっとくつもりなんて毛頭ない。 ただやり方を考えろって言ってるんだ」


「やり方?」


「そうだ。 ただ考えなしに突っ込むよりももっと確実で簡単な方法だ」


さて、情報も手に入ったし生徒会室に行きますかね。まったく、思ったよりも早くカタがつきそうだ。



―――数日後の夜

赤海太陽は暗い廊下を一人で歩いていた。

彼がなぜこんなところに居るかといえば最近やたらと絡んでくるようになった不良どもに呼び出しを受けたからだ。

付き合う義理はないが逃げたと見なされるのは気にくわない。だから誘いに乗ったのだった。

指定された場所である体育館には校舎を通っていく必要がある。そして階段付近に差し掛かった時だった。


「確保」


どこからともなく声が聞こえた瞬間、何者からか強力なタックルをされた。瞬く間のことだったのでうまく受けることが出来ず姿勢を崩す。


―――やばい!


そう考えた時には時すでに遅くそのまま廊下に頭から倒れこむ。

そして衝撃。

薄れゆく意識のなか自分にタックルしてきた誰かが「確保完了」と呟くのを最後に聞いて赤海太陽の意識は闇に落ちた。




「確保完了……だな」


ふう、勢い余って強くやり過ぎちゃったけど無事赤海先輩の確保に成功したぞ。


「おーい黒田、生徒会長生きてるかそれ? ものスッゴい音したぞ」


後ろから黄野が手持ちぶさたな様子で歩いてきた。流石に気絶している赤海先輩に同情混じりの視線を向けている。

赤海先輩が抵抗したときのためについてきてもらったけど無駄になってしまったな。まあ、スムーズにできたと考えればいいか。それに良く考えたら赤海先輩運ばなきゃならんから無駄ではないし。


「とりあえず無事確保できたな。 生徒会室に運ぼう。 黄野、そっち持ってくれ」


「無事なのかこれ? まあ、構わないけどよ」


たぶん大丈夫だろ。あ、後頭部にでっかいコブが……。





なにも問題なく生徒会室に赤海先輩を運び込むことに成功した。あえて言うなら気絶した赤海先輩を運び込んだ時に紫苑にやり過ぎだと怒られた事ぐらいか。


「っつ!」


「あ、目を覚ましたよ!」


あ、赤海先輩が目を覚ましたみたいだな。てか紫苑、看病はいいけど氷で直接冷やすのはやめてあげて。せめて氷水にしなさい。


「お目覚めですか?」


「……おい、あいつらはどうなった? 」


目覚めて第一声がそれかよ。


「それなら彼らが体育館でなにかしようとしているって先生方に伝えておきましたから無問題かと」


「はあっ!?」


「まさかあそこまで大事になるとは予想外だったよなー」


まさか仙石先生に伝えたら体育会系の先生方全員に情報が行き渡るとは思っていなかった。しかも生徒会としての要請ってことになってたから誰も止める人いなかったし。

古株の先生なんか久々に活きのいい生徒だとか言っていたし。なんですかそのノリ?修羅の国の出身ですかこのやろう。

赤海先輩はしばらく呆然としていたが呆れ果てたかのように天井を見上げた。


「ったく、またお前に借りが出来たのかよ」


「借りとかそんなんでは……」


「いや俺様の気が収まらねぇんだよ」


「はぁ…なら、御勝手に」


なんかめんどくさくなってきたので会話を切り上げることにした。あとは紫苑に任せるか。黄野は……あ、紫苑と話してる赤海先輩に地味に嫉妬してる。ほっとこう。

こちらとらアフターケアまでは対応していないのだよ。


さて、帰って寝ますかね。

生徒会室を出ようとしたときに白波先輩がクスクス笑っているのが視界に入った。


「どうかしました?」


「いえ、よくもまあここまでやったなと思いましてね」


「あー、まあやり過ぎた感はありますけど」


「いえ、それはいいんですよ。 こんな面倒事は早く終わるに越したことないんですから」


へえ、思ってたより過激派なんだなぁ。見る目変わるわ。


「一番驚いたのはあなたが生徒会室から出ていったと思ったらあっという間に戻って来たときでしたね。 まさか出ていってすぐに情報を持ってくるとは思いませんでしたよ」


「その辺の文句はそういう話を誰に聞かれるともわからぬ廊下で話してたあのアホ共に言ってください」


つまり俺は悪くない。

まあ、これで赤海先輩関連のイベントは終了というわけだ。なんとも言えない空気の読めない終わり方だが……うん、どうでもいいや。

あー、でも下手するとこれから俺を除いた全員分のイベントがあるかもしれないんだよね……。まったくなんで恋愛ゲームには無駄にシリアスなイベントなんてあるのやら……正直めんどくさい。

未来に多大なる不安を感じながら大きな欠伸をするのだった。


え?障害があるほど恋は燃え上がる?

知るか。障害がないと燃え上がらない恋なんて消えてしまえ。


盛り上がる前に潰す。それが黒田君クオリティ。


気分としては第一部完!って感じです。

そういえば一区切りついたってことでちゃんとした登場人物紹介とかやったほうがいいですかね?

やって欲しいって人は言ってください。気が向いたらやります。

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